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2階の目線 2階の目線2012

背負っている 2-1 鹿島(鹿島)
2012年9月22日 石井和裕

その瞬間に涙が溢れ出す。そんなゴールとの遭遇は、フットボールライフにおいて最も幸せな瞬間だ。ましてや、トリコロールの置かれた現状は、優勝争いでもなく、残留争いでもない。そして、大逆転のゴールでも芸術的なビューティフルゴールでもない。それでも、鹿島で、私たちの目の前に映し出された2点目は、間違えなく今期のベストゴールだ。魂を揺さぶられ、涙を溢れさせ、スタンドを震撼させたのは、クラブを背負う若者とベテランだった。

小野ユウジーニョは10番を背負い、いつしか、クラブの全てを背負うようになった。前任者である木村和司監督の唯一最大の功績は、トリコロールの背番号10の重みと責任を、10代の若者に伝えたことにある。昨年シーズン半ばにして出場機会を失ったユウジーニョは、プレースタイルをランクアップさせて帰ってきた。プレースタイルだけではなく言葉遣いもインタビューの内容も豹変した。そして、シーズン終盤の天皇杯ではゴールゲットし厳しい闘いを勝ち進む原動力となった。もはや、彼を「19歳ながら」と前置して語る者はいない。
「すげーぞ!」
「こういうのを見たかったんだよ!」
「よく頑張った!」
アウエースタンドは絶叫した。

そして、鹿島のゴールにボールを叩き込んだのは、長くトリコロールと日本代表の10番を背負ってきた中村大先生だった。全盛期のキレの良いドリブルこそなくなったが今でも、一瞬の輝きを放つ左足。そして、攻撃的なポジションの選手では最も守備で計算が立つ。誰よりも長い距離を走る大黒柱だ。

さらに、もう一人、多くを背負った選手がいる。それは富澤だ。彼こそが、この試合のMVPだ。中澤と栗原不在。そんな試合でGKを変えるという常識破りの監督采配で、通常よりも更に多くの負担を強いられることになったが、その重圧を感じさせない生き生きとしたプレーっぷり。さすがは読売で主将を張った男だ。中澤・栗原と比較するとあきらかに浅いディフェンスライン。大きな身振りと声で、けっして後ろに下げない。コンパクトに保たれたツーラインのポジションは鹿島の自由を奪う。ドゥトラは長い距離を走らなくても良い。動きは衰えない。淡白なプレーを繰り返す学に、やや問題はあるが、チーム全体としては、すっかり堅守を取り戻した。サッカーは何が良い方に転ぶきっかけになるか解らないものだ。主将を捨てトリコロールにやって来た男は、加入して一年も経たずに、サポーターにとっては欠かすことの出来ない大きな存在となった。フィジカル、テクニック、スピリッツ、どれをとっても一級品だ。そして、まだ、一流品に磨き上げるチャンスがある。

今シーズン、ほとんど良いプレーを披露できていなかった選手の一人はアンドリュー。彼の前にズバッと縦に飛び込む守備は移籍してきたばかりの頃の小椋を思い浮かべさせる。そして、若い頃の井原正巳にも似ている。しかし、あまりにリスキーすぎる守備は「起用は時期尚早」の意見を生み出してた。しかし、この試合ではボランチ、いや、前半の途中間では「フォアリベロ」のポジションで的確なプレーを披露した。相手ボールになればボランチ。しかし、マイボールになれば最終ラインに下がる。富澤と青山を左右に従えて中央からボールを配給する。最終ラインからのゲームメイクで、樋口さんの志向する小林とドゥトラが同時に高い位置をとる布陣が形成される。後ろに3人いるならば、小林もドゥトラも同時に上がることができるのだ。やっと樋口さんのオプション戦術が公式戦で披露されたことに、試合中でも安堵のムード。しかも初ゴール。アンドリュー自身も確かな手応えを感じた初めての試合になったのではないだろうか。

アウエースタンドはびっしり。ピッチを見下ろし声援をおくる。ここまでの連敗で、多くを望まないサポーターも多いだろう。だからといって、声援を弱める訳ではない。だが、多少のことは仕方が無い、という覚悟は心の片隅の何処かにある。マルキーニョスの退場に私たちは寛大だった。誰がどう見ても一発退場の酷いファールだ。罵声が飛び交っても良い場面だ。だが、私たちはマルキーニョスを讃えた。ベテランが、トップの位置から全力疾走で学を抜いて追いついた。かわされても食らいついた。そこまでやったのだから仕方ない。マルキーニョスを讃えるしかなかったのだ。退場になったマルキーニョスは試合中、階段の途中で多くの時間を、ゴール裏スタンドを眺めることに費やした。

マルキーニョスの退場によって負担をさらに背負わされたのはユウジーニョだった。だが、彼には、もうすでに、その覚悟は十分すぎるくらいに出来上がっていただろう。
「岩政!お前、小野になだめられるなんて恥ずかしいぞ!」
という野次は前半大詰めのトピックスだった。前半から判定に苛立っていた岩政と偽ドゥトラ、偽レナトは、早々にピッチを去っていった。一方のユウジーニョは終盤に脚の状態を樋口さんと相談しながらプレーし、賞賛の拍手に送られてピッチを去った。

直後に失点。うつむきそうな展開。だが、ユウジーニョはコーチングエリアで握りこぶしを突き出してピッチの仲間に声をかける。手を打って叫んで勇気づける。ユウジーニョは、ピッチの外でもクラブの全てを背負っている。ふと思った。かつてのイタリア代表のゾラやマンチーニのように、代表では核になることは出来ないが、所属クラブでは、全てを象徴する中心選手になっていくのではないか。急にそんなことを思った。プレースタイルから「中村俊輔とは違うタイプの10番」といわれたユウジーニョは、これまでとは全く違ったトリコロールの10番になる。そう確信した。

奮闘した哲也。あの飛び出しがなければ勝利はなかった。慌てずに終盤を引き締めた飯倉も素晴らしかった。無駄に動かなかった樋口監督の選手交代も褒められるべきだろう(大黒のベンチ外には納得がいかないが)。そして、もう一人、褒めるべきなのは主審の広瀬さんだ。少しポジショニングに何がありアドバンテージのミスもあった。しかし、全体的には見事にゲームをコントロールしていた。鹿島のアピールに負けることなく適切なジャッジ。。広瀬さんは、大きな身振りと声で判定の基準と判断を解りやすく伝えてくれた。動きはコッリーナさんに似ている。真似しているのだろうか判定にクレームをつけて冷静なプレーを見失ない途中交代した岩政は敗者だ。

試合後、興奮冷めあらぬスタンドから引きあげようと階段を降りると、ゲートの前でゴール裏コアゾーンの仲間が私を見つける。何か言葉をかわそうと思ったが、言葉は不要だった。私が口を開く前に突然始まった。
「鹿島メルダー!鹿島メルダー!」
すっかりお馴染みになっていた鹿島メルダの歌。あっという間に大合唱だ。オリベイラがいなくなって、この歌を久々にスタジアムで歌えるようになった。
「おい、おい、おーい!俺の顔見たら、いきなり『鹿島メルダ』かよ!」
「しょーがいないよ、もう、そういうもんなんだから。」
「そう、そう、しょうがなっいって。」

Jリーグ20周年。私もとんでもないものを背負ったようだ。








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題字:書道家うどよしさんに書いていただきました。