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ディープなサッカーマニアの話
1990年代の文化遺産イタリア大会決勝戦実況 
73603人の観衆にはわかるまい。 
あの、歴史に残る実況解説。 
1990年ワールドカップイタリア大会決勝。 
凡戦に拍車をかけたあの放送の名場面を再現する。 

 実況:水野アナウンサー 
 解説:釜本邦茂 
 ゲスト:王貞治 
 

スタジオ・オリンピコ (放送ではローマのオリンピックスタジアムと紹介) の空撮をバックに、これまでの戦績。 対戦成績の紹介。 史上初の2大会連続同じ組み合わせの決勝の紹介。 流れ始める両国国歌。そこに実況はない。 無言。 

いよいよキックオフ。 

サッカー世界一はアルゼンチンか西ドイツか?」 

この大会での両チームのメンバーに 後に日本にやってくる選手がいる。 
リトバルスキー(ジェフ市原〜ブランメル仙台〜横浜FC) 
ブッフバルト(浦和レッズ) 
バイン(浦和レッズ) 
バチスタ(PJMフューチャーズ) 
トログリオ(福岡ブルックス〜アピスパ福岡) 
なんと5人も。 
そして、西ドイツのフェラーは 地元ローマ所属で歓声がひときわ高い。 
あのマルセイユの八百長疑惑のブルチャガもいる。 
西ドイツベンチにはアシスタントコーチのオジェックも。 
 

メンバー紹介のあとに釜本と王の紹介。 王さんは世界のホームラン王として紹介された。 

王さん、野球のざわめきとだいぶ違いますね。」 
音がぜんぜん違います。想像以上と言いますか、 ここへ来てみないとわからない音ですね。」 

ごくごく当たり前のゲストのコメント。 この時点では、この後あんなことになるとは思えなかった。 
 

王さんも、このゲス出演に備えて イタリアで数試合を観戦したようだが サッカーは見慣れていないようで 

王さん、サッカーの場合は瞬時に攻守が変わるという・・・。」 
そうですね、野球にはこういうことはないですからね 攻撃と守備がはっきり別れていますね 
 どうやって攻撃に力をかけるか 野球に比べると守備に重点が置かれているという・・・。」 

なんだか、よくわからない切り返し。 野球のほうが攻守ははっきりしているぞ。 
 

アルゼンチンが西ドイツゴール前に攻め込む攻防。 ここで、日本サッカー史上最大の名実況が爆発する。 

王さん、野球のスライディングとはちょっと違いますね。」 
まぁ野球の場合は邪魔する人がいませんしね。 これだけ横からさらわれたりしますから 
 それでも、よく大きな怪我しないなぁって不思議ですね。」 
 

パスミスにブーイング。 

それと、王さん、ブーイングがしょっちゅう聞かれますね。」 
見る方からすればイージーに見えるんですね。 ミスしたように見えるんですね。 
 でもね、脚ってねぇ、そんなに自由に動かないんですよね。」 

世界の王さんの、このコメントは もしかして、一本脚打法の右足の上げ方の話だったのか? 
畳の間で師匠荒川コーチの教えられ 吊り下げられた紙を一本脚で真剣で切り裂こうとする 
あの名場面が甦る。 
 

ダイレクトパスがつながると 

今なんか、ボールのぱっぱっという動き見ていると、
 王さん、野球のダブルプレーのようなねぇ。」 
そうですね。」 

世界のホームラン王、王さん、少々困惑気味。 
 

オフサイド。」 
オフサイドってのが一番難しいですね。」 
って言ったが 王さんは、完全にオフサイドを理解していた。 驚きだ。 
 

御存知のように1990年イタリア大会は もっとも得点の少なかった大会。 
決勝も守り合いで、面白味に欠けていた。 

野球も、王さん、ものすごい投手戦ていうのも 見たい時もありますが 
 やはり、点が入ったほうが面白いですね。」 
お客さんが望んでいるのは点の取り合いですから それがないと、いい試合してもね、 
 点が少ないとイマイチってのがありますね。」 

これが、9年後の若鷹打線爆発 パリーグ制覇につながる思想だったのか? 
 

アルゼンチンのホールディングの反則。 

思わず、手が出ていますね。」 
王さん、野球の場合に、思わず足が出るってことはありますか?」 
野球の場合に足が出るってことはないですね。 届きにくいですから。」 

そりゃそうだ。 
 

パスを待ってもらおうとして 相手ディフェンダーにカットされた。 

確かに待っていたんでは、 絶対にいいボールというのは来ませんね。 
 しかし、野球の場合は王さんなんかは、 やはりボールが来るまでは待っているだけですと…」 
野球の場合は3ストライクまでっていうかね 2ストライクまでは選べるあれがありません。 
 しかし、守備とかあれはね、絶対に待っていてはいけませんね。」 

さすが、世界の王さんは守備も一流だった。 
 

同じシュートでも王さん、野球に例えるとクリーンヒットと 
 ちょこんと流すヒットと、いろいろありますね。」 
そうですね、我々が見たいのは、 ものすごい強いシュートを見たいですけど。」 
 

王さん野球でこのスタンドで旗振ったらどうでしょうかね?」 

まぁ旗振る人はいると思いますけどね 国旗という形で振る人はいないですね。 
 まず旗の数が違いますね。」 
しかし野球の場合は旗振られたら やりにくいんじゃないですかね?」 
そうですね、センターの後ろでやられると ちょっとやりくにいですね。」 

王さんは紳士。 どんな質問にも答えてくれる。 そりゃ、試合中に振られたらたまらないだろう。 
 

ハーフタイムにダイジェストを見ながら前半を振り返る。 

凄いスピードですね。」 
スピードと角度だと思いますね。」 

サッカーの醍醐味に『角度』という言葉を使うところに 世界のホームラン王の非凡な才能を垣間みた。 
しかし、その後にイタリアの野球事情に話は移る。 
このころってナポリ=マラドーナ全盛だったのに
セリエAの話題は決勝ではほとんど出てこないのが不思議だ。 
 

ブチャガ途中交代。 

僕はブルチャガって選手を良く知りませんが ちょっと動きが緩慢でしたね。」 

王さん、欲が出てきたのか、積極的なコメントは初めて。 
 

それにしても王さんサッカーの場合は 11人プラス2人しか交代できない。 
 いわゆるピンチヒッター代打は2人まで。」 

ルール説明を無理して王さんにかけて振る。 
王さんも、このコメントには上手い切り返しは思いつかなかった。 肯定するより他ナシ。 

しかしながら80分を経過したところで王さん 

オフサイドのことがよくわかってきました。

とコメント。 そうか、今までは、よくわかっていなかったんだ。 
 

西ドイツPKで先制。 

釜本さん、こうなると アルゼンチンは攻めるしかなくなりますね。」 

ついに王さんは話を振る。 水野アナウンサーを押しのけて。 
 

ボールを後ろに後ろにってのがちょっとね。 
 ファンとしては感じるところなんですけどね。 守りたいキモチはわかるんですけど。」 
こうなると王さん、 監督としては守りの切り札ピッチャーを出して
 ここはなんとか逃げ切ってほしいと・・・。」 
ところがファンというのはボールがキーパーのところへ入っちゃうと納得できないんですよ。」 

さすがファン思いのプロフェッショナル王さんは 
試合運びについても注文。 勝つだけでなく魅せることを要求していた。 
 

でも、王さんも事前に数試合観戦していたらしくけっこう、的を得たコメントもしていた。 特に、試合運びやペース配分などは、納得のいくコメントだった。 また、王さんがゲストに起用された理由だが まだまだ一般的には関心が低くゴールデンタイムには放送が すくなかったワールドカップを初心者にも興味をもって見てもらうため、と理解しよう。ちなみに、この大会からBSで初めて全試合中継が実現された。