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![]() J1リーグ 2nd stage 第11節 セレッソ大阪 『落日の死闘』 10月26日。18年前の今日、同じ国立競技場で、同じように阪神タイガースが日本シリーズを争うそのとき、木村和司のフリーキックが韓国ゴールネットを揺らした。長く日本サッカー史に刻まれる歴史的な美しいゴールの瞬間だ。 10月26日。10年前の今日、ドーハで、カズはこぼれてきたボールをそらす、が、再び自らの前に転がってきたボールを蹴りこみ、韓国ゴールネットを揺らした。インタビューで涙を流したカズと日本が迎える未来には『ドーハの悲劇』が待っていた。 そして2003年10月26日。私たちは韓国人の魂に熱狂する。 前日の土曜日に優勝争いのライバルは総崩れ。強豪達の待つ11月を前にして、フッと気が抜けかねないセカンドステージ最下位との対戦。不安はある。トリコロールは、常にこのような場面で星を落としてきた。だが、自信もある。今年は、これまでとは違う。常勝を目指したチーム。浮かれすぎない余裕と、伝統を心の隅にしまい込むかすかな不安との微妙なバランスの中でキックオフの笛が鳴る。 まったくの逆光。影絵芝居のような選手達の動きの中で奥谷主審の頭が輝く。 他は背番号もユニフォームの色も見分けが付きにくい。ただ、ボールは自陣にあることが多い。予想に反して押し込まれる立ち上がりとなる。夕日の眩しさの向こうからオフサイドラインをかいくぐって飛び込んでくる小柄な男。そこに打ち込まれるクロス。ダイビングヘッドで放たれたシュートは外れるが、かなり危険だ。 「だけど良いモノ見ちゃったって感じだね。」 森島らしいプレーを見ることは失点しない限りは嬉しいこと。しかし、捕まえきれないディフェンスに不安が募る。大久保は消えている。だが、消えてしまっているのではなく、意識的に下がっているのだろう。 ゲームプランはあっという間に崩れる。 全く意味のない悪質なタックルは一発退場でも文句は言えまい。シルエットのはずだった奥谷主審の右手に、はっきりと赤いカードが見えた。そして、その直後の失点。予想もしなかった展開。ゴールネットを揺らしたゴールはネットの中からなのか上からだったのか、見分けがつかないほどの絶妙なループシュート。 「畜生、悔しいけどうまい。」 「その前の守備が軽すぎた。」 試合は開始早々から荒れ模様。カードが乱れ飛ぶ。ただし、カード乱発なのではない。悪質なファールが乱発されたのだ。 「きたねぇぞ!」 「カード出せ!」 カードが出る。 「当然だ!!」 セレッソの悪質ファールに対してのカードに納得。 「馬鹿!!」 「なんてことするんだ!!」 カードが出る。 「当然だろ!!馬鹿らしいことするな!」 味方にも同様。その繰り返し。これだけ的確にカードを出して警告し、時には口頭で注意もしながらゲームをコントロールしようとした奥谷主審にも手に負えない。 坊ちゃんを思わせる左のアウトサイドでスルーパスは対角線上のマルキーニョスに送られる。 ドリブルで攻め上がり、ディフェンダーを引きつけての必殺のスルーパス。このとき、すでにドゥトラは左サイドバックではない。そしてボールを受けたマルキーニョスはゴールに向かってのドリブル。左隅に流し込む。 「よ〜し!!」 このゴールの瞬間。喜びよりも「やれやれ、なんとか同点だ。」という感情が主だっただろう。ここで勝ち点を失うわけにはいかないのだ。五割減の喜びの後に安堵の時間は長くない。必要なのは勝ち点3だ。 緊迫感が増したのはボールと関係のないところでドゥトラが倒れたときだ。ほとんどの人は、何がおきたのかを見ていない。長い時間、倒れたまま動かない。 「どうせ何かやったのは大久保だろ!!きたねぇな大久保!!」 何の根拠もないが、とりあえず大久保攻撃だ。ところが、しばらくすると大久保が倒れたままのドゥトラのもとに寄って来るではないか。 「やっぱりてめえがやったのか!!大久保ゆるさねぇぞ!!」 なんとか一人少ない状況の中で同点に追いつき、ハーフタイムで建て直しをすれば勝つこともできるだろうと考えた。だが、それは危険な時間帯。前半の残り5分を切ると、中盤でのマークが甘くなる。大久保が前を向いてボールを受けてドリブルすることも増える。中盤が自由になる。コースが空く。ミドルから撃たれる。まさかというか、やはりというか、榎本がぽろりとこぼす。そこに走り込んできてプッシュしたのは、森島に代わって入っていた徳重だった。 またしても静まるスタジアム。そしてため息。一呼吸を置いてから出た言葉は 「なんてこった!トヨタグループのデンソウのヤツにやられちまった!!」 オフサイドを主張する仲間もいる。だが後の祭りだ。 後半は予想外の展開。きっかけは岡田采配。 獲れそうだが獲れない。いつものパターンだ。このままでは時間がなくなる。そんなとき、右サイドでゴールライン際まで持ち込んだ久保。左脚で撃てない。右脚に持ち替える。そして倒れる。ペナルティエリアの中だ。駆け寄る奥谷さんの右手にはカード。これも当然だ。久保が飛ぶときは背中の角度がみな同じ。 「お前の身体能力で、そんなに吹っ飛ばされるわけないだろ!!」 「もう、見飽きたよ、そのダイビング!!」 「ちゃんと勝負しろ!シュートを撃てよ!!」 その罵声には、次のプレーではシュートをゴールに叩き込んでくれるのではないかというエースに向けた檄が含まれていたはずだ。だが、あっさりと、久保を見切った男がいたのだ。このプレーの後に岡田監督は動いた。坂田の投入。久保は見切られたのだ。闘わないものは使わないのが岡田采配だ。これで、この試合のテーマは決まった。とにかく勝負、前へ突破だ。 そして、もう一人、試合終盤に向けて火を着けた男がいた。榎本だ。好セーブを2連発。しかも手を蹴られて脱臼。痛みをこらえて立ち上がると、逆サイドまで振られるクロス。素早く身体を寄せてはじき返す。 「うぉ〜!すげぇ!!」 前半のキャッチミスこそあったものの、後半の榎本は多田に劣らない気迫と技を見せた。 「カード多い試合だよなぁ。」 「でも、カード出さなきゃならない反則ばかりだから仕方ないよな。」 ところが、もう一枚もらってほしい男がいた。悪童『和製オルテガ』大久保だ。後半にはいると大久保が転ぶ回数が増える。とにかく痛がって転がる。奥谷主審にカードを要求する。しかし、カードが出ないのが分かると起きあがって抗議するのだ。 どうしても追いつきたい。どうしても勝ちたい。その想いが選んだ選択肢は多くの仲間と共通だった。 「よし!大久保!!抗議しろ!抗議!」 「お前の言うことは正しいぞ!大久保!!」 「オレも同感だ!!」 「今のはカードだと思うぞ!!!言って良い!!」 「ついでに奥谷さんにハゲって言え!!!!」 大久保の汚らわしい振る舞いにいらつきながらも、時間は進みゴールへの距離は縮まる。ほんのあと少しが超えられない。マルキーニョスは盛んにドリブルで仕掛ける。ドゥトラはウルトラ級の大活躍。柳相鉄は右サイドバックでありながら左サイドでオフサイドにかかる。斜めにフィールドを縦断してポジションに戻る姿に出た声は 「お前、その動きは主審だよ。」 「サンチョル頼む!」 とにかく、早い時間に追いつかなければならない。とても、この運動量で最後まで攻めきれるとは思えないからだ。激しすぎる。坂田の投入、阿部の投入で、リスクを省みずに前へ進む。最後尾は中沢と栗原に任せる。柳もトップに上がる。僅かにポストの左をかすめるヘディングシュート、多田が出した足に不運にも当たってしまった地を這うシュート。あと一押しの空中戦。そのたびに、跳びはねて絶叫する。あと少し、あと少しなのだ。 マルキーニョスは、やや右から起点になる。柳が中央に来る場面が増える。左から中央にかけてはドゥトラ。ドゥトラが上がってくるとカバーに行くのは坂田。そう、坂田の方が後ろのポジションに入るシーンもある。奥もタイミングを計ってから前線にロングボールを送ってくる。乱戦になりながら、気迫に美しさもかいま見れる総攻撃。だが、気が付いた。 「阿部は何処にいるんだ?」 後方からのボールを追ってディフェンスラインの裏に走り込むマルキーニョス。中央に駆け込む柳。中央にも入ってくるドゥトラ。左サイドを使う坂田。気迫で動き回る選手達の中にあって、阿部は居場所を失っているように見える。すでに選手は一人少ないのだが、機能していない選手が一人いる。このスクランブルの状態で、これまでの経験値から、いるべき場所を見つけられなかったのだろう。主に阿部は奥の前にいた。だが、ここはセレッソにボールを奪われた際は、まず始めにアタックをかけなければならない場所でもあった。後方の守備は手薄だ。だから、阿部はカウンターに来るセレッソの選手を追って自陣にまで、いやペナルティエリア付近まで戻らなければならなかった。 「阿部、そこじゃない!もっと前だ!!」 だが、その声援も虚しく、守備に走る。そして、トリコロールのボールになる。 「阿部、急げ!!ゴール前に走り込め!!!」 無理な話だ。 「頼む!頑張ってくれ!!阿部!!!」 お願いの絶叫になる。 「早く追いつけよ!こんな激しい試合、最後までもたないかもしれないんだから。」 時間が少なくなる。大久保が倒れる回数が増える。もう構って入られない。 「ほっとけ!」 「じゃまだ、蹴り出せ!!」 「その場に埋めろ!!!」 とにかく残された時間で最悪でも同点には追いつかなければならないのだ。 何度も跳ね返される攻撃。 「こんなのダメだよ!絶対にゴールしないと!!」 右のマルキーニョス、左のドゥトラ、ともに角度があれば安易なクロスは狙わない。選択するのはシュートだ。たとえは入らなくても誰かが跳ね返りを押し込んでくれればいい。誰かが途中でコースを変えてくれればいい。気迫の乗り移ったボールは地を這うようにゴールに迫る。 マルキーニョスのシュートがポストを叩く。 「あ〜!」 これは何度目だろう、今日、身体を宙に浮かして悔しがったのは。 気が付けば、座席とは数段違う椅子の上にいた人がいる。見知らぬ人と抱き合っている人がいる。目の前を涙で曇らせ、その視界の間近に椅子があった人がいる。友達の身体に押しつぶされている人も。気が付けば同点だった。 「さぁ行け!」 「もう一点獲れる!!」 国立競技場とはいえホームの大声援と手拍子が後押しする。が、ここからは一進一退だ。そう簡単にはゴールは割れない。結局は引き分け。 試合終了を告げるホイッスルが鳴るとため息。地面にひれ伏す選手もいる。一呼吸を置いた後に賞賛の拍手が鳴り響く。スタンドへ向かう疲労困憊の選手達。選手達が去るまで拍手は鳴り響く。勝ち点を失ったことを忘れて、スタンドはトリコロールの勇者達を称える。 「そんな顔するなよ!精一杯の試合をしたじゃないか!!」 「ここからが本当の戦いだ!強豪相手の11月だぞ!!」 「いやぁ、凄い試合だった。」 「追いつかなかった選手達はどうなっちゃうんだろうって思ったよ。」 「感動した。」 「この試合で追いついたのは大きいよ。完全優勝の資格有りだ。」 「でも、引き分けの価値は次の試合で決まるんだよ。いや、最後に勝ち残ってこそ引き分けの価値が語られるんだよ。」 席を立つことができない。今日の試合の意味を語る。 「ところでさぁ、教えてほしいんだけど・・・サンチョルは頭で決めたの?足で決めたの?」 「え?いや、よく解らない。」 「っていうか、サンチョルってコールしてるからサンチョルだと思うんだけど。」 「オレも覚えていないな。」 「確かポストに当たって・・・。」 「あつポストに当たったのは覚えてる。」 「え?ポストに当たった流れで入ったの?」 「たしか、その後、こぼれ玉を押し込んだはずだよ。」 試合後に行われるイベント「ドーハナイト」のために渋谷の「いなば」コアメンバー達は向かう。そこでテレビに映し出された速報Jリーグの画面。映し出されたのは那須のクロスを思いっきり気迫と共にゴールに頭で叩き込んだ柳相鉄の姿があった。 その後、30数名で貸し切られた「いなば」で「ドーハの悲劇」のビデオを見ながら、韓国に勝利して大喜びした10年前、たった1本のフリーキックが伝説となるほどに歯が立たなかった18年前の今日を語った。 今日のポイント ●シュートが乱れ飛ぶ興奮の試合。 ●両サイドは攻撃。中沢と栗原だけで最後は守りきった。 ●得点後の柳にはカードを出さなかった奥谷主審。 ビデオで見たら看板を超えるどころかマリノスケと抱擁まで。 ●ハーフタイムに大きな仕事をしたマリノスケ。 ●ボンバーヘアーのダンサーが踊り狂うくらいの演出がなければどうにもならなかったmc AT。 ●日本の恥への昇華を予感させる大久保の行動。 今日のお値段
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