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J1リーグ 1st stage 第4節 アルビレックス新潟 『桜を追って』 横浜では散ってしまった桜が、試合の前日にちょうど新潟では満開となり絶好のお花見日和。新潟市内の桜の名所といえばビッグスワンのある鳥屋野潟と新潟陸上競技場のある信濃川やすらぎ堤だ。 ディドに会う。 堤防といってもなだらかな傾斜を芝生が覆い、水面近くにまで足を運べる素晴らしい環境。土曜日の9時30分といえば、まだ早朝。人は多くない。そこに颯爽と走ってくる大きな男。すぐに気が付いた。ディドだ。 「ディド!」 と声をかける。声に気が付き手を振るディド。ここで「榎本を何とかしてやってくれ。」と言いたかった。だが、フィールド内ならともかく、ここは新潟の堤防の上。プロのコーチに、唐突に、そのようなことを言うのは、さすがに失礼だと思い、グッと堪える。すると、ディドは、 「ガンバリマス。」 と、言ってすれ違い、走り去っていった。 「きっと、ディドは感じてくれているんだ。」 そう、あり得ない妄想に自分勝手に納得し、待ち合わせの新潟駅に向かう。 11:07分着の新幹線で、待ち合わせをしているメンバーは10人が揃う。新潟へ遠征するマリーシアのメンバーは約20人。その半分が、ここで待ち合わせ、食事をしてからビッグスワンに向かうことになる。早い者は5時には新潟に到着し、9時から酒蔵を訪れ貸し切り状態で2合も飲んでいる。待ち合わせ場所は「忠犬タマ公像」の前だ。像に書いてある説明によると、タマ公は雪崩に飲まれたご主人のために2度、助けに向かったのだそうだ。渋谷のハチ公は、ただ待っていただけだから、タマ公の方がアグレッシブで役に立つ。像の説明が書いてる。「タマ公賛歌」という歌がある。その三番には、こう書かれている。 渋谷の駅はハチ公で 新潟駅はタマ公で 心かよわす姉妹駅 知らない人には教えましょう 恩を返した物語 長岡小嶋屋。あまりに美味い酒と肴。それにへぎそばに、もうご満悦。 「この幸せが、今日の絶頂ではありませんように。」 と祈りながらバスでスタジアムへ向かう。 途中で一軒のラブホが見える。名前は「モナコ」。 一斉に、みなで声を出す。 「モリエンテ〜ス!」 チャンピオンズリーグも忘れてはならない。モナコやラ・コルーニャ同様に城南を撃破せねば。 ビッグスワンの美しさに息をのむ。沼地の向こうに見える桜の木々。 日なたは暑い。日陰は寒い。日なたのコンコースへ出てくつろぐ。2時間以上もあるので、いつもはじっくり話をしない仲間とも、話ができる貴重な時間となる。 「今日は水曜日よりもハングルの横断幕が多いね。」 軽く冗談を飛ばしながら選手がピッチに現れるのを待つ。ウォーミングアップで新潟の選手が現れたとき、私たちの前方三方はオレンジ色の壁となる。城南戦に続いて、例のプラカード攻撃だ。しかも、今度は日光を反射して眩しい。 スタジアム内のアナウンスで「今日は横浜の胸を借りる・・・。」と言われる。そんな胸を貸すほど立派なサッカーはしていない。そういえば、朝乗ったタクシーの運転手も 「横浜は強いね。今日は新潟に勝ち目はないな。」 などと言っていた。初めての昇格とはいえ、勘違いも甚だしい。というよりも、そういうムードに気を許して初物にやられるのはいつものことだ。ゴール裏の私たちも含めて慢心を起こしてしまうようなムードにならないようにしなければならない。 「でも、ホームなんだし、きっと攻めてくるだろ。」 反町もそれくらいはわかっているはずだ。 だが、思いようには行かない。新潟の下がりっぷり、サイドをフリーにしっぷり、中盤のチェックのルーズっぷり。トリコロールは試合開始早々から前半が終わるまでやりたい放題になる。新潟の攻撃に怖さがない。最初のピンチにパスを出す山口がバランスを崩して尻餅をつく。 「出た!サンパイオ抜き!!」 相変わらずサンパイオあっての山口だ。 試合を通して決定的なピンチは、前半に山口に左サイドを破られてクロスバーに当たった1本のみ。反町としては、あのようなワンチャンスをものにして、あとはミスをしないサッカーで逃げ切ることが狙いだったのだろうが、いかんせん、新潟の選手のレベルが低すぎる(丸山や深沢が試合に出ているということが、その証明でもある)。下がるだけでノープレッシャーにしては守備とは言えまい。このサッカーとこのレベルには徐々に怒りを感じてくる。 だが、昇格組のメンタリティーは私たちにはわからない。オレンジ色を後押しする満員観客が、このサッカーを不満に感じた素振りは、ほとんどなかった。残留を目指すチーム作りの現実とは、そういうものなのか。 「タンマチ!地下に潜ったぞ!」 新潟県民には「タンマチ」を「反町」と書くとはわかるまい。内輪受けだ。 この短期間に復調するのか。 ドゥトラの突破が凄まじい。特に輝いたのが、サイドチェンジ(これが、ディフェンダーの脚に届くか届かないか絶妙なコースなのだ)が飛んできたら、ワントラップを浮き球で前に出して、そのまま抜き去ってゴールライン付近まで一直線に持ち込んでしまうプレー。城南戦までの重たい感じはない。右のユキヒコの迷いの無いプレーも鋭く、両サイドは完全制圧。 那須と上野のボールさばきも早くて適切。運動量の不足は解消されない奥も、要所要所ではよく絡む。90分間、ボールが止まることのないゲームになる。久保に合わせて新潟がラインを下げるので、その少し下で清水はボールを受ける。素晴らしいパスが交換されるたびに「イェ〜ス!」「ヨ〜シ!」といったかけ声が飛ぶゲーム。 安定と共に貫禄が漂う。 中澤の高さは壁と化す。松田のカバーは岩と成す。スルーパスにも動じない。冷静に、そして安全に。ピンチの芽は事前に摘む。まさに、そんな表現がピッタリの守備だ。そして、前線やサイドへのフィードが攻撃の起点に。前半も半分を過ぎた時間に、ボールを奪った松田が、相手と競りならドリブルで前に出てスピードを上げ、一気に振り切って、絶妙のタイミングで左サイドへ綺麗な弾道のパスを出したときに、2年周期で訪れるミスター本番絶好調の季節到来を見た。 リーグ戦での勝利はセットプレーで得点したセレッソ戦のみ。 20分過ぎからはペースを捕まれる。というより、いくらだらしないサッカーをしていても、失点さえしなければ、このままで新潟ペースなのだ。 「いい加減に決めろ!!」 「新潟ペースにはまってるぞ!!」 シュートは放てどゴールは遠い。だが、ここでもセットプレーの強さがものを言う。 「なんだよ新潟!2点獲られても前に出てこないのかよ!」 「意気地なし!!」 奥の芸術的なループシュートがトリコロールのサポーターを湧かせ、ビッグスワン全体を重苦しい雰囲気に落とし込んでも、新潟の選手達に変化はない。残り時間も少なくなってトリコロールがバックラインでボールを回すが新潟は下がったまま。一切のプレッシャーをかけてこない。ただただボールを回してロスタイムを浪費するかに見えたが、前線がわずかにフリーになる隙を突いてロングボールを送る。そして左のドゥトラがフリーでヘッド。その先のことは覚えていない。 とにかく気が付けば拳を突き上げ、隣の仲間の肩を叩き叫んでいた。 前半を終える。 ハーフタイムにチアガールが登場。フラッグを持ってトリコロールのサポーター達の前を走る。 「わかった、走るのは君たちじゃなくて新潟の選手にしてくれ!!」 攻めてくれば、それだけ、トリコロールにもチャンスが生まれるはず。 後半にはいると、さすがに新潟が攻めてくる。 これをガッチリ受け止める展開になる。しかし、繰り返される宇宙開発。 「そんなに撃ったら日本海までいっちゃうよぉ!」 際どいシュートは鈴木慎吾のミドルシュート、こいつは凄かった。しかも、止めた榎本も凄かった。さらには、あの1992年のアジア・カップ・ウイナーズ・カップのププクカルティム戦で初めて歌われた神野ゴーゴーと同じメロディーで慎吾ゴーゴーが聞けたのが凄かった。 守備は安定している。松田と中澤は上野優作に仕事をさせない。身体の寄せだけで制圧する。不安はボランチに入った柳想鐵。攻守にバランスが悪く噛み合わない。時折、闘志一杯にボールを奪うのはさすがなのだが、守りで目立たない。攻めも、バックパスを簡単にしないのはよいが、パスをなかなか出せずにもたついて奪われるシーンが多い。 逆に、攻めで活躍を見せたのは中澤だ。 「信じられないよ!!」 フェイントで2人をかわしてドリブルし、アウトサイドでカーブをかけたパスをスペースに流し込む。こんなプレーを2度も決める。なかなかゴールが奪えない展開に陥るとゴール前に現れる。中澤にやられ放題の新潟にも疑問はあるが、後半を湧かせたのは中澤、そして安、清水。 清水は前半同様に、ボールに良く絡む。安とのコンビは城南戦の美しいゴールで実証済み。この日の後半最大のハイライトは、安のラボーナで抜け出した清水が野澤と一対一になりかけたところで丸山に手をかけられて回転したシーン。 「PKだろぉ!!」 「倒してるよ!!」 「PKじゃなかったらシミュレーションじゃないのかよ!」 岡田さん、唯一の疑問の残る判定。 そして安は、見事なボールコントロールで素早いシュートを見せる。この男は、レベルの違うプレーを一瞬の判断で見せるときがある。そういえば、試合前ウオーミングアップの時、最も人気のあったのは安。メインスタンドの新潟ファンは、みな写真を撮っていた。他のトリコロールの選手には目もくれず。 終盤には山崎も登場。4点目5点目は獲れないまでも、無失点で終えるかと思ったロスタイムに無駄な失点。 「あぁ〜あ。勿体ない。」 「うちらしいといえば、それまでだが。」 やや後味悪くビッグスワンを後にする。 新潟のサポーター達はフレンドリーで、いろいろ話しかけてくる。 新潟の噂の「奇跡のバス」は、さすがに手際がよい。乗り込んだのは運良くトリコロールのバス。早速、後ろの席を取る。せっかくだから新潟サポーターとは席を近くしたくないので、お約束のご案内する。 「勝者は奥の方へ、奥の方へ。」 「え、奥?」 これなら、オレンジを着て、こっちには来れまい。 新幹線では偶然ながらクラブスタッフ、シミスポが隣の列で密着マーク。すくなくとも新潟のルーズな中盤よりも堅いチェックだ。酒をずらりと窓際に並べたために、ホームでテロを警戒する警官も、代わる代わる覗きに来る。そのうち、あまりにアホぽい光景なので、警官も窓の外からジェスチャーでジョークの仕草をする始末。 新潟を発ち、時間が経つに連れて、失点の後味悪さも薄れ、勝利の味が湧いてくる。 「まぁ、今期はしばらく我慢。こんなもんだよ。」 「贅沢言っちゃダメダメ。」 「ところで、新潟って、次はどこと?」 「鹿島国。」 「そっか、じゃぁ、さっきの1点をキッカケにしてほしいな。」 「それで、新潟が勝つなら、良い失点だ。」 今日のポイント ●中盤が緩い相手には攻撃のテンポが掴める。 ●シュートは20本。バラエティな攻めの数々。 ●榎本も獲れなくはなかったが、パスが雑すぎた最後の那須。 ●もの凄い歓声でスタジアム全体が盛り上がったロスタイムの失点。 ●「元気出して!元気出して!」と聞こえた新潟の応援歌。
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