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![]() ナビスコカップ 準々決勝 第一戦 ジュビロ磐田 『レッドカードの光るとき』 お盆。帰省。人気の磐田戦とはいえ、予想された観客数はわずかに8,000人程度。ところが、試合が始まれば、運悪くお盆休みのないビジネスマン・サポーター達も次々に訪れ12,000人。スタンドには先週のプレゼント、日産70周年の青いTシャツの親子や夫婦が多く見受けられる。 なぜ点が入らない。焦れったい試合展開の中で、何度頭を抱えただろう。何CCのため息を吐き、暗い空を眺めただろう。間違えなく勝てた試合。勝たなければおかしい試合。内容はもちろん、12人対10人のハンディキャップマッチ。試合後の選手達を迎える拍手。それは、チャレンジ、采配、そのほとんどに間違えが無く、結果を分けたのはシュートの精度の問題だけという認識から。そして同時に起きたブーイング。内容はともあれ、今日はカップ戦。ノックアウト方式では、当然のこと結果が最優先となる。その結果を評価したから。 松田は小さく手を叩き、納得したかのような頷くような仕草をした後、足早に立ち去っていった。 キックオフ。すぐにボールを下げず、攻撃的なパス回し。早々に左サイドを突破し順調な滑り出しを見せる。 「うん、いいじゃないか!」 スルーパスにヴァンズワムが飛び出し、こぼれたボールは右サイドのマルキーニョスへ。がら空きのゴールに、慌ててヴァンズワムが戻る。頭を越えてゴールマウスを狙ったシュートは、すぽりとヴァンズワムの正面、胸の中。 「なんじゃあ〜!?」 「ズバッと撃てよぉ!」 「なんかマルキーニョス、いい人みたいな柔らかいボールだったじゃんか。」 「昔のバックパスみたいじゃないか。」 さらには、マルキーニョスの突破からヒールで戻して、走り込んできたドゥトラがシュート。これなら行けるというムードがスタンドを盛り上げる。 これが、もっともゴールの可能性があった一瞬。その後の80分ほどは苦悩にハマル。 「奥谷さんvs磐田」その気配はなかった。 開始早々に、磐田の西野が松田と軽く交錯。松田にとっては危険なチャージを受けたようだ。笛は吹かれず副審の旗も振られず。松田は試合そっちのけで、ずっと副審に向かっている。 「あ〜松田が始まっちゃったよ。」 「松田、文句いうな!!」 「磐田と闘え!!」 「いい加減にしろ!」 かなり長い間、身振り手振りを交えて、すっと副審にアピールを続ける。 だが、さすがに、西野や西クラスが相手であれば、松田の怪物ぶりが発揮される。身体の入れ方、駆け引き、コンタクト。特に前半は、数的不利のピンチに中央からトップと二列目が時間差で突っ込んでくる局面。クロスがどちらの選手に入ってくるかわからない。そこで松田は前にダッシュする。二列目にヤマを張った、かに見えたがダッシュは数歩で、すぐに戻ってトップの選手をケア。クロスは松田の最初のダッシュを見てトップの選手に。難なく、ボールが届く前に、コースに入った松田がインターセプト。 「上手い!!」 思わず声が出る。 リーグ開幕戦にはなかった体を張ったバトルがゲームを思わぬ方向に転ばす。 序盤からボールの奪い合いは激しい。ギリギリのところでこらえきれずに身を挺したファールに。細かく笛が吹かれる反則の多い意地の試合の様相になる。両脚タックルで奥に警告。 「負けるな!」 「イケ!」 力のこもった声援の劇が飛ぶ中、浮き球の奪い合いを巡って競り合い。ホイッスルでマリノスのファール。だが、直後に激しく笛が鳴り、照明に照らされた奥谷さんの手に輝きを放ったのは、赤い蛍光色のカードだった。 「やった!!」 藤田の穴を埋めるはずのジヴコヴィッチ退場。磐田の選手が抗議する。その輪に加わっていく松田。彼は、試合を早く再開したかったのかもしれない。退場を不運だと思いジヴコヴィッチをなだめようとしたのかもしれない。だが、エキサイトしているスタンドは、そんなことよりも松田が心配だった。彼を退場させてはいけない。 「行くな、松田!!」 「離れろ!」 「誰か、松田を引き戻せ!」 「松田!もう抗議はいいだろ!もう十分だろ!」 「頼む、松田!やめてくれ!!」 失点は、いつもこんなもの。 気の緩みを否定したくなるだろうが、やはり、いつもの気の緩み。松田と中沢のマークの受け渡しの隙をつかれたか、それともオフサイドを狙ってかいくぐられたのか、とにかく、オフサイドラインよりも遙かに内側から飛び出した西野にボールが渡り、悲鳴の中でゴールネットが揺れる。 再び副審に抗議する松田。 「ふざけんな!ぜんぜんオフサイドじゃないぞ!!」 「なに副審のせいにしてるんだ!」 「見苦しい抗議するのはやめろ!!」 序盤からプレーそのものは安定して怪物ぶりを発揮していた松田だけに、ここでの失点は痛恨。代表にも復帰し完全優勝への鍵を握る松田を、昨年に続いて、こんなことで退場させるわけにはいかない。 一方で素早くキックオフをしようとするが、センターサークルに入ってプレー再開を遅らせようとする名波にカード。一人少ない磐田に攻めかかる。磐田は下がって中央を固める。サイドの突破も両サイドを守備的にして突破させない。トリコロールの問題は、ボールを奪ってからの展開力。柳のパスは美しく急所を突くコースに行くが、展開のタイミングが遅い。いなくなってありがたみがわかるレアル・那須。守備専門と思われていた那須だが、攻撃展開の素早さも彼の持ち味だったのだと実感する。 一人少ない磐田を、さらに窮地に追い込んだのは奥谷さんだった。 32分と33分に迷い無く思いきったイエローカード。磐田の選手が怒る。 「さぁ、もっと怒れ!!」 「今のカードはおかしいぞ!だから、もっと激しく抗議しろ!!」 煽る。抗議でさらにカードを出してもらえばラッキーだ。 カードで、さらに荒れる。激しいのは磐田だけではない。トリコロールも、かなり際どい。特に柳や奥のところが危険。奥は1枚もらっているにもかかわらず、背後からのファール。 「ヤバイ!!」 だが、カードは出ない。 「こりゃ、どんなファールも警告になりそうな雰囲気だ。」 「う〜ん、でも、どんなファールも警告をもらわないような気もする。」 こうなれば奥谷さんは味方だ。 「何としても勝たなければならない試合展開だ。」 「ところで、磐田の選手は、ちょっとのことでカードがすぐ出るのに、なんで、あんなに長い間に抗議していた松田にはカードは出ないんだ?」 「もの凄く丁寧な敬語でも使っていたとしか考えられん。」 「いや、松田は普通に抗議していたのかもしれないが、磐田の選手は、全ての抗議に奥谷さんの身体的特徴を卑下する言葉が混じっていたのかもしれない。」 「しかし、不思議な判定だ。」 と言っているうちにまたファール。磐田の選手が不満げだ。 「さぁ。文句があったら抗議しろ!!」 もう一人の主役は得点した西野だ。 この男は、松田を怒らせただけじゃない。スタンドをも何度も怒らせる。そういえば、開幕戦でも大暴れだった。肘打ちなどは朝飯前。鹿島スタイルの磐田の選手は珍しい。柳との左サイドでの競り合いで柳のユニフォームを掴む。度重なるアンフェアな試合態度に切れた柳が掴んだユニフォームの手を振り解く勢いで西野を殴る。その手が当たったか当たっていないかはわからない。だが、大きなモーションで手が西野に飛んでいく。 「あ〜とうとうやっちまったぁ。」 「だめだ、退場かも。」 当然、磐田の選手が奥谷さんに迫る。うなずく奥谷さん。当事者の柳は、その間にその場を立ち去る。ボランチではなく右サイドバックの位置にまで逃げるのではないかと思える逃げ足。カードは出なかった。 「え〜!?当たっても当たって無くても警告なんじゃないの?」 「今のは、マジで抗議しろよ磐田!」 「もっと文句言え!」 と、煽るが、突如、もう一方の当事者の西野が倒れた。 「おい、今頃倒れるヤツがあるか!?」 「お前、貧血か!」 「朝飯喰ってきたのか!?」 「ヤマハの工場で修理してもらえ!」 「でも、お盆休みだ!!」 そして、もの凄いブーイング。一度、外に出るが、当然のこと、すぐに立ち上がる。一段とブーイングが増す。そして、さすがは味方だ、奥谷さん。厳密にルールを適用したまでとはいえ、立ち上がった西野をフィールドに入れる許可を出さない。これにはスタンド大喜び。たまらず、磐田はボールを自ら外に出す。ここで、西野がフィールドに入る許可を受ける。再びブーイング。 押し続けた前半。最後に逃したチャンスはユキヒコのヘッド。全くのフリーで枠を僅かに外れる。やはりというか、このシュートミスは痛かった。 後半開始早々。決定的なチャンスはドゥトラから。 逆サイドの久保が至近距離からヘッドでシュート。惜しくもヴァンズワムが弾く。後半も怒濤の攻撃の始まり。逆にピンチは西野がどフリーの一対一を宇宙開発した一度だけ。打たれたシュートは、その一本のみ。あとは、攻撃あるのみ。 後半開始から清水を投入しダイヤモンド型の攻撃体型に。しかも、ワンボランチは奥。低い位置から柳よりも早展開で左右にタクトを振るう。清水はトップ下。左サイドのドゥトラは上がりっぱなし。大きく前にボールを送り込んでから走り込むようなドリブルで再三再四の突破。左サイドは完全に崩す。最終ラインはドゥトラを除く3枚。松田、中沢、柳、だが、松田が攻撃に出ていくために、実質的には2枚。時たま、中沢の1人で守る時間帯も発生する。何が何でも得点する意気込みが見える。磐田は下がって守りを固める。中盤にスペースが出きるからボールが動く。それでも、時折、中盤で一気に前に出てプレッシャーをかけてくるときがある。余裕でボールをキープしていても、蹴ろうとしたときには、もう、目の前に磐田の選手がいる。ボールが脚に当たって奪われる。このタイミングは、やはり磐田ならではのクオリティだ。 後半が始まってすぐに、ゴールまでのフリーキックのチャンス。ここで自然に始まった拍手、手拍子。2階席も一斉に揃った大きな音。神戸戦は大きな財産だ。こんなに大きな手拍子が12000人で出せるなんて。 ハーフタイムを挟んでもトリコロールの勢いは増すばかり。磐田のファールは激しさをさらに増す。掴む、押し倒す。 「おい!ラグビー部!!」 記録以上に圧倒的に押し込んでいた。 記録上ではシュート数は13対4。だが、実際の印象はそれ以上だ。なぜなら、ゴール前の混戦でパチンコ状態になって跳ね返され、記録に計上されていないシュートも多数。跳ね返されるどころか、信じられない方向へ飛ぶシュートもある。さらには、決定期に空振りが三度。絶好機に久保の右脚側にボールが来たのは不運だった。されには強い印象を残す数々の宇宙開発。ユキヒコに代わって入った坂田も、凄い弾道でシュートを飛ばす。サイドからのクロスだけではない。奥やマルキーニョスがクサビに入って中央のパス交換で突破を図るシーンは新鮮。 西野と松田。後半は奥谷さんから主役を奪う。 西野は凄い。ペナルティエリア内のシミュレーションの倒れ方は、またしても貧血のようだった。奥谷さんは、すぐに試合を止めてカードを出す。あまりの素早いカードに腹を抱えて笑う。 「西野!お前、ほんとに磐田の選手なのか!?」 さらに、終盤、ボールを競り合う西野と松田。あまりに簡単に松田がボールを奪い、取り残された西野が力無く倒れたものだから、スタジアムが静まり返ってしまう。そして、一瞬遅れて、トリコロールのゴール裏から「え〜?」というギャル声。 「なんか、凄いぞ西野。」 「見事にスタジアムが凍った。」 奪った松田は失点時以外は、全くのフィールドの王様。西野からだけでなく、突破のグラウにも後ろから追いついてボールを奪う。警告ギリギリの後ろからのスライディングに肝を冷やされたが。 その松田が、またまた切れた。浮き球の奪い合いで判定は磐田ボール。コーンかドリンクボトルを蹴り上げて磐田ベンチに。これは、副審が旗を大きく振って奥谷さんにアピール。いくら味方の奥谷さんとはいえ、キッチリとカードが出る。もったいない。味方を困らせるな。 終盤には柳をトップにあげて放り込みで勝負。ドンぴしゃで柳からヘッドで久保にボールが渡るが、このシュートも枠を捉えない。何度となく繰り返されたシュートミスは最後まで続く。結局、ゴールネットは揺れなかった。と言うより、ゴールの方向にボールがほとんど飛ばなかった。 ブーイングと拍手が交錯するスタンド。「弱い」という声と「攻めはよかったじゃん」という声。評価は様々割れるだろう。だが、真理は一つ。この試合の残り時間は、まだ90分あるということ。日産70周年Tシャツを着た親子にとっては先週とはうって変わって、微かに甘みのある、ほろ苦い夏休みの思い出となった。 今日のポイント ●凄い歓声だった選手紹介の時の中沢。 ●藤田抜きの磐田は大丈夫か。 ●終盤に登場し、とんでもないミスキックを連発した三上。 だが、指示を忠実に守って何度か素早くアーリークロスを放り込んだ。 ●まったくムダだった「気になる他会場の経過」というハーフタイムのアナウンス。 今日のお値段
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