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J1リーグ 2st stage 第2節 大分トリニータ戦 『90分間の夏休み』 ハユマ、坂田、ジョンファン、大橋、ボールは渡りシュートの隙間をうかがう。が、右サイドへ地を這うような素早いパス。パスの行き先を確認できないままに、ボールは鋭角的にコースを変え、ゴールの左隅に飛び込んだ。ほんの一瞬の戸惑いの後、ボールがゴールの中で跳ねているのを確認すると、一斉にスタンドは波打つ。跳ねて絶叫し力を込めて腕を振る。視界に揺れるフィールドの中で、ゴールのすぐ裏まで全力疾走するマリノスケの姿が見えた。 17000人を収容しているとは思えない静けさ。 テンションの上がらないスタンド。ゴール裏はトリコロールのパラソルも増殖し雰囲気が良い。だが、なかなか、その雰囲気はバックスタンドに波及しない。セカンドシリーズ、二年連続の完全制覇、そのホーム初戦を静かに見守る。いや、誰も静かに見守るつもりで、このスタジアムに来たわけではない。だが、前半の度重なる拙攻と、気の抜けたようなゴール、そして油断の失点が、後半に何とも言い難い静けさを作り出す。時折、その静寂は打ち破られる。たとえば、三上に三人がドリブルでブッチぎられたときなどに。 納得の先発に湧く。 なにしろ、アルゼンチン戦を終え、すぐに代表戦がないとなると、いきなり久保を先発で使う。前節の慎重なベンチスタートとは違う。ジョンファンと久保のツートップに期待が集まる。だが、その二人の前に大きく立ちはだかったのは、いや、立ちはだかったのではない。大きく口を開けたゴールマウス。だが、ボールは、なかなかゴールラインを割らないのだ。 「お前、見えないよ!!」 二階席から見ると、ゴール前は芝が張り替えられていて、ひときわ緑が鮮やかだ。ぽっかりと空いたゴールマウスの前に、新緑の芝が広がる。そこに突然、何かが見える。 「保護色か!!」 そうだ、岡中だ。蛍光緑のユニフォームが、すっかりフィールドに同化してしまっている。地上からであれば、これほど見にくくはないのだろうが、二階席からだと見えにくい。岡中と一対一のチャンスにボールは正面へ。 「あぁ、見えなかったのか。」 「無人のゴールにボールを流し込むだけだと思ったのに。」 そういえば、大分との対戦はいつも苦戦だ。 ガッチリと守りを固める大分には苦戦している。今回も、ある程度までは覚悟があった。だが、あまりにチャンスが少ない後半。それでも目指す遅攻は出来始めている。ファーストステージと比べれば、サイドでのパスの連携で、追い抜かした選手が裏に抜ける動きなど、目を見張る成長も多い。その時スタンドは湧き、賞賛のかけ声と拍手が起きる。だが、それが続かないのだ。 坂田の投入、ユキヒコの投入。岡田監督は、終盤の大分に運動量で勝負をかける。右サイドはユキヒコとハユマの併用。だが、不満の声が挙がる。 「ユキヒコのポジションを何とかしないと、何にもならないぞ!」 ハユマはガンガン上がってくる。ジョンファンもサイドへ開く。ユキヒコの居場所がないのだ。特にハユマは自信満々に、試合開始直後から仕掛けている。意気込みは素晴らしく、自陣奥深くでもフェイントの切り返しで相手を何度もかわそうとしたほどだ。ただ、このリスキーなプレーにはブーイングと野次が飛び交った。 「松田!!教えてやってくれ!!」 おそらく松田は怒っていた。 前半から、ボールの読みもショルダーチャージも群を抜けて別格。前節、解説の金田さんが「松田は気が利いている。」とコメントするまでの、見事なポジショニングと繋ぎは、王者の中の将軍の風格だ。だが、後半に入り得点が動かず、さらにはスタンドが静まり返ると、松田の動きは激しくなる。この、どうしようもないホーム開幕戦の状況を何とか打破しようとしている。その気持ちがオーラとなって発射されているかのようだ。 最終盤の時間帯に、ゴールへの執念が、やっとカタチになり始める。だが、可能性は大きなため息に替わり、勝ち点3を信じて止まない声援を呼ぶ。いや、信じて止まないというか、やっと、その感情をスタンドで思う存分に全開させても良い雰囲気が出来てきたのだ、最終盤に。屋根に響くことのなかった手拍子は、揃い、音は反響し始める。 前線でボールを奪った坂田のマイナスボールをユキヒコがシュートするが跳ね返される。ジョンファンのポストを撃った坂田は宇宙開発。いずれもため息が漏れるが、すぐに手拍子は響きはじめ、声援が飛ぶ。プレーもスタンドも、後回しにしていた夏休みの絵日記を、最後の3日間でまとめ描きするかのような高密度の時間帯だ。 ロスタイムは3分。紙一重だ。もしロスタイムが1分であったならば、これほどまでにつまらない悔やまれる引き分けはなかった。だが、最後の最後の松田の低く押さえたシュートがゴールネットを揺らすことで、忘れられない試合となった。 「松田ぁ〜良くやったぞ!!」 「大橋も、よく頑張った!」 「完全優勝するぞ!!」 だが、スタンドを出て橋を渡るときに、一人がふとつぶやいた。 「なんかロスタイムで、全部を誤魔化されているような気がするんだよなぁ。」 今日のポイント ●登場時はミスを連発したが、最後は見事だった大橋。 ●動きは重くキックもミスが目立った、疲労困憊の中澤。 ●引いた相手の指令塔役だった上野。 ●数々のとラップは見事なジョンファン。 ●マイペースで応援を続けた大分サポーター。 今日のお値段
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