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J1リーグ 2st stage 第4節 ジュビロ磐田戦 『落日の闘い』 試合終了のホイッスルが鳴る。ロスタイムは長すぎた。もはや、ロスタイムに起きる出来事は、誰かが怪我をするか、さらに徹底的に磐田を叩き崩すだめ押し点が入るかだけだ。もはや勝負は付いていた。 「最後に久保がゴールすると締まるんだけどなぁ。」 「安永がゴールするとオチになっちゃうよ。」 かなり途中出場の安永には失礼な会話だが、それほどまでにロスタイムは不要で、90分までで十分。早く選手の喜びの表情が見たいと思わせる内容だった。 試合は終わり、万雷の拍手が選手を迎える。 残念なのは、この試合がホーム、僕らのホームスタジアムではなく国立競技場で行われたということだ。そのせいか、松田を先頭にした選手達はバックスタンドに向かって整列することを忘れ、ゴール裏へと先を急いで歩み出した。 「なーおーきー!」 という女性サポーターの声に、ハッと気が付いた松田は、声の主のいるバックスタンドへ向かって選手の進行方向を変えさせた。試合終了まで手拍子で選手達を後押ししたバックスタンドからはひときわ大きな拍手が湧き起こり、ゴール裏は歌で選手達を迎え入れる準備をする。連敗の後の完勝。この至福の90分とロスタイムは、再び、完全優勝への自信と目標を、私たちの前に示した。 「強い。」 「強すぎる。」 「こってんぱだったな。」 「勝ち負けを超えた、来て良かったって心の底から思える試合だったな。」 満足のコメントを口々にスタジアムを立ち去ろうとする私たちであったが、指揮官・岡田武史は 「攻撃は、3点は取れたもののビルドアップでミスが多い。」 と不満も示していた。 開始早々のビッグチャンスを坂田が外す。左脚のインに引っかけて、狭いサイドの外側からゴールキーパーの足元を巻き込むように狙ったシュートだ。歓声と落胆が半々。果たして、腐っても磐田を、このシュートミスが生き返らせることにはならないか、そんな不安も少しある。 だが、完全に崩した。ズタズタに切り裂いたのだ。 右のハユマが持ち込み、放り込まずに坂田へ。倒れかけた体制を立て直す。的確に後に下げたボールは奥にピッタリとはまる。狙ったシュートはネットを揺らす。 「やった!」 「見事!!!」 ビューティフルなゴール。これほどまでに、サイドから見事に崩したスキルフルなゴールは滅多にない。ただのゴールではない喜びが身体を弾けさせる。右にいた仲間は左に。席順は大混乱となり、崩れた体制で、初めて近くの席になった仲間の手のひらと宙で合わせる。流れるアナウンスは、奥のゴールであることを告げる。 「また奥か!!!」 「ざまぁ見ろ!!」 立ち上がって歌う。古巣相手に活躍を約束する司令塔を賞賛する声は、早くも遠く磐田から駆けつけたサックスブルーのサポーター達に秋の涼風を感じさせる。ホーム側は日差しを浴びて、まだまだ熱い。 ドゥトラ次第といわれても構わない。 甘んじて、その評価を受けようではないか。左の攻撃はトリコロールの生命線だ。そして、そのためには、上野、遠藤、那須といった状況判断能力の卓越した選手達のフォローがある。縦横無尽に、力不足のカレンロバートのポジションを荒らしている間に、他の選手達はゴール前へ殺到する。特に坂田がコースを創り出す動き、そして、ドリブルが詰まったドゥトラの前のスペースへ飛び出す動きで個人頼みの印象を与えない突破の美を創造する。 前後半を通して前田には決定的な場面を二つ作られている。 だが、途中からはポストプレーに徹して怖さが消える。 「危ない!!!!」 思わず叫ぶ。前線の好ポジションでゴールに背を受けてボールを受ける前田。だれも、その背後にはいなかった。振り向けばゴールまでは一直線だ。だが、前田は振り向かず、ボールを二列目の選手に戻す。五輪予選で監督からの指示で「守備にも積極的に戻る」ように言われた結果、自らは指示を守って守備に奮闘。ボランチを(不完全に)勤め上げてしまった逸話があるように、能力をもてあます状況判断の欠如が、ますますトリコロールの守備に余裕を生み出す。 「振り向く気がないフォワードなんて怖くないよなぁ。」 かつて神野には「目をつぶってダァーっと走れ!」という野次が飛んだ。 考えるのだったら快足を活かして、前へ行け、という意味だ。坂田は同じく快足タイプだが、スタイルは大きく異なる。特に、今期は状況判断に飛躍的な進歩を遂げ、特に、浦和戦と同様に、この試合でもファーストタッチから次のアクションへの意図を感じさせるクレバーなプレーが身に付いてきた。ポストも出来る。魅力は広がり続けている。そして、前田とは対照的なシーンが2点目を生む。 「速い!!!!」 ジョンファンの脚のおくりには驚かされる。反転能力はアジア離れしている。ワンタッチで狙い通りに、まさにボールを「置き」、振り向いた次のステップでは、ボールは坂田とゴールキーパーの前に流し込まれている。今度は坂田がきっちり決めて追加点。見事な『レッツゴー・ゴール』だ。 奥からパスが出る、ジョンファンが受ける、振り向いてパスを出すまでワンモーション、一対一になる、座っていたバックスタンドも立つ、シュートを撃つ、中腰に立ったポジションから跳ねる、ネットが揺れる。極めて短時間に小気味よくフィールドもスタンドもハイテンポで一連の動作を完了する。いや、完了はしていない。そこからは狂乱のモッシュタイムだ。 さらにはジョンファンが抜け出してゴールにあと一歩。脚がかかっていたが、一点目の坂田同様に我慢してドリブル。シュートが外れた時点でアドバンテージを取り消してPKを宣告しても良い場面だったが、判定はゴールキック。惜しくも追加点を逃す。 後半が始まる。坂田もジョンファンも止めることが出来なかった、ジーコジャパンの田中誠の姿はなく、中山が投入される。磐田は代表選手が多く万全ではない。だが、トリコロールも同様だ。浦和戦と比較すれば、ベストメンバーに近いが、万全とは言い難い。 榎本、中西、松田、那須。那須には疲れが見え、松田はインド帰り。中西も前半で大ポカを一つやっている。ハユマ、奥、ドゥトラ、上野、遠藤。中盤の3人は怪我上がりで奥は不調だ。坂田、ジョンファン、それに右サイドに山西を張らせたトップは全員が機能しているが、最後までかき回し続けることが出来る保証はない。腐っても磐田。45分が前半以上の展開になるとは誰も思わなかった。 前半のハユマは一点目を演出。これまでにはない積極性を見せていた。大声援を浴びたが、その中には、写真週刊誌に掲載された離婚記事を揶揄するモノもあった。「頑張れ」と。だが、後半の開始早々のビッグプレーは、「頑張れ」の意味を「このプレーをこれからもずっと見せ続けてくれ」という声援に統一させた。遠慮がちで思い切りの欠けた、自信なさげなハユマの姿はない。中へ切れ込んでディフェンダーを何人もかわし、倒れかけて立ち上がり、難しいコースへシュートして見せた。 「凄い!!!」 「良いぞ!!!!」 「見事だ!」 このプレーを皮切りに、後半はドゥトラに代わり、ハユマが突破の主役になる。この日、バックスタンドで観戦したファンは幸せだ。前後半共にファンタスティックな突破を何度も見れたからだ。試合終了まで運動量は落ちず、中へ切れ込んで良し、外からクロスも精度が高い。 「ハユマがこれだけ凄いとユキヒコは試合出れないぞ。」 絶賛につぐ絶賛だ。 守備を立て直すことなく磐田ディフェンスは混乱したまま。 中央の深い位置から左脚のアウトサイドで芸術的に流し込まれたグランダーのスルーパースがディフェンスラインの裏に抜け、この日の当然のように坂田がそこに走り込む。今日、3度目の一対一。惜しくもワンタッチ目が大きく阻まれてしまう。右のハユマが軸になれば、左のドゥトラは絞って中央にも顔を出す。見ている方も混乱する。磐田はもっと混乱している。 磐田がポゼッションサッカーを極めようとしていたのは数年前のことだ。 だが、遂に、磐田がポゼッションで苦渋を舐めるときが来た。しかも、ただ、ボールを保持しているだけではない、芸術性に優れ、素早く、クリエイティビティを感じさせるボールの動き。細かくダイレクトで人から人へと繋ぎ、磐田の選手達が集まれば、あざ笑うかのような大きなサイドチェンジ。そこにはハユマが待っていて、シフト・ザ・ギアでトップスピードへ。突破し、クロスを入れ跳ね返されても、そこには奥が、上野が、遠藤が待っている。再び繋ぐが、バックラインにボールは停滞せず、常に急所を狙う。ただ当たり前のコースではなく、一つ一つに驚きがある。 「そっちか!!」 「なにっ!!」 この数分間のポゼッションは、「ボールの保持」ではなく「攻撃の継続」だった。歓声はボールが動き続く限り鳴りやまない。実は、ゴールしたわけでもなく単にボールが動いている、この時間に、涙が浮かんできた。 「攻撃の継続」が途絶えたのはコーナーキック。 「これが決まると最高なんだけどなぁ。」 そんな声が漏れ、後押しのかけ声。一度は跳ね返されたものの、奥からドゥトラへ、ドゥトラから奥へ。またしても完全に崩し、松田のいるゴール前へクロス。 「やった!!!」 「よしっ!!」 素早いボールを松田を超え、反対側に待っていたのはフリーのジョンファンだった。 「最高だよ!!!」 「やった!やった!やった!やった!!」 これから何年も先まで語り継がれる時間帯だ。美しさと力強さを兼ね備え、決めるべき選手が決める。インド戦帰りの田中誠はフィールドを去ったが、ベトナム戦帰りのジョンファンは磐田追撃の意欲を消し去った。 「ごめん、俺、もう、この後の時間はいいや。もうお腹いっぱいだ。」 大量3点のリードで奥が、ジョンファンが交代する。賞賛の拍手がスタジアムを包む。座っていられなくなり、立って交代選手を見送る人たちもいる。もちろんゴール裏はコールで歌で熱気を止めない。 その後もハユマは止まらない。ゴール前に突然現れたドゥトラ。決まれば驚きのゴールだったがシュートは右足だった。山西はハイボールの処理を他人に無責任に任せ、名波は不調のまま。ただ1人藤田だけでは試合にはならない。磐田の時代は終焉した。 アッという間の3得点。暗くなった国立競技場に笑顔の会話が弾む。 「なんか今日の試合はインド戦より、ずっと短く感じたなぁ。」 今日のポイント ●ハユマの突破の後は松田の突進。「自由なサッカー」が何なのか感じさせられる。 ●大きかった福西の停止。肘打ちはそこそこに。 ●全体には素晴らしい守備を見せ続けた中西。だが大ポカも前半に一つ。 問題は、ミスの後にしばし立ちつくすこと。すぐに次の対応をすべき。 ●パスセンスも発揮して戦術にフィットしているジョンファン。 今日のお値段
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