maliciaのプロフィールはこちらへ
J1リーグ 2st stage 第10節 FC東京戦 『虎の穴』 「虎の穴」とは、漫画タイガーマスクに登場する地下プロレス組織のこと。悪役プロレスラーを育成するために、死を伴う非情な修業を行う。虎の穴出身者には裏切りは許されない。 因縁浅からぬガス戦がやって来た。ガスサポーターは渋谷に集合し、恒例の東横線ジャックで新横浜へ乗り込んでくる。トリコロールはいつも通り。得点できなかったとはいえ、浦和戦は内容も悪くなく、松田、那須、ドゥトラが揃う今節は期待が持てる。 守備が堅い両クラブだが、いつもは無い試合前にゴールマウスを被う幕には「ANA」と書いてあった。榎本が登場し、ゴール前でウオーミングアップを始めると、その「ANA」と書かれた幕は、慌てて外される。土肥のために割り当てられた場所には、しばらく「ANA」と書かれた幕が張られている。 この日は「ANAデー」。ぴかちゅうが現れ、Tシャツがプレゼントされる。ビニーズベイビー(ぬいぐるみ)ももらえる。ビニーズベイビーがもらえる日は負けていない。今日も期待が持てる。ただ、羽根を持った白く輝く馬は、憎き城南一和天馬のキャラクターでもある。 奥のシュートを土肥が辛うじて弾く。 突然の蹴撃だ。 「よし!いいぞ!!」 「今日は撃っていけよ!」 ミドルレンジから放つ序盤の一発に、今日はシュートを何本も撃つという意気込みを感じる。 「土肥なんだから、ビシビシ行け!!」 「あいつ、絶対にミスするぞ!!」 「土肥、アン・ジョンファンのことをよく見ておけよ!!」 ゴール前での厳しさが要求される。 「やっちまえ!どんどん縦に行け!」 ガス戦となれば、カギを握るのはサイドの攻防。古くは藤山にやられ、ユキヒコの退場も記憶に残る。だが、この日の主役はハユマだ。何度もスタンドを湧かせるドリブル。諦めずボールを追い奪い取る。右サイドは完全に制圧だ。金沢は守備に奔走し、才能溢れるプレーで魅了するはずだった馬場は警告。あまりの混乱ぶりに、原監督は馬場を諦める。 「あぁ、気づかれちまった。」 ロングスローを投げ込もうという瞬間の笛での交代で、一気にガスサポのコールが嘆きの声に。これは審判のナイスアシストだ。 馬場不在となっても、前半は右サイドを押し込み、ケガ上がりの左、ドゥトラの負担を軽くする。攻撃は、まず右からだ。 サイドの攻防といえば、石川を巡る闘いは注目だ。なかなかボールタッチができなかった石川が、やや中の位置で初めてドリブルを仕掛ける。そこにトルコロールが3人も飛び込み、正面から激突してボールを奪い取ってしまう。こいつにだけはやらせない、という意気込みを感じるプレー。石川は得意の左脚シュートも爆発せず、何本かのクロスを見せるだけで終わる。そして、最高の舞台は、はやりタッチライン際でドゥトラと共に演出だ。 スローインの時、倒れていた石川をドゥトラが手をさしのべて起こそうとする。その手を握り立ち上がろうとする石川。半分くらい立ち上がったところで、石川は気を緩めたドゥトラの裏をとろうとダッシュを試みる。 「恩知らず!!」 「裏切り者!!」 石川のために皆が暖めていた言葉を、一気に吐かせる場面を自ら創り出すとは、石川も大した男だ。 ジョンファンのループシュートは勢いが足りず、土肥が難なくキャッチする。ため息に包まれるスタジアムにロングボールが土肥から山なりに飛ぶ。なんて言うことのないボールを目で追いながら、次の展開を予想して前線に目を移すと、なんと自陣のゴール前では飛び出した榎本が抜かれてボールを追いかけているではないか。 「何やってんだバカ!!」 「毎試合、毎試合、何考えてるんだ!!」 「いい加減にしろ!」 という罵声の中には 「いや、こんなのじゃ俺は動じないぞ。大丈夫だ。」 「俺は、すでに、お前には負けを認めているんだ。だから、こんなことでは驚かない。」 という声もある。ここでループシュートを決められていたら、珍プレーの笑いモノになるところだった。 余裕から不安へ。後半に向けて雲行きが変わる。 先制は見事なゴール。サンチョルから折り返したボールをフリーの奥がシュート。ボールの行き着く先に遮る障害はなく、ゴールを確信して飛び跳ね、ネットが揺れることを確認して、さらに高く飛ぶ。 「やったぁ〜!!」 「よし、見たか石川。」 久々のファインゴールに沸き立つスタンド。共と叩く手のひらが熱い。 ところが、ドゥトラが自ら交代を申し出る。 「あ〜終わった。」 「不味いぞ。」 「前半もたなかったか。」 残り時間僅かでの交代だ。ここは、しっかり守らなければならない。まずは守備陣形の確認が必要だ。ガスは一気に仕掛けてくるに違いない。ゆっくりと入り、ゆっくりと運び出していく担架。 「よし、いいぞ、ゆっくり。」 「もう一回、戻ってきても良いぞ。」 すぐにユキヒコが入る。準備はできていたようだ。 「ユキヒコ頼むぞ!」 「思いっきりやれよ!!」 ユキヒコは諸刃の剣だ。古巣相手に持ち前の負けん気で、好プレーを乱発するか、入れ込みすぎて自滅するか、始まってみなければ判らない。 リードは前半だけ。苦しい後半の立ち上がり。 後半が始まると、掲示板が1-1になっていることに気が付く。 「おいおい、後半、もうガスに点が入っていることになってるぜ。」 「1-1のつもりで気を引き締めていけってことだろ。」 と言った直後にやられて、皆、沈黙。 「こりゃぁ3点くらい取らないとダメな試合だ。」 というハーフタイムの会話が嘘のように、あっさりと同点に。 「セットプレーだけは気をつけないとダメだよ!」 前半は、わずかシュートは1本に押さえたのだが、もっとも警戒すべきジャーンにやれた。 いつもはジャーンに守備で苦汁を飲まされる。入れても入れても跳ね返される高い壁。今回は、むやみに放り込むことはない。だが、ジャーンは一人で守りきる。ボールのないところで守備のフェイント。その動きで一方のフォワードの動きを止めておいて、逆のフォワードのチェックに行ってボールを奪う。 「いやぁ、巧すぎる。」 一人で二人を相手にしている。単純に中央突破を狙っても無理だ。 後半のサイドの攻防は地位逆転。 その瞬間はユキヒコのファールからだった。ペナルティエリアの直前で、後ろから鈴木規郎を倒してしまう。 「あ〜やっちまった。」 「こりゃぁ退場だ。」 抜ければ榎本と一対一。完全な決定機会阻止だ。 「えっ。」 「ラッキー!」 出されたカードは黄色だった。まだ、運がある。前半の中澤のスライディングも、シュートを完全に手で抱え込むようにして止めていて、PK一発退場でもおかしくないようにバックスタンド側からはバッチリ見えたが、審判の位置からは見えなかったようだ(テレビにも映っていない)。今日の試合に運はある。 ホッとしたのか、トリコロールのスタンドは静かだ。ほとんどの人は鈴木規郎が誰であるかを知らない。 「榎本、もっと真ん中に立て!」 左右どちらの脚で蹴ってくるか判らなければ、確かにそうだ。だが、蹴るのは規郎なのだ。 「榎本、その位置だ!動くなよ!!」 「壁は絶対に逃げるなよ!!」 選手達は規郎のことを知っている。だが、壁に二枚も入られてしまい大ピンチ。飛んでくる弾丸シュート「東京のロベカル」を逃げずに弾き返すしかない。 ドンっと一瞬にして到達したボールを榎本が弾く。ここで、多くの人が規郎を知る。こいつは危険な男なのだ。 さらに、ユキヒコとの一対一を仕掛け、規郎はクロスを入れてくる。シュートも狙う。トリコロールは防戦に回る。たまに奪ったボールも、預ける場所がない。奥と坂田は、ボールをもらう瞬間にアタックを受ける。前線でもコースを限定されるため、見え見えのパスをあっさり待ち伏せて奪われる。仕方なく、両サイドに長いボールを放り出すが、久保がいるわけではなく、繋げる可能性は低い。 「これは、J2レベルの攻撃になってるな。」 「とりあえず耐えろ。」 河合の魔法の間合いは、今日も健在だ。 押し込んでいるガスだが、中央は突破できない。まず、那須と河合が時間をかけさせる守備をするからだ。上手くいけば奪い取れるが、そうでなくても、鉄壁の守備陣形を作る時間を稼いでくれる。ルーカスとケリーは最後まで沈黙。松田のクリアボールが、やや本来のモノではなかったが、河合の好調さと、後手に回らなかった那須の活躍は明るいニュース。 規郎に押し込まれたユキヒコは、長い距離を走ることを余儀なくされ、攻撃時のプレーも精度を欠く。トラップミス、クロスに走り込んでの空振り。闘志が空回りする。だが、何本かのクロスを見せる。それも縦に一気に突破してのクロスだ。それはチャンピオンズリーグでの起死回生のドリブル突破を想い出させる迷いのないプレーだった。特に見事なクロスが一本、奥が待ち構えたが、その前で坂田が触ってしまう。倒れ込んで悔しがる奥。 「あ〜・・・・。」 「触らなければ、ドンぴしゃだったのに。」 「いや、あれを触らない方が難しい。」 「そうだよなぁ。惜しかったよなぁ。」 この試合で復活するかユキヒコ。誰もがそれを待っている。 キッカケの後はドゥトラの穴を感じさせない。期待を裏切らない。 清水が投入されると、サンチョルがいたポジションに奥が下がる。これで前線が活性化される。ユキヒコの活躍も清水の動きによるところが大きい。復帰した清水は守備的FWではない。スリートップの中核を走る。するとガスのディフェンダー陣は中央のケアに追われるようになる。サイドが手薄になる。ユキヒコが走り込み、ハユマが勝負する。しかも、見事な左脚のクロスは本職のようじゃないか。前半からの疲れが蓄積したのか、中盤での厳しい圧力はない。ボランチのポジションでボールを受けた奥は、間合いを読みながらドリブルで前へ進み、タイミングを見計らってスリートップにパスを流し込む。 「あぁ〜。」 「弱いっ。」 「見え見え。」 チャンスは多いが潰すことも多い。奥は浦和戦とはうって変わって調子が悪い。パススピードが無く、キレがない。ボールを受けるジョンファンも、ファーストタッチで相手を抜き去るようなプレーができない。だが猛攻だ。土肥が辛うじて押さえる。ポストをかすめて水が跳ねる。 「え〜入っていないのかよ。」 「マジかよう。決まったと思ったのに。」 「どこの誰だよ、あんなの枠に飛ばせないヤツは。」 「あ、清水だ。」 「清水てめぇ・・・、う、いや清水か。」 「仕方ない。」 久々の登場に、ピンポイントでポストの脇をすり抜ける清水の持ち味を忘れていた。 「ドンドン撃て!」 「そのうち入る!」 今度は中澤が奪って、すぐに見事なスルーパスが伸びる。スピードでジャーンを抜かして土肥と一対一。腰を浮かしてゴールの瞬間を待つ。だが、ボールはまたしてもポストの脇。 「ぐぁ〜。」 「清水かぁ〜。」 「う゛ゅ。」 飛び跳ね、天を仰ぎ、床を踏みならして悔しいキモチを紛らす。だが、ジャーンが、微かに触れて清水はバランスを崩したようにも見えた。 サンチョルはいない。だから松田が前にいる。 直後、ロングボールが松田の頭に当たり、最後はジョンファンがペナルティエリア内でドリブルのチャレンジ。ジャーンの横をすり抜けたジョンファンは、何もないところで倒れたかに見えた。 「立て!立て!」 「ファールじゃない!まだある!」 だが笛が鳴っている。 「なんだ?」 「どうなっているんだ?」 「えっPK?」 「まじかよ。」 「本当か?」 「え〜嘘っぽくないか?」 「誤審じゃねぇの?」 「よし、もらっておこうよ。」 「ラッキー。さぁ決めろ!」 「誰が蹴るの?奥は調子悪そうだからなぁ。」 「いや、奥みたいです。」 「えっ、大丈夫か?」 「いや、ここは信じるしかない。」 「決めろ、奥!!」 「決めてくれ!!!」 「頼んだぞ、奥!!!」 倒れた瞬間から、誰もが口々に勝手に喋る。立ち上がったまま、身を乗り出し、想いを口にする。決めてくれ。どうしても、この試合は勝たせてやりたいのだ。声援が大きくなる。 トリコロールの応援はPKの時は静まる、これは、たぶん95年くらいからの慣習だったと思う。集中力が必要なPKのキッカーに配慮し、想いをため込んで、ゴールの瞬間に爆発させるためだ。だが、奥がキッカーのポジションに立ったとき、二階席には手拍子が自然発生で鳴り始めた。観戦歴の長いサポーター達は手拍子をしていない。どちらが良い方法なのかは判らない。だが、観戦歴の長くない仲間達を中心に、二階席では手拍子が自然に始まった。それほどまでに、この1点を皆が待ち望んだ。後押ししたいキモチにさせた、そんな熱い猛攻のフィナーレだった。助走をとる奥。息を止め、願う私たち。蹴る方向と土肥が飛ぶ方向が同じだと判る。 ネットが揺れて、確認の目を凝らし、仲間達と手のひらを合わせる。 「しかし、あの時間のPKってのはガスサポは気分悪いだろうなぁ。」 「いやぁ〜誤審で勝つと嬉しいなぁ。」 「最後のは誤審かどうかは判らないけど、2人退場でもおかしくなかったもんなぁ。」 ジョンファンのPKはビデオで見ると、確かにジャーンの足がつま先に触っている。その後、前に進んだジョンファンだがバランスを崩して倒れてホイッスルが鳴っている。誤審とはいえないし、確かに反則に見えるが、ファールをジョンファンがもらいに行ったとも見える。一つ確かなことは、あの時間、あの場面でホイッスルを吹ける審判は、とても勇気を持った審判だということだ。 そして、ガスとは、まだまだ通り抜けてきた非情な修羅場が違う。 今日のポイント ●早めのチェックで光った那須の守備。 ●2得点したがゴール裏のお立ち台はスルーした奥。 ●規郎の脅威にマンツーマン対応で急遽出場した栗原。 ●地震があってもアナウンス一つなかったスタジアム。 横断幕を外そうと身を乗り出しているときにグラリとこられて人もいて危険だった。 複数で作業するように呼びかけるなど、最低限のアナウンスは必要だろう。 ●いつもと違い音が回って、まったく声も音楽も聞き取れなかったバックスタンド2階。 今日のお値段
|