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![]() ソウルが赤く染まった最後の日 赤い波に身を委ねて 石井和裕 6月25日 いよいよ準決勝の日がやってきた。今日が、韓国でのワールドカップ観戦の最後の試合だ。これまでの精神的にムラのあるイタリア、スペインと違い、堅実で精密機械に例えられる堅実なサッカーするドイツは、これまでに増して苦しい相手。ただ、ホームの勢いというものもあるので期待に胸が膨らむ。が、今日は行きたいところもある。試合は20:30からだ。しかも、スタジアムは近い。これは全土で繰り広げられる祭りだ。 朝からテレビは韓国内各地の中継を行っている。どこも、今日の準決勝が待ち遠しい。大きな道路の交通は遮断され大型スクリーンが設置されている。早くも集まり始めた人々はテレビカメラを向けられて「テーハミングック!」。応援歌を歌う。書道の披露や民族舞踊のパフォーマンスも行われている。 ホテルのロビーに出ると、いつもと様子が少し違う。いつもは身なりの良い外国人達が、みな赤いシャツを着ているからだ。 ソウルに行く度に立ち寄っているが、今回も、やはり景福宮(キョンボックウ)に行く。景福宮は朝鮮王朝の正宮。つまり日本で言えば京都御所のようなものだ。ここを訪れるのは4回目。1回目と2回目には、景福宮の正面に朝鮮総督府跡である博物館があり、市外から景福宮は見えなかった。遮るように日本が建設した建物だった。前回1997年に訪れたときには博物館は取り壊された直後。整地の途中だった。今回は、すっかり跡地は整備され、となりに、別の建物の博物館が完成して公開されていた。歴史は流れている。 景福宮から歩ける距離に仁寺洞(インサドン)という通りがある。この通りには骨董品や雑貨、紙、筆、扇子といった伝統品の小売店が並んでいる。免税店にはない本物の味わいの品が手にはいるため韓国人にも外国人観光客にも人気がある。おそらく、明日、もう一つの準決勝の取材のために日本に跳ぶプレス達や各国協会関係者にとっても土産物を見るわずかな与えられた時間だったようで、歩道にはパスを首から下げたさまざまな国の人々が溢れていた。 それから東大門市場で、必要なモノを買い足してホテルへ戻る。途中で土産にヒディングお面も購入した。 スタジアムへ行く前に、もう一箇所の寄り道をすることにした。例の広場、市役所の前だ。駅を降りると凄い人。地下道にも、モノを売っている人がたくさんいる。地上は、もう真っ赤。だが、予想よりも静か。さすがに準決勝まで来ると慣れてきたのか、誰かが「!・!・!・!!」とクランクションをならしても「テーハミングック!」とは始まらない。まだ試合開始まで4時間以上ある。クルマの通行が止められた太平路で、みな体育座りをしてスタートを待っていた。 ソウルのスタジアムは交通の便がいい。市内の中心部から30分もかからない、地下鉄駅の改札を出ると、すぐ目の前に巨大なスタジアムがある。あまりに近すぎて、逆に帰りには人々が駅に集中してしまうような距離だ。準決勝ともなると、いろいろな国の人々が集まって、ますますスタジアムは混沌としたムードになる。だが、その大半が、今日もBe the REDS !のTシャツを着ている。こちらは今日もマリノスのユニフォームだ。写真を撮っていると声がかかる。一緒に記念撮影をしてほしいという。YOKOHAMAと書かれたマフラーを頭上に広げる。そうなると、次から次へと一緒に写真を撮りたい人が集まってくる。そりゃあそうだ。今日勝てば、韓国代表は本当に横浜へ行くのだから。 「テーハミングック!」 「コリア・ファイティング!」 韓国に来てから何度言ったか判らない合い言葉を挨拶代わりにカメラに向かって笑顔を作る。そうしていると、横浜のスタジアムで会った顔に出会う。マリノスの応援歌を歌える韓国人にも出会う。太鼓まで叩いて彼らは歌い始めるから、こちらも乗って一緒に騒ぐ。日本人も多くいた。Be the REDS !のTシャツを着ている人、日本代表のユニフォームを着ている人、そしてドイツ代表のユニフォームを着ている人。 昨日、MANAというソウルでは著名なデザイナーの設計した洒落たインテリアと建築の焼き肉屋で一緒に食事をしたメンバーのBOTEさん夫婦と落ち合う。スタジアムの周辺が面白すぎて、あっと言う間に時間が過ぎてしまった。 スタンドに足を踏み入れたのは、選手紹介の直前。もう、ほとんどが埋まっている真っ赤なスタンドは、もの凄い迫力だ。このスタジアムは凄い。2階席だって、新横浜と比べると階段の段数は少ないし、なにより見やすい。傾斜が急。ただ、バックスタンド2階席の一部は、前の人の頭が気になるようだ。メインスタンドは全く問題がない。席に座ると、マリノスのユニフォームを脱いで、赤い波に身を委ねることにする。屋根の上には大きな丸い月。 今日も見事な人文字。だがゴール裏最前列の民族衣装の太鼓の男達は、これまでよりもかなり少ない。やはり高価なチケットが入手できなかったようだ。スタジアムの外にはチケットを売ろうとする人々がかなりいた。 試合は、韓国、ドイツともにやや重い動き出し。だが、徐々にスピードが増してくる。オリバー・カーンが決定的なボールを2度、信じられない角度からコーナーキックに逃げる。おそろしやオリバーカーン。やはり、彼は人間離れしている。 どいつは、やはりいつでもドイツ。パス回しは無理がなく美しい。ワントラップ目が性格で、止め方が攻撃的。それを見ると、韓国選手とのスキルの差が目立ってしまう。だが、韓国も激しい動きと中盤のパス回しで対抗する。そしてサイドにボールを送って突破・・・が巧くいかない。ある程度までは持ち込めるのだが、そこから先には進めない。キッチリとボールを1対1から奪う。オフサイドライン以外にも見えないラインがあるようだ。そのラインに来ると、約束通りにボールを奪いに行くかのようだ。そのために、韓国は、ほとんど有効なクロスを入れることができなかった。 「いやぁドイツ凄いよ!」「凄い!」 ばかりを連発してしまった。あまりにドイツという単語が連発されたので、前の席のドイツ人が振り向いた。いや、だから私は韓国人じゃなくって日本人で、オリバー・カーンも大好きで・・・。 今日も見せ場がなかったクローゼ。韓国のテレビ番組では「日本でしか点を取っていない。」と紹介されていた。きょうも、やはりぴりっとせず、ビアホフが登場した。なんと、昨年のミラノ、一昨年のボローニャに続いて三年連続の生ビアホフだ。もう見れないと思っていたのでビックリ。そして、そのビアホフが絶妙のポジショニングをとって、その後ろから入ってきたバラックがゴール。これも凄い、凄すぎるぞドイツ、そしてビアホフ。 韓国も猛攻を浴びせようとアタックするが、これまでほどの迫力は感じない。どうしても、ドイツの精密な守りのマシーンを崩すことができない。止まることを知らなかった「テーハミングック!」の声が、試合終了のホイッスルで終わった。落胆のため息。静けさ。そして拍手。ふたたび「テーハミングック!」の声。予想をはるかに超えた韓国の快進撃は止まった。たくさんの打ち上げ花火が上がった。 試合が終わる。このスタジアムは駅が近すぎるため、一気に人が殺到してしまう。地下鉄駅へ降りるエスカレータの前で、一度列は止められていた。なかなか地下鉄には乗れないことを悟った人々はスタジアムに戻った。地下鉄駅に近いのは、ドイツ人が多く陣取ったゴール裏スタンドだ。すでにメキシコ人を初めとする多くの外国人が、ドイツ人達を囲んでいた。ドイツ人達は、クールダウンのためにフィールドを走る選手に声をかけている。ときおり選手もスタンドに近づいて会話を交わす。歓声が上がり旗が振られる。 ドイツ人達を囲む外国人で最も目立ったのは日本人だ。ドイツ人達に「おめでとう。」と声をかけ、横浜での再会を伝えた。 私のところに1人のボランティアの女の子が近づいてきた。名前はChoi Na-young さん。彼女の申し出を受けて、ボランティア・ユニフォームとマリノスクラブのTシャツを交換した。ユ・サンチョルがエースだったクラブだと教えると、とても喜んでいた。 地下鉄駅の構内では閉鎖空間の響く音響を利用して、ドイツ人達と女の子達が、応援コール合戦を楽しんでいた。明洞の街には、深夜にも関わらず若い韓国人達がたくさんだった。みな、まだまだ、このワールドカップを楽しみたい様子だ。韓国代表は敗れてしまったが、合い言葉だけで誰もがコミュニケーションが取れる、この約1ヶ月間はいつまでも終わってほしくなかった。 食事をし会計に立ったとき、隣の席の男性が私たちに勇気を持って声をかけた。彼と私たちの接点は夕食のテーブルが隣になったこと。彼らが全員帰ったと勘違いし、彼らのテーブルの灰皿を間違えて私たちのテーブルに運んでしまったこと。謝って元のテーブルに戻そうとしたが、そのまま使っていいですよ、と、灰皿を結局は私たちのテーブルで使うことになったこと、ただ、それだけだ。 たどたどしい英語だった。途中、文法が判らず単語が思い出せず・・・。だが、彼の表情と単語のつなぎ合わせで伝わった。 「Worldcup・・・together・・・ワールドカップを共催できて良かったと思っている。」 彼は、そう私たちに伝えた。 店の外には、テーブル椅子を並べて飲んでいるグループがいた。その中の酔った2人の男性が近づいてきた。 「日本人ですか?」 「そうです。日本から来ました。」 「お越しいただいてありがとうございます。でも、今日は負けてしまい申し訳ありませんでした。」 握手され、突然謝られた。 彼の友人達も一緒にニッポンコールが始められた。私たちも来て良かったと心底思った。素直に気持ちを伝えた。彼らの友達が、近くのセブンイレブンから戻ってきた。彼らみんなのアイスキャンディーを買いに行っていたようだ。 「この人達は日本から来た人たちだ。」 そう紹介されて、その友人は、本当は友達のために買ってきたアイスキャンディーを私たち全員にくれた。 「気をつけて!」 「また韓国に来ます!」 「ニッポン!!!ニッポン!!!」 ちょっとうれし涙を流して韓国での最後の夜は更けていった。 ![]() (左)天気が良く絵はがきのような写真が撮れた。 (中)静かな風景。 (右)景福宮の向こうに広がる近代的なソウルの街。 ![]() (左)仁寺洞では陶磁器を購入。 (中)テーマパーク?いや、岩肌のような壁面演出の地下鉄エスカレータ。 (右)フィーヴァー。 ![]() (左)明洞は新宿アルタ付近に似た雰囲気。 (中)ここが話題の市役所前。大阪なら御堂筋くらいのメインストリート。 (右)地下鉄を降りると目の前にスタジアム。エスカレータで上がる。 ![]() (左)知っている顔に今日も再会。 (中)横浜へ行こう!と書いてある。 (右)さまざまパフォーマンスが披露された。 ![]() (左)案内されたゲートはVIPゲートで入れなかった。 同じように引き返す列に元代表のコ・ジョンウォンがいた。 (中)国旗を上手にコーディネイトに活用するコリアン・ギャル。 (右)見やすい上に素晴らしいデザインのスタジアムだ。 ![]() (左)赤い外国人達。右の男は、じつはスコットランド人で、この下にスカートをはいている。 (中)なぜシェフチェンコ? (右)ボランティア・ユニフォームをゲット。交換直後の記念撮影。 ![]() (左)松田のファンと。 (中)いつまでも騒ぐドイツ人、横浜コールも起きた。 試合前に彼らのドイツコールに周囲の韓国人から拍手が起きた。 (右)コリアン・ギャルもアイスキャンディーを食べてニッポン!!!ニッポン!!!。 |