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J1リーグ 1st stage 第6節 ガンバ大阪 『時計よ進め』 「まだ12分もあるのかよ!」 劣勢の試合運びに気だけが焦る。悲鳴にも似た残り時間を確認する声が挙がる。状況は一向に好転しない。右サイドは破られ、ボールは落ち着かない。松田の超人的な速い判断と強さでボールを跳ね返すのが精一杯。ガンバの出来が良いとは思えないが、この圧倒される時間帯が90分まで10分以上も続くと思うとゾッとする。 「たった3分しか経っていないのかよ!」 長い劣勢の中でひと呼吸し、時計を見たとき、驚いたことに、時間はたったの3分しか進んでいなかった。ロスタイムを加えれば、おそらく、まだ12分近くあるだろう。 このまま凌ぐことができるのか、いや、持ちこたえなければ。磐田がリーグで独走する勢いなのは誰もが感じている。それに、来週の城南での大一番を前に、引き分けに終わることは許されないのだ。息をのむ攻防、いや、防戦一方の中で散発的に行われる反撃。スタンドは一体となってフィールド上の選手達を後押しする。 前半のムードでは、それほどの苦労をするとは思えなかった。 アッという間の得点だ。 序盤は順調。マグロンの高さに怖さを感じることもなく、安定した試合運びで主導権を握る。しかし転機が突然に訪れる。榎本のキックミスがガンバに渡りピンチに陥る。大黒から放たれたシュートは、からくもクロスバーの上。命拾いだ。沸き起こる大ブーイング。 「まずい。」 「ここは我慢だ耐えなくちゃ。」 「なんとかシュート一本でも撃って、ムードを戻そう。」 ガンバにシュートを撃たせてはならない。撃たれればダメージ倍増。一気に流れが傾く。撃たせずに持ちこたえれば、榎本のミスもかすり傷で収まる。緊迫する空気が張りつめ、スタンドからは声援が送られる。 ところが、ゲーム再開のゴールキックは低いライナー性の速い球。もし、このボールを榎本が意識的に蹴ったのであれば間違えだ。ここは、みなの安心感を回復するキックが必要なはず。スタンドの多くのサポーターは、このキックをミスキックと感じた。悲鳴と罵声。 「いや、榎本が悪いんじゃないんだ。使う岡田が悪いんだ!!」 「耐えろ!!」 「頑張れ!!!!」 そしてボールは那須、柳を経て、簡単にタッチ際の久保へ。 「頼む、久保!シュートしてくれ!!」 勢い良く前へボールを運ぶ。しかし囲まれる。バランスを崩す。だが久保は必至だ。脚を延ばし、タッチ際から回り込んできた坂田に渡す。 「よく頑張った!」 「いいぞ久保!!」 拍手を叩き、一気にカウンターでピンチを招くことを防いだ久保へ賞賛の声援。が、唐突に、それは切り裂かれた。 「えっ!」 「うぉ!!!」 「ぐぁ〜!!!!」 坂田の左脚は素早く振り抜かれ、ボールはクロスバーをかすぅてゴールネットを揺らしている。守って持ちこたえるなんてレベルではない、お釣りが来るにはお釣りが多すぎる、値千金のゴールが突き刺さったのだ。絶叫と共に飛び跳ね、次から次へと仲間達とハイタッチを交わす。 「いやぁ凄い。坂田は凄い。感動した。」 試合の序盤から「感動」という言葉が飛び出す。 仲間が自ら招いたピンチとはいえ、跳ね返してのファインゴールにスタンドは沸き立つ。さらに、ゴール前の混戦で久保が右脚でシュート。これは跳ね返される。ゴールラインまでは、あとわずか。 さらにさらに、興奮冷めあらぬうちに追加点。ここ数試合、途中交代がかわいそうだという声が出るくらいに、すっかり復調したユキヒコがラインの裏に。久保もいる。松代を引きつけ久保へ。久保はゆっくりとグランダーのボールを、小学生のパス練習のようにゴールに向かって流し込む。久保がボールを受けた瞬間の歓声。転がるボール。ゴールラインを超える瞬間に、トリコロールの歓声は 「よし!」 「Yes!!」 「やった!!」 「へ〜んだ!!」 それぞれの言葉で一斉にスタンド内を支配する。あぁ、この歓声は、まるでプレミアリーグのゴールシーンの音声かのようだ。多くのサポーターは、声と同時に宙に飛ぶ。座っていたものは飛ばなくとも立ち上がる。ユキヒコが裏にぬけ、オフサイドではないことを瞬時に知った瞬間に、その用意は出来ていたのだ。この得点は、まさに練習の成果とも言える、ボールを大きく動かしながら相手のディフェンスラインを引きだして裏へ抜けるロングパスで勝負する攻撃だ。 「流すな!」 久保のゴールがスタンドに告げられゴールシーンが上映される。そこには極めて微妙な久保の位置が映されている。そんなことはお構いなしに試合は進む。意気消沈のガンバを攻め立てるトリコロール。ふと、1人少ない中で得点を重ねて圧勝した、あの日のガンバ戦のシーンが脳裏に浮かぶ。新潟は圧勝ムードであったが、もったいない失点で後味が悪かった。今日は快勝できるかも。そんな期待に包まれて前半は進んでいく。 ガンバで、今、もっとも危険な縁起の良い名前。 大黒は積極的だ。最初のシュートは榎本が止め、二つ目はクロスバーの上。次のシュートは左サイドのスペースへ流れて受けるやいなや、思いっきり狙う。これは松田がコースを消したので榎本が弾く。さらに、跳ね返りを松田が頭でゴールラインへ逃げる。と同時に、松田の側に下がってしまって大黒にプレッシャーをかけられなかったハユマに向かって、松田が全身で怒りを表す。これが、松田のハユマへ最初の呼び出し。試合終了までに、守備のアプローチを巡って、ハユマは3度も松田に呼び出されることになる。 その大黒の突破を止めきれず中澤が警告を受ける。 「あぁ3枚目。」 「でも、あの位置では仕方ない。」 さらに、あっと言う間に遠藤に決められる。 「あのシュートは仕方ない。だれも獲れないよ。」 「壁が割れたんじゃないの?」 スロー再生された弾道は、大きく壁の外を巻き込んでいた。 前半を終える。坂田に話題が集中。1点を獲られる前のミドルシュートも、もの凄い破壊力だった。なにしろ、坂田は、スタンドの私たちが「撃て!」と言うよりもワンテンポ早く撃つ。そして、ボールは枠に向かっていくのだ。そんな中でスロー再生。極めて怪しい2点目。「オフサイドではないと思ったのにオフサイド判定された」そんなプレーをスロー再生すると、大抵は、このような位置関係だ。真横ではないのでわからないが重なっているかが、とても微妙。だが、審判が決めた判定が「判定」なのだ。だからこれは、正真正銘の一点である。 「でも、こりゃぁ誤審で負けたとか言われないためにも、追加点を獲らなくちゃ。」 「逆に、誤審で勝つっていうのも、相手にダメージを与えられて嬉しいかも。」 「審判も、うちの試合で良かったね。鹿島国だったら大変だよ。」 「そうだよ、またトニーニョ・セレーゾが職を失っちゃうよ。」 後半が始まると、追加点を獲るどころか、しっくりこない。ガンバは大黒を中心に押したり引いたりの工夫ある攻めで押し込んでくる。ハユマのポジションが悪く、スペースを与えてしまう。 中澤が勝負をかけたオーバーラップをするのだが。 一気にゴール前へ走り込んだのだ。ガンバの陣形も整ってはいない。ボールはハユマのところへ。 「よしクロス!!」 「入れろ!!」 「中澤の頭!!!頭!!!」 期待の大歓声に刃向かうようにハユマは沈黙。目の前のガンバディフェンダーを抜こうとする。抜けるなら良いが、抜けずに止まる。 「入れろよ!」 「中澤がいるんだぞ!!」 声は怒りに変わり、ハユマに刃を向ける。 「おめぇセンス無いなぁ!」 得点差は1点。流れの中で中澤が挑んだ勝負は尻つぼみに終わる。この先、偶然なのか、フリーで呼ぶハユマには、しばらくの間はボールが来なくなる。 守備の不安を解消するために河合を投入。またしてもユキヒコは途中交代。 「おっ、ついに実現だ!!」 松田、中澤、河合の『身体能力3バック』が揃ったのだ。 だが、それは、もろくも崩れる。ドゥトラが、これも明らかな警告対象のファールで3枚目をもらう。 「あぁ〜ドゥも。」 「やべぇ、どうすんだ。」 「中澤も、松田も、ドゥもいないのかよ。」 「栗原は?」 「リーグ戦は先だから、栗原は戻ってきている。」 「う〜む。」 3度もうずくまる中澤。 これほど痛いに苦痛の表情を見せる中澤は初めてだ。ついに動けなくなり途中交代。『身体能力3バック』は、僅かな時間で解消となる。今更ハユマを最終ラインに戻すわけにもいかず奥をすこし下げて、前には山崎。奥が下がったことで、柳か那須が、最終ラインのケアをすることになる。苦肉の策で、ますます劣勢になりながら耐える。 ハユマが不安なのは承知の上。でも波戸放出の意味も知っている。 「ハユマ!!お前チャンスなんだぞ!デカイ仕事しろ!!」 「思い切ってやってみろ!!」 「次は絶対に勝負しろよ!!」 「勝負をかけてみろ!!」 ハユマがブレイクしなければ、この先の道のりは険しい。ますます劣勢に陥る中で檄が飛ぶ。そんな時間にボールが来る。タッチ際で一気に抜き去って久保へクロスを入れてほしい。 「さぁ行け!」 無理と見て、ボールを戻すハユマ。再びボールはハユマに渡る。また、直ぐにボールを戻すハユマ。 「勝負しろ!勝負!!」 またボールは、すぐにハユマに渡る。しかし、またしても直ぐにハユマはボールを戻してしまった。仰け反るスタンド。ため息。 「お前なぁ、目の前にいるのは實好だろ。絶対に勝負しろ!!こいつと勝負しないで誰と勝負するんだよ!!」 大黒、吉原、渡辺のミスで失点せずにリードはしている。だが、次節はドゥトラ、松田、中澤が出場停止。しかも中澤は負傷退場。松田は絶好調だが、上川さんが見逃してくれなければ、あのハンドで退場のはずだった。右サイドは勝負せず、攻められれば脆い。しかも、1試合に何度も出くわす榎本のキックミス。 スリルとストレスが声援を熱くする。そして、積極的にゴールを狙い続ける坂田と久保が、僅かなチャンスを何とかしてくれるのではないかという期待で手拍子は激しくなる。 「守れ!!」 「向かすな!!」 「堪えろ!」 「跳ね返せ!!」 「セーフティーで良い!!」 「よし、ゴールキックだ。」 「助かった。」 「安心するな。ゴールキックを無事に蹴り終えるまでは、まだ大ピンチだ。」 冗談とも本気とも区別の付かない声を聞き、榎本のキックを見届けて拍手。何度か、キックに拍手をするゴールキックがあったものの、これは、逆にプレッシャーを榎本にかけているだけではないか、という疑念が湧く。「こんなことはやめた方がよい。」そう思う。きっと、ゴール裏も含めて、トリコロールは誰もが不安を感じ祈るような気持でいる。だが、それを声に出しても仕方ない。ガンバは、きっと、決定的なミスキックを願っているだろう。試合も終盤にさしかかり、榎本がゴールキックを蹴るモーションに入ろうとするとき、ここに2万人もの人がいることが信じられないような静寂がスタジアムを包んだ。ゴールキックを後押しする声援も手拍子を起きず、逆に野次もブーイングも起こらず、全ての人が祈ってしまったのだ。 「何で、みんな黙っちゃってるんだよ!!」 「何言ってるんだよ!みんな不安なんだよぉ!!!!」 「自分だって不安なくせに!」 試合終了の瞬間はため息。一呼吸をおいて大歓声。立ち上がって突き上げる拳。リーグ序盤、ライバルでもないガンバ相手に、得点は平凡な2対1。だが、この試合の勝利の重みは誰もが感じていた。インタビューを終えた坂田を迎えるスタンドでは、試合中の緊張から解き放たれた自由を謳歌するかのような、ちょっと気の抜けた笑顔が揺れていた。 今日のポイント ●枠に飛ぶ、坂田と大黒のシュート。 ●なぜ遅延行為を繰り返してしまうのか榎本。 ●苦肉の選手交代は試合前の中西怪我も一因。 ●久保を小さく見せたシジクレイ。 ●オフサイドかどうかは、副審から見て横並びなのか出ているのかの判断。 ●副審の一人は前之園さん。似た苗字の人が昔は活躍していた。 今日のお値段
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