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J1リーグ 1st stage 第10節 磐田戦
忘れ物は何ですか?


エコパに行くと「やっちまった」という気分になる。横浜からの距離ではなく、山中ののどかな風景に、なにか、とても凄いところまで、また来てしまったのではないかという、自問自答にも似た思いを一瞬よぎらすときがあるからだ。遠くに見える山々は幾重にも重なり、まるでジャパニメーションのような深みを感じさせる。特に、今年は快晴。雲一つない青空は、後がない決戦前の不安を遠く忘れさせる。

エコパへ行く道は、主に掛川からと愛野からに分けられる。

掛川は新幹線停車駅。のどかな地方の小さな城下町だが、駅前の商店街はジュビロードの200倍くらいの賑わいがある。東海の名城を自認する掛川城は3層の天守閣を持つが、小規模な平山城。平成5年に本格木造建築で再建された天守閣と、二の丸に残る書院造りの御殿は一見の価値がある。観光客もまばらな午前中に足を踏み込むと、ボランティアのご老人達に声をかけられる。
「今日は、なにかあるの?」
「エコパでJリーグです。」
「どこがやるの?」
「ジュビロとマリノスです。」
「へぇ〜、横浜がやるの。そういえば、さっきから、同じ服着た人がたくさん来てるよ。」
「そうですか。きっと、後でスタジアムで会う人だと思います。」
御殿の入口で会話をし、中に入る。美しさに写真を撮っていると、後ろの方角、そう、先ほどの入口のところから、老人達のうちの一人、おばあちゃんの声が聞こえてくる。
「今日は14付けた人ばっか来おるねぇ。」

試合前の選手紹介で、もっとも大きな拍手を受けたのは山西だ。

昨年の恩を忘れるほどトリコロールのサポーターは無礼ではない。ジュビロ側はもちろんだが、トリコロール側ゴール裏の1階2階ともに、ほぼ全員の拍手喝采を受ける。名波、福西が出場停止で欠けるのは幸運だが、山西が不在というのは痛い。

試合が始まると、ダイレクトでパスが小気味よく繋がる。疲労しているはずの選手達も、好調に見える。クロスボールをボレーで放ち、足元にコントロールしたシュートで、まず始めに私たちの腰を浮かせたのは坂田。さらには、右サイドのニアで合わせた安もゴールに迫る。
「こりゃぁ、今のうちに点獲らないと。」
「チャンスだ。獲れるぞ。」
「ラインがバラバラだし、河村のポジションがめちゃくちゃだ。」
主力を欠く磐田には序盤でダメージを与える必要がある。なんとしても主導権を握らなければならない。

長い距離がある。まさか撃っては来ないだろう。

だが、奥は狙っていた。左上隅に吸い込まれていくのが見せる。ネットが揺れたことを確認しトリコロールのゴール裏が続いて揺れる。奥は指輪にキスし、天に向かって何ごとかをつぶやく。きっと「むかつく」という言葉を、何百人、いや何千人という磐田サポーターが漏らしただろう。このスタジアムへやってきた、背中に14を背負ったサポーター達は、今日のシャツの選択を自画自賛したい気持だ。
「これは止められないだろう。」
山本と違って佐藤は実力のあるゴールキーパーだ。だが、彼を責めることはできない。松田、柳、那須、上野、中澤、安といったヘッドの強い男達を前にして、あのコースを止めることは難しい。

まずは先制した。もう、試合はトリコロールのものだ。幸先良いというだけでなく展望も明るい。だが、もう一点が欲しい。ゴール前には決定的な不安があるからだ。積極的な攻めは続く。両サイドを大きく使いパスを展開する。ドゥトラは、中に外に展開し、遠藤も高い位置。西も藤田も、私たちの目には入らない。人の動きについていけない河村を核にした中盤の守備は崩壊している。右を攻めて圧力をかけ、安が大きく左に振れば、誰もいないスペースに走り込むドゥトラの独り舞台だ。ノーマークからはなったシュートはジャストミートせず、大きく右へ。
「まずいぞ。今のは決めないと。」
「こういうシュートミスで流れが変わるから締めないと。」
長年の拙攻を見続け、危ういムードを察知する。獲れるべく得点が獲れない後の気の緩みは、一瞬でゲームをひっくり返すのだ。
「ここはきちんと守らないと。」
「早めにシュートを、もう一本撃って、流れが変わるのを防ごう。」
スタンドが解っているのだから、百戦錬磨の選手達は百も承知だろう。だが、今期は油断ならない。

一瞬、何が起きたのか解らない。

油断していた。この危険を察知できなかったのだ。日本でも最も技術に優れ卓越した戦術眼を持つ男に対して、守備の要を押しのけて一対一を挑む男が、愛するクラブにいるとは知らなかった。追いつくはずの中澤が、なぜかコースを譲り、おやっと思う一瞬を経て、事の深刻さを知り、悲鳴を上げ罵声となる。
「馬鹿者が!」「何度やったら気が済むんだ。」という言葉はもちろん、「死んでくれ」という文句も自然に吐ける。アウエーでの重大なミスを試合を決めかねない。私たちは気落ちする。だが、試合は、まだ長い時間を残している。
「見ろ、選手達は、誰もなだめもせずに、さっさと試合を始めているぞ。」
「しょうがないんだよ。これは、最初っからあるって考えておかないと。」
何ごともなかったかのように選手達はキックオフし、振り出しに戻った試合を闘う。序盤のアドバンテージは使い果たした。ボールは持てるが、縦への鋭いスピーディーな攻撃は皆無。
「ボールは持てるけど、持たされてるぞ。」
「すっかり磐田のペースだ。」
松田、中澤、那須が、ほぼ完璧に押さえ、失点の危機は無いものの、得点の気配もなく前半を終える。

ハーフタイムにフィールドを一度立ち去る選手達に声援が飛ぶ。今日負けてはリーグは終わる。だが、かならずチャンスはある。
「いやぁ、さすがに俺は、もう怒る気がなくなった。呆れて何も言えなくなったよ。俺が呆れて何も言えなくなるって事は、榎本と俺との勝負は榎本の勝ちだ。俺は、もう何も言えない。」
「今日付けで解雇にしてほしい。」
「存在自体が鬱陶しい。」
あのシーン以外は、まったく危なげなかっただけに、恨み節を漏らしてしまう。だが選手達が再び姿を見せれば、もう、そのようなことは言っていられない。
「絶対に勝て!!」

後半が始まるが、大きく試合が動くことはない。ますます中盤は厳しく時間を与えない。時を刻み、同時に柳とドゥトラの動きにキレがなくなる。これは最近、いつものことだ。
「安は消えてるなぁ。」
前半のうちは「うまく消えている」という評価もあったが、後半にはいると坂田の孤立が顕著。安の運動量が少なくフォローがないために、コンビネーションで崩せない。
「嫌なヤツが入ったなぁ。」
「いや、今のうちは、誰が入ろうが一緒だよ。決定的な仕事をするヤツがいるんだから。」
嫌なヤツとは中山のことだが、松田、中澤、那須が崩れることはない。ジュビロらしい攻撃は見られない。特に、グラウは何もできない。前田、成岡は問題外だ。しかし、守備ではジュビロらしさを見せる。
「センスがあるなあ。」
とため息を洩らしてしまった菊池のタッチへの逃げ方。
「さすがジーコジャパンに選ばれていないだけのことはある。」
と、最大級の賛辞を贈った服部のショルダーの使い方。
ただ、名波と福西の不在のせいかいまひとつ覇気が見えない。だから、きっと、トリコロールのサポーターは、どこかで得点することができるという安心感を秘めて声援を続けることができる。それでも、監督は手を打つことが必要だろう。

「安は消えたままだなぁ。」
「ここは代えるしかないでしょう。」
「でも、いつ代えるかだよ。久保は膝が悪いんだし。」
「きっと20分くらいしか使えないだろ。」
「おっ、久保出てきましたよ。」
「かなり早い時間だな。ってことは、言われているよりも膝の負傷が悪くないのか、今の試合の状態がすっごくヤバイから出さなきゃしかたないと読んでいるかのどちらかだな。」
その結果は、後者と出た。久保に上がったハイボールの競り合い。その跳躍力が人間並みだったのだ。以後、ほとんどの競り合いに勝てないか、競ることすらできない久保。だが、人間並みの跳躍力でも久保は久保だ。河村は釣られる。

マークが混乱し、突き破った勝ち越し点。

待望の得点は、またもやセットプレーだ。大いに沸き立つトリコロールのサポーター。だが、まだ安心できない。絶対に勝ち点3が必要なのだ。
「守りにはいるな!攻めろ!」
「もう1点獲りに行け!!」
「この1点は榎本にくれてやると思って、もう1点獲れ!!」
「これで勝てると思うなよ!!!!」
停滞の時間は一転してハイテンションに。序盤の勢いを取り戻すならば今だ。

ここからジュビロは必死に反撃してくる。決定期は作らせなかった。だが、その守備が完璧だったかというと、そうではない。見る見るうちにファールが増え、カードをもらう。それでも、ペナルティエリア内では、体を張って必死に跳ね返す。その気迫はジュビロを大きく上回る。肝を冷やす瞬間はなかった。不安があったのは、バックパスやゴールキック自体が大ピンチへの地獄の入口という不安くらいか。しかし
「この1点は榎本にくれてやると思って、もう1点獲れ!!」
という野次が免疫になったのか、どんなキックミスがあろうとも、大きく落ち込むことも絶叫することもない。
「タッチに出るくらいなら、相手に渡さなかっただけ良かったと思わなくちゃ。」
さらに采配ミスかと思われた藤田の交代は、前半の怪我の大事をとっての交代。でてきたガビオンは、得意なプレーが何であるかを見せぬまま、Jリーグデビューを終える。
「強そうな名前だな。」
「グレミオ出身らしい。」
「今のグレミオは昔のグレミオとは違うからな。」
「なんか、ウルトラマンAに出てきそうな名前だな。」
「フォワードならともかく、中盤で先発に出てこないんだから、たかがしれているだろう。」
一試合を見た時点では、予想はまずまず当たっている。

第三者が見る試合としては、面白いものではなかっただろう。ジュビロに反撃の力はなかった。トリコロールも疲労は困憊し、突き放すまでの攻撃力は持ち得ていない。それでも、首位争いに競り勝ったことの価値は絶大だ。
「マリノスサポーターの皆様、お忘れ物をなさいませんよう、お気をつけてお帰りください。」
丁寧なアナウンスが流れる。
「勝ち点3は忘れずに持って帰るぜ!」
「忘れて帰りたいものもあるけどな!!」



今日のポイント
●常にやや後ろからの接触は厳しくファールに。ジャッジが一貫していた吉田さん。
●試合前の練習でも、ボールを獲れずにグラブを何度も付けなおしていた榎本。
●演出に抑揚がなく、手法も古くさかったため
 長時間の視聴は苦痛だったジュビロのイメージビデオと選手紹介。
 「羅針」「west」と出るたびに「終わってるぞ!」「どこ目指すんだ!」と野次。
●奥にキャプテンマーク、終盤にカレン・ロバートを投入、と、嫌がらせ対決の采配。
●疲れて精彩を欠いてもフル出場させたい柳想鐵。


今日のお値段 

石井和裕

寸評:白いユニフォームに「なんか違う色の人が混じっているなぁ」と思ってみていたら、赤い人は素人さんでした。プロのクラブなのですから、何回も素人を入れて興行を打つのは止めてください。入場料が、彼のところにも分配されるということを想像するだけでも寒気がします。勝利は文句の付けようがない素晴らしいものです。
評価額:¥7700

坂田のボレー
100
奥のスパーフリーキック
2000
気迫の2点目
600
吉田さんのジャッジ
200
グラウを完封したスリーバック
500
決戦に勝ち点3
4000
謎の外国人ガビオン
300
榎本のミスと、あつみ(創業明治45年)の鰻重の味
相殺


今野隆之

寸評:磐田の勝者のメンタリティの源は、実は不安定なGKだったのではないか。恐怖のGKを背負いながらいささかも動じない10人の戦士を見ていてそんなことを思った。いつも誰かがポカを帳消しにしてくれる、ジーコに匹敵する悪運の強さだけは大したもんだ。
評価額:¥5014

横浜の背番号14・我らが奥の完璧FK、しかも14分
1400
その喜びをたった2分で終わらせた男
-1
磐田の背番号14・我らが山西出場せず
-14
那須殊勲のヘッド
1000
消えていた安
100
いるだけで脅威だった久保
500
よく走った坂田
500
頭が下がるドゥトラとサンチョル
1000
ディフェンスラインの安定感
500
磐田の伝統「控えの外国人」ガヴィオン(グラウも控えだったよな)
29


なかむ〜

寸評:チーム全体が満身創痍の中、勝利だけが要求された試合でしっかり勝利。タフになったマリノスに感動。ただ、あの飛び出しが無ければ・・・。
評価額:¥5200

基本給
1000
絶対に必要だった勝ち点3 
2000
奥の「ここしかない」FK
1000
全員の気持ちが乗り移った那須のヘッド
1000
安定度が増している松田
500
試合の流れも印象も変えたエノタツの超絶ミス
-500
作ったときは今の状況を予想してなかったろう磐田のPV
100
カレンロバートと謎の外国人ガヴィオン
100