malicia witness 2階の目線2007 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 07-08シーズン 3月3日 ヴァンフォーレ甲府 日産スタジアム 新横浜駅から日産スタジアムへ向かう道。信号待ちをするたびに、声がかかる。一人が二人になり三人になり・・・ 「久しぶり。」 「今年もよろしく。」 「あけましておめでとう。」 長かった今年のオフも、この道での仲間との再会で終了だ。長いシーズンが今日から始まる。スタジアムの入りは予想よりもかなり少ない。年間チケットの売れ行きが悪かったのか、招待券を配っても来場者が少なかったのか。 陽光の中で、「攻撃サッカー」が始まる。 開幕のホイッスルを聴き、1分で鈴木がコーナーキックをゲット。高さを揃えたゴール前にはボールを運ばず、ペナルティエリア外のマルケスにマルクスからグランダーのボール。低く抑えたシュートは枠を捉える。 「まず枠内シュート1。」 「マルクスからマルケス。」 「クからケか。」 続いて左のゴールライン際で鈴木が突破してゴール前のマルケスへ。3分で二度、ゴール前に迫る。 「良いスタタートだね。」 甲府のクロスを凌いで跳ね返したボールを鈴木がキープ。長谷川にタイミングを見計らって渡し、素早く長谷川が走り込んでくる山瀬にパス。勢いを増した山瀬は、甲府の選手達の間をスピードと身体の入れ方、そして、足下から距離を離さないボール運びで一気に抜きさる。座っている2階席も一斉に立ち上がる。 「撃て!!」 「良し!!」 見事にコントロールされたボールは適度なスピードでゴールマウスに入っていく。飛び跳ねるスタンド。 「美しい!!」 「素晴らしい!!」 賞賛の声、我を忘れる歓声、そして、割られる1000個以上の風船。空席が目立つスタンドとはいえ、私達ひとりひとりの創り出す音で今期の初の喜びを連鎖する。 サイドに人数をかけて崩す、その意図が分かる。忘れていたことだが、鈴木もベルギーでは深い切り返しを武器にサイドアタッカーとしてポジションを与えられた男だ。鈴木からのクロスが入る。 攻撃サッカーをする為には攻撃の起点が大切だ。前半20分までは、その起点が高い位置にある。高い位置で、ボールを甲府から奪えば、すぐ近くにいるマルケスに預けてスピードアップする。 奪う位置によって、鈴木、マルケス、マルクスのうちの1名が、後ろからサイドを駆け上がってくるハユマか那須と連動して数的優位で崩す。右をハユマとマルケスが崩し、マルケスから流し込んだクロスを左大外の鈴木がスライディングでシュートして、惜しくもポストに当てたシーンがその象徴だ。 「惜しい!」 「素晴らしい崩しだ!」 「良い展開だ。」 「惜しいなぁ、相手がベルギーだったら入ったのに。」 「えっ、甲府ってベルギーよりも格上?」 前半を終えて1−0。 立ち上がりは攻撃のカタチも見せた。試合を終始リードした。甲府選手の技術の低さもあって、枠内にシュートを浴びるシーンはゼロ。笑顔でハーフタイムを迎える。 後半に入ると、試合は動きを失ってくる。前からボールを奪うことができなくなる。前半も何度か見られた中央のケアの遅れも、後半は増えてくる。 立ち上がりに攻撃サッカーができていた一因は、守備のやり方が攻撃的だったから。しかし、後半に、甲府の細かなパスに対して受け身の守備をしていくうちに、攻撃の起点は、前半とは全く違うものになっていく。最終ラインでボールを奪い、攻撃を試みる。ここでの主な選択肢は2つだ。一つはハユマに預けること。これは、昨年までの「ドゥトラにおまかせ攻撃」と、ほぼ同じ展開だ。ハユマは縦にドリブルで仕掛けるが、多くは甲府の複数の選手に阻まれることで仕切り直しを必要としてしまう。原因は人数が足りないから、ハユマが孤立していることだ。全ての選手が山瀬級のドリブルテクニックを持っていれば、それは簡単なチームになるのだが、それは夢物語。 「長谷川もアーエリアなんだからプレーも、もっとアーリアでいかないと。」 サイドの選手に預けたときに、鈴木、マルケス、マルクス、山瀬とは距離があるので、ここは素早くボランチが助けにいってあげなければ展開は苦しくなる。それを察して、左はマルケスが那須のすぐ前にまで下がったポジションに移行する。それはそれで、前線のパワーダウンに繋がる。 「ケはいいけどクはどうかなぁ。」 「ちょっと運動量が少なすぎだろ。」 「これなら、狩野で良いんじゃないか。」 「あと一人、マルコスっての獲ってマルケス、マルコス、マルクスって揃えないと。」 「マルコスってフィリピン人かよ。」 「マルクスは頑張っても搾取されてしまっている。」 「資本論かよ。」 もう一つの選択肢で鈴木の活躍のシーンが増える。 結局、素早く攻撃に移ることができなくなって、最終ラインやボランチから、前線の鈴木に長いボールで預けるシーンが増えてくる。甲府の選手を背負っての、いわゆるポストプレーというヤツとサイドでのタメだ。 「おっ、持ち味!!」 これは、鈴木が外国(鹿島)で活躍していたときに最も得意としていたプレー。トルシエジャパンでも多々見せていた。身体を入れ替えて前を向くか、相手のファールを誘ってフリーキックを得るか。 「おっ、持ち味!!」 「お〜。」 「敵にすると、これほどムカつくプレーはないけど、味方にすると、なかなか楽しいものだねぇ。」 目の前で倒れる鈴木。それを喜ぶ私たち。あまりに新鮮な光景に、試合は退屈さを感じさせない。ただ、この新鮮さは何試合持つのだろうか。要は、深いディフェンスラインで凌いで、中盤の組み立てを飛ばしてトップの鈴木や坂田に預けて、そこを起点に、どっこいしょっと攻撃を組み立てるという戦術。例えて言えば岡田監督が就任一年目に久保に預けて素早く展開したサッカーのスピードを遅くしてドゥトラを不在にしたサッカーなのだ。まだまだ熟成が足りず、攻撃サッカーを創り上げるのはこれからだ。 危なげはないが守り一辺倒に。 ゲームの流れは甲府に傾く。しかし、甲府にバレーは不在。攻撃の精度は低く、中沢、栗原、那須、河合、ハユマがしっかりと跳ね返していく。まだ、しっくりと連携が噛み合っていない長谷川も、懸命なディフェンスを見せる。なにしろ枠にシュートが飛んでこない。 今年は昨年とは違う。 手抜きのないプレー。献身的に仲間との連携を図り、勝利を目指してプレーする。それは、昨シーズン中盤に見受けられた、なんとなくのプレーで緩慢に試合が停滞していった昨年のゲームとは明らかに異質だ。長いオフで一度リセットしたサポーターは、歌、コール、声援、手拍子などで、開幕戦での勝ち点3奪取を支援する。そのテンションを一気に高めたのは、今年の背番号9だった。 「そんなに赤が好きか!」 という声が飛んだが、大きなため息もブーイングも野次もなく、去り行く背番号9を見届けた。不可解な愚行での退場ではあったが、私たちには心の準備はできていたのだ。 「ここまできたんだ、絶対に完封しろ!!」 「守りきれ!!」 「Fマリノス!Fマリノス!Fマリノス!」 「あと2分だ!」 幸い、長くはなかったロスタイムも、しっかりとディフェンスを固め、1−0での完封勝利を手にする私たちトリコロール。スーパーゴールを決めてくれた山瀬に大声援が飛ぶ。 「よくやったぞ!」 「いやぁ、凄いゴールだった。」 「まずは、勝ち点3を獲れたことはデカイね。」 「山瀬も凄かったけど鈴木も凄かったな。」 「さすがプロだよね。持っている全てを、この試合で出し切ったものな。」 「なんだろう、このぐったり感は。」 数時間前に心躍らせて久々に登ってきた緩やかな坂を駅に向かって下りる。待望の開幕と勝利で、軽い足取りが弾むはずが不思議と重い。重いのは足取りだけはなく口も。これまで私達は、毎年のように優勝候補と呼ばれてきた。優勝に向けて、どこまで勝ち切れるかを楽しみに開幕を迎えてきた。だが今回、実は心の奥底で、仕上がりが遅いと報じられたチーム作りに不安を感じた。その重さだっただろう。 今年は厳しい闘いが続く。けれども、甲府、偽、神戸、という、これ以上の幸運はないくらいの対戦カードが続く。この三連戦で勝ち点7、できれば9を稼がなければならない。選手もチームも育てながら勝たなければならない今シーズンにおいて、このスタートダッシュ3連戦は重要だ。 昨年までとは違う、喜怒哀楽に満ちあふれた開幕戦。新しい闘いの舞台の幕は開いた。 今日のポイント ●的確だった選手交代。 ●「カッコー、カッコー」と聞こえる長閑な甲府のコール。 ●「持ち味」流行語の予感。 ●最大の勝因は甲府のフィニッシュ力。 今日の査定
|
|
confidential 秘密 | message 伝言 | photo&movies | reference 参考 | witness 目撃 |
scandal 醜聞 | legend 伝説 | classics 古典 | index | LINK |