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脆弱なプロフェッショナル
石井和裕


川崎フロンターレの阿部が天皇杯に入って得点を重ねている。ゴールするたびに喜びの表情を満面に浮かべ、ベンチに一直線に走ってくる。コーチや控え選手とともに得点の喜びを分かち合う感動のシーンが繰り返される。しかし、彼は来期はフロンターレにはいない。来期の所属クラブも決まっていない。すでに来期の戦力外通知を受けているのだ。
「チグハグ? 天皇杯はいつもこう。しようがない。」坊ちゃんは天皇杯の敗戦後にコメントを求められて語った。契約問題がスムーズではないクラブの実情を知る記者から呼び水のような質問を受けての答えとしても、正直な感想だろう。全く気にしていないのであれば、ノーコメントで済む質問だからだ。かねてから問題視されている契約更改時期の問題。一般に日本のプロ契約は天皇杯決勝戦の1月までと設定されている。その、およそ2ヶ月前に、来シーズンの契約をするかどうかの意向がクラブから選手に言い渡される。天皇杯の決勝トーナメントは、来期の行き場を失った選手や、移籍を虎視眈々と狙う選手が混在する状況で始まる。ジャイアントキリングで下部リーグに敗退するJ1クラブの選手は試合後に必ず契約問題についての質問を受け、現行の契約時期に苦言を呈す。新聞には「モチベーションの低下」「ゴタゴタでやる気ナシ」「伝統のカップ戦の位置づけ」などの見出しが踊る。
プロフェッショナルって何だろう。Jリーグの記事や、選手のコメントを見ていると、世の中一般のプロフェッショナルとの意識の乖離に愕然とする。職場で「プロとしての対応」を上司に意識づけられるのは当たり前のこと。職種に限りはないだろう。ものを作る職種であれば、プロとしての技術が求められるだろうし、営業でも店頭販売でも、お客様に満足していただけるプロとしての対応が求められる。そして、なによ
りも責任と義務は、どのようなプロフェッショナルでも違いはない。たとえば、このようなことがあったらどう思うだろう。
「ある菓子店でケーキを買ったら食中毒にあった。その店の菓子職人は腕が良く、美味いケーキが評判だったが、1年契約で仕事をしていて、まもなく契約満了。店の営業方針もあって、数年間職場としていたこの店と今回は契約を延長できず、ひとまずは店を去ることになっていた。そんなか、契約満了まで1ヶ月、集中力が無く衛生管理を怠って食中毒を起こしてしまった。」
『契約のことが気になっていい仕事が出来なかった。』という言い訳が、その菓子職人に許されるだろうか。彼は、間違えなく刑事罰と民事責任を負わされ、社会的にも反省を求められるだろう。しかしどうだ、Jリーグでは、その言い訳が当たり前のように毎年繰り返されているのだ。選手の契約は1月までであって10月末までではない。11月と12月は契約が切れているわけではない。年俸は12ヶ月分で計算されている。プロフェッショナルとしての義務が生じるのは当然だ。
Jリーグ選手会は、秋春シーズンへの早期移行を提言した。シーズンが春から始まれば、日本リーグの時と同様に天皇杯はシーズン半ばでの決勝トーナメントとなる。これまでのような言い訳は聴かずに済むことになる。選手契約もリーグ終了時期の月末までとなるだろう。

セカンドシリーズの残り3節、大敗した降格ゾーンのクラブの選手がインタビューに答える。
「残留がかかっているけど、この時期は契約のこととかいろいろ難しい・・・。」
想像するだけでも恐ろしい。