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![]() 第5節 ガンバ大阪 中澤の頭に当たって角度の変わったボールが榎本の頭上を越す。 何度かバウンドし追いかける榎本の指先の少し先でゴールラインに達しガンバのゴールとなる。 「あ〜ついにやっちまった!」 「なんだよお!!」 「榎本!ちゃんと指示しろよ!!」 一時の川口のような吠え方までをする必要はないが、聞こえない声であれば、それは指示をしていないも同じ。中澤には榎本の声は届いていないようだった。せっかくの30,000人の大観衆の前での自殺点による失点。この日は他の会場と違い、マリノスらしく、親子、カップル、女子高校生のグループといった観客が坊ちゃんの活躍を楽しみに来場した。その前でゴールネットを揺らしたのが自殺点だなんて。 「だめだ!中澤、まだ美しくない。」 「まぁ一応は儀式を通過したけど、井原、小村の跡を継ぐには物足りない。」 「もっとずば〜んとファインゴールじゃないとダメだ。」 前節の市原戦が、予想外の大勝だったせいもあってか、序盤の失点にも余裕が感じられた。ゴール裏のウルトラさえもヒステリックな反応は示さなかった。 試合開始早々、坊ちゃんが右サイドのタッチ際で味方とのコンビネーションを使い、ゴールライン近くまでえぐってクロスを入れること2回。これで、今日の役割は決まった。ゲームを作るのは奥。坊ちゃんは前でボールを受けて最後の仕事をする。この日は奥の支配するゲームだった。 ガンバの監督は西野。柏時代の西野サッカーは、中盤での激しい囲い込みからボールを奪った縦に早い攻撃が特徴。この日のガンバも、序盤に激しいプレッシャーをかけてきた。波戸の突破を阻もうと、吉原が脚をかける。 「この野郎!吉原!ふざけんな!!」 「大事な代表選手になにするんだ!!」 ところが、その後、今度はマルセリーニョ・カリオカが波戸を吹っ飛ばす。 「またか!代表だぞ!!」 「代表のレギュラーになんてことするんだ!」 「最近レギュラー怪しいけどな!!」 何度かの突破とダイレクトでのボール回しでマリノスがテンポを作る。中盤の底からの奥と上野のロングボールでサイドを変える。波戸、清水、ドゥトラが早く動き出してボールを引き出す。その動きの中からゴールが生まれる。サイドに流れてボールを受けた清水から中の坊ちゃんを経由して簡単に渡されたボールを上野が弾丸ミドルをガンバゴールに突き刺したのだ。素晴らしいゴール。30,000人の大歓声が屋根に響いてこだまする。 すごいすごいと喜んでいるうちに、いつの間にかキックオフされたボールが、またしても榎本の頭上を抜いてゴールネットを揺らした。 「あっ。」 「あっ。」 「あ〜。」 「ありゃぁ。」 完全にやられたと思った。あっと言う間に1-2。ところが、主審は、このゴールを認めなかった。なにしろ 、状況を性格に把握していた人が周囲に誰もいなかった以上、どのような理由でノーゴールになったのかはわからない。しかし、キックオフはやり直しになった。マルセリーニョ・カリオカは、この判定に納得せず、ボールを自陣ゴール前に大きく蹴り込んだ。再びマリノス陣内に放り込まれた浮き球。ルーズなボールを獲りに足の裏を見せたハイキック。それを避けるかのように飛び跳ねるマルセリーニョ・カリオカ。ホイッスルが鳴る。しかし、反則をとられたのはマルセリーニョ・カリオカの方だった。 「おい、今日のレフリーは味方だぞ!」 「うちの選手が1人多い。」 「12番目の選手だ!!」 同点に追いつくとガンバはペースを掴めなくなる。完全にマリノスが、いや、奥がゲームを掌握する。ガンバの両サイドは下がったまま。そこに、マリノスの選手が流れてボールを受ける。崩せなければサイドを変える。綺麗な弾道のサイドチェンジが横切り、ガンバの選手がそれを追ってポジションを動かす。そのたびに、屋根に反響する大きな拍手がマリノスの選手達を支援する。前半に素晴らしいプレーがあった。ドゥトラがボールをペナルティエリアの角付近で受ける。奥が外をオーバーラップして駆け上がってくる。ドゥトラの前にガンバの選手は2人。1人はドゥトラのドリブルを警戒する。一人はタッチライン際を上がってくる奥へのボールを奪おうとしている。ところがドゥトラは、その裏をかいて2人の選手の間に縦にボールを送り込む。サイドを上がってきた奥が大外を回って円を描きながらガンバの選手を振りきって、そのボールを受けクロスを折り返したのだ。読まれてもその上をゆくイマジネーション。こんなプレーをマリノスで見るのは一昨年のシーズン以来か。創造性溢れるパスが何本か印象に残っている。 ナザは2度、吉原と激突した。負傷し小原が入る。自殺点の後ということもあって不安いっぱいの交代だったが、この日も無難にこなした。これも収穫だ。 後半は、ますますサイドチェンジが増える。ガンバが選手を替えてくるまでは、マリノスのやりたい放題だった。ただし、シュートを除いて。ガンバのラインはズルズル下がる。奥が左サイドのスペースへ走る坊ちゃんの前に長いパスを送りダイレクトでクロスを折り返す。低くて速いタマだ。ウイルのボレーはポストをかすめる。さらにドゥトラの入れた柔らかなクロスもウイルは大きく外す。この日のウイルはシュートがほとんど枠に飛ばなかった。 失点の気配はない。得点は獲れそうで獲れない。見ていても余裕が出てくる。 「あれ?實好って後半に入ってからボールに触ってなくないか?」 とか妙に無意味な注目ポイントを見つけてしまったりする。そのくせ、榎本へのバックパスは怖かったりもする。 「どきどきするなよ!どきおきするなよ!」 といっている自分たちがドキドキしてたりするのだ。攻めてドキドキ、守ってドキドキ。相手は強豪を相手にするかのような慎重な攻撃しかしてこない。支配する優越感。なんだか楽しいかもしれない。 清水も素晴らしかった。反転してフェイントを入れてから縦にドリブルしてクロスを逆サイドの波戸に送り込む。波戸のシュートは間一髪で都筑に阻まれる。決定期が何度もできた。迫力あるクロスが何本も入った。マリノスの中央は小さい選手ばかり。だからスピードとコントロールが要求される。特にドゥトラは丁寧にマイナス方向へグランダーで返したり、バラエティーに富んだクロスの品評会だった。左の攻めが特に多く、右の波戸は自重気味の時間も多かったが何度か素晴らしいシュートも見せた。そして守備ではカウンターで抜けてきたマルセリーニョ・カリオカを完封。 「さすが代表!!」 の声が飛ぶ。新井場の攻めにも冷静に対処した。しかし、90分間で最も危険だったのは、やはり新井場からの攻め。新井場のミドルシュートを榎本が前にこぼし、吉原が走り込んできたとき、何人かは失点を覚悟した。やや中盤が延びてスペースができた終盤は、ボールが行き来した。残り時間が少なくなってくると、俺王ウイルの俺ドリブルが増える。坊ちゃんも自分で決めてやろうとしてボールを持つ時間が長くなる。奥からの早テンポのパス回しは減って、いつものマリノスに戻りかける。フェイント〜フェイント〜フェイント〜そしてボールを奪われ逆襲を喰らうのだ。 ロスタイム表示は「0」分。ところが、やはりこれが間違えで3分の表示が出し直される。ちょうどロスタイムに入ると微妙な判定でガンバがコーナーキックを得る。これはまずい。すでに悪いマリノスのペースに戻りつつあった。このまま行けば、ロスタイムに失点してしまう。いつものパターンだ。しかも今年もガス戦で手痛い失点を同じコーナーキックで奪われている。まずい。その時、一斉に声が挙がった。 「終わり〜!!」 「終われぇ!」 「ロスタイム0って出したじゃねぇか!終われ!!」 といっても本当のロスタイムはやはり3分。続けて3度のコーナーキックを凌ぐと、どっと力が抜けた。 延長にはいると波戸の珍しい左脚での鋭いミドルシュートが放たれる。ポーランド戦以来、波戸は明らかに変わった。しかし、その波戸にアクシデント。競り合いから腰を痛打。その負傷のシーンだが、途中交代で入った木島が、ガンバ選手に「ボールを外へ出してくれ」と依頼。なかなか外に出なかったボールが、やっと木島のおかげで外に出た。波戸は久永と交代する。だが、その木島がスローインでボールをガンバに返す際にガンバ最終ラインやゴールキーパーにしっかり返さずにタッチを割ってスローインにしてしまう姑息な返し方をした。一同激怒。 「そんなことするなら出してくれとか言うな!」 「見苦しい!」 「見てるほうが恥ずかしい!」 何とかならないものか。 さすがに延長戦。運動量も落ちる。マルセリーニョ・カリオカやマグロンがフリーになる場面も多くなる。そこにパスが来れば負けというシーンも数度。運良くボールは来なかった。このあたりは運でしかない。ついていたのだ。 ペナルティエリアの外での絶好のフリーキック。坊ちゃんのゴールを願う大観衆は「俊輔コール」一色になる。しかし、ウイルも今日は蹴っていないため譲らない。 「坊ちゃんに蹴らせろ!」 「坊ちゃんだよ!」 「ウイル離れろ!」 「いや、ウイルが蹴れ!」 「坊ちゃん!!!」 「ウイル!!!」 「いや、ここは坊ちゃんですよ!」 「絶対ウイル!だって去年、このあたりから決められたじゃないかぁ!!!あいつに!」 クライマックスは筋書き通りか。クロスが木島に当たって坊ちゃんの前へ。トラップでかわし、次のタッチでコースを作り、3つ目のタッチで放たれたシュートはゴールに突き刺さった。総立ちで飛び跳ねる。屋根を揺らす大歓声。これがホーム最後のゴールなのかは誰にもわからないが、今後のマリノスの可能性を大いに感じさせてくれたゲームは突然に終わった。インタビューを聞くためか、試合終了後、すぐに席を離れる人は少なかった。坊ちゃんのインタビューにみな無言で耳を傾ける。 「シュート撃てるところでパスしてたりしたんで・・・。」 のところで、またまた同時に皆が口を開いた。 「わかってんだったら、さっさと撃ってくれ!」 延長戦の勝利の後は、なにかしっくりこないときが多い。しかし、今日は、これまでにない大きな展開も見れ、2本のシュートも美しかったこともあって、みな上機嫌だった。 「あれ?ところでガンバって横浜まで何しに来たんだ?」 今日のポイント ●選手が勝手にやったのか、指導のたまものなのか、進化する攻めの組立。 今日のお値段
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