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J1リーグ 1st stage 第9節 読売戦 『最後に笑う4分間』 「いやぁ、さっき気が付いたんだけど、今年、チャンピオンズリーグを、選手と監督で両方優勝経験できるのって、岡田とデシャンだけじゃないか?」 「えっ、そうかも。だとすると、岡田監督凄いな。」 「岡田のライバルはデシャン。大物だよ。」 試合は始まり43分に縦へ何本かのワンタッチでのパスがスムーズに繋がる。上野が入れたクロスは、まるで安貞桓のようなフォームと滞空時間で飛んだ遠藤が決める。やっと入った先制点。 得点以外には何も起こらなかったに等しい前半を終え、後半に入る。 後半のオープニングシュートは、本物の安貞桓のヘディングシュート。まずはペースを握る。移籍から年月も経ち、そろそろブーイングのテンションも下がってきた三浦アツのスローインが最初の盛り上がりどころ。だが、主審の判定はトリコロールのスローイン。せっかく準備万端に投げようとしていたアツは、ボールを渋々トリコロールに渡す。 「ロングスローできなくて残念だったなぁ!」 「ロングスローさせた方が得点に絡まないから安全なんだけどな。」 上野と柳のコンビネーションも良く、攻守に安定した後半の立ち上がり。特に、ここ数試合は不調だった柳は、疲れがとれたのか、中盤での守備に費やす運動量も十分、かつ攻撃参加のタイミングも全身力も抜群で、いよいよ怪我の後遺症もクリアになってきた気配。上野も前へ前へのボールさばきで攻撃の起点としてあまりある働きだ。 たまにの読売の攻撃も余裕で跳ね返す。自陣深くからグランダーで長い距離を通した奥のパスが、読売の選手の間をすり抜けて安の足へ。この芸術的なパスには歓声よりもため息が出そうだ。さらには安の強力なシュートは枠に向かい、ゴールキーパーの高木がパンチアウト。完全にペースは握った。 だが、恐怖は一瞬、突然にやってきた。 クロスに飛んだエムボマのボレーは、豪快な空振り。風切り音が聞こえてきそうな大振り。深い恐怖を秘めた低い声の悲鳴が屋根に反射する。後半から登場した男は一発を持っている。飯尾の怖さとはひと味違う。 試合は動く。読売の中盤はルーズになった。 エムボマ投入で前線の運動量が減ったこともあって、中盤スペースができてくる。そして、坂田や安が余裕を持ってボールを受けられるようになる。ディフェンスラインの裏に飛び込むことも自由自在。右の遠藤がフリーで持ち込みシュート。跳ね返りを受けてゴールライン際まで高木をおびき出す。得点にはならなかったものの、遠藤がサイド起用されたときの特徴を活かした攻撃が冴える。読売の3バックは混乱。中盤がスルーなので、いきなり坂田と安に相対することになる。右サイドのスペースに飛び出せば、3人が間隔を空けずに寄ってくる。すると中央から逆サイドが空くので、そこに、もう一人が飛び込めばよいのだ。安が右サイドのスペースでパスを受けてドリブルし、中央にフリーで走り込んだ坂田にドンぴしゃのクロス。ダイレクトボレーで放った弾丸シュートは惜しくも阻まれる。 中澤投入で右サイドは遠藤から中西へ。守備のリスクは減ったが、せっかくのサイド攻撃の駒が減る。その穴埋めのために清水を投入。疲れが出てくる奥を温存し守備固め、いや、右サイドへの運動量でのカバーも狙いだろう。エムボマの恐怖は中澤の投入で一安心。 だが、落とし穴があった。 「ドゥトラにセーフティーという言葉はない。」これは前半に自陣深くで読売の選手をドリブルでかわそうとしてピンチを招いた際に飛び出した言葉だ。明らかに疲れで精彩を欠いているドゥトラ。今期は左サイドの補強は機能せず、代わりがいない唯一の選手だ。そのドゥトラが軽率にも競り合いに突っ込みかわされてしまう。マイナス方向に折り返されたボールを米山が軽く左脚でシュート。コースは正面。スピードは緩い。助かったと思った直後に、万歳で抜かれた。ネットが揺れ失点。 「また万歳かよ。」 「ブラインドだったとはいっても、あのシュートが入っちゃうのかぁ。」 重いムードがスタジアムを包む。ライバルとは言え、今の読売は、どう見ても勝ち点3にしか値しないチームだ。残り時間は十分にあるわけではない。一転してゴールを奪う必要が出る。ユキヒコの投入。だが、交代する中西は、まるでスター選手のようにゆっくりとフィールドを横切ってベンチに向かってくる。切れた野次が飛ぶ。 貫禄を見せる。あとは得点だ。 中澤、松田、那須が、軽く森本を料理する。簡単にボールをさらう。実力差は個人も組織も歴然なのだ。だが、チャンスが作れない。ユキヒコは不親切きわまりないパスを渡して、別の場所へ走っていってしまう悪い癖で安を困らせる。意欲はわかるが自然に出てしまうプレーだ。攻めのスピードが上がらない。これはまずい。そんなとき、タッチライン際で平野が倒れる。右に2回転すればフィールドから外に出れる。明らかな時間稼ぎだ。 ちょうどロスタイム表示がされる。残りは4分。 「まだ行けるぞ!」 「時間はある!!」 の声援が飛び交い、全力で総攻撃を限られた時間内でかけなければならない。だが、間も悪く、余裕を持ってバックパスを受けた榎本は、なぜかゆっくりとドリブルでボールをペナルティエリア中央に運ぶ。 「何やってんだ!さっさと蹴れ!!」 と言っているうちに森本に距離を詰められ、不得意の左脚で蹴ることを余儀なくされる。 「こんな時間に、何考えてるんだ・・・。」 という言葉を漏らしているうちに幸運にもパスが送られ左のスペースに走り込んだドゥトラ。今日初めての本来のキレのあるオーバーラップだ。そして、この土壇場で、サッカーセンスを溢れんばかりに見せつけるグランダーのクロスが高木の指先をかすめて横切り逆サイドに。右サイドにいるはずのユキヒコがファーポストに向かって走り込んできている。慌てたディフェンダーが処理を誤りボールはゴールの向きにこぼれる。この時点でスタンドは総立ち。一点を見つめる。ユキヒコの足が出る。触ったかどうかは解らない。が、ボールはゴールラインを割るのがハッキリと見える。 「やった!」 「入った!!」 騒乱状態になるスタンド。ゴール裏前列以外は雨を避けて屋根下に密集している。だから身体がぶつかる。気が付けば、到着が遅かったために席が無く2階最上段で見ているはずの中根さんがなぜか隣にいて肩を叩き合っている。 執念のゴールだ。これでエコパには勝ち点が開かないままで乗り込めるかもしれない。 ひとしきり喜ぶと気持を切り替えて次へ。 さぁリードした。残り時間はどれくらいあるだろうか。皆が、ほぼ同時に叫び始める。 「終わり!!」 「終わって良いよ!!」 「終われ!!」 「お・わ・り〜!!!」 と、レフリーを見ていると再び劈くような大歓声。安が高木と一対一。コースが無く持ち直すとディフェンダーが2人もコースを消そうとゴールマウスにはいる。放ったシュートは、なんと右上隅の角。ネットが揺れると身体は前後左右に揺さぶられていた。なにかに強烈に引っ張られたような気がする。一度、戻ったはずの中根さんが、また駆け下りてくるのが見える。右脛には痛み。 ボールはセンターサークルに戻りキックオフ。 すぐに叫び出す。今度はさっきよりも大きな声で、人数も多く。だが、余裕も持って。 「終わり!!」 「終わって良いぞ!」 「頼むから終わってくれ!!」 頭の上にはバッテンだ。 「終われっていってんだろ!!」 「終わらないと榎本が遅延行為で累積3枚になっちゃうから蹴る前に終わってくれ!!」 「失点しても勝ちだけど、後味悪くなるのは嫌だから終われ!!」 後から考えれば、なんだかんだと「終われ」と2分間叫び続けていたことになる。 試合終了。それまでの90分間が嘘のような、格別の満足感が滲んだ笑顔。ヒーローインタビューがユキヒコと知って 「そりゃ美味しすぎるだろ!」 とツッコミ。 ビデオで見ると読売ディフェンダー陣はユキヒコはハンドしたとアピールしている。右のポスト前での際どい争いでゴールに押し込んだときにハンドの疑惑というのは、つい先日の「UEFAチャンピオンズリーグ準決勝、チェルシーvsモナコ」そっくり。そもそも、今回は大違いで、ユキヒコの足にさえ当たったかどうかが怪しいゴールだったのだが。読売のみんなは同じような状況に見えたらしい。スカパーの見過ぎだ。 ロスタイムに2得点の喜びは弾けて興奮は冷めず、騒ぎは、まりのすけがお立ち台から落ちて動かなくなる衝撃のシーンを目にするまで続いた。 今日のポイント ●状況に合わせて手を打ち続けた岡田采配。 ●今期リーグ戦では一番の出来だった安。 ●右サイドは遠藤。ハユマはベンチ入りせず。 ●余計なフェイントなどはやめて、もっとシンプルにプレーした方がよい中西。 ●フェアプレーだったが、大田さんのジャッジは完璧。 今日のお値段
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