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絶望と救い 赤い波に身を委ねて
石井和裕 6月19日

大田での試合の翌日の朝、チケット・プロセッシング・センターに行った。私のチケットはイタリアTST-6C。日本のメディアの記事では、イタリアが敗退した場合はチケットは発券されないことになっていたが、FIFAの文章では発券か払い戻しの選択となっていた。見れるか見れないかわからないと知っていて訪韓した。そして前夜、スタジアムに入って、決してチケット確保で言えば安全とは言えない韓国の勝利を願ってしまった。今、期待と不安を抱いてスマートカードを差し出したが、呆気なくチケット発券はできないことが決まった。

落ち込んでいると、チケット・プロセッシング・センター内のインフォメーションのボランティアの79歳の男性が声をかけてきてくれた。私は、この日は扶余(プヨ)に行こうと思っていた。バスセンターの場所が判らないので教えてもらおうとしたら、タクシーに同乗して教えてくれるとのこと。さらに、バスセンターに着くと、扶余まで同行して案内をしてくれると言う。扶余には大きな博物館があるのと、小高い山を越えたところに絶景があると聞いていた。78歳の方をハイキングに付き合わせることはできないのでかなり迷った。しかし、結局は同行してもらうことになった。絶景がある場所は、日本の歴史教科書にも登場する663年の「白村江(はくすきのえ)の戦い」の古戦場だった。
韓国には割り勘の習慣がない。客人は手厚くかんげいしする。そして、年長者が原則的に一括で支払いをする。私は韓国客とボランティア(ガイド)という関係でありながら、昼食とアイスキャンディーをごちそうしてもらうことになってしまった。

当然チケットの望みが捨てきれない私は扶余の観光を早めに切り上げ18:00にはロッテホテルに帰ってきた。このホテルには関係者やジャーナリストが多いので、夕食時あたりにチケットを持った人と遭遇できるかもしれないと期待した。ロビー脇のビジネスセンターに行くと1人の男性が書類をプリントアウトしていた。プリントアウトが終わると、PCを私に明けてくれた。まずはFIFAのwebにアクセスする。ところが、日本ではイングランドとブラジルの対戦が決まってしまったこともあってビジーでアクセスができない。困った。突然声がかかった。
「チケットを持っていないのか?」
プリントアウトを終えたばかりの男性だ。
「もし持っていないのなら売ってあげるよ。何枚ほしいんだ?今、ドルで払えるならすぐにチケットを渡せるよ。」
一瞬、唖然と固まった私だが、こんな幸運はこの先あり得ない。5分後にロビーで再会することを約束して、私は現金を、男性はチケットを取りに部屋に上がった。
ドルはもちろんウォンの持ち合わせもなかったので円での支払いにしてもらった。定価だった。
「アメリカ人とドイツ人には違う値段で売るよ。ダブルプライスシステムだ。」
なんと、チケットを失ったその日に定価でチケットを入手できるとは。別れ際に、少し小さな声で聞いてみた。
「準決勝のチケットも持っていますか?」
「持っているよ。でも、準決勝は少し高いよ。電話してくれ。」
彼はRから始まる名前の後ろにsanとつけて
「これは日本流ね。」
と笑って携帯電話の電話番号を教えてくれた。
「とても良い席だよ!」
と彼は言ってロビーを離れた。私はこのメモを用心深くパスポートと一緒に保管した。彼・Mr.Rは一見アメリカ人の風貌でアメリカ人らしい名前。だが、チケットには「○○ Island FA」という知らない「○○諸島」の国(もしくは地域)名が記載されていた。謎の男だMr.R。

   (左右)扶余は百済の都。