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『伝統』
高木知行


2002シーズンに向けて、新しいユニフォームが発表された。ひとめ見て気に入らなかった。なにかが違う…。確かに斬新なイメージチェンジと言えるだろう。これまでのチームカラーを脱ぎ捨ててしまったかのような変わり様だ。決して、今までのユニフォームに満ち足りていた訳ではない。だが、今までのトップ(上着)の様に、ベースのブルーに必ずトリコロールカラーが入って、「NISSAN」の文字が黄色、というユニフォームに愛着や誇りを持っていた。2001シーズンに、「NISSAN」の文字が白色に変更されても、まだ「なんか違うなぁ(笑)」程度の感想しかなかったのだが…

新しいユニフォームの画像を眺め、ふと目に入った紹介文を読んで愕然となった。
     【チーム設立10周年を記念して、従来のマリノスらしさを残しながらも、
新しいイメージを採用しました。今回の新ユニフォームは…】
     【また、本年はチーム設立10周年を記念して、ホーム…ユニフォームの全てに
「10th Anniversary」の文字が入ります。】
見間違いだと思い、何度読み直しても、目に入ってくるのは「設立10周年」という文字…。

思えば17年前、僕はブルーに黄色文字「NISSAN」のユニフォームに袖を通した。中学生となり、それまで入っていた地域クラブを辞めてまで入ったサッカースクール。当時の少年漫画によって人気が出てきたとはいえ、まだまだ圧倒的な野球人気の中、サッカーボールを追いかけ廻し、たいして上手くも無いのに、声を張り上げ、夢中になってプレーしていた。今でいうトップチームには、憧れだった金田や木村などがいて…当時の僕らのチームは酷く弱かったが、そんな僕らにもプレーする楽しさを教えてくれた。結局、高校に入ってすぐ、膝・足首を故障し、クラブを止めてしまったが、僕とクラブの繋がりは切れる事は無かった。余裕があれば、足繁く試合会場に通い、かつて自分が袖を通していたユニフォームを目で追った。自分がプレーする側から、見る側になってようやく、クラブが自分の生まれた年に創立されたことを知る。プレーしていた時には感じなかった感覚…まさに自分の分身の様な・・・自分のすぐ隣を、共に歩んでいるのだという共有感。クラブは、僕とは違い、大きく成長していった。紆余曲折を経て、獲得して行った様々なタイトル。決して多いとは言えない観衆の中での、様々な人々との出会い。やがて、クラブとの共有感を持った仲間が増えてゆく。そんな中、いつしか、クラブは「プロフェッショナル」という高みへ成長していった。名称が変わっても、僕のすぐ隣を共に歩んだクラブに、何ら変わりは無かった…。

僕は今年30歳になる。つまり、「日産自動車サッカー部」が創立されてから、30年経ったのだ。このクラブは、名称を「日産FC横浜マリノス」「横浜マリノス」と変更し、吸収合併という形で「横浜Fマリノス」となり現在も存続している。そう、存続しているのだ。決して、途中で解体されたり、解散・廃部した訳ではない。名称は変わってしまっても、一人の人間が歳をとってゆく様に、成長してきた一つのクラブなのだ。人格を持たせるのであれば、今年30歳になる一人の人間なのである。その人間が、自らの過去を否定してしまうかの様な「設立10周年」という文字。自らの生立ちや、成長過程を全て否定しているのだ。それは、その否定した期間において、共有感を持ったあらゆる人々をも否定している様に聞こえた。自分達がプレーしていた事実を、消し去られた様に見えた。辛くて、悲しくて、涙がこみ上げてきた。

このクラブは、決して古いチームではない。年号だけ見れば、読売クラブはおろか、ヤンマー、古河電工、東洋工業、三菱重工らの方が圧倒的に古くからある。そして、それぞれの黄金期を過ごしてきた。世界各国のクラブから見れば、たかだか30年の歴史など、鼻で笑われてしまうだろう。しかし、その30年という期間で、クラブは成長してきたのだ。2001年シーズンまでに、獲得したタイトルは15個にも及ぶ。だが、どうだろう…「設立10周年」ということならプロ化(会社組織設立)からという事になるが、この10年で獲得したタイトルは4個だけだ。それ以前を否定するという事は、それ以前の11個のタイトルや栄光をも否定している事になる。当時を知る人はおろか、知らない人にとっても、クラブに対する『誇り』であろう「2年連続3冠」や「日産・読売時代」といったものも、関係無いものとなってしまうのだ。ましてや、自分達が築いてきたプレースタイルまで否定する事ができるのか?

こみ上げてきた涙を我慢し、クラブへメールを送る。なぜ、過去を否定するような事をする?なぜ、チームのカラーを大切にしない?なぜ?なぜ?なぜ?…。翌日、再びHPを見ると、紹介文が【また、本年はJリーグ設立10周年を記念して、ホーム…ユニフォームの全てに「10thAnniversary」の文字が入ります。】と変わっていた。多分、僕の様に質疑メールを送った人が、他にも多数いたのだろう。自分の感じていた、考えていた事は全てが間違いではなかったんだと、ほんのすこし嬉しく思えた。だが、取って付けたような言い訳には釈然としない…というか、呆れかえる。せめて「Jリーグ加盟10周年」ぐらいにして欲しかった。「Jリーグ設立10周年」などは、一クラブが記念する事ではない。クラブのフロントには、もっと真剣・純粋にフットボールやクラブを愛して欲しい。誇りを持って欲しい。時には、「そりゃ、ちょっと贔屓目すぎるんじゃなの?」ってぐらいに・・・。


「いつまでも過去の栄光にしがみ付いているのも…なんか…」という声がある。もっともだと思う…大切なのは今であり、これからの事だ。だが、栄光とはステータスである。タイトルを取りたくても、取れないクラブが殆どの中、これだけの実績があるんだ…というステータス。決して、しがみ付いている訳ではなく…自分達の鎧であり、盾であり、剣なのだ。過去の栄光というものが、重荷になる時もあるかもしれない。だが、萎縮しかかった背中を鼓舞し、プライドを昂揚させるチカラというものがあるのだ。それに、縋るものもないと、やってられない時もあるしねぇ・・・。

この30年という時間は、短いのかもしれない。しかし、短いながらも、クラブや自分達が積み上げてきた時間であり、プレーであり、誇り、栄光、時代なのだ。簡単に言ってしまえば…そう…30年という短い時間の中で、築き上げてきた『伝統』・・・。

この原稿を書いている時、石井さんからメールが来た…
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去年、鹿島が先行して10周年イベントをやったのですが
あれは、鹿島らしいクレバーな戦術だと思いました。
会社設立の年(だと思います)でイベントを1年先行して実施してしまう。
なにしろ、鹿島の場合は10周年とすれば設立からずっと上位の
名門強豪チームになり、自身の二部の歴史も葬ることができます。
しかも、他のクラブが見習って10周年と今年からイベントを組んだり
記念グッズを販売すれば、東洋工業の栄光もヤンマーの黄金時代も
三菱の破壊力も、日産・読売時代も全て消し去ることができます。
日本サッカーのタイトルは、ほとんどを鹿島と磐田が独占したことになる。

まんまとマリノスが、その手に乗ってしまったのが残念でなりません。

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見た途端、笑ってしまい…もやもやとしていた気持ちが、ちょっと晴れた。
相変わらず、鹿島は鹿島なんだな・・・と(笑)。