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2階の目線 2階の目線2012

受け継がれる力 0-0 清水(アウスタ)
2012年5月26日 石井和裕

日本平は、日本で最も眺望の開けたスタジアムだ。天候条件が良ければ、駿河湾の向こうに大きく富士山を望める。この日の天候と同様に、晴れて暑い中で、両チームスコアレスのドローとなり、先行きの眺望は良好とはいかなかったが、それでも、どちらかといえば、その先行きの明るさはトリコロールに軍配が上がる。けっして、清水の出来が悪かったわけではない。我々が失点を許さなかったのだ。

勝ち点を2つ失った印象が強い。
「勝てた試合だったなー。」
「もうちょっとやりようがあっただろう。」
「実に勿体無い試合だったよー。」
口々に悔しい言葉を並べる。

小椋の怪我はアクシデントだった。しかし狩野の起用は予想通りといえば予想通り、いや、予想を更に悪い方向で裏切った。
「なんで狩野なんだろうねー。」
「まったく、危機感のない人なんだよね。」
「あの抜かれ方はビックリしたね。」
「パスも適当だし。」
「狩野に期待している人は、いつの狩野をイメージしているんだろうね。」
「狩野が良かった頃なんて、もう思い出せないよ。」
「途中から出てきて、オフサイドポジションを歩いているのを見たときは飽きれたよ。」
「あの瞬間、石井さん、キレましたね。」
「しかも、マルキーニョスの前を横切りやがって、もう、邪魔なんだよ。」
「あれで、シュートのタイミングを失ったよなー。」
激戦の好ゲームは、一人の選手のプレーだけで後味の悪いものになっていた。

そんな悪い印象に振り回されそうだが、冷静に振り返れば、この試合の価値が蘇る。倒れても立ち上がり、身を投げ出してチャレンジし、ピッチを走り回る選手たちに涙がこぼれた。
「撃て!」
「行け!」
「良し!」
「頼むぞ!」
プレーにスタンドが揺れる。外れたシュートに嘆き、もらったカードに頭を抱える。オレンジ色に染まったアウエーで、思う存分、仲間たちと声を張り上げられるのはJリーグサポーターの喜び。魅力がいっぱい詰まった濃厚な90分間となった。

「樋口さんは、ドゥトラを下げられなかったなー。」
「60分位で、やっぱり、みんなの言うように下げるべきだったんだよ。」
後半、ドゥトラの足が止まった。前への推進力を失っただけではない。守備でも、全く対応を出来なくなる。
「替えろよ。替えないとダメだって。」
「このままじゃジリ貧になるぞ。」
「押し込まれる一方になる。」
ドゥトラのカバーのために中澤が左サイドバックの位置でボールを処理することが増える。中央を手薄にすることは出来ない。ボランチが下がる。途中出場の谷口も守備への配慮をしながらのプレーになる。こういうとき頼りになるはずの兵頭は怪我後のコンディションが原因なのか途中交代。悪循環の結果が後半の大苦戦だった。

前半に再三再四、清水はドゥトラの裏を狙ってきた。幸い、失点することはなかったが、この攻撃への対応が悪循環を生み出した。樋口監督は悩んだ。ベンチの前で長時間、ずっと悩んだ。しかし、結論はドゥトラのフル出場だった。
「樋口さん、悩んだなー。谷口の使い方とセットで悩んだんだろうなー。」

トリコロールの守備戦術は浦和戦で一つの完成形に至った。この守備の美しさと面白さを楽しむには、バックスタンドよりも、むしろゴール裏をお勧めしたい。トリコロールの機能美は精密機械のごとく敵の侵入に蓋をする。敵の陣形に合わせて、ときには442で、また、ときには4231で、右に左にポジションを動かしながらパスの出どころを抑え込む。遠く広島でのアウエーゲームに遠征をしなかったサポーターも、この動きを見れば、好調な広島に完勝したことが必然であったことが解るだろう。

そして、この守備は、堅守を愛し続けたサポーターによって支えられている。素早くパスコースを限定する、ディフェンスラインからゴールキーパーにボールが下がる、その苦悩のパス回しを生み出した労を惜しまない守備に対して拍手が起きる。これは、我々が引き継いできた伝統でありスタイルだ。

勝てなかった。試合に入れなかった選手もいる。しかし、トリコロールは立ち止まらない。一歩一歩、前進している。全く勝てなかった連続未勝利の期間中も、歩みを止めなかった成果がピッチに現れている。我々は、まだまだ強くなる。鮪の頭肉の大トロを味わいながら、未来のことを想った。



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題字:書道家うどよしさんに書いていただきました。