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![]() J1リーグ 1st stage 第15節 ヴィッセル神戸 『栄光は私たちのために』 お互いに技と力を競い、観客の求める最大限のエンターテイメントを提供するプロレスならともかく、この正真正銘の真剣勝負・Jリーグにおいて、これほどまでに素晴らしい優勝決定の場面が訪れるとは、なんと素晴らしき2003シーズン・ファーストステージ。 申し分のない好スタート。磐田と鹿島、それに読売を破り・・・そして連敗。インターバルをキャンプで立て直し、再開後は連勝に次ぐ連勝。最終節の手前での市原と磐田の願いかなったりの引き分け。残り二試合での首位奪取。 栄光は私たちのために用意されていた。 梅雨が明け日差しの眩しい午後。新横浜の賑わいは昨年のワールドカップ決勝戦を思わせる。駅前に、このような出店が出るのは横浜アリーナでモーニング娘のコンサートがあるときくらいだ。この日は、新横浜商店会が「地元の私たちの手で横浜国際を満員にしようではないか。サッカーの聖地新横浜〜がんばれ!F・マリノス-めざせ横浜国際超満員〜」をテーマに様々なイベントを展開している。幸い、こうして注目度の高い優勝決定の一戦を迎える。また、日産自動車が前売り券を大量購入。その結果、開門までにチケットは無くなった。 さすがに客足は早い。 60,000人を超える大観衆の予想記事に煽られて、みな、早くスタジアムへやってくる。心配はいらない。早く来れば、バックスタンド前のステージや露天での飲食が、躍る心を後押ししてくれる。ステージ前、噴水の周囲に設置された丸テーブルには、トリコロールの栄冠の瞬間を見ようと、家族で訪れた団らんの風景。だが、たった一つのテーブルだけが異空間を創り出している。すぐに分かった。 「そんなに飲んでるのかよ」 テーブルの上は空き缶でいっぱいだった。 「あっちのフリーマーケットで日産のステッカーが売っていたぞ!」 「よし!いくぞ!!」 全速力で走って目指す店に向かう。日産のステッカーをゲット。ヤマハやトヨタのステッカーを見えない場所に隠す。これじゃぁ典型的な酔っぱらいの行動だ。 スタジアムへ押し寄せる人の波。この波に乗って、今日の船乗り達は船出する。それを見送るたくさんのゲスト達。そしてアトラクション。横浜市は今回のイベントの後援をした。いわば自治体のお墨付きイベントになった「新横浜パフォーマンス2003」。だからたくさんの協賛企業が協力し「目指せ横浜国際超満員!」に貢献したのだ。その代表者・中田市長の登場。歓声があがる。あまりに浮かれすぎているスタンド。マリーシアのコアメンバーの一部は市長と岡田監督への卑劣な野次を飛ばし、周囲(他のメンバーを含む)から怒鳴られる。本当に浮かれすぎているのだ。 さらには我らが会長カルロス・ゴーン日産自動車社長の登場。スタンドは沸き立ち「カルロス・ゴーンコール」が巻き起こる。今年、日産自動車は70周年。だが、多くの社員が一堂に会し、自分たちの働く会社を愛するコールを起こして社員の共感を呼び士気高揚を図る都市対抗野球に追浜の野球部は出場できない。地区予選で敗退してしまったのだ。そんなこともあって、日産自動車は、この日のチケットを35,000枚も購入し、社員の来場を促した。 「さっき、栃木工場31号車って書いたバスがあったよ!」 という目撃談も入る。だが、「カルロス・ゴーンコール」は日産社員達が陣取るエリアからではない。ゴール裏のど真ん中から起こったのだ。自信に満ちあふれ、勝利を確信する日本語の演説。日産とクラブを賞賛する拍手。そして「技術の日産」「ゴーン・ジャパン」といった横断幕。 「この試合には必ず勝つ!」 ここでGO!GO!日産の歌。それは2階席で僅かに10名ほど。日産社員ではない。 ゴール裏も様々な準備をしている。ビッグフラッグ、ビッグジャージは2階席を回る。優勝の瞬間にトリコロールの滝を奏でる無数の紙テープはリベラルを中心に2階席に配られる。彼らも1993年以来、マリノスの歴戦を知る男達。マリーシアは赤い紙テープの配布を担当する。2階のゴール裏中央はヒートアップ。 「優勝が決まった瞬間に投げてください。」 と説明する。が、 「優勝・・・。」 という言葉を口にした時点で「うぉ〜!」と歓声があがり、注意なんて聞いてくれているものなのか。おそらく、得点の時に、かなりの紙テープが投げ入れられることだろう。ところで、私たちは、なぜか新横で配布には縁があるようだ。昨年のロシア戦でも、みんなで日の丸を配布したっけ。 ハイテンションの応援の最中に試合が始まる。いきなり驚きの声があがる。神戸のキックオフ。蹴るのはシジクレイ。最終ラインには5名。大きくボールを蹴り出したシジクレイは、すぐに最終ラインに戻る。完全に守って守り抜く意気込みが読みとれる。 左サイドから崩し、大歓声を受ける。手拍子も歌声も、いつもとはスケールが違う。二階席にも歌声の主がたくさんいる。もちろん、マリーシアのコアメンバー達も唄う。さい先の良いスタート。だが、そのリズムが続かない。時計の針が少しずつ進むたびに、のし掛かる見えない重み。プレッシャーが体を固める。どうしても、あと一歩が動かない、そんな印象の選手達。 とくに、松田の動きが重い。おっかなびっくりの小さなパス。あきらかに、いつもの動きではない。前線の久保へのロングボールも出ない。もちろんサイドチェンジなどあるわけがない。 「まずいな。松田は修羅場を意外とくぐり抜けていないからな。予選を戦い抜いていないから。」 「一番緊張している動きだ。」 単純なショートパスですら繋がらず、ボールを奪われ悲鳴が上がる。 「ほんといっぱいいっぱいだ。ここはなんとか我慢するしかない。」 「見ろよ!声出して鼓舞しているのは那須だぜ。」 「すげぇな那須。すっかり主力だ。」 シーズン当初に『上野と那須は比べれば、始発駅と途中駅くらいの違いがある。 』 と言われていた、昨年の出場わずか3試合の選手が、今、この苦しい試合でトリコロールを支えているのだ。 この日の相手が柏や名古屋だったら、どうなっていただろう。きっと中盤の高い位置で奪われたボールは一直線にトリコロールのゴールに迫ってくる。カウンターによるピンチの連続。緊迫感は、このスタジアムとは比べものにならないくらい高まっただろう。 決定的なピンチは、緊張の中沢が背中にボールを当ててあっと言う間にボールを持って行かれたとき。 決定的なチャンスは久保のヘッドとユキヒコの浮き球。 だが、やはり重い。 「いやいや、これは相手が神戸で良かったよ。」 神戸の攻めに鋭さはない。フィールド上に岡野と播戸の姿はなかった。30分過ぎからダイレクトでボールが繋がり始め、リズムが良くなる。動きの少なかった遠藤がサイドに開いて局面の打開を図ろうとする場面が増える。 「何でも良いから何とかしてくれ・・・。」 叫びは、次第に祈りに変わる。 焦りと緊張は収まったかに見えたが、そんな時間は続かない。マルキーニョスが無意味に後ろから相手の背中をドンと押して警告をとられた反則はその象徴だ。左サイドでの那須のファールも不用意だった。それでも、なんとか凌げる。それが今年のトリコロール。 いつも通りといえばそれまでだが、試合が動く。 後半にはいると積極性が見えてくる。両サイドの位置が高くなる。開始早々に放ったユキヒコのシュートがゴール前を横切る。6万の歓声をつんざいて響いたドスっという力強いインパクト音。 「良いプレーだ。」 「これなら後半はいけるかも。」 前半の終わり頃から目立った遠藤のサイドでのつなぎや、素早い前線へのボールも目立つ。あきらかに岡田監督は建て直しを図ってきた。後半はトリコロールのゴール裏に向かって攻める。コーナーキックの時、思わず目頭が熱くなりそうな、一斉に揃った大きな大きな手拍子の音。6万人近くの心とアクションが一致した瞬間。 それでも、膠着状態に入る。完全にナスのワンボランチで中盤の攻撃的ポジションを厚くしたが、崩せない。後半も15分もすればじれったい空気が流れる。ユキヒコが中央にポジションを取る。最後尾からのボールが前へ出ない。パスのだしどころがない。そんな時間がしばらく続く。 「そろそろ取らないと。」 「播戸や岡野が入ってくる前に先手を打たないとやばいぞ。」 「前へ出せ!」 「スペースを作れ!!」 「誰か開け!ユキヒコが中に入っちゃうから出すところだ無いんだよ!!」 ついに怒りの矛先はユキヒコに。 しかし、数分後に動きが出る。中に入ったユキヒコの外を柳想鐵が盛んにオーバーラップするようになる。最終ラインに張り付いて出てこない神戸の左サイドを、数的優位で切り崩そうという作戦だ。だが、それでも崩せない。岡田監督はやむを得ずユキヒコを下げる。投入は清水。この清水投入が呼び水になった。惜しみない運動量で、右サイド、左サイド、トップ下でボールを受ける。実質3トップ。奥は前半のポジションに下がる。がぜん、ボールの動きがスムーズになる。たとえ、相手ボールであっても、高い位置で清水がプレッシャーをかけて3人で囲い込む守備ができるようになる。 ところが高さで攻撃をしかけ最終ラインに清水が残った守備に乱れ。ボールをカズが奪い一直線にゴールへ。だが、スピードに勝る清水と遠藤が戻りコースを限定。カズは大きなフェイントでかわしてシュート。榎本が止める。 カズへの野次や冗談を言う余裕はない。 ここでは、いくら激しく感情を表しても喜びすぎではないことを理解する。 だが、清水の献身的なプレーがチャンスを作る。放り込まれたアーリークロス。戻ってきたボールをボンバーぁ!!!!!!!!!魂を揺れ動かすかのような全身で押し込んだゴール。ネットが揺れた瞬間、絶叫と共に涙があふれ弾け散る。縦に跳ね手に手を取り合い、肩を掴み揺れる。興奮は仲間を両手で突き飛ばす(前半のマルキーニョスのファールよりもさらに激しく!)。まったく見知らぬ遙かに年上の男性も女性も歓喜の渦に。喜んでいるうちに試合が再開される。一息ついて周囲を見回すと、たくさんの視線がこちらに集中している。あまりの騒ぎに、喜びの頂点を覚えた初心者サポーター達は、ここでは、この試合では、これほど暴れても誰にも迷惑がかからないことを知った。 岡野と播戸が投入される。 「さぁここからが勝負だぞ!」 「絶対にやられるなよ!!」 「俺?俺?ってやったか?」 「外れるのはカズ。三浦カズ。」 少しは冗談も小声で出るようになる。が、気を緩めてはいられない。 勢いが出る。遠藤、マルキーニョスのシュートはともに枠の中。惜しくも掛川の手ではじかれる。 ふたたびボンバーぁ!!!!!!!!!!!!!!!の脚! またしてもネットの揺れた瞬間に飛び跳ねて弾ける。拳を突き上げる。日産70周年のフラッグがはためき、飛び、折り重なって倒れる。見れば、さっきまで大人しそうだった隣の席の夫婦が上空に放り投げた子どもが宙を舞っていた。 これでなんとかなるだろう。何度か押し込まれる場面もあったが、試合が安定する。スタンドのボルテージは高いまま。全体から手拍子と声で後押しする。後半の最初の頃、松田がカズの脚を後から蹴った。危険なプレーだが警告は出なかった。神戸のサポーターは当然のように怒る。カズも不満を示す。主審は、あきらかに雰囲気に飲まれている。にやりと笑みを漏らし、ほっとした私たち。 「ナイス誤審!」 今日はスタンドの雰囲気がゲームを支配している。 ますます優勝へ歩を進める。3点目は驚き。 絶好の位置でのフリーキック。狙うのは奥。 「中沢!おまえ蹴ってみろ!!」 そんな声も飛んだが、ここは奥の場所だ。そして狙い通りの弾道。しかもスピードが速い。今度は最初の2ゴールとは違う。信じられないといった表情で座席を立ち大きな拍手。そして絶叫。 「すげぇ〜〜〜〜〜!」 「美しいぃ〜!」 もう大丈夫だ。坂田と交代するマルキーニョスにはスタンディングでの拍手を。坂田には盛り上がる応援歌。坂田はサイドで受けてキープ。さらにボールは回る。パスに合わせてオーレのかけ声。早くタイムアップが待ち遠しい。時折ボールを奪われる。 「絶対に失点するなよ!」 「このままでムードで優勝するぞ!!」 アクシデントが起きる。交錯した奥が脚に痙攣を起こし倒れる。ゲームは止まらず応急手当てする柳想鐵。だが、神戸の選手達は柳の本来のポジションにめがけてパス。スペースに走り込んでくる。手当をしていた柳が奥の脚を手放しボールを追う。ディレイし失点を防ぐ。スタンドからは大きな拍手。 ここで奥は交代。大活躍をたたえて、マルキーニョスにおとらない大歓声。投入されるは「最後の日産」永山。フィールドに入り、約3秒後に試合は終わる。 「Ye〜〜〜〜〜s!!!」 「優勝ぅ〜!!」 「よぉ〜し!!!!!」 とにかく、それぞれの言葉で優勝の瞬間を叫ぶ。ついに栄冠を勝ち取ったのだ。 だらだらとしたセレモニーは、その後の爆発への序曲。 ビクトリーランを眼下に見ながらスタンドで乾杯。さすがに6万人が来ると、スタジアムの外は大混乱。さぁ、優勝だ。我々がチャンピオン。新横浜の街は優勝に喜ぶトリコロールのサポーター達を歓迎するメッセージでいっぱい。どの居酒屋も人であふれている。店の外には席待ちの仲間達が貯まっている。歩道を進む私たちが声をかける。 「Ye〜s!!」 当然、返事が返ってくる。みんななんて幸せな顔なんだろう。言葉を交わした相手は見も知らない赤の他人だ。だが、すでに、この町に今、いるだけで、それが仲間の証なのだ。 20人で座敷の隅を予約したはずの日本海庄やには、いつの間にか29人がいた。座敷は全て占拠した。ワンフロア上の庄やには60人で予約したはずが100人近くにふくれあがっている「屋根下」。このビルには24時近くまで歌声が響いた。 店での騒ぎを終え、駅に向かう。 信号を渡る。 「勝者が、これから道路を渡ります!」 「Jリーグチャンピオン!Jリーグチャンピオン!オレ!オレ!オレ!」 そこにMがふざけて合いの手を入れる。 「鹿島は8位!」 駅前の大きな道路を渡る私たち。道路を渡り終えるときにはすっかり、交互にみんなでコールしていた。 「優勝!!!」「鹿島は8位!」「優勝!!!」「鹿島は8位!」「優勝!!!」「鹿島は8位!」・・・。 かすれかけた声が真夜中の星空に響いた。 今日のポイント ●重たすぎる前半、弾けすぎる後半。これぞ優勝決定戦。 ●前半のミスで、ますます緊迫感を増した中沢。結果は2得点でヒーローに。 ●またしてもハーフタイムに的確な指示で修正した岡田監督。 ●8人で守りきれなかった神戸。 今日のお値段
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