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思い入れ
石井和裕


ワールドカップのメンバーが決まった。坊ちゃんの選手漏れをめぐって、新聞各紙は大きく紙面を割いた。私たちの周辺も騒がしかった。電話取材の中には、抗議行動や騒動を期待している節さえあった。そして、小笠原が選出されていることに不満を持つ者も多い。コスタリカ戦で先発途中交代した小笠原の印象が強いせいもあるだろう。
だが、小笠原と坊ちゃんのどちらが実力的に上か?という論争は少し違うと思うし、このサイトを見ている人の大半は、そのような比較はしていないように思える。マリノスサポーターが小笠原に批判的な面があるのは、肘撃ち、襲撃、掴みといった反則プレーの数々を飄々とこなす鹿島スタイルの象徴としてだろう。しかも、これまで代表では、同じ鹿島の鈴木ほどの存在感はない。

さて、ワールドカップのメンバーは決まった。決まるまでは、この選手は好き・嫌い、機能する・機能しない、といった独自の視点で試合前の選手紹介や試合中にフィールドに声援やブーイングで思いを伝えてきたサポーターも、少し気分を変えなければならない。もう一度言おう。ワールドカップのメンバーは決まったのだ。
今回のメンバーはある意味不幸だ。なぜなら、全てのサッカーファンの意識を一つにまとめる予選を経験していないのだ。つまり、選手達の評価は、その状況と目的によって判断基準が異なる親善試合(練習試合)とJリーグのプレーしかない。だから、各クラブのサポーターの評価基準は一定ではないのだ。だから、この選手とあの選手と、どちらが役に立つかといった疑問の数々に、論理的に結論を出すことは不可能なのだ。
じつは、あれだけの厳しい絶体絶命の境遇を全てのサッカーファンがくぐり抜けてきたにも関わらず、アメリカ大会予選(ドーハ組)よりもマリーシアのコアメンバーではメキシコ大会予選(木村のFK)やイタリア大会予選(水沼スーパーボレー)の方が、遙かに思い入れが深い。だから、今回のメンバーに親しみが湧かないのもよくわかる。予選がない今回は、ともに困難を乗り越えてきた仲間ではないのだから。

しかし、我々が支持してきた監督(少なくとも力づくで更迭させようとまでした人はいなかったはず)が選んだメンバーだ。監督がその人である以上、その監督にメンバー選出は任される。我々の声は外野の声だ。
「代表選手は監督の戦術と好みで選ばれる。選ばれた選手が良い選手で選ばれなかった選手が悪し選手とは限らない。」
私たちの中で、もっともこれを分かりやすく説明した言葉だ。
最終的に選ばれた選手を、私たちは支援するよりほかない。あからさまに批判する場合は、それ相応の覚悟が必要だ。なぜなら、その選手を監督が、どのような理由で選出したかは、監督にしかわからないからだ。
「監督は選考基準と選考理由を堂々と説明すべきだ。」
そう主張する人がいる。だが、その説明をしたとしても、それは上辺のセレモニーでしかない。けっして監督が全てを説明するわけがないからだ。
「この選手は出場はないと思うが強いので練習相手として的確。」
「ベンチで大声を出してくれる。」
そんな説明を監督がするとは思えないだろう。試合に全員が出れるわけではない。だから、そういう面も考慮して23名が選出されているのは間違えない。全員の力を結集して一つのチームだからだ。さらに、言葉で説明できない感覚的な理由もあるだろう。いずれにしても監督が決めるしかないのだ。スペインの前監督のハビエル・クレメンテはフランス大会のGKの選出理由を「同郷のバスク人で友人だから」と公言した。選手選考に納得のいく理由も正義もないのだ。
K林さんの言葉だが
「出てきた選手は頑張るしかない。悪いのは選んだ監督だ。だからできる範囲で頑張ってくれ。」
というものがある。そしてその監督を支持してきたのは私たちなのだ。支持してこなかった人は「支持してこなかった」と考えるより「不支持の世論を盛り上げるまでは至らなかった」と考えることもできるのだ。

いよいよワールドカップが始まる。私は不幸にも、この今だ愛着の湧かない代表チームの試合のチケットを持っていない。だから、テレビの前で好き勝手に見ていればよい。幸運にもチケットを手に入れている人は、精一杯声援してきてほしい。もし、その声援に選考の不満を加える場合は、それ相応の覚悟をすることも忘れなく。

私は壮行試合のスウェーデン戦に青い代表ユニフォームを着て行く。おそらく、それが、最後のトルシエジャパンの試合だろう。これまで選手紹介でしていた鈴木や小笠原や柳沢へのブーイングはしないだろう。彼らにも結果を出してもらわなければ困る。もうメンバーは決まったのだ。私は青い代表ユニフォームを着ていく。選手には精一杯の声援をするだろう。だが、そのユニフォームは、なぜかチャンピオンズリーグのマークの入った1500円の偽物。本当に愛着が湧く代表チームの試合では85年の白い代表ユニフォームで行ったりするのだが。