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J1リーグ 1st stage 第7節 FC東京戦 『警告の謎・勝者への道』 「なんで、そんなに元気ない顔してるの?」 「なんかさぁ、チャンピオンズリーグの方が大事じゃん。で、今日は普通に平常心でいるんだけど、なんかガスサポーターが入れ込んでてさぁ。」 「そうだねぇ、あっちは、これだけだからね。うちはいろいろあるのに。」 「そうなんだよ。普通にしているときに、凄いテンションで来られると、ますます引いちゃうときってあるでしょ。それなんだよ。」 リーグは重要なタイトルだ。しかも、相手は因縁浅からぬガス。負けることは許されないのは当然だ。だが、私たちの目の前にある複数の目標、そして、それを達成するための戦力などの手段は、ただ単に一直線に闘いに突入するだけでなく、いかにして勝つかを考えさせてくれる。 「榎本さんに特別なことは望まない。普通のキーパーとしてやってください。」 ここ数試合の不安定なプレーに不安はある。だが、彼に頼るしかない。 選手が入ってくる。 「ぶちのめせ!!」 「ガスにさっさと引火しろ!!」 「茂庭を狙え!!」 「茂庭の後ろだ!!」 「ジーコジャパンを狙い撃ちだ!!」 コール、歌、声援が交錯する中で試合が始まる。ジャッジに不満そうに頭を抱える石川。容赦ない。 「石川、頭なんか抱えやがって、うちにまだ文句があるのか!!」 右サイドで競り合いながら苦し紛れに打ち上げた山なりのクロス。ため息が出そうなダメボール。 「あちゃ〜。」 「いや、土肥だからまだわかんないぞ。」 「うん、そうだね。」 そこまでの会話ができた。それほどの山なりのボールだ。まったくその通り。ボールはこぼれ、素早く体制を整えた安が蹴り込んだ。先制。思わぬプレゼントに飛び跳ねる。アウエーの劣勢を感じる前に喜びは爆発し、仲間と身体をぶつけ合って雄叫びを上げる。そして、座席にへたり込んで笑う。 「いやぁ、ほんとにやっちまうからなぁ土肥は。」 「相手はジーコジャパンのキーパーだぞ。狙って、どんどん撃っていけ!! 88分を残して絶好調だ。 土肥はスローで見るとただ単に垂直に飛び、安も垂直に飛び、それでいて土肥の手がボールに届かないという初歩的なミス。 激しい試合が予想されるカードだ。 中盤は高くコンパクト。厳しくぶつかり合う。 「オイ!後ろからだろ!!」 危険なタックルに選手が倒れる。これは危ない。だが、すでにボールは動いている。今度は相手を背負ってのボールキープに笛が鳴る。お互いのゴール裏から不満のため息と野次が飛ぶ。開始早々の一点と身体と身体のぶつかり合い、そして解りにくいジャッジに、不穏な空気が広がっていく。またしても後ろからのプッシングに笛が鳴らない。 「なら、後ろからやってもいいってことだな!!」 このまま行けば『誤審・退場・ラフプレー』が揃うのも時間の問題だ。 サイドをえぐられ至近距離から戸田が放ったシュートは榎本の肩口に当たる。ファインセーブか? 「いや、あれを正面に撃つ方が確率的に難しいだろ。」 ツキが味方したのか?だが、その後の決定的なシュートを止めた2本のビッグセーブはトリコロールを奮い立たせる。 「土肥が、あんまりめちゃくちゃだから、榎本が自信持っちゃうぞ。」 「今日は頼むぞ榎本!」 「今日のディフェンスは、那須が真ん中で中西と河合かぁ。」 と普通に会話ができる。つまり、不在の選手によって不安が高まらないのだ。なんという信頼感と選手層だろう。クラシカルな河合のタックルが窮地を救う。つま先でギリギリ逃げたプレーは、自殺点を予感させたがルーカスを完封した。まぁルーカスがシュートを撃たないフォーワードだったということも幸いしたのだが。 何度も罵声が飛ぶ。標的は奥谷主審だ。 「後ろからのファール獲れよ!」 「何考えてるんだ!危ねぇだろ!!!」 「いや、今日は仕方ないって。審判も、もう頭丸めて反省しちゃってるし。」 ところが、少し解ってきた。判定は一貫していて、ぐらついているわけではない。 「手をかけるプレーには厳しいみたいですよ。」 オフェンスにしてもディフェンスにしても、相手プレーヤーの腕や肩に手を絡めた場合には、きちんと笛が鳴るのだ。 「奥!今日はそこで倒れてもファールはもらえないぞ!!我慢してガンバレ!!」 試合の主導権が握れているのは確実。 だが3点は失っていてもおかしくない状況であったことも事実。ガスのシュートは枠に飛ぶ。それを榎本が救ってくれている。隙のない緊迫した好ゲームだ。ホイッスルへのヒステリックなスタンドの反応も、因縁の闘いを飾る演出と考えればよい。ただ、前半に、たった一つ、気の抜けた不安要素があった。ガスが左サイドのスペースに送り込んだボールはゴールラインを割る勢いだった。ただし、微妙に。石川が全速力でボールを追い、身を投げ出すも間に合わずゴールキックになる。だが、それを中西は追わず、足を止めて眺めていた。見切りが早すぎる。何が起きるか解らないサッカーの怖さを知っていれば、あれは最後まで追うべきだ。 後半が始まる。サイドが変わる。 「土肥!ガンバレよぉ〜!!」 今日はキーパー勝負で榎本が勝っている。反対にガスのゴール裏からは「能活!」「松永!」という大コール。 「こりゃぁ榎本は自信持っちゃいますね。」 「そうか、うちは偉大なゴールキーパーが歴代ゴールを守っているんだ。自分も頑張らなければって。」 「しかも、相手はジーコジャパンでめちゃくちゃだし。」 「しかしまぁジーコジャパンは凄いな。石川もぜんぜんダメダメだし。」 「こりゃぁネドベドもビックリだ。」 「そういえば、ジーコジャパンだけじゃなくて横山ジャパンもいますよ。」 「え?横山ジャパンなんていたっけ?」 「文丈。バルセロナ予選って横山ジャパン。」 後半は、前半にさっぱりだった石川がいた場所に立つのはハユマ。今日のハユマは存在感が絶大。良いプレーにしても悪いプレーにしても「とにかく何かやる」。これが持ち味だ。ただ、後半は、常に前に位置を獲り、先手を打っていたため、ガスは左を封じられている。しかも、右は遠藤が不思議な感じもするが一人で石川と加地を押さえ込んでしまったため、危険なピンチが生まれない。恐るべしジーコジャパン。 「今日の遠藤はサイドで石川封じですね。」 「遠藤10番の遠藤といえばアトランタでのロベカル封じを思い出すな。」 「今日は、それと同じ役割ですね。」 「いや、石川ごときで同じとか言ったら、そりゃぁロベカルに失礼だろぉ。」 前半同様に上野が軽く捌いてテンポを創る。ナビスコを休んで運動量が帰ってきた奥も、持ち味を発揮して決定期を作り出す。特に、左からグランダーでジーコジャパンの間を通してきたクロスは坂田のつま先前を惜しくも通過しゴールにはならなかったが、抜群のアイデアでスタンドを湧かせる。代表の疲れを感じさせない安はドライブシュートを放つが、高さが足りず土肥に弾かれる。前半は安のところでのボールキープができず、遠藤や坂田が中盤で潰される場面も目立ったが、後半は効果的な攻撃起点になる。 「今日、最大の誤審だぞ!!」 体を張ったプレーに見えた。 「ここで奥が決めちゃったらガスも可哀想だなぁ。」 「うわっ決めた!!!!!!」 「うぉ〜〜〜〜〜〜!!!!!!」 「決めちゃったよ!!決めちゃったよ!!決めちゃったよ!!」 距離のあるフリーキックを奥が決めた。ドゥトラが不在で左脚からもコースを壁で消す必要がなかったにもかかわらず、壁のはるかに右から巻いて放ったカーブがゴールマウスに吸い込まれる。 「いやぁガスお気の毒様。」 「こりゃぁたまんねぇな。」 誤審で存在しないはずのフリーキックからゴールが奪えたと思い喜び格別と同情の想い。だが、テレビで見てみれば、完全に足の裏を見せて飛び込んできたファール判定が正しかった。奥谷主審が、大きなゼスチャーで反則の内容を告げるなどすればスタンドも状況を理解したのだろうが、それがなかったためにガスのゴール裏は爆発した。 「くそレフリー!くそレフリー!くそレフリー!」 ただ、思い返してみれば、このプレーの後にバックスタンドとメインスタンドは静まり、すっかり引いた。アウエーの圧力はなくなった。横から見ていたガスのファンは、判定の事実が、リアルタイムで解っていたのだろう。 ゴール裏と一丸となってジャッジへの不信感をあらわにするガスの選手達。 甘いバックチャージ判定を自らのよりどころとしてプレーが危険になっていく。対するトリコロールは倒れても笛が吹かれないと知るや、一層アタックへの意欲を高める。奥もハユマも、倒れかけても立ち上がりボールを追う。以前のトリコロールであれば逆の立場になっていただろう。その弱さで、何度も大切なゲームを落とした。しかし、勝者のメンタリティが芽吹き始めたトリコロールは、ここから圧勝への道を開いていく。危険な予兆を感じさせた時間帯は苦しくも短かった。 危険な予兆。それはベテランの慢心だった。 いつもと違うディフェンスラインを引き締めるのはベテラン選手であって良いはずだ。いくらリーダーシップに溢れる那須が中央に居ようとも、経験が安定を呼ぶのが普通のこと。だが、混乱を来したのが中西の軽率なプレーだった。勝ちゲームだったから良いものの、負けや引き分けであったら糾弾されること間違えない。ゴール前での横パス。前がフリーでスペースが十分にあるのにもかかわらず敵がいる榎本の前へのバックパス。これらのプレーが、トリコロールのゴール裏に、どれだけ恐怖を与えたか、そして、他の10人の選手に、どれだけの負担を負わせたのか、中西は知るべきだ。 だが、幸い、危険な時間帯を脱する。その時間の終了を告げたのは、同じくベテラン選手。文丈の退場だった。1枚目のカードが解りにくかったためMXの中継でも一発退場と実況し「あれで一発退場はないだろう」という疑念をガスサポーターに抱かせたが、カードは黄色。2枚目の警告での退場だ。あれだけ上から足の裏で突っ込んでいけば、警告が出ない方がおかしい。それを解らずに気迫優先の反則をした文丈の罪は重い。 そもそも、文丈はトリコロールの急所を突いてくるはずだった。それは柳の疲れ。ボランチに入った柳は後半にミスを多発した。ボールを受けて振り向くまでのスピードも遅く、代表疲れを感じさせた。中盤の制圧。柳へ積極的にアタックをかけて高い位置で奪って逆襲する、そんな指示を受けて文丈は入ったはずだ。 「まずい、狙われてる。」 「いきなり来たな。」 「でも、我慢だ。耐えるしかない。」 「ここで柳を交代させたら、一気呵成に来るぞ。」 「もしダメで交代させるとしてもベンチに下げちゃダメだ。今日は逃げる姿勢を見せたらやられる。どうしても交代させるなら柳をフォワードに上げて、ボランチに別の選手を入れないと。」 だが、たったの7分間でフィールドを去るのは文丈の方だった。石川と同様に文丈も、笑みのトリコロールサポーターから拍手で見送られた。 その後は、もう大丈夫。空いたスペースを、安、坂田、ハユマ、そして途中出場の山崎が縦横無尽に賭ける。山崎が入ると、小さなパス交換で崩す組み立てが増える。坂田はジャーンを振り切ってシュート。何度もチャレンジしてきた成果が終盤に出る。ゴール後の柳と奥の2つのフリーキックをはじめ、ガスのゴールを脅かし続ける。インターセプトから小さなワンツーで突破を図った那須は 「おっとっとっとと行き過ぎちゃったよ!」 相変わらず判定が解りにくかったので、阿部と上野の交錯には 「え〜逆だろう?」の声。 カードが出ればガス側からは「くそレフリー!」のコール。だが、これもビデオで見れば、阿部が文丈同様に足の裏を見せたファールだった。結局は奥谷さんの判定は一貫していたことになる。アドバンテージの取り方と、やり直しの指示、それにファールスローの判定など改善を求めたい些細なことは多々あるが。 試合を終え、満員のホームで電車を待つ。 「いやぁガスは必至だったなぁ。」 「うちは今日じゃなくて5日が本番だから。」 「エースも温存してるし、ユキヒコもいる。」 「あ、電車が来るよ」 「はい、トリコロールは奥の方へ。奥の方がフリーだよ。」 「え〜奥ぅ〜〜〜〜〜!!?」 今日のポイント ●びっしりギュウギュウ詰めだったゴール裏。 ●2点差でキープにはいると、かつてフィリピン戦で小野が 大怪我をしたような状況が起きる可能性がある。 ハユマの露骨な時間稼ぎはリスクが高い。 ●2ヶ月で3度目の遅延警告の榎本。 だがキックミス1度以外は見事に守りきった。 ●捌くだけでなくサイドにも顔を出した上野。 ●かつてはトリコロールのゴール裏で乱発されていた「審判サイテー」コール。 私たちは進歩したのだ。 今日のお値段
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