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![]() J1リーグ 1st stage 第8節 FC東京 『芝生の上の頭脳と身体』 かつて、ガスはマリノスの天敵だった。 格段に高い選手各自のテクニックで翻弄し圧倒的なボールキープをしても、奪ってからあっという間に大量の選手達がゴール前に殺到してくるカウンターに何度も屈した。 鏑木、新條、岡元、関、小池、堀池・・・選手の大半は入れ替わり、ガスの選手達のスキルは格段に高くなった。今では五輪予選代表選手もいる。そして、攻撃サッカーを標榜する原監督の登場によって両者の力関係は逆転する。ボールを支配し攻撃の時間の長いガス。ボールを持たせて鋭く速い攻撃で逆襲をかけるトリコロール。今年、3度目の対決。 もはや苦手ではない。 アッという間の先制だ。右サイドを駆け上がるユキヒコからのクロスが走り込んできた久保の前へ。足を延ばした久保がダイレクトでたたき込む。ピンポイントクロスに超人的な能力で脚を延ばし、いとも簡単にボレーを放つ久保。 「凄い!凄すぎる!!」 「美しい!」 前節、鹿島国でのハットトリックの余韻がいまだに残るスタジアムは、今日も久保の久保らしく久保にしかできないゴールで盛り上がる。 「すげぇ!ドラゴン首都殺し。」 「日本の首都・東京の2チームプラス、鹿島国の首都。」 右サイドが機能する序盤は小気味よい展開。 波戸が右サイドを駆け上がるシーンが多い。鹿島戦の後半から見せたユキヒコとの連携は続いている。那須からも良いボールが供給される。 「波戸に出せ!」 の声が飛ぶ。 「波戸はかなり復調したな。良いオーバーラップを見せてる。」 「切れが戻ってきましたねえ。」 「鹿島戦の後半から良くなったよなぁ。」 「っていうか、あの31番が出てきてから調子が良くなったよなぁ。」 波戸が持ち味を発揮できる体調に戻ってきたのは頼もしい。ワクワクする右サイドが毎試合見られるのだ。 だが、カラダが動くせいだろうか、波戸はファールが多い。それも、かなり危険な角度のスライディングなど。 「あぁ〜カードだ。」 「あんなことやっちゃダメだ。」 「呼ばれた。当然だ。」 「あっ、注意で終わりましたよ。」 「いやぁ〜助かった。普通は出るよ。」 「なんで出さなかったんだろうね。」 「さっきから、危険なファールには厳しく注意して、カードを乱発しないで試合を進めようとしているね。」 「いやぁ、あのレフリーは『タカ派』じゃなくて、きっと『ハト派』なんだよ。」 波戸とユキヒコの連携攻撃でガスの攻撃の核である金沢のオーバーラップを押さえ込もうという意図が見れた。 しかし、波戸は再び危険なファールを犯し前半に警告を受ける。注意を受けていながら再度のファールでカードをもらうとは、もったいない。 レアルの称号を戴く選手。 那須は、毎試合が見所だ。那須のプレーぶりを見ることが、今のトリコロールの発展途上を見守ること。日に日に攻撃的センスを披露し始めている那須が、この試合初めての、好パスを送る。 「レアル!」 「おぉレアル那須!」 スペイン国王より戴く名誉の称号『レアル』。 「『ご用邸』と書いて『レアル』と読む。」 「今日もご用邸プレーだ!」 「気をつけろ。相手にも貴賓系選手がいるからな。」 「え?誰?」 「グレース・ケリー。」 「モナコ王室か。」 那須は、ケリーのマッチアップが多く、その持ち味を潰した。 1点を獲って安心したのか、それとも安全策なのか、トリコロールの攻撃はまったりとしてくる。もちろん、ガスが中盤の守備を厳しくしてきたために、ボールを前へ運べなくなったことも原因だが。それでも、まだ余裕があった。しかも1点目のファインゴールの満足感があってか、日頃は「岡田がよぉ・・・。」を口癖にするK林さんもコーチングエリアに何度も出てくる岡田監督を見て 「岡ちゃんは、今の展開におかんむりだな。この状態のガス相手だったら、もっと何点も獲らなくちゃ。」 と言っている。『岡ちゃん』。彼が日頃は使わない言葉だ。 伝統がまだ生きていることも再認識する。 奥のフリーキックを土肥がこぼす。こぼれ玉を詰めるが惜しくもゴールにならない。スタジアムを包む、何で入らないんだよというムード。待ちに待った追加点のチャンスを逃し、フィールド上は油断の空気。ロングパスからケリーに、そして文丈がダイビングヘッドでシュート。これまで何度も見てきたガス戦の失点パターンに極めて近いカウンターでの失点。しかも油断。 「あ〜やっぱり伝統だ。」 ただ、文丈のゴールは素晴らしかった。多くのサポーターは思った。「文丈のゴールならばしかたない。文丈のゴールを見れて、その上で勝てるならば、それはそれでラッキーだ。」と そして生まれ変わったゴールを披露。 今度はトリコロールのカウンター。奥からのボールをサイドに開いた久保が受けてアウトサイドでクロス。中央のユキヒコを通り過ぎて到達したファーサイドに走り込んでいた安永が倒れ込みながらボレーシュート。なんと、今日3つ目のゴールもファインゴール。 「うぉ〜格好いいぜ!!」 これぞ今年バージョン・トリコロールのボール運びだ。1点目もそうであったが、大型ビジョンに映し出されたリプレーを見て歓声と拍手が再び上がる。その喜びもつかの間。さらに大きな歓声は遠藤が2人を抜いたとき。スタンドが見逃すまいと立ち上がる。そして3人目を抜いてシュート。 「やったぁ!!」 歓声が響く。連続ゴールにトリコロールが揺れる。 「俺は、今年のユニフォームを買うとしたら背番号は8番にするぞ。」 「今年の遠藤は違う。完全復活どころじゃない。」 積極的にゴールに迫る遠藤も今年バージョン・トリコロールスタイルだ。 予想を上回る終盤の猛攻で2点差リードのハーフタイムを迎える。 「最初に先制して最後の5分で猛攻。これなら帰ってビデオチェックがしやすいな。巻き戻して見たいところがすぐ見れる、俺たちに思いやりが感じられる試合展開だ。」 「後半も、このペースで行けば、48対1で勝てるな。」 「いや、このペースだと10点穫られるから48対11ですね。」 隣の席の親子連れは、子どもに「何で48対11なの?」と質問されて、あわてて母親が計算方法を説明している。 抽選会が始まるが絶好調で止まらない。 「そんなよぉ、横浜市内のホテルペア宿泊券なんて欲しくないよなぁ。」 「相手がいないから?」 「っていうかよぉ、仙台スタジアムの近くとか、神戸ウイングの近くとかのホテルにしてくれよ。」 「あ〜日産自動車70周年Tシャツ欲しい。」 「あたらねぇなぁ。」 「売ればいいのになぁ。っていうか、金で解決できることは金で解決させてくれ。」 後半開始早々、ゴールを背負って振り向き回転でシュートを放つドラゴンスクリューは枠を外す。だが、威力十分。後半も積極的な攻撃への意欲を示す。カウンターから抜け出したドゥトラは長い距離をドリブルで突進する。しかしシュートはへなちょこに終わる。 「あっ3番。」 気が付けば松田は、ずっと前のポジションにいる。リードを活かして、攻撃参加の我慢ができなくなったかのように。 奥が激しいチャージを受ける。代わって坂田が入る。安永は、すでに負傷が癒えた清水と交代している。このあたりから試合の様子が変化してくる。どうしても得点したいガスがなりふりかまわずにアタックする。 ドラゴン対ジャーン。香港映画のような対決。 何度か激突していた。だが、今回はナビスコと違って単純にハイボールを入れてジャーンに跳ね返されるシーンは少ない。一度外に振っておいて折り返しボールを狙うなどの攻めの工夫があったからだ。それでも、ドラゴン久保とジャーンは対決を避けることはできない。バックスタンド側のタッチライン付近で久保はジャーンにタックルを受ける。斜め後方からだ。これまで2度、ジャーンに注意を与えていた主審は迷わずカードを出す。そろそろ注意では選手の自制が効かずカードが必要になってくる頃だ。このジャーンのタックルに普通のフォワードの選手は怒りを表していただろう。だが、久保は寡黙な選手。言葉には表さない。が、いつもよりもかなり前傾姿勢になって前へ進み、ジャーンの横にポジションを取った。 「見ろ!久保が無言だけど怒りを表している!!」 わかっていても不思議ではない試合展開なのだが。 激しい攻撃にからだを張ることは必要だが、あきらかに主審は度重なるファールにはカードでコントロールすることを検討し始めている。悪質なファールのジャーンには迷わずカードを出している。にもかかわらず、力み過ぎだったのかユキヒコは冷静な判断を失い後ろからのタックルでカードをもらってしまう。さらに、松田が必要以上にエキサイトして、全くムダなカードをもらう。カードをもらうために左腕に輪っかが付いているわけではないのに。逆に、その松田に向かって手を何度もたたきながら自制を要求する久保。 さらに我を失う選手が現れる。好調だった波戸が、文句のつけようのないバックチャージで退場に。 「なんてことしてしてくれるんだ!」 「まずい。」 「なにもここで奥の手を使わなくても・・・。」 「やばいよ。もう2人交代させちゃってる。」 「これじゃ、久保はフル出場かよ。休ませられない。」 後に三上のファール判定には不満を示した遠藤も、抗議しないどころか何も言わずに波戸の横を素通りした。 試合再開。ベンチからの指示を受けて選手達は相談している。相手の動きもあって受け渡しも必要になる。右サイドバックに遠藤が回ったりユキヒコが下がったり。 「ユキヒコは1枚もらってるからなぁ、何が起きるかわからないぞ。」 手遅れになる前に手を打った采配。 岡田監督が素早く動いた。カードをもらっているユキヒコを交代、三上を入れる。これまで私たちの期待を裏切ることが多かった三上のエリアにガスは意識的に攻めてくる。だが、跳ね返す三上。ドリブルで前へ進む三上。 「どうするんだ!?三上!!」 どうするか、三上はスタジアム全体を湧かせる低くて素早いクロスボールを入れる。これには驚かされる。拍手と賞賛の歓声がこだまする。そしてガスの選手達も驚いたはずだ。 「このサイドも油断できない。逆サイドのドゥトラ同様に、こちらも逆襲される可能性がある。」と。見れば、久保も右側のサイドにポジションを取って何度も突破を図っている。 ボールを奪った松田が前へ上がろうとする。すると、周囲から厳しい声が飛んだのだろう「上がるな!」と。松田は、私は何もやってません、とばかりに両手を挙げてプレーから離れた。反則したわけじゃないんだけれど。 さすがに波戸退場から30分間を無失点、無傷でおくることはできなかった。ついに失点。エノテツ怒る。 幸運だったのは清水がベンチ入りし、しかも波戸退場よりも前にフィールドへ入っていたこと。坂田と清水は前線からの守備に奮闘する。奪ったボールは、とりあえず久保へ預ける。久保が驚異の身体能力を見せる。競り合いのボールにかなりの高い確率で勝つのだ。そして、自分で突破を図る。怖さがある。抜かれればガスは失点だ。そして抜群の運動量で坂田と清水が絡んで脅かす。何度かの突破のチャンスの後、ついに久保が抜けてペナルティエリアに進入。あと1人かわせば・・・。 「あ〜!」 「おぃ〜〜〜〜。」 久保が日本人離れした身体能力を見せる。いや、人間離れしたもの凄い距離の跳びっぷり。シミュレーションでカードをもらう。これは、どうみても飛んでいる。でなければ、あれほど飛べるわけがない。 「す・ご・か・っ・た」 そして、もう一つのチャンスは久保と清水と坂田で作る。坂田の絶好機は土肥のスーパーセーブに防がれる。 耐えに耐える。好機を見て少人数での鋭い攻め。スタジアムはゴールラッシュの前半終了間際に負けない興奮を呼ぶ。それに乗せられたのか、松田がボールを奪って独走。ドリブルで突破。やはり、先ほどのこともあってかそれ以上の無理な突破は試みない。スピードダウンし、坂田と清水が追い抜くのを待つ。右サイドへパスを。松田は戻る。右からのクロスをニアで坂田がシュート。 「よし!松田!ナイスプレーだ!!」 「みんな気が付いたか?久保がなにげに冷静なプレーをしたぞ。松田が行っちゃの見て、入れ違いにディフェンスに下がっていったぞ。」 「えぇ〜?久保って、そんなにクレバーな奴なのか。」 久保は終了間際にも、無理なボール運びをするディフェンスラインに右手指で左手首を示すゼスチャーを大きくしながら「時間を考えろ!」と指示していた。ただし、おそらく無言で。 試合開始早々の先制点に始まり、中だるみから猛攻。最後は必至の防戦一方。波戸の退場もあってサッカーの劇的な展開がぎっしり詰まっている。しかも荒れ模様にはならない。両チームとも得点と防戦に必死の攻防だ。 「誰か行け!」 「しっかり競れ!!!」 「クロスを入れさせるな!!!」 絶叫が続く。ゴール裏の歌声にトリコロール全体が手拍子で一致する。スタンドも今期ホーム最高のサポートだ。とにかくロスタイムの3分は無事に終わってほしい。その願いが叶いタイムアップ。 使った奥の手が効いた。波戸退場不敗伝説。ただし、次の試合の苦戦は必至だ。 今日のポイント ●右サイドのコンビネーションが固まったと思ったら次節は2人とも出場停止。 ●レアル那須のとっても危険なパスミス。 レアルは「マドリッド」ではなく「ビジャレアル」くらいだった。 ●足を痛めてヒヤリとしたエノテツ。奥の膝の負傷も心配。 ●アマラオとケリーがブレーキだったガス。アマラオは年齢か単に不調か。 ●ヘッドは完璧だった中沢。 ●もう東京に戻らなくて良いだろうユキヒコ。 ●大きなゼスチャー、笛の強弱で悪質度を説明、迷い無く判断、 J1デビューは上々だった主審の西村さん。 今日のお値段
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