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J1リーグ 2st stage 第14節 アルビレックス新潟戦 『消された道』 前節、好ゲームの末にガンバ戦に勝利した。あるゴール裏の有名女性サポーターは勝利が決まった後、ゴール裏芝生席の後列片隅で号泣したという。ある万博に行けなかった男性サポーターは万博からかかってきた勝利報告の電話に「なんてことをしてくれたんだ!」と第一声を吐いたという。 試合があるからには勝たなければならない。試合を見るからには勝ってくれることを信じて声援を送らなければならない。だが、私たちは、この地上に唯一のJリーグチャンピオンであることを望んだ。万博での勝利の瞬間に現役Jリーグチャンピオンは唯一の存在ではなく、2つのチャンピオンが並び立つことになったのだ。 「今日は勝っても浦和が優勝なんてことはないんだから、思い切りぶつかって勝て!」 もはや、闘いは目の前の1試合だけではない。新潟との闘いと同時に、Jリーグ王者、そして天皇杯王者を目指しての闘いだ。試合前の震災義援金集めを終え、スタンドの席に向かう階段で 「さあ、ここからは新潟を叩きつぶせ!」 と、気勢を上げる。今から4試合は失点ゼロ、何得点かをすればよい。だが、ガンバ戦でよい試合をしたというニュースが広がる中で、圧勝により勢いをつけることを望む気運が高まっている。 安永、山崎は積極的に動く。スペースへ走り込んでボール要求する。しかし、ボールが前線に好タイミングで送られることは少ない。中盤の構成力の問題か、やむを得ず松田からのロングボールを多発する。大橋は日に日にプレーに落ち着きが出てきている、堅実な繋ぎもできている。左サイドとのポジションチェンジも効果があった。久々の出場のドゥトラは選手紹介で大きなどよめきを作り、ファーストタッチで拍手を巻き起こす。 無失点に押さえればチャンピオンになれる可能性は高いのだ。 クリアミスが重なりファビーニョがシュート。クロスバーに当たったボールは跳ね返りノーゴール。肝を冷やす。攻勢の序盤の流れが変わりつつある中で、スコアレスの前半に松田が攻撃に参加。あっと言う間のカウンターを喰らう。 「チェックに行け!」 「プレッシャーかけろ!!」 ズルズルと下がり、ボランチ不在、いや、上がったままの松田のポジションをカバーしているために中盤の守備陣が手薄。山口の前に間合いを遅れて詰めてコースを限定するがシュートは枠に飛ぶ。ネットが揺れる。先制された。 「よりによって山口にか!!!!!!」 気の毒なくらいにコンビネーションが合わなかったツートップだが前半30分過ぎからの攻勢で惜しいシュートを連発。クロスバーに2発。そして野澤の好セーブ。 ドゥトラは存在感十分。だが五分の出来でしかない。 大歓声で迎えられた絶対的な左の核も、肝心な瞬間での動きには精彩を欠く。ワンタッチ目のボールの置き方や、切り返しのスピード、股抜きを狙うタイミングなど、どうしても鋭さが足りない。それも、並の選手のようにプレーしてしまうところが、やはりドゥトラの存在感だ。不調であってもボールを預けることができる。ボールを持つたびに期待の 「ドゥー!」 「ドゥー!」 の声がかかる。時たま見せるクロスは、やはりドゥトラだ。 大橋が勇気ある突破でPKを得る。 混乱するペナルティボックスの中から人が一人減り二人減り、残ったのは主審の穴沢さんと野澤、そして安永だ。上野でも、ドゥトラでも、大橋でも、ユキヒコでもなく安永が蹴る。 「絶対決めろよ!!!」 「頼むぞ!!」 一抹の不安もある。 「絶対に思いっきり蹴れよ!!」 「ドカーンと打ち抜け!!!」 「しっかり蹴れよ!!」 大きな拍手と歓声が沸き起こり、安永は助走を取り始める。 それはゆったりとしたスピードで目に映った。 声援とは真反対の緩いボールが、蹴る方向を確認してから飛んだ野澤と同じ方向に飛ぶ。とてつもなくスローなボールと錯覚する。 「なに?」 「バカ!!」 「うぇー!」 予想された一抹の不安が現実になりうろたえる。だが、タイミングが合わなかったのか、このボールを野澤はキャッチすることができず前にこぼす。 「撃て!!」 「撃て!!」 「撃て!!」 一斉に声が飛ぶが、野澤も飛ぶ。混戦のボールはネットを揺らさない。 「てめぇ、この野郎!!」 「なにビビッてんだ!!」 「しっかり撃て!!」 プレーが切れて安永への怒号が飛び交い、やがてそれは声援に変わる。 「挽回しろ、安永!!」 「絶対に1点決めろ!!」 「何でも良いから点を獲ってみろ!!」 「今度は勝負しろ!!」 この間に松田が安永に後ろから手を回し、何ごとか声をかける。 ここからスタンドはヒートアップ。手拍子の音もワンランクアップ。失意に陥るよりも、一気に攻勢に出るムードを創り出す。直後に入ったクサビのボール。安永は反転してシュートを放つ。 「よし!!」 「良いぞ!よく撃った!」 「そうだよ!ちゃんと立ち向かって行けよ!!!」 しかし、その後、哀しい交代の時を迎える。 そして入った坂田は、最初の見せ場で上野からのピンポイントパスをダイビングヘッド。あの位置から、あのボールが、あんなところに入って、ヘッドで叩きつければ、さすがの野澤でも止めることができない。たったの1点であるが、27000人が詰めかけたスタンドは沸騰する。シュートの美しさは、対戦相手や試合の状況を超えて、喜びの躍動をスタンドに点火する。このシュートの美しさは、気品ある上野の繊細なボール運びの復活と野性味溢れる坂田の迫力が二重奏。喜びと共に信頼までもが一瞬で胸を突き刺したから生まれた熱い喜びだ。直前の松田のぶち抜くスピードでの突破も跳躍を倍加させた。単なる消化試合の1得点ではない。 さぁ、ココからは年間チャンピオンへの常勝街道だ、と誰もが期待した。 だが、簡単に裏切られる。左サイドの鈴木慎吾がゴールに迫る。いつもJリーグを追いかけている人ならば、ニアサイドを撃ち抜こうとシュートを放ってくる鈴木慎吾の姿を、速報Jリーグやスーパーサッカーで思い浮かべるだろう。それは見慣れた光景だからだ。そして、やはり撃ってきた。そして、ネットが揺れる。 「何やってんだバカ!!」 「撃ち抜かれるヤツがいるか!!」 「今シーズン何回目なんだよ!!!」 ニアはゴールへの最短距離。まずは絶対に止めるべきコースだ。ココを撃ち抜かれるときは、ネットの天井に突き刺さるようなコースが多い。逆に言うと、その難しいコース以外は、ゴールキーパーは絶対に止める覚悟を持ってポジションを決める。 「いや、俺は怒らないぞ。俺は榎本には怒らないと決めたんだ。俺は、こんなことでは驚かないぞ。」 言い聞かせる声も出る。 ビデオで見れば、シュートコースには手頃な距離が空いていた。 勢いに水を差す失点ではあったが、声援のテンションを下げるわけにはいかない。エース坂田はフィールドに躍動し、解釈によっては清水は、あと1点を獲ってくれるかもしれない。だが声援が苛立ちに変わる。松田は上がりっぱなし。中央にいるならばこぼれ玉もあるだろう。だが、左サイドに張ってハイボールを要求して何が生まれるのだ。ゴールへの道筋が見えない。説明の付かないヤル気と根性が伝わってくる。これでゴールできるのか、これでゴールしても偶然でしかないのではないか。そんな想いも微かに抱きながら手拍子と声援を止めずロスタイムを終える。途中「中で勝負しろ!」という声も挟みながら。 後味の悪いレギュラーシーズン・ホーム最終節を終える。今日は、点を獲る意気込みだけで良かったのか、それとも最終決戦へのワンステップを越えたのか、テストとしては十分だったのか、解らない、それが解らない。力無く座り、フィールドを見つめ声を失う者、不満をわめく者。 「次だ!次!」 「読売には絶対に負けるな!!」 今日のポイント ●本調子からは程遠かったドゥトラと上野。 ●軽率なプレーをなくせばレギュラーが手に入る大橋。 ●松田の攻撃参加が結果的には裏目に出た。 ●試合後にベンチに留まっていたユキヒコ。何を想う。 ●あまりに倒れるので時間稼ぎと誤解された松尾。松田に蹴り上げられていた。
今日のお値段
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