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![]() J1リーグ 1st stage 第7節 鹿島アントラーズ 『この3発で絶望へ行け』 跳ねた!泣いた!笑った!叫んだ!! ゴール裏の最上段に陣取ったマリーシアのコアメンバーは、座席を転がり落ちる寸前でこらえながら、喜びを3度、そして勝利の瞬間に4度目の爆発をした。Jリーグ10年。鹿島国での勝利を生で見た者は極めて少ない。なかには足かけ10年間で6度の負けを見続けた者もいる。それが、予想以上の圧勝。 選手も監督も、そしてゴール裏の2/3の与えられたスペースを埋め尽くしたトリコロールのサポーターも、この日ばかりはいくら喜んでも許される。 ここは日本とは違う。 湖を越えて国境を越える。それまでの温かな日差しが弱くなり気温が下がる。この地域の気候は読みにくい。日向と日陰の温度差がとても大きい。昨年も、ここでの試合の後にトリコロールのサポーターは体調を崩した。 気候だけではない。言葉の問題もある。鹿島サッカースタジアム駅ではアナウンスが行われていた。 「本日はアンジョルダールですので・・・。」 早口の聞き慣れない言葉だ。 「え?なに?」 「アンジョンファン?」 「ファンデルサール?」 よく聞き返せば「ファミリー・ジョイン・デー」だった。 さらに食事だ。鹿島は売店の質がよいことで知られている。モツ煮は大人気だ。カレーも悪くない。だが、私たちは知ってしまった。ホーム側にはたこ焼き(本当に焼いている!)、鮎の塩焼き、キムチ鍋、はまぐりカレーなどのメニューがあることを。さらに・・・ 「アウエーの場合はよぉ、白いユニフォーム着て見に来ることが多いじゃんかよぉ。それなのに、アウエーの売店のうどんがカレーうどんだけっていうのは、どう見てもアウエーいじめとしか考えられないよな。絶対に染み一つつけないでカレーうどんを喰いきることなんて出来る奴いないからな。ほんと鹿島のアウエーいじめは卑怯だ。」 温かな外のコンコース、寒風が吹き荒れるスタンド。日陰は寒い。ただし、試合前に日陰になっているのはアウエー側のゴール裏だけだ。試合開始が近づき選手紹介が始まる。毎度のことなのだが・・・ 「英語なのか日本語なのかわからねぇよぉ!」 「ちゃんとした言語で喋れ!」 カクカクとした印象のハッキリとした発音での英語らしき場内アナウンス。ここでしか聴くことが出来な特殊な発音とイントネーションの言語だ。 「せめて日本語でやれよ!!」 マリノスの選手紹介が終わり、鹿島の選手紹介に入るときに音楽が変わる。あぁこのイントロは・・・トリコロールのサポーターの数パーセントかもしれないが、この曲には聞き覚えがある。曲に合わせて、拳を突き上げて叫んだ。 「ユー・サック!!(へなちょこ)。ユー・サック!!(へなちょこ)。」 サッカー好きの多くがJ-SKY SPORTSをスカパーで見ている。J-SKY SPORTSではアメリカのプロレス団体WWEの中継がある。サッカーを見る合間にプロレスを見てしまうのだ。鹿島は、そこの登場する売り出し中の間抜けキャラの悪役、カートアングルが率いるチームアングルが入場してくるときの曲を、ホームチームの選手紹介のテーマに使用したのだ。もう、これは鹿島のサポーター達は気の毒でしかたがない。WWEでは、この曲がかかると観客が拳を振り上げて声を合わせて叫ぶ。 「ユー・サック!!(へなちょこ)。ユー・サック!!(へなちょこ)。」 ホームチームの選手紹介テーマに合わせて、私たちは叫んだ。 「ユー・サック!!(へなちょこ)。ユー・サック!!(へなちょこ)。」 苦虫を噛み潰したような45分。 序盤は最悪に近かった。失点はオフサイドギリギリのプレー。中盤でのボールの奪われ方が悪くひ弱なトリコロールの毎年見せる姿が垣間見えていた。鹿島が激しく当たってくるのはいつものことだ。ファールであろうとフェアチャージであろうと、ここでは、我慢して立ち続けなければならない。セットプレーを素早くリスタートしてくるのも、いつもの分かり切ったことではないか。 だが2つの前半のプレーがトリコロールを救った。そして、その恩恵を最大限に活かしてトリコロールは、正々堂々と力業でこの先10年以上語り継がれるだろう見事な逆転圧勝を収めた。 1つめのプレーはほにゃらさわがペナルティエリア内でエノテツと一対一になったにもかかわらず誰もいないところへ(しかも斜め後ろに!)パスしたプレー。代表選手がデビュー間もないゴールキーパーに恐れを成した。 「出たぁ〜!」 「なにぃ〜!?」 そして、劣勢の展開にも関わらず腹を抱えて笑った。こんなプレーが生で見られるなんて。もし、ここで2点目を入れられていたら試合は終わっていたかもしれない。久々の先発。ほにゃらさわ、完全復活だ。 2つめのプレーは小笠原。中盤での激しい競り合いで小笠原を足をかけられて倒れる。プレーは進みドリブルで前進するトリコロール。 「あっ、気をつけろ!」 「やるぞ!やるぞ!やるぞ!!」 「ほ〜らやりやがった!!!」 「カード出せ!!」 小笠原は予想通りに報復に出た。立ち上がるやいなや背後から全速力で追いかける。届きそうになって手を出すが振り切られる。すると、真後ろから足をかけたのだ。フィールドの主審とは違い、私たちは後方から一部始終をハッキリと見ている。明らかに狙った報復なので一発退場に相当するプレーだ。 小笠原はオフェンシブな選手なのでカードをもらっても一見なんの問題もないように思える。だが、彼は、ボールをもらう際にファールギリギリのコンタクトプレーで相手をいなして有利な体勢を作るのが得意だ。なかには肘を使ったり掴んだりするプレーも多い。前半の、このカードのために小笠原は、自らの得意なプレーを失った。退場になるリスクは負わない。後半はトリコロールとの接触を避け、軽く裁く安全なプレーに徹した。 「持たせて良い!」 「怖くない!怖くない!!」 「プレーがちっちゃいなぁ!」 こうなれば、小笠原がボールを持っても心配はない。ただ、ミドルシュートとセットプレーだけ気をつけていればよいのだ。小笠原にボールが渡るたびに声が飛んだ。 「大丈夫!怖くない!!」 「プレーが小さいなぁ!」 「汚いことが出来ない小笠原なんて、ぜ〜んぜん問題ない。」 「汚くない小笠原なんて、凶器持たないブッチャーみたいなもんだ。」 もう少しの頑張りが足りない。しかし、ほにゃらさわとエウレルが1つづつイージーなチャンスを外してくれたために1失点に留まる。 「おい!しっかりやれ!!ちゃんとしたフォワードがいたら今頃3-0だぞ!」 「チェ・ヨンスとかだったら5-0でもおかしくないぞ!!」 「いや、そんなにチャンスはなかった。それは言い過ぎ。」 前半がやられっぱなしだったかといえば、そうではない。2つのゴールを揺らしたシーン、その2つめのオフサイドは極めて微妙。それ以外にも鹿島ディフェンスを慌てさせるシーンが多々あった。停滞して見えたのは、トリコロールの選手が倒れるシーンが多かったのと、外へ逃げるドリブルが多く気迫が感じられにくかったことが原因。実際には、鹿島のオーバー・サーティーズは対処に苦慮しているシーンが多かった。 前半のチャンスを多く作ったのは那須。ボールを奪って素早くフィード。それだけではない。ゴール前に顔を出すシーンもあったし、極めてレベルの高いスルーパスを2本通した。 「いやぁ〜那須はホント成長してるな。」 「もう、那須は馬鹿にしちゃぁいけないですよ。」 「那須のパスに気品が出てきたな。」 「そりゃぁ那須には御用邸がありますから。」 「さっきのスルーパスは那須の御用邸パスだ。」 ハーフタイム。劣勢だ。だが攻撃面では悲観的というほどの状況ではない。ただし、このままでは勝てないのは明らかだった。お馴染みのリスタートのチェックが遅れることからの失点であったし、ピンチが連続してくれば、クリアで一安心してしまいディフェンス対応が一呼吸遅れるのもいつものこと。一歩間違えれば更なる失点に結びつく。さて岡田監督は何か手を打ってくるのだろうか。 選手達が出てくる。坂田が交代で投入される。下がるのはマルキーニョスだ。オフサイド判定に泣いたもののゴールネットを前半は揺らした。怪我上がりではあるが動きが悪いとまでは言えなかった。ただ運動量が完全には回復していないマルキーニョスが中央にいると、どうしても久保が場所を譲って外に出てしまい、肝心なときに肝心な場所に久保が不在になる悪い傾向は改善されないままだった。坂田が入れば、きっと坂田が動いて久保が中央に居座るはず。 結果はすぐに現れる。 ドゥトラからのアーリークロスが入る。 「ヘッドで競り勝てるか?久保!?」と思った瞬間に、予想を超えるサプライズ。ヘッドで競り合ったはずが、遙かに高く飛んだ久保は胸とラップ。これを完璧に処理し自分の間合いでボレーシュート。弾丸シュートがこちらに飛んでくる。信じられない弾道を目前にし、それを本当のことと信じたのはネットが揺れたとき。見事な同点弾だ。今度こそオフサイドの心配もない。 「うわぁ〜!!」 「カッコイイ!」 「よ〜し!見たか鹿島!!これがフォワードだ!」 アウエー側のゴール裏2/3にびっしりと詰まったトリコロールが揺れる。 全員の考え方が一致していたのだ。 岡田監督の指示は的確で選手もそれを守った。無理して前がかりに攻めるのではなく、まずは中盤での守備を再確認してロングボールで一気に攻めるエコパで見せたサッカーを再現するのだ。だから前半に松田が攻撃参加することはなかった。後半に流れの中で左サイドで松田がドリブル突破するシーンが現れる。だが松田は躊躇しながら前へ進む。パスのだしどころを探しながら。波戸は戻れ戻れと指示している。出すところがないので仕方なくボールを持ったという判断だろう。 トニーニョセレーゾは自爆した。 動いた。再びリードを奪うために。この日が日本デビュー戦となる31番の黒人選手の投入。中盤の底あたりに入れてくる。たしかロングパスとロングシュート、セットプレーを得意としているはずだ。でかい。とにかくでかい。身長は189センチあるという。 「さぁ、この黒人選手がどれくらいやるか・・・。」 という言葉が終わらないうちに最初の競り合いに負けて腰砕けでこけた。 「よえ〜。」 ハイボールの競り合い。負けた。 「よえ〜。」 何度競り合ってもひ弱な印象しか与えてくれない31番。 「お前、身体能力が低すぎるよ。」 「身体能力が低い黒人選手なんて意味がないじゃん。」 「お前、ムルアカかぁ!?」 「なんか、こいつ凄いぞ。ひょっとして期待以上だぞ。」 鹿島の攻めにテンポがなくなり、試合はトリコロールの時間が続く。しかし攻めても攻めても攻めきれない。坂田が再三裏にでる。これがオフサイドにはならない絶妙のタイミング。鹿島のオーバーサーティーズは坂田を捕まえることが出来ず抜かれた後の後手の対応になる。ゴールライン付近まで簡単に持ち込めるようになる。引き出される秋田や大岩。オーバーサーティーズは分断。ならば久保も前を向いてゴールに向かってボールに対応できるようになる。しかも、中央で。 ユキヒコは後半にはいると、さらに積極的なポジションでゴールを狙ってくる。だが2度のオフサイド。混戦の中でゴールの真ん前で構えるが、いつの間にかディフェンスラインが少し前に行っていてオフサイドポジションに取り残されている。積極的なポジション取りなのだが、気付かずに取り残される印象。さすがに2回目のオフサイドでは笑いがでた。 「お前、ちゃんと見てろよ!」 「邪魔だよ!あっち行ってくれ。」 「アイスホッケーだったら完璧なポジションなんだけどなぁ。」 しかし、前半から対応に苦慮していたオーバーサーティーズの混乱を呼び起こしていたのは間違えない。なにしろ、前半はマルキーニョスが中央でボールを持っても振り向くことが許されなかったのに比べて、今のユキヒコはオフサイドとはいえ、ゴール前で2度もシュートを撃てているのだ。 8番にボールが行っても「怖くない!怖くない!」。31番にボールが行けば「おぉ何かやるか?やるか?やらないのかよ!」。鹿島は9人と同じだ。しかも坂田の再三再四の脅威にさらされて、相馬も名良橋もオーバーラップが少ない。際どいパスもエノテツが完璧に押さえる。シュートはといえば、前半の30分過ぎから70分過ぎまでは1本も撃たれない。試合は完全に支配した。あとは勝ち点4差を詰められるかどうかだ。 相手のお株を奪う攻撃とはこのことだ。 敵陣付近でのルーズなボールキープに遠藤がアタックをかける。奪う。ドリブルで前へ。その時、ゴール前には久保がフリーで走り込んでいた。クロスは高すぎるかに見えた。が、信じられない高さの久保が空中で静止し身体をくの字に曲げてボールを跳ね返す。スピードを加えてコースを変えたボールはネットを突き破りそうな勢いで飛び込んだ。逆転ゴール。どっとトリコロールが揺れる。身体をぶつけ合う男達の圧力に潰されそうになる。絶叫。ただの逆転ゴールではない。このインパクトはただの1点ではない。 さらに3分後。フォアードのお手本のようなゴールだ。ドリブルで進む奥。ケアする2人の鹿島ディフェンダー。逆サイドから中央に走り込む久保。鹿島ディフェンダーは奥と久保の両方をケアできていると思っただろう。だが、久保はターンして外へ、やや後ろへ。弧を描いて外から中へ、前へ。その瞬間に奥から絶妙のタイミングで完璧なパスが着た。あとは狙い澄まして外から巻いたグランダーのボールを流し込むだけ。 スタンドは、もうめちゃくちゃだ。ハットトリックに大爆発。みんながもみくちゃになる。声は言葉になっていない。 そんな中でMは叫んだ。 「久保!本当のエースだ!!」 「読売戦と鹿島戦に獲るなんて、これがエースだ!」 この時間になって大きく目立った奥の運動量。チャンスと見るやタテにも強烈なダッシュを見せた。そして坂田の早さと強さ。ただ裏に走り込むだけではない。競り合いにも簡単に倒れない。名良橋を逆に吹っ飛ばした。そして遠藤の瞬発力。ユキヒコの脅威。那須、そしてディフェンスラインからの素早い攻撃が組み合わさって3得点を呼び込んだ。前半は弱気に見えた波戸も、積極的な攻撃参加でチャンスを作った。 この3発で絶望へ行け。 そのためには圧勝で終わらなければならない。だが、トニーニョセレーゾは深井を投入してきた(平瀬も)。 「こいつは気をつけないとまずい。」 下がるのは秋田とほにゃらさわ。 「おいおい、お前らジーコが監督じゃなかったら代表じゃないぞ。お疲れさん。」 「ありゃ、31番が中盤をお払い箱になって最終ラインにいますよ。」 「さてはトニーニョセレーゾも入れてはみたものの使えなくて諦めたか。でも下げるわけにも行かなくて最終ラインか。」 「草野球の外野みたいだ。」 「もう小笠原は怖くないけど、こういうときは中田に気をつけないといけないぞ。あいつは勝負強いからな。」 「げ〜。」 オーバーヘッドでネットが揺れる。 「だ〜から言ってるじゃねぇか!」 だが幸運にもエウレルがファールしていた。ノーゴール。 「しっかりやれよ!1点差と2点差じゃ大違いだぞ。圧勝したって試合で終わらないと、この先何にもならないぞ!!」 しばらくは鹿島の攻勢が続く。なんとか凌ぐトリコロール。いくつかのカウンターで盛り返し終了間際にはペースを握り返す。終了間際にベンチへ退いた久保へは大きな拍手がおくられる。 追加点は奪えなかったが圧勝で終えた。選手達の崩れそうな笑顔とガッツポーズ。スタンドも同じだ。特に波戸の笑顔が印象的。後半は彼自身も手応えを感じただろう。 エコパを上回る劇的な展開と大勝利。だれもが声を枯らして全身で喜びを表現した。ただ一人、コーナー付近までやってきて、ちょいと手を挙げて去っていったシャイなドラゴンを除いては。 ![]() 渋滞が心配されたが、国境の橋の通過もスムーズだった。 鹿島国内の交通はクルマか2両編成のディーゼルカー。 ![]() 国連とユニセフの査察団が、昨年の大量破壊兵器『冷たい霧』を査察した。 (左)秋田の足形を査察する国連査察団。 (右)ゴール裏座席が一列減りベニヤ製の壁が撤去されていたため、 横断幕の貼られた壁の材質を査察するユニセフ査察団。 ![]() 国境はバック側は2重のフェンスとロープの3つのラインで厳重に警備。 メイン側はフェンスのみ。入国にはパスポートが必要だ。 ![]() 赤装束の集団は一糸乱れぬ統制のとれた行動で不気味さを演出していた。 対するトリコロールは何カ所かのコールの起点から広がった声が繋がっていく健全な応援。 ここではワールドカップや五輪同様に日の丸も必要。 ![]() 権力者の銅像は自由の戦士達の手で倒された。 「ノー・ジーコ!ノー・フセイン!ノー・ブッシュ!ノー・ウォー!」と雄叫びを上げる。 今年中に、ここには久保の銅像が建てられることになった。 今日のポイント ●横浜からはバス7台。予想以上の大規模な遠征。 ●むやみな前がかりに入らずに、カウンターで対処した岡田采配。 ●試合後にベンチで膝や足の甲にアイシングして足を引きずる久保を見て あらためて、その凄さを知った。 ●試合前に響き続けた赤い女声。 女は強いチームが好き。サポーターに女が多くないチームは弱い。 今日のお値段
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