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J1リーグ 2st stage 第9節 浦和レッズ戦 『真昼の丈二が気になるか』 この試合は勝たなければならない試合だった。勝つことだけを望んで、遠く浦和美園に足を運び、声援に喉を酷使するトリコロールのサポーターの誰もが思ったあっという間の90分は、息を付かす間も、途中で時計を気にする余裕も与えてくれない好ゲームが、時間を早送りしてしまった結果だ。 サッカーには、得点できる『自分たちの時間』というものがある。 負けた試合後には「あの時間に得点さえしていれば勝てたのに」と悔やみ、勝った試合では「あの時間に得点を早く獲っておけば、もっと楽な試合だったのに」と嘆く。完全に自分のペースを作り出す時間というのが、試合中に必ず存在する。その時間に得点できるチームこそが、試合巧者と呼ばれるにふさわしい。 浦和のホームゲームでは、試合前のウオーミングアップの時に、選手達の試合に臨む決意のコメントを女性スタジアムナビゲータが紹介する。 山岸の「自分たちの浦和のサッカーをする」とコメントを紹介された。 「ありがとう!」 勢い良く声が飛ぶ。 試合が始まると、予想通り中盤の厳しい攻守が小刻みに入れ替わるサッカーとなる。三菱グループは、いまだに公式には認めていないが、これはエンゲルスの得意とするサッカースタイルだ。試合前の選手紹介の最後に「監督、ギド・ブッフバルト!」と紹介されたとき 「嘘つき!」 「三菱グループは嘘をやめなさい!」 の声が飛んだ。 ただ、 いつもならば、序盤に一気呵成に攻め込み、シュートがクロスバーを強襲し肝を冷やすはずなのだが、浦和の猛攻はなかった。ここ最近の対戦では見られなかった立ち上がりだ。 ハーフタイムの会話は弾む。 「イイ感じだねぇ。」 「イイ感じだよぉ。」 「センターバックの外国人が両方カードもらってるから、坂田は、どんどん仕掛けていってほしいね。」 「坂田がネネとアルパイの間に割って入って、両方が退場を躊躇して脚を出せなかったところをぶち抜いてゴールするのが良いかな。」 「いやぁ、そこに闘莉王が慌てて飛び出してきて一発退場でPKになってゴールがベストでしょ。」 希望の試合展開を語り合う。 フリーなのに気が抜けたクリアで後半は始まる。 前半とは、全く違う浦和の姿勢。警告に恐れを成したか厳しさがない。エメルソンと田中は孤立したまま。永井は印象にない。山瀬の代わりを山田は務まらず、有機的な連携がない。たまにスルーパースが出るだけだ。そして、中盤の激しさがなく安全策を選び始める。 「キタ!キタ!キタ!キタ!!!」 私たちは、ナビスコで対戦した時のサッカーに驚いた。今までの浦和戦で、ここまでの脅威を感じたことはなかった。だが「浦和のサッカー」とは認めていない。来期の運営予算は減額だろうから選手は替わる。実質的に、今のコンパクトな中盤を作ってきたエンゲルスは来期もいる保証がないことを臭わせる発言を、すでに上層部はしている。だから、ナビスコカップでは素晴らしいサッカーだとは思ったが、きっと今年限りのサッカーだ。 後半開始。いよいよ、私たちのよく知っている浦和のサッカーがやってきたのだ。 「自分たちの浦和のサッカーが、やっと来たぞ!!」 約15分間、圧倒的に攻め込む。 戻したボールを奥が撃つ。ゴールの上隅を狙うがボールが浮く。ディフェンダーのスライディングが迫っているのでミスとはいえないが、ため息のシーン。ジョンファンのフリーで放ったヘッドは狙いすぎ。さらに、決定的な場面で空振り。 「ばかやろう!!」 「でも、難しいボールだったじゃないか。」 「普通の選手ならそうだろうけど、並の選手じゃないんだ。アン・ジョンファンなんだぞ。空振りなんか許せない!」 エースが決定機を連続で逃し、さらに猛攻。河合のヘッドが、またしても当たらず、逆サイドにいるジョンファンの前へ流れる。目にも留まらぬ脚の不利で放ったシュートは、レーザービームの銃のように軌跡を残して一呼吸もないタイミングでポストに弾かれる。 「あぁ」 信じられない光景に、出た反応は小さい。まだ攻めなければならないのだ。ゲームが止まって、初めて確認する。 「ポストだったのか?」 この約15分間は、得点しなければならない時間だった。 しかし、坂田とジョンファンには酷なゲームだ。 ネネ、アルパイ、闘莉王のスリーバックは、J屈指の布陣。そして、坂田とジョンファンは、この試合では守備でも奮闘をしなければならない。善戦からのプレッシングと、中西の素早いケアが、エメルソンと田中の孤立を生む。榎本の小学生並のミスの後にコーナーキックを直接ゴールへ狙ってくるエメルソンの抜け目なさには感心するが、肝心の流れの中では60%の実力発揮といったところだ。坂田とジョンファンは、守備に動いてポジションを下げ、攻めに転じて前線に走らなければならない。タフな試合だ。そして、上野と松田の不在が、さらに負担を重くする。両サイドにロングボールでボールを預けるシーンが少ないのだ。思えば、昨年はシーズン全般を通して、ほとんどの試合で同様に松田と上野が不在。だから、サイドに大きく展開することが出来ず中央の久保に単純に預けた。逆説的に去年に納得だ。今日は苦しい。 後半の声援は途切れる気配がない。最上段まで総立ちになることはしばしば。特に、右サイドの攻めには、一段と声が大きくなる。 「行けハユマ!」 「勝負だ!」 「相手通訳だぞ!勝負!!」 「やれ!通訳だ!!」 「勝負だ!通訳なんかブッチ切れ!!」 何度も仕掛け、ネネ、アルパイ、闘莉王にクロスは何度も跳ね返される。 オマーンのマチャラ監督は試合後に言った。 「もっと、背の低い宮本を狙えばよかった。」 だが、それは無理な話だ。いくら宮本の上空を狙っても、宮本は、ほとんど全てを中澤に任せるだろう。逆に、トリコロールにおける中澤は、ジーコジャパンと比べれば、負担の少ない仕事だ。前線からのプレッシャーの支援を受け、中西が追い、最終ラインの3人で守る。河合の魔法の間合いは中央突破を許さない。栗原には「偉い!!」という声援が飛ぶ。エメルソンが後半に放った、たった1本シュートは、完全にコースを消し去っているので、榎本には容易いボールだった。 残り時間が少なくなるが、得点の可能性は高い。 「行け!」 「撃て!」 「そこだ!」 「よし!」 コールもボリュームを増し、プレーへの反応も力が入る。あと少し、もう少しなのだ。得点が入るとすればトリコロール以外には考えられない。だが、得点はなく試合を終える。 主審の柏原丈二さんは、慎重なレフリングをした。大一番に試合が荒れないように、アンフェアなファールには躊躇せずにイエローカードを出した。同じようなファールを3回繰り返したジョンファンには、「繰り返し」を大きくジェスチャーで説明した上でイエローカードを提示した。その反面、判定に選手達が、過剰にナーバスにならないために、リスタートの位置については、「いいのかよっ」と突っ込みたくなるくらいにルーズで寛容な姿勢を見せて前半を過ごした。 長谷部への警告は、やや厳しくも感じたが、アルパイ、ネネの、それぞれ2枚目退場に相当してもおかしくない後ろからのタックルを後半は警告とせず、バランスを保った。判定は全てが正しい必要はなく、バランスを保ってコントロールできればよいのだ。アドバンテージを認められずにプレーを止められたシーンは一度あったが、あの後、プレーを続けていたからといって浦和が得点できるほど、トリコロールは柔ではない。それに、そのような些細なミスは、毎試合のように当たり前のこととして起こる程度のことだ。しかし、試合後の記者会見でブッフバルトは「このように首位同士の戦い、お互いのチームがフェアなプレーをしていたのにイエローカードが7枚というのは本当に希な試合だと思う。」とクレームを付けた。 ここで重要なのは、判定の質の問題ではない。 ブッフバルトが決戦の後にクレームを付けたという事実だ。これから優勝を狙い、かつ、王者から勝ち点1を奪い取った挑戦者であるはずの浦和の精神的指揮官は、カードが多数出た判定に不満を述べている。次節はネネが出場停止。アルパイもリーチに手をかけたからだろう。かつてブッフバルトは現役時代、類い希なるキャプテンシーを持ち闘志あふれるプレーを持ち味としながら、一方でイエローカードをもらわないフェアーなプレーでも世界中に知られていた。そのブッフバルトが、フィールドの外から、カードに相当するプレーの見極めが付かないわけがない。だが、彼は、冷静に試合を見つめることが出来なかったのだ。ブッフバルトをはじめとし、浦和は首位でいることを恐れているのだ。今、彼らは、警告が素で首位から引きづり落とされることに怯えているに違いない。 負けに等しい引き分けゲームの中ではあったが、重要な、この事を知った。浦和は恐れている、怯えている。トリコロールには、完全制覇への光が、まだ見えている。 帰りの駅に向かう道で、トリコロールのサポーターは、うつむき加減で歩いてる。だが、そんな中で、ショックを振り払うように明るい言葉が飛び出してきた。 「今日の試合は、不味いどら焼きみたいだったな。」 「なんで?」 「アンがマズかった。」 「栗は良かったけどな。」 今日のポイント ●攻守に活躍。シュートも絶妙。見事だった中西。 ●万全ではないため、守備には全速力では戻らなかったドゥトラ。 ●結局、いればなんとかなるドゥトラ。 ●運動量が戻ってきた奥。 ●スローインかFKを促す笛を吹きながら片手を上げている時、 指先が直射日光に反射してカードに見えた柏原丈二さん。 ●浦和戦後は定例ともいえる河合への賞賛。 今日のお値段
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