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J1リーグ 1st stage 第8節 清水戦 『希望あるミッドウイーク』 新横浜の駅は混雑している。改札を抜ける顔、顔、顔。笑顔のギャル達に混じって、時たまうつむき加減の男や、硬い表情の女もいる。横浜アリーナで行われた、ラルク・アンド・シェルのコンサートを楽しんだギャルの大半は黄色いビニールバッグを持っている。だが、顔を見ただけでわかる。黄色いビニールバッグが見えなくても、僕らのホームスタジアムから帰宅の表情は曇っているからだ。勝てる試合に勝てなかった。 「おいおい、お前はうちの方だろ。ラルクじゃねぇだろ。」 いわゆるサッカーオタク風のルックスなのにもかかわらず、黄色いビニールバッグを肩にかけているのを見てツッコミ。こんな軽口が叩けるのは、厳しい試合を引き分けに持ち込んだ安堵があるからだ。 ハーフタイムに岡田監督は厳しい檄を飛ばしたのだろう。思うように行かない前半。シュートが少なすぎる。撃てば入る相手だというのに。確かに中盤は厳しかった。アントニーニョらしいコンパクトで切り替えの早い守備に手こずった。磐田との勝ち点差を縮めるためには、欲しいのは2得点。 岡田監督は我慢した。5分間は。 立ち上がりの5分間で大きな変化がないと判断して、すぐに坂田を投入する。見切りの速さに、スタンドは声援を送るよりもどよめきが優先される。時間が進むにつれて、パスの展開が大きく、そして縦に速くなる。坂田と安が、再三再四、ラインの裏を狙う。デレオの反撃は散発。松田、中沢、中西が軽く遮る。3人も必要ないといわんばかりに、松田と中沢は交互に攻撃に参加する。 仕事帰りでハーフタイムに僕らのホームスタジアムに到着したサポーターは、負けている気がしなかっただろう。 なにしろ、完全にゲームの主導権はトリコロールにある。警告をもらっている中西を下げ、上野を投入。ディフェンダーは2人で十分だ。柳はトップへ。やや左サイドにポジションを取る。上野が両サイドに送って前線へ。中央が柳ではない。坂田で良いのだ。上背があるわけではない坂田だが、ジャンプしてハイボールを胸トラップ。ディフェンダーを背負ってキープして、安や奥に配球する。久保顔負けのポストプレーを、ほとんど失敗なしに、次から次へと決める。押せ押せだ。 だが、シュートがない。 というわけでもない数字結果は残っている。しかし、前半の拙攻が印象に強く残っているためか、シュートを要求する声が飛び交う。 「撃てよ!」 「シュート撃たなきゃ入らないだろ!!」 「相手を誰だと思ってんだ?西部だぞ!撃てば入るだろ!!」 試合開始直後に漏れていた声 「うちの生命線はドゥトラと西部だな。」は明らかなのに。 松田が上がり4トップになる。ゴールネットは揺れるはずだ。シュートの度に何度も飛び跳ねて、揺れないネットに頭を抱える。サイドから攻めて、クロスで勝負。必ず得点できることを誰も疑わない。前節に奪い取ったロスタイムの2得点は大きい。 僕らのホームスタジアムで、これほど大きな歓声で迎えられたユキヒコは初めてかもしれない。 登場のときの、あの大歓声は、まぎれもない、ビンディン戦でのアタック、読売戦での得点、そして、それまでのチャレンジが、スタンドの想いとシンクロして生み出したものだ。期待に応えて、緩急だけで相手を抜き去りクロスを入れるナイスプレー。そのときの歓声といったら、まさにフットボール。ユキヒコ最初のコーナーキックの時に溢れるように湧いた手拍子は、昨年の劇的な勝利を忘れていない誓いの合図のようだ。 左サイドのスペースにボールが流れる。デレオの選手は追えない。追うのはただ1人のトリコロール。 「あぁ、中沢だ!!」 距離を詰められる。この時点で多くは望んでいなかったはずだ。だが、そこに現れたのは、ドゥトラ張りの弾道でゴール前へ飛んでくる、中沢渾身の左脚のクロスだった。 私たちは、心地よい苦しみを味わっている。 生まれない得点。だが、必ず揺れるであろうネットに熱意を注ぐ。時間稼ぎにはブーイング。反則へのアピール。奥が前を向けば意味もなく期待に歓声。ディフェンダーがボールを持って行き詰まれば逆サイドへの要求。ゴールが見えれば「撃てぇ!!」の声が一斉に挙がる。もちろん、ゴール裏は歌っている。飛び跳ね続けている。その願いの舞と、若干の殺気を帯びたバックスタンド、メインスタンドの声が奏でるハーモニーが、真のフットボールスタジアム。そこにある共感が苦しみを別の快楽への伝道師のごとく導いているのだ。ただただ、目的の勝ち点3獲得の為に。 ボールは休まない。だから退場で1人減ったデレオの穴を見逃さない。 巧者は右サイドでボールを呼んだ。 「奥がフリーだ!」 シュートを撃てるコースだったがファーサイドへクロス。なだれ込むように坂田が飛び込み88分に、遂に待望の同点ゴールが決まった。坂田のジャンプと同時に飛び跳ねた私は、坂田よりも速く着地し、再び飛んだ。飛び降りた先は席ではなく通路。通路を隔てて反対側に座っていたはずの小学生と、そのお父さんと、3人でがっちりと抱擁し、言葉にならない声を張り上げた。 前節ロスタイムの2得点。城南の15得点。もう、何が起きても驚かないつもりだった。試合後に上映されるゲームのダイジェスト。ゆったりとしたボールが飛んでくる。ボールはクロスバーに跳ね返り、それをヘッドで決められるシーンが流れる。 「おい、なんだよこれ。」 普通は右手ですくい上げるように、指先を伸ばしてコーナーキックに逃げる。難しい軌跡でも速い急速でもない、ごくありふれたボールだ。判断が遅れて手が届かなかったのか、フィスティングしようとして目測を誤ったのか、理由はわからない。 どうしても、晴れないモヤモヤを解きたいが為に、私たちはトリコポイントへ向かう。 「ねぇ、磐田はどうなった?」 約10名で押し掛ける。昔からの顔なじみの仲間にチャンピオンズリーグの結果を聞く。 「知りたいのは得点じゃなくて怪我人だよ。」 もう、こうなったら、ちょっとやそっとの出場停止だけでなく、何が何でも有利な条件が出来ている、そんな収穫さえもほしかったのだ、この夜のうちに。試合終了の後の店内は混雑している。ただ結果を聞いて迷惑をかけて帰るわけにはいかないので、シャツを一着購入する。 階段を上がり 「先輩!つぎつぎ!!」 とauのコマーシャルの口調で駅に向かう。 監督が「常勝チームになる」と宣言し、1年を経て小さくとも長い階段をひとつずつ着実に登り続けていることを感じている以上、私たちも立ち止まることは出来ない。次はエコパだ。トリコポイントで購入したのは、エコパのための一着、「14 OKU」と刷られたTシャツだ。 今日のポイント ●失った勝ち点は惜しい、勝てなかった勝ち試合。 ●試合後に選手が挨拶しても立ち上がって拍手が出来ないほど疲労した人が続出の2階席。 ●余計な抗議もせず闘い続けたトリコロール。 ●終盤にまねの出来ない素晴らしいシュートを連発の安。怪我を感じさせなかった。 ●スタミナが切れて、最終ラインにとどまってしまったドゥトラ。ターンオーバー対象外。 ●強いスピリッツを感じさせる上野の存在感。 ●見せ場を作ったのは西部ではなく榎本だった。 今日のお値段
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