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J1リーグ チャンピオンシップ第二戦 浦和戦 『三つの星が光る夜』 1993年5月15日。Jリーグ・サントリーシリーズが開幕した。開幕戦は読売のホームゲーム。勝利したのはトリコロールだ。翌日19時。大阪、万博記念競技場でレッズの開幕戦はキックオフされた。テレビ東京で生中継されたこの試合は、松下電器産業を親会社に持つパナソニック・ガンバ大阪のホームゲームだが、ハーフタイムショーのために消された照明が、後半開始時刻になっても点灯しないというアクシデントに見舞われた。浦和レッズは0-1で敗北。その後、最初のステージの無惨な結果を、レッズサポーターは、あの試合のハーフタイム空けのような暗い闇の気分で迎える。ではトリコロールはどうだったのだろう。有名な鹿島国での初対戦で敗れ優勝戦線から脱落。絶対的優勝大本命だったトリコロールは失意のどん底に落ちる。両クラブとも無念のステージから始まり、この日、最後のステージイヤーの王者決定戦を迎える。 「サイド攻撃を徹底するとか言ってるけど、うちはディフェンダーの間を何本もスルーパスで抜かれたり、ガンガンとミドルレンジからシュートを撃ち込まれる方が困るはずなんだよ。サイドからクロスを入れてくれるんだったら絶対助かる。」 第一戦から、悩みに悩んだであろうブッフバルトは、何か策を講じてくるのだろうか。 「ま、うちは一戦目と同じように試合に臨んで、ぐずぐずした展開に持ち込めば良いんだ。」 試合前のスタジアムを見回すと横断幕が見える。 アウエー側のゴール裏近くには『浦和らしく』というメッセージが書かれていた。 「あ〜、なんか助かっちゃうね。」 埼玉新聞の号外には予想スタメンが掲載された。まるで、第一戦の出来事を無かったことにしたいのか、河合の名前は無かった。 結局、なんら変わりはない。 お馴染みの大一番でのディスプレイ。「PRIDE OF URAWA」の文字が赤く染まったスタンドに白く描かれる。見事な段取りで全スタンドが行動する。ディスプレイを終了させる順序も決まっているようで、文字の中心部分の席からプラカードを降ろして通常の応援態勢へ移行していく。なので、文字の中央から崩れるようにサポーター達の姿が現れる。 「おい、見ろよ!浦和のプライドが中央から崩れていくぞ!」 「試合前から、もうプライドはズタズタだ!」 前半を0-0で終える。さいたまスタジアムの一角を占める約5000名がひしめくトリコロールに染まるエリアからは、選手達の労をねぎらう拍手。完璧な前半だ。握り拳に力が入る。 「よくやった。」 「見事だ。」 上川主審が、予想以上にショルダーチャージを流し気味なので、エキサイティングな攻防となった。気が抜けない。ハーフタイムとはいえ緊迫感は途切れない。 「何があるか分からないからな。」 「こういう流し気味のジャッジの試合だと、どこかで審判は歯止めをかけたくなる。どこかのタイミングで反則を厳密に取って『え〜』ってときが来る。そこからが勝負だ。冷静さを失わずに、この試合展開を続けられれば、かならず勝てる。」 今思えば、あのセリフは、試合展開を予言したかのようだった。 一方的に押されるわけではなく、坂田を中心に反撃も試みる。 4本のシュートを全て枠に飛ばし、2つは山岸が間一髪で弾き返す好シュート。エースの重責を苦にしない若きストライカーはアウエーの地で躍動している。松田、中澤はクロスを跳ね返し続け、河合は魔法の間合いでドリブルをくい止める。もちろん、前線からの守備は大切。清水には「ガンバレ」の声が飛び続ける。 そして赤いカードが掲げられる。 中西が一発退場。厳しく感じられた。だが、エメルソンは抜ければ榎本と一対一の場面だ。中西はファール覚悟で止めに行っている。倒し方は派手ではないが、一対一を回避するために反則を行ったのだから、判定は誤りではない。むしろ、退場覚悟で止めてくれた中西に感謝したい気分だ。そして、選手達は、すでに動いていた。抗議に詰め寄ることもなく、お互いの役割を確認して、浦和の攻撃に立ち向かう臨戦態勢を解かなかった。残念ながら榎本がフリーキックにヤマを賭けるという過ちを犯し、緩いボールがゴール左隅に吸い込まれてしまったが、選手達は休まずに攻める。監督も那須投入の動きを止め、そのままのメンバーで攻めの姿勢を持ち続ける。不思議と悲壮感がない。選手達が自信満々に試合をしているように見える。 後半終了直前、全くのノーマークとなった闘莉王のヘディングが榎本の正面を突く。直後にロスタイムを消化して延長戦に入る。その時、多くのトリコロールのサポーターは思った。 「今日は、絶対にツイている。」 「あのヘッドが入らないのであれば、延長戦の前後半30分間も浦和はゴールを奪えない。」 「あれほどのチャンスを、今日のトリコロールが浦和に二度と与えるとは思えない。」 延長戦に入る。 数分が過ぎたとき、自分の口元が緩んでいるのに気が付いた。なぜか笑っているのだ。自分も意識していなかった。だが、闘莉王のヘディングが榎本の正面を突いた瞬間に、根拠無く勝てると確信した。そして、中西を失ってからも、何ごともなかったかのように、落ち着き払ったトリコロールの選手達は浦和の攻撃を跳ね返していく。 「素晴らしい。」 だから笑っていたのだ。勝ち負けだけを競うホームアンドアウエーのタイトルマッチのまっただ中で、なぜか、闘う選手に満足感を覚えてしまったのだ。だが、気の緩みが敗北を呼ぶかもしれない。セットプレーにマークの確認を叫ぶことを忘れない。ただ、負けることはない、と思ってしまっている自分がいる。 浦和サポーターを追い込む赤い紙。 エメルソンが退場。残り時間はわずか。おそらくPKキッカーの1番手はエメルソンだったはずだ。延長戦の前後半30分を終える笛と同時に万雷の拍手・・・は、トリコロールに染まるエリアからのみ。緩衝帯の向こうの赤一色の人々は、言葉を失い立ちつくしている。 「やっぱり勝つよ。」 見ると、山岸がスタンドのレッズサポーターに声援を呼びかけて全身で煽りを入れている。 「おい見ろよ。山岸は、そうとうビビッてるぞ。」 「あんなことヤルのは、追い込まれている証拠だ。」 「よし、大丈夫。いけるぞ。」 このような楽観的なPK戦は、長い観戦生活の中でも初めてのことかもしれない。 さぁ一人目は誰だ。当然、期待はある。 「来た!来た!来た!来た!」 「よし!!ホントに来た!!」 ボールに向かっているのは闘莉王ではないか。期待通りの1番手登場に湧く。 あとは、ギリギリまで動かずに読み勝つ榎本と、落ち着き無く、蹴る寸前に動く方向が分かってしまう山岸の差が、そのまま出る。 最後はドゥトラ。勝負は蹴る寸前に決まる。リズムを取って跳ねる山岸のタイミングをずらす。ちょうど、蹴るそのときに山岸の脚は地を踏み攻めていなかった。すかさず、ドゥトラは空中の山岸をあざ笑うかのように、ゆっくりと、ややカーブをかけたグランダーのボールをボテボテと転がす。 「やった!!!」 「やったぁ!」 「勝った!!!!!!」 後は、言葉にならない声で絶叫しながら、たくさんの仲間と抱き合う。拳を天に突き上げ、ダレ・カンペオンと歌う。遂に我々は最後のチャンピオンシップに勝利した。トリコロールは、どんな赤よりも鮮やかに湧き、揺れる。 星はトリコロールの頭上に輝く。結局、スタージ制の短期決戦Jリーグで星の栄冠を授かったのは、読売、磐田、鹿島、そしてトリコロールの4クラブのみ。ステージ優勝など、やがて、人々の記憶からは消えて無くなるだろう。 三つの星が光る夜、私たちは選手達の勇気と忍耐心に感謝し、監督の知性を賞賛した。結局、実質的に戦術を磨いたエンゲルスはブッフバルトの方針の元でリーグ戦には長い時間をかけたチーム作りで対応できたが、一発勝負に近いチャンピオンシップでは何も手を打つことはできなかった。新人監督ブッフバルトには、そこまでの決断力とスキルは身に付いていなかった。個々の技術に優るトリコロールの選手達は、団結力を持って浦和の個性に対処した。リーグチャンピオンはリーグチャンピオンらしく余裕と底力を見せつけた。 三つの星が光る夜、私たちは新たな目標に向かって、さらに次の段階の坂を昇り始めた。それは、三つ目のカップを掲げるため。91-92シーズン、92-93シーズンの連覇以来、遠ざかっている三度目のアジアタイトルへ。今日、三つ目の星の下には輝く栄光への道がある。三度目の制覇へアジアの頂点への挑戦は来年も続く。 2004年5月23日。チャンピオンズリーグ一次リーグ敗退直後の名古屋戦で、ウルトラ・ヨコハマが掲げた横断幕を忘れない。 「もう一度アジアの頂点を目指して闘おう」。
今日のポイント ●第一戦よりは、少し押され気味だった両サイド。 ●やはり堅かった浦和の選手達。 ●ケガでキレが悪かったエメルソン。 ●120分間を走り抜いた選手達。 今日のお値段
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