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J1リーグ 1st stage 第11節 名古屋戦 『汚名返上の狼煙をあげよ』 那須から送られたボールを見て、ディフェンダーを背負う姿勢でジャンプ一番。途中出場した久保が、初めて見せたプレー。それまでは眠っているに等しかった。しかも、あのハイボールを頭ではなく胸で奥に正確に戻し、左サイドへ、ウエーブの弧を描いて走り込む。その速度を計算して奥から浮き球が送られる。そうだ、昨年、仙台で見た動き。浮き球とグランダーの違いはあるが、久保と奥の関係は、あの美しいプレーにそっくりだ。だがボールは緩く山なり。いくら久保といえども、この距離から、ゆるいボールをヘッドで叩き込むことはできないはずだ。 しかし、私たちの目の前に現れたのは、背後から飛んでくるボールを遠い方の脚、左脚でジャンピングボレーする人間離れした久保。しかも、ボールは枠へ。すざましい弾丸ボレー。至近距離での強いボールを弾くのが楢崎も精一杯だった。いるはずのないユキヒコがゴール前に待ちかまえていて、ヘッドで押し込む。読売戦に続いて、またしてもユキヒコの逆転ゴールだ。ネットが揺れる。スタンドの誰もが驚いた。縦に跳ねて喜びを爆発させる。何度も何度も跳ねる。叫び手を叩き、拳を突き上げる。何度か跳ねたところで、一緒に跳ねて喜んでいる仲間達が左右に大きく揺れる。強い衝撃を受ける。仲間達が揺れたのではなかった。飛び跳ねた拍子に脚を滑らせ、フィールドとは平行に横になった状態で前列に突っ込んでいったのが私だった。前列にいた仲間に言わせれば「まさに降ってきた」のだという。何名かの背中に激突し、本来いるべき席の一つ前の列数席に脇腹を打ち付け、椅子の上に倒れたまま叫ぶ。 「やった!逆転した!逆転したんだ!!」 その時、NHK-BS1の生中継では野地アナウンサーが絶叫していた。 「入ったか!?入った!!入りましたー!!!」 NHKで「入った!」や「ゴール!」という言葉を使うのは異例だ。「誰が入れたのか」「時間は何分なのか」「追いついたのか、逆転したのか、突き放したのか」視聴者にゲームの状況が解るように伝えるのがNHKの実況だ。だが、野地アナウンサーは絶叫した。それほどまでに衝撃的なゴールだった。 前半は酷いゲームだった。 「ウエズレイとマルケスと海本以外はいない方が得点しやすいんじゃないか。」 そう思えるほどの名古屋の拙攻に対して、トリコロールは遅攻ではなく「稚拙」だった。ボールは前へ運べない。余計なパスで時間をかける。競り合いには粘りがなく、すぐにファールをもらおうとする。インドネシアでの激闘の直後とはいえ、連戦の疲れがあるとはいえ、リーグ終盤にさしかかる大切な一戦とは思えない重たい試合だ。さらには、近くの席で延々と続く、しつこく選手を小馬鹿に続ける、試合運びとは関係のない会話、笑えない悪趣味の冗談が、一層イライラを募らせる。 「なにだらけた試合をしてるんだ!こんなことじゃ、来年のアジアは闘えないぞ!!」 緩い空気のスタジアムを切り裂く声。バックスタンド前には「もう一度アジアの頂点を目指して闘おう」というウルトラが張った横断幕がフィールドにメッセージを伝えている。 私たちは一次リーグ敗退という汚名を返上するために闘いを再開しなければならない。だが、その闘いのリングに上がるためには資格がいる。今は、まだ汚名返上をする資格があるかどうかも解らない。なぜなら汚名返上の資格を得るためには、アジア・チャンピオンズリーグの出場権が必要だからだ。いち早く汚名返上の狼煙を挙げるには、最も早く出場権を得る方法は・・・Jリーグ完全制覇なのだ。今日は淡々と進めるような試合ではない。 後半が始まる。出だしにムードの変化はない。 自陣で松田とウエズレイが交錯する。倒される松田。ボールがこぼれる。足が止まる。 「鳴っていない!!」 反則の判定はない。プレーオンだ。空白の一瞬を経て大ピンチ。 「しっかりやれ!」 「セルフジャッジするな!!」 撲滅したかに思えていたトリコロールのセルフジャッジが復活。非常に難しい展開になる。このままでは終盤までゲームはもつれる。 これで、流れを引き寄せる。 その雰囲気を察知した松田は、トップスピードのオーバーラップをかける。まさに全力疾走だ。ボールは、その反対の安に渡り松田のところへは来ない。だがディフェンダーを引きつけたことにより、安はシュートにまで持ち込める。枠を捉えることはできなかったが、トリコロールに勢いがつくプレーだ。昔の松本育夫流で言えば 「松田君の、この気持を込めたオーバーラップが、他の選手達に勇気を与えましたね。」 といったところだろう。 ここから最大級の手拍子が止まなくなる。 ボールを奪い、松田が一直線に走り出す。今回も振り向くことなく全速力。ボールが送られ、ディフェンスラインの裏で受ける。左サイドで少しためを作り、次に猛スピードで走り込んでくる奥へパス。奥はボールを奪われるが、そこに坂田が激突。相手を吹っ飛ばしてボールを奪う。大歓声。 「入れろ!!」 という声が揃いクロス。だが、ボールは逆サイドへ流れる。名古屋ボールに。そこに走り込んできた中澤が猛然とスライディングタックル。キレイにボールを奪いさらに攻撃が続く。 前半とは違う試合のような積極的な猛攻に拍手。ゴール裏の歌声に大音響の手拍子が上積みされる。右に開いて、不調の安の運動量をカバーする遠藤。左右に展開しゲームを作る上野。手拍子は一層大きくなる。逆転優勝へ向けて、アジアでの逆襲へ向けて、スタンドから後押しする。 ところが穴は空いていた。 フリーキックのこぼれからボールを奪われ、たったの3本のワンタッチパスで崩され岡山にネットを揺らされる。ここで、先ほどからの最高潮の手拍子は止まる。岡田監督はすぐに久保を投入する。 「あぁ、今日も温存することができなかった。」 久保の登場は期待でもあり、落胆でもある。ケガの回復具合は解らない。 名古屋は先制して、それまでよりもラインが下がる。 中盤のスペースもでき厳しいチェックはない。柳がセントラルミッドフィールダーとしてドリブルしながら展開を作る。前半は何度もケガで倒れ心配だった柳が、この試合は中心だ。久保の走りは磐田戦よりも幾分良いようだが、それでも本来の動きと比べると小さい。あまり頼りにはなりそうにない。となれば、奥と柳と上野、そして坂田に頼ることになるだろう。失点のショックも和らいで勢いは出てきた。 初めてだった。ペナルティエリア内で勝負のドリブルをしたのは。 そこで古賀は倒した。ほぼ総立ちになるスタンド。主審の指先がペナルティキックを示していることを確認して歓声と、少し早い喜び。名古屋の選手は抗議している。すぐには蹴らせてもらえないようだ。なら、後押しするしかないだろう。 「『どこがPKなんだ!』って言え!!」 「『イホ・デ・プータ』って言え!!」 「もっと抗議しろ!!」 「口で言っても解らなかったら手を出せ!!」 ここで抗議によって退場になってくれれば、さらに勢いは加速する。逆転への道は近い。願いは叶わず退場者も警告も出ないままに奥が蹴る。 「よし!!」 歓声をあげ喜ぶが、まだ同点。勝ち点3が必要だ。 ウエズレイが松田と接触して倒れる。笛は鳴らない。むしろシミュレーションの香りもする。だが、プレーを止めない。序盤のセルフジャッジとは対照的なシーンだ。スタンドも絶叫している。 「行け!!」 「逆転しろ!!」 駆け上がる松田は右サイドでフリーになる。ボールは左サイドでもたつく。遂に右へ。松田が受ける。シュートの角度はなくクロス。跳ね返される。それでも、大きな拍手だ。積極的なプレーには全て拍手が起き手拍子は中断。拍手を終え、手拍子は再び始まる。 疲労の見える遠藤は下がりユキヒコを投入。柳は前へ。タッチに出してしまうようなボールに那須が追いつきロングボールを放り込む。ハイボールを頭ではなく胸で奥に正確に戻し、左サイドへ、ウエーブの弧を描いて走り込む。その速度を計算して奥から浮き球が送られる。 久保のゴールはスタンドに何名かの怪我人を出して、この試合の決着をつけた。 広島にいたままでは、久保は、ただの日本人離れをした体力を持つ選手に過ぎなかった。だが、このトリコロールで日本のエースの座にたどり着いた。そして、アジアの竜王を奪う可能性を持ち、世界への道も見える。久保が、心うち解ける選手仲間と見せたゴール後の笑顔。その笑顔を、再び逆転優勝を成し遂げるときには、スタンドに向けて見せてほしい。 それを願って、私たちは声援を送り続ける。 今日のポイント ●MVPは日韓友好デーだからお約束にも思えたが ビデオで見れば、今期一番の出来だった柳想鐵。 ●ビンディン戦でキッカケを掴んだのか、今日も縦への突破で湧かせたユキヒコ。 ●「南ショック」で慎重な両ゴールキーパー。 ●またしてもお約束抽選だった、安のサイン入りTシャツ当選に「36」 柳のサイン入りTシャツ当選に「8」の当選番号。 ●売店で販売していたヨン様グッズ。 ●日韓友好は嬉しいが、統一教会系との友好は不快。 ●めでたい副審、金田大吉さん。 今日のお値段
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