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石井和裕
店内に進むと、お昼時だけにざわざわと、それでいて程よいボリュームで話声が聞こえてくる。7割くらいの座席は埋まっている。最初に目にとまったのは濃紺のTシャツにブラックのパンツの女性。アップにして覗くうなじもむらなく、程よく夏色に日焼けしている。ひとり。外国人のカップル。麻布十番周辺は大使館や外資系の企業も多い。外国人同士や日本人と外国人のカップルが昼間からラブラブというのも珍しくない。音楽関係者。ビデオ編集スタジオや音声収録スタジオが数多くある。30歳代なのにTシャツにヒゲつら。仕事の会話か夜遊びの会話。 それに、私の勤務先のデザイナーとプランナー。こうしてみると、このエリアには様々な人種がいるものだ、と感心する。特にこの店に密度濃く集まったというわけではない。さて、このレストラン「ユーキ・マーレ」は洋風の内外装の反面、オーナーが八丈島に漁船を持っている、旨い魚を食わせてくれる店だ。船の名前は、たしか、「ゆうき丸」だったか。鰹と鰺の海鮮どんぶりは特にお勧めだ。生姜の使い方が実に絶妙なのだ。だが、今日の注文はマグロのステーキ。洋皿に乗せられた、ワサビ風味の柔らかなソースをつけて食べる。夏の暑さに優しいぴりりとした微かなワサビの味覚が昼のひとときに気持ちを和ませてくれる。 おや、先ほどの濃紺のTシャツの女性が席を立つようだ。上品な仕種が、彼女の家族は代々この地で暮らしているのではないか、と私に自然に想像させる。正円形の吹き抜けに進み、夏の白い日ざしに照らされた彼女の背中に鮮やかに「UENO
6」の文字が白と赤でプリントされていた。
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