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決勝戦
石井和裕 6月30日

天気予報は雨だった。ワールドカップ決勝戦の朝、抜けない韓国旅行の疲れと久しぶりのオフィスぶりの空気にやられてぐっすりと寝た。目が覚めて慎重に耳に神経を集中する。幸い雨音は感じなかった。外は曇り。なんとか降らずにすんでほしい。そう思った。

東京駅から東海道線に乗る。東京駅付近も、新横浜に向かう外国人がたくさんいる。さすがに決勝戦だ。街の表情も変えてしまう。電車に乗ると、向かいの席にはインドネシア人たちが6名ほどのグループで乗っていた。隣には、明らかに違う国籍の人。向こうの扉付近にはイングランド人がいる。なぜインドネシア人と判ったか、それは私が聞いたからだ。新横浜へ行くという。でも、チケットは持っていないのだそうだ。
「今日の相場は110,000円くらいらしいよ。」
と、1名に教える。すると、みんなあちらの席からこちらの席にやってくる。1年近く日本に住んでいるらしく、使える金はめいっぱい持って行くらしい。
「埼玉の準決勝は安かったらしいよ。」
というと
「そうなんだよ。15,000円くらいだったんだって友達がいっていた。行けばよかった・・・。」
と、とても悔しそう。でも、楽しそうだ。彼らはチケットを持っていないわけで、新横浜へ行ってもスタジアムへは入れるかどうかは判らない。でも、ウキウキワクワクだ。私はたいした情報は提供できないので、自然と今日の試合の予想になる。
「どっちが勝つと思う?」
「う〜ん、ドイツかなぁ。」
「そうだろう!」
急に早口で喋り始めたのは口ひげを生やしドイツのユニフォーム(たぶん2,500円くらい)を着た男性だ。
彼ら全員が無事にスタジアムに入れたのだろうか。

横浜駅での乗り換え。階段で見覚えのある顔に出会う。カシマスタジアムと大田スタジアムで隣の席になった家族だ。なんという偶然だろう。挨拶を交わす。彼らは今日はチケットを持っていないようでスタジアムへ向かう途中ではなかった雰囲気だった。
横浜線に乗る。なぜか、車両を仕切っているのは1名のポーランド人だった。車両の大半はカナリア色のシャツを身にまとった人々。その半数近くはブラジル人。でも、一番声が大きいのは、そのポーランド人だった。
「おい、ブラジル人なのに、電車の中でそんなに静かだと、試合の後に昨日の韓国みたいに泣くことになるぞ。」
とか、まぁ声がでかくてろくでもないことばかり言っている。車内は満員だった。ポーランド人は座っている。目の前に立っている綺麗な日系ブラジル人女性2名に向かって言い出した。
「君たちには2つの選択肢しかない。1つ目は、この俺の右膝の上に座ることだ。2つめは、この俺の左膝の上に座ることだ。さぁ、どっちにする。グァハハハハぁ・・・。」
まったくしょうがないオヤジだ。

スタジアムの周辺はカーニバルだった。ホントにブラジル人は試合前に踊ってるんだ。誰でもかまわず飛びかかってきて踊りの輪に巻き込もうとする連中もいるし、女性を輪の中央に引き込もうとする者もいる。やはりブラジルのワールドカップは華やかだ。ドイツ人は見当たらない。
「すいませ〜ん、どなたかドイツ人を見かけませんでしたかぁ?」
現れたドイツ人グループ。ブラジル人は輪の中に巻き込み踊らせる。拍手、そして握手。

マリーシアのメンバーはチケットを持っている者も持っていない者も集まってきた。約10名。記念撮影をしたり、唄ったり。そしてブラジル人以外が近くに来れば、誰からともなく叫ぶ。メキシコ人がやってくる。
「ビバ!メヒコ!!」
「ウーゴ・サンチェス!!」
ベルギー人がやってきた。
「シーフォ!!」
「パフ〜!」
しかし、なんでまた、みんな80年代の名選手の名前ばかりがすらすらと出てくるのか。

スタジアムへはいると、いつものように知った顔に出会う。しかし、今日は特別な再会があった。韓国の西大田駅で出会ったアメリカ人だ。写真を撮らせてもらったグループの一人が近い席にいた。彼も、私のことを覚えていた。なんでまたアメリカ人と、と思ったが、考えてみればアメリカ人でサッカーファンと言うだけで、かなりのマニアだ。そんなマニアックなファンなら日韓を股に掛けて決勝へやってきても不思議ではないか。

試合は予想に反してドイツの攻勢。ブラジルは、ドイツの組織的なディフェンスの網と守備の個人能力の高さを見せつけられて、効果的な攻めができない。この試合はテレビでだと、すこし退屈だったかもしれない。しかし、スタジアム内は緊張感に包まれてぴりっとした雰囲気。特に両チームともゴールキーパーが素晴らしいから引き締まる。突然やってくる決定期と、それを防ぎきるスーパーセーブがスタジアムを湧かせる。でも、ペースを握るのはドイツ。気が付けば、サンバは微かな音量になっていた。

ゴール裏2階席の掲示板脇で見ていた。後半に入り、リバウドの強烈なシュートがオリバーカーンの懐に収まる。しかし、一呼吸を置いて、ボールが再び姿を見せたと思った直後、走り込んできたロナウドがボールをさらってゴールへ蹴り込んだ。けっして出来が良いとは思えない運動量の少ない怪我上がりの元世界最高の選手が、一瞬の勝負勘で今日もゴールを奪ったのだった。さらに2点目までも。

残り時間は10分程度。2点差。ブラジルのボール回しに、お約束の遊びが出てくる。ドイツは苦しい。ボールに触ることすら難しい。劣勢の決勝戦。こんな時にゴールを奪うことができるのは・・・そう、あの男だ。あの男しかいない。だが、あの男は新横浜のベンチにはいたものの、フィールドに登場することはできなかった。あの男とはルディー・フェラー。残念ながら、今のドイツには、彼のような強烈な決定力を持ったストライカーはいなかった。

試合後に席を立つ者はほとんどいない。みな余韻を楽しみ、カップが掲げられるのを今か今かと待っている。表彰式はフィールドに作られた特設のステージ上で行われた。そこへなぜか突然ゴール裏から乱入者。しかし、警備員と警察官が捕まえて一気にのしかかって押しつぶし。一瞬で運びさってしまった。日本の警察もなかなかやる。贅沢を言えば、皆で押し倒すのではなく、警官1名が何気なく一本背負いで仕留めてくれれば満点だった。世界各国から注目されるこの場面で、オリエンタルマジックを炸裂させれば、さらに神秘の国ニッポンだった。

表彰が始まりブラジルチームがビクトリーランでスタジアムを回る。表彰式は、これまでテレビで見てきて、もっと盛り上がるものだと思っていた。だが、現実は違った。世界一の決定を生で見るよりも、もう、この天国の日々が終わってしまう悲しさを、多くの人が醸し出していた。
「もう終わっちゃうね。」
そんな声が、あちらこちらから漏れた。

全てのセレモニーを終え、スタジアムの外へ出ると雨の滴が落ちてきた。傘を差すことが許されないような多国籍の雑踏が駅まで続いた。できることなら、ずっと雨でも良いからこの夜が続いてほしいと思った。でも、朝は来る。二度とない31日間、私の10試合目のワールドカップ観戦が終わった。


この大会で得たもの。

ワールドカップイラスト入りJAPANマフラー(購入)、日の丸入りJAPANマフラー(購入)、日本-ロシアTシャツ(購入)、アイルランドマフラー(購入)、アイルランド・パンチンググローブ(交換)、Gグループスケジュール入りマフラー(購入)、ブラジル・ドイツ・ハーフ&ハーフマフラー(購入)、決勝戦他メンバー表(スタジアム内配布)、決勝戦他号外(街頭配布)、日本語公式プログラム(購入)、韓国語公式プログラム(購入)、半券10枚、金属入れビニール袋(スタジアム内配布)、撮影した写真約500枚、VISAサッカーボールミニ扇風機&Tシャツ(景品)、韓国-ドイツ当日朝号外(街頭配布)、ワールドカップ公式ホテル・ロッテホテルステッカー(プレゼント)、Be the Reds Tシャツ3枚(プレゼント)、KTピンバッジ(プレゼント)、ボランティアユニフォーム(交換)、韓国マフラー(交換)、エクアドル鉢巻き+ネックストラップ+Tシャツ(交換)、レッドデビルマフラー(交換)、メキシコマフラー(交換)、レッドデビルオカリナ(購入)、プレステージ用チケットホルダー(プレゼント)、TAKTAK=韓国式の空気を入れて叩く棒(購入)、マノーロさんの帽子(交換)、マノーロさんのTAKTAK(プレゼント)、Kリーグファンブック(購入)、偽マリノスユニフォーム98年タイプハングル入り(購入)、偽日本代表ユニフォーム2本戦アディダス(購入)、ヒディングお面(購入)、韓国代表似顔絵入りボールペン(購入)、ワールドカップデザイン韓国宝くじ(購入)、柳想鐵フィギア(購入)美味しかった料理、親切にしてもらった思い出、予想外の出会いの驚き、試合の感動、サッカーとサッカーが好きなみんなを愛する心、その他いろいろ。


翌朝、いつものようにギュウギュウ詰めの通勤電車に乗った。となりで身を寄せいた女子高生3人組が喋っていた。
「イルハンってかっこいいよねぇ。」

ワールドカップ後の日本のサッカーシーンも楽しみだ。


    
(左)くそオヤジ系ポーランド人とブラジル人達。
(中)ホームで着替えて変身したドイツ人カップル。
(右)美女探すならブラジル人。

    
(左)みんな陽気で仲良くなれる。
(中)スタジアムへ近づけないくらいの大混雑になった。
(右)5回目の優勝を!!。

    
(左)マフラーをみんなで掲げれば派手だ。
(中)ブラジル美女と私。
(右)流暢な日本語で話すベルギー人。「あれはファールじゃないぞ!」というと納得の仕草。

    
(左)隣の男には興味がない。
(中)やはりいたスコットランド人。
(右)熱狂的にバスを迎える沿道の人々。

    
(左)意外にスタジアム内にいたドイツ人。
(中)ドイツチームへも大きな拍手が贈られた。
(右)舞い降りる鶴。


(左)報道陣に囲まれてワールドカップは去っていった。