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プライマリー初全国制覇
刻まれた歴史。未来への階段。

全日本少年サッカー大会は単に強い者を決める大会ではない。全チームがよみうりランド内の宿舎で共同生活をし、友情を深め、「目的→努力→結果」の過程で、一つ一つの答を得ていく場だ。お土産交換会、キャンプファイヤー、毎朝6時30分からの朝の集いなど、各種行事は第一回大会から続けられている。


決勝戦。キックオフは9時。朝とはいえ、空くの流れが少ない味の素スタジアムのスタンドは蒸し風呂のような暑さだ。父兄達を中心に応援ゾーンがトリコロールに彩られていく。
「もう、手慣れたものだねぇ。」
決勝まで勝利を重ね、応援の準備もスムーズ。わが子達の活躍の舞台を手作りで演出する。

「君が太鼓を叩くのですか?」
おそらくベンチに入れなかった選手だろう。応援エリアの最前列に陣取る、胸に栄光のエンブレムが染め抜かれたウエアを着た一人の小学生に声をかける。
「そうです。」
「今日は、応援するために来ました。君の太鼓と一緒に応援させてください。」
「じゃぁ、もっと近くに来てください。」
父兄や、選手仲間達の応援に邪魔にならないように隣のエリアに陣取っていた私たちは、父兄の前の席に呼び込まれた。
「よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
いつものサッカーとは違う、今夜の無意味な政治介入の場と化したアジアカップとは全く違う、さわやかなサッカーが、もうすぐ始まる。

実は、私は、この大会の第一回大会に参加している。といっても地区予選敗退だ。たしか、大会エンブレムのバッジとベッケンバウアーの下敷きをもらった気がする。ただ、当時の私はペレ派だったので、ベッケンバウアーの下敷きは嬉しくなかった。
あの頃は、真剣に少年サッカーに取り組んでいたので、何度も遠征した。当時は、親の仕事の関係で愛媛県の松山に住んでいた。市内の小学生チームでリーグ戦とカップ戦が行われていた。合同の高松定期遠征もある。そして、市内の選抜チームに選ばれた私は、ある時、清水に遠征した。バスで松山から新居浜へ移動し、そこからフェリーで東神戸へ。そして、ひたすら高速道路を走り一日以上の時間をかけて清水に着く。当時の清水FCは全盛時代で、第一回大会と第二回大会を連覇。第三回大会は準優勝に終わるものの、第六回大会、第七回大会を再び連覇。第九回大会から第十一回大会までは今だ並ぶ者のいない三連覇。第十二大会は準優勝で四連覇を逃している。
その清水の江尻小学校との対戦は20分ハーフで0-8の大敗。まったくチャンスが作れなかった。私は右サイドバック。何度も桁違いのスピードで突破を許し、バックチャージで何度も止めた。
「すいません。」
「いいよ。わざとじゃないんだろうから。」
主審は優しく声をかけてくれたが、本当にわざとではなかったのかというと微妙だ。間に合わないと解っていても、一か八かで脚を伸ばしてしまうことはままある。
私が全く止められなかった、左ウイングは、当時、全国に「江尻の江尻」と、その名を轟かせていた、江尻小学校のレフティ江尻。後にジェフ市原で活躍し、オフトジャパンのスペイン遠征にも召集された江尻、その人だ。あの快足ウイングに、何度も突破されながら、サッカーのレベルの果てしなさを感じ、ディフェンダーの辛さを知った。そして、なぜか、江尻にバックチャージを喰らわしたことが、30代となった今では、不思議と自慢になっている。

さて、試合が始まる。トップの前座試合では、何度かプライマリーの試合を見ているが、さすがにタイトルマッチは緊迫感が違う。太鼓に合わせて応援歌を歌う。ただ、対戦相手の柏レイソルは二度の優勝経験があり、近年の決勝戦常連だけあって巧い選手と大きい選手を揃えている。なかなかボールを奪えない。応援歌を歌う後ろの父兄から
「落ち着かせろ!」
「しっかり!!」
という声援が飛ぶ。圧倒的に優位に試合を進める柏レイソルの試合ぶりにスタンドが調子に乗ってきたのか、ひときわ大きなコールが始まる。
「かし〜わレイソル!かし〜わレイソル!」
柏の応援席はママサポ中心。いや、選手の母親達のユニフォーム着用率が高い。これなら勝てると思った瞬間があったのか、急に声が大きくなった。
「かし〜わレイソル!かし〜わレイソル!」
試合は劣勢でボールは自陣から前へ進まない。両チームの応援席はバックスタンドで数ブロックを挟むだけだったので、このままでは雰囲気が悪くなりそうだ。そこで、コールが始まってワンテンポ遅れて、わざとコールを重ねてみた。
「エッフッマリノス!エッフッマリノス!エッフッマリノス!」
それまでは、太鼓に全て合わせていたのだが、ここで、初めて自分からコールしてみたのだ。こちらには、ゴール裏生粋のサポーターも混じっているから声は野太い。
「エッフッマリノス!エッフッマリノス!エッフッマリノス!」
柏レイソルコールをかき消された黄色いユニフォーム姿のママサポ多数が、こちらを睨んだ。まぁいい。

その後も、しばらくは柏レイソルペース。コーナーキックからのヘディングは見事にフィット。さすがに160センチ以上の大型選手が揃っているので空中戦は劣勢だ。ゴールキーパーの正面だったために、辛くもセーブ。さあ、反撃だ。一気にカウンター。コールも後押しする良いタイミングで入る。そして、たまらずファール。右45度。ゴールまで約20メートルはありそうな場所だ。

ゴールを直接狙えるような距離のセットプレーは、この試合初めて。どんなボールを蹴るのか見当が付かなかったのだが、選手仲間達は「お〜」とうなり声をあげ始めている。
「狙うのか。」
この距離を、当たり前のように狙うと判っている選手仲間達。合わせて、直接のゴールを期待することにする。
「お〜!!!!!!」
「すげげげぇ!」
ボールは壁のギリギリ上をカーブを描きながらもスピードを落とさず山なりにならず、サイドネットを揺らした。劣勢を跳ね返してリードを奪ってしまった。勢いづくフィールドとスタンド。形勢は逆転し、攻めの時間が長くなる。体格は劣るがテクニックは拮抗している。となればペースを握ることが重要だ。

「攻めろよ!!」
「もう一点、獲りに行けよ!!」
5分の短いハーフタイムを終え後半が始まる。わずかキックオフから9秒で右サイド、ハーフウエーラインからやや前あたりでグランダーのアーリークロスをデフェンスラインの裏に入れ、ゴールキーパーの前でワンタッチしてキックオフから13秒後にはゴールネットを揺らしてしまう。
「あ〜凄すぎる!!」
「美しい!!」
何と芸術的なクロスなんだろう。めったに見られないような2つのプレーが、この少年サッカー大会で目の前にある。これで圧倒的に有利に。出鼻を挫かれた柏レイソルは絶体絶命。ますます応援に熱が入る。そして、選手仲間達のコールも、なぜか偶然か意識的にか柏レイソルコールに絶妙にかぶることが多くなり、さらに緊張が増す。小学生は休むことを知らない。絶えることなく、歌が続けられる。

ここから先、ゲーム展開は二つの道に分かれる。
一つは、日産時代からの伝統、油断を見せて呆気ない失点をしてしまうこと。もう一つは、この一年、徹底しつつある常勝、決して諦めたり気を抜いたりしないサッカーを続けること。が、しかし、道は、もう一つあった。体力にモノを言わせた柏レイソルのヘディング。コーナーキックから決められた。しかも、ゴールの中のボールを素早く奪って、センターサークルへ。残り少ない時間に総攻撃をかける意気込み満点だ。だが、ここで主審の笛。この大会では特別ルールにより、前後半の10分を過ぎた時点で飲水タイムを取るのだ。
「助かった。」
この絶妙な時間に一呼吸を入れて、選手とコーチが声を掛け合うことで、柏レイソルの勢いも、少しは止めることが出来るだろう。だが、きっと、柏レイソルは勢いを止めないために、飲水タイム明けには猛攻をかけてくるだろう。

キックオフと同時に、いや、キックオフよりも早く柏レイソルの選手は走り込んできた。後ろに下げたボールを狙われ押し込まれる。ここからは耐える。大型の選手が多いのでクサビのパスが入ると奪いにくい。当然、サイド攻撃は鍛えられている印象だ。何度もギリギリのところで跳ね返す。
しかし、反撃。放り込まれたボールを、一瞬、ゴールキーパーよりも早く頭で触って、ボールはゴールへ。だが、あと僅かのところでクリアされてしまう。なんとか勢いを止めて盛り返す。だが、残り時間と一点差を意識してか、中盤でのチェックが緩くなり、すぐに押し込まれることが多くなる。そんな中で、クリアではなく、浅い柏レイソル総攻撃のディフェンスラインの裏にパスが出る。
「出た!!」
「やった!!」
ゴールキーパーを残すのみ。だが、あらかじめ浅い守備を取り、素早く走り込んできたゴールキーパーがタックルでボールを蹴り出す。ワンタッチあって柏レイソルのスローインに。さぁ、さらに反撃だ。という柏レイソルのムードだったが、ここで痛恨のファールスロー。焦りが、大きなミスを呼んでしまった。
「助かったぁ。」

最後は耐えに耐えてホイッスル。歓声があがり飛び跳ねて喜ぶ。選手仲間達は、座席から飛び出し、フェンスまで駆け下りる。ついにやった。全国制覇だ。

プロへの道を歩む選手は、同じフィールドに、将来のJリーグで闘うことになるライバルがいたかもしれない。そして、この日に掴んだ大きな栄誉を忘れることはないだろう、サッカー生活、最初の全国制覇だ。
「おめでとうございます。」
父兄達に声をかけながらスタンドを後にする。コンコースに出ると、アミノバイタルフィールドで大柄な外国人達がボールを蹴っていた。翌日に試合をするASローマの選手達だった。さっきまで、仲間達のサッカーを追いかけていた少年達の目は、憧れの世界的プレーヤー達を見つめ、輝いていた。



準決勝と決勝は味の素スタジアムで行われる。
テープで応援エリアを作る。Tシャツに注目。
プレーを見つめ歌う。歌詞もメロディーもバッチリ。
やった優勝だ!!爆発する喜び。屋根に反響する歓声。
約8000チームの頂点に就く。涙する父兄の姿も見られた。
上手い外人だなぁと思ったら、明日試合するローマだった。