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Torino 1990

トリノ駅に着いたのが午後二時。まわりにはごっつい腕に入れ墨をしたドイツ人サポーターがいっぱいいた。スタジアム直行の路面電車にのってデッレアルピに着いたら、チケットを手に入れるため、回りをぶらついた。こちらでは日本のように強面の人がダフ屋をしている訳ではなく、普通の人がチケットを売り買いしているので、気軽に声をかけられ、値段交渉もしやすい。また、地元イタリアの試合以外はチケットが手に入らないということはないようである。僕はブラジル人からプリモ(一番良い席)を20万リラで買ってスタジアムに入った。 

試合はリネカーが同点ゴールをゲットして、そのままPK戦になったのだが、印象的だったのが隣に座っていた英国人の老夫婦であった。この二人は、ワールドカップ決勝戦進出のかかった、このPK戦を前に、何と帰ってしまったのである。僕はこの時、イングランドにPK戦というものが存在しないことを思い出した。(現在はFAカップなどで、再試合までやって決着が着かないときは行う) ゲームは引き分けで終わり。PK戦なんてものはサッカーでもなんでもないから見る必要がない、との理由で帰ったのではないか、と、考えたのである。PK戦なんぞ見るのはサッカーの母国の人間としてのプライドが許さないと。もちろん単に時間が遅くて帰りの電車がなくなるから帰ってしまったのかもしれないのだが、僕にはどうしてもそう思えたのである。 

とにかく、この時以来、僕のPK戦を見る目は、まったく冷めてしまった。このサッカーというスポーツの持つ魅力とは全くかけ離れた、ショーのようなPK戦を見る度に、『どっちが勝っても負けてもいいや』と、思うようになった。アメリカワールドカップ決勝もむなしさいっぱいでテレビを見た。僕はJリーグから、早くPK戦がなくなることを祈っている。 

ちなみに、試合が延長PKで遅れたのに伴い、列車も何本か時間を遅らせていたようだった。イタリアって良い国だなあ。 

寺山功