malicia witness 2階の目線2007 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 07-08シーズン 6月9日 ジェフユナイテッド千葉 日産スタジアム ジェフの立石が脚を痛め、やれやれという感じで前半を終える。 「鳥肌が立つほどチキンの試合だな。」 「相撲で言えば土俵中央でがっぷり四つなんだけどお互いにまわしが取れていない状況。」 試合開始早々にネットを揺らし、誤審かもしれない副審の旗が、これを取り消す。全体には押し気味で試合を支配していることは満場一致の見解だろう。失点の気配は、ほとんど感じられない。危険なムードとなったのは栗原と那須が衝突したときくらいだろう。それすらも必然に見えたため、大きな危機には感じられず、フラストレーションだけが静かに蓄積される45分間。下位同士の直接対決と言えばそれまでだが、本来は、両チームともに、このような闘いをしていてはならない戦力を保有している。特にジェフはオシムジャパンのメンバーを多く排出して多くのファンを集め、アウエーゴール裏には多くのサポーターが来場している。 「うちもダメだけど、ジェフはホント酷いな。」 「もし坂本とかいたら、うちの右は徹底的にやられていたでしょ。」 「やっぱデカイよな。坂本と阿部が抜けた穴は。」 「ストヤノフが上がってこないし、パスの出しどころがないし。」 「それを考えると、阿部を獲ってあれっていう浦和も凄いな。」 ジェフはオシムが去り、ユニフォームがミズノからKAPPAに変わり、すっかり別のチームのようになってしまった。ここ数年、好ゲームを繰り返してきた対戦相手だけに残念だ(が、一人だけMIZUNOと背中に書かれたユニフォームの選手がいた)。 早野サッカーの狙いは何だ? 翌日の新聞報道によれば、前線からのプレスを数試合ぶりに再開したのは、中沢をはじめとする主力選手達の発案だったようだ。ここ数試合の問題点の解決策として、今は、前線からの守備と速攻を再び選択。ところが、そこには綻びが見える。右サイドに、ほぼペナルティエリア大で放置されている広大なスペースが、その綻び、というよりも穴だ。その穴を埋めつつも、ジェフのディフェンダーやボランチにプレッシャーを仕掛け、さらには、攻撃時には一気に前線に飛び出して大島や坂田に絡んでいくのが吉田。今や、このチーム攻守の要だ。 「いかに、昨年の前半に間違った使われ方をしていたのかがよくわかるよ。」 というくらいに、吉田の活躍は群を抜いている。 それでも、吉田は超人ではない。 全てをカバーすることは不可能なのだ。右サイドの広大なスペースは、バックスタンドの目の前にでんと構えている。今日のトリコロールには右サイドバックがいない。那須は、あくまで右のストッパーとして振る舞った。浦和戦では左のストッパーだった那須。その試合では全体に守備のポイントが深かったため、那須の前に大きなスペースができることはなかったが、今日は違う。浦和とは違ってジェフは消極的で、攻めに人数を割かないしスピードも遅い。トリコロールの攻撃陣は敵陣深くまでプレッシャーをかけに走る。だから、那須の前には誰もいないスペースができ上がる。誰もいないのだから、そこを埋めれば相手ゴールヘの距離は近くなるのだが、お互いに、その選択を積極的にはしないのだ。 オシムジャパン、センターフォワードの選択は守備。 アマル・オシムは、この状況をどのように考えたのだろう。これも謎だ。それとも、彼の考えを実践できないほどに選手のレベルが下がったのだろうか。いや、違うだろう。まず、本来はゴールを狙うべき巻が那須の前に立っている。ゴールからは遠い位置だ。 「おいおい、なんで巻と那須が連動して動いてんだよ。」 それは不思議な光景だった。 巻が近くに立つことで、那須は、ますます消極的となり前へ出ることもサイドに張り出すこともなくなる。布陣は完全なスリーバックとなり那須の右ストッパーの出来上がり。ところがジェフは、那須の前にある広大なスペースをなかなか活用しにこない。巻はトリコロールの右サイドを封じ込める守備の役割を果たすことには成功だが、そこから攻めに転じる攻撃陣の連動性がない。しかも、巻が中央にいないし、下がって楔のボールを一度はたくこともできないので、ジェフ自身の攻撃のカタチも作れない。 気の毒な起用法ではあるが那須はやらなければならない。 ときたま、右サイドで、タイミングよくボールを受けることもある。那須の前には広大なスペース。さらに、その前にはジェフのディフェンダーがただ一人。中央や逆サイドに上がってきているトリコロールの選手は、まだいない。そんな状況はスタンドからは瞬時にわかる。 「行け!那須!!」 「ドリブルだ!!」 「持っていけ!!!!」 「勝負!」 「勝負だ!!!!」 「突破しろ!」 一斉にかけ声が上がる。こんな場面はプロのフットボーラーならば晴れ舞台だ。しかし、そんなかけ声も、一瞬で罵声に変わる。 「行けよぉ!!」 「勝負しろ!!!」 「勝負しねぇのかよ!!」 「馬鹿やろう!勝負しろ!」 ドリブルのスピードを緩めた那須は、ディフェンダーとの距離が縮まるのを避けて、アーリークロスを入れたそうだ。フィールドの中をチラチラと見る。 「ここで獲られたって、べつにピンチになんかならないんだからドリブルで勝負しろよ!!」 だが、那須の考えは違うようだ。浦和戦のコーナーキックのときでもゴールを奪いにいくよりもカウンターを食らったときの対処法ばかりを考えて、浦和の選手との距離を考えてポジションを決めていた那須。あまりにリスクを背負わない。 逆に守備で見せた不安はスタンドの怒りに火をつける。下がりに下がってペナルティエリア深くまでドリブル突破を許した2つのシーンだ。 「なに下がってんだ!」 「当れよ!」 「怖がってんじゃないぞ!!!」 那須自身がゴールラインを割ってコーナーキックになりそうな勢いで下がっていった。那須のプレーは全てが悪循環に陥っている。本来のポテンシャルは高いのだから、まったくもって、この弱気はもったいない。 逆に左サイドの小宮山を中心に、散発的には突破もあり、チャンスはできていた。しかし、今日のスタジアムには驚きがない。ダイナミックな展開が見られない。それはジェフも同じ。これが「鳥肌が立つほどチキンの前半」だ。 先に動いたのはジェフ。 後半開始。選手達がフィールドに現れる。 「大丈夫かなぁ、栗原と那須。」 「そんなの大丈夫だよ。何のために松永がいると思ってんだ。」 後半も淡々と時間が進んでいく。佐藤不在のボランチは前線との連動する動きが少ない。羽生の動きも、いわゆるどん詰まりのシーンが多い。トリコロールの固い中央を崩すことができないと考えたアマル・オシムは新居に代えて黒部を投入。そこで生まれたいくつかのピンチもディフェンスラインと哲也が封じる。際どいシュートも中沢がコースを限定したからこそ哲也がセーブすることができた。 最大の功労者がゴールを決める。 日本代表候補の小宮山が絶妙のクロスをファーサイドに入れる。ディフェンダ−もゴールキーパーもコントロールできない見事な弾道だ。そこに待っているのはフリーの吉田。楽々ゴールに叩き込む。低調だったスタジアムがウワッっと沸き立つ。素晴らしいシュートは、スタジアムのムードを一瞬で変える。 「これでジェフは2バックにしてくるから、ドリブル突破で追加点が狙えるぞ。」 と会話をしたのもつかの間。吉田に2枚目のカードが提示されて退場。今日の変則3バックの問題点を埋めるためにフィールドを奔走した功労者の退場は、残り20分を考えると痛い。しかし、それまでのプレー振りを考えれば非難することがまったくできない。吉田は右サイドの大きな負担に身を挺して、ここまでの1−0リードを創り出してくれたのだ。 早野迷う。 「これはマズいだろ。那須のところは狙い撃ちになる。」 「サイドのケアをしないと。」 「でも、下がるとストヤノフが上がってくるぞ。」 「早野は動かないのかよ。」 試合は、そのまま始まる。坂田が吉田のポジションに下がって、那須の前の攻撃を食い止めるようだ。ベンチ、早野の目の前で必至にボールを追う坂田。 「あそこで坂田使ってても意味ないだろ。」 「早く手を打て。」 「早野は攻勢に出ているときの采配は良いけれど、劣勢なるとダメなことが多いからなぁ。」 この時間になってアップが終わっていないわけがない。劣勢と動かないベンチに緊迫感が一気に高まる。何が何でも1−0で乗り切ってもらわなければならない大切な試合だ。 「おっ、やっと交代するぞ。」 大島に代えて上野。坂田はトップに移動する。みなで胸を撫で下ろす。 「というか、素人でもすぐにわかる最もオーソドックスな交代だぞ。」 緊迫の試合に、加えるスパイスとしては、早野はちょっと刺激が強すぎる。 上野を入れてディフェンスの2ラインを整備し、中盤守備を安定させたら、次はストヤノフとクロスのキッカー対策だ。失点リスクが少なくなればジェフの組み立ての起点はストヤノフ。守る側のトリコロールは、これを押さえなければならない。そして、巻と黒部がいるからには、クロスの放り込み対策も必要だ。 これまで、ジェフらしいサッカーができてこなかったのにもかかわらず、残り時間少ない終盤も、ジェフらしく、クロスの放り込みをしないのは彼らの意地か。細かいパスで繋ぎながら崩しどころをうかがってくる。そこに猛然とダッシュしてプレッシャーをかける斉藤。そう、早野の2つ目のカードは、これまた極々オーソドックスに坂田を斉藤に代えて、高い位置から運動量で守ることだった。 「行け斉藤!!」 これまでの試合の積み重ねで、選手達と同じようにスタンドもプレッシャーのかけどころを熟知している。だから、一斉に、ここぞというタイミングで歓声が上がる。これぞホームのスタンドだ。 そして、ボールを奪うことまでをできずとも、ジェフの攻撃がスローダウンするだけで大きな拍手が沸き起こる。拍手が終われば、ゴール裏のチャントに合わせて手拍子に移行する。素晴らしいホームのムードが、この試合に勝ちたいと言う意識を強くする。 そうだ、吉田の退場で、スタンドとフィールドは今日の目的をより明確に意識し直したのだ。前半の抑揚のない試合展開がウソのように、今は、選手のアクション一挙手一投足にスタンドが反応する。 栗原が副審に切れる。 ボールが外に出たと抗議している。 「出てないって!!」 二階から見ても出ているように見えないプレー。 「やめろ、栗原!!!」 「出てねぇよ!!」 届くわけのない声を張り上げる。スタンドのみんなが怒鳴っている。今日は、この他にもセルフジャッジが多い。 逆に哲也がセーブしたボールを副審が見逃す。 「ラッキー!ゴールキックだってよ。」 「栗原、あれだけ文句行ったんだから、今度は副審にお礼言っとけ。」 ジェフの攻勢は激しく、味方は一人少ない。それでも、不思議と失点の気配までは感じず、少し余裕がある。いや、ほんの少しだけれど。 「とにかく守り切れ!」 「あとは弟のところ交代だろ。」 ボールを奪う。ジェフの守りは薄い。追加点まで必要ではないが、コーナーでキープするのは荒れ試合では危険だ。うまく時間を使うのがベスト。 「ゆっくり!攻めてるフリをしとけ!!」 「我慢だ、獲られるな!」 「フォローに行け!!!」 そうしているうちに試合終了のホイッスル。いや、その直前の重要なプレーがあった。試合開始早々のオフサイド判定と同じ誤審かもしれない副審の旗。これもオフサイドかどうかは極めて微妙。スローで見ても正しいか正しくないかはわからない。つまりは、副審に任されるという判定なのだが、試合が終わってもジェフの選手は審判を囲んで激怒している。 「はいはい、やってろ、やってろ。」 「彼らはプレーしながらオフサイドラインが見えてんのかね、不思議だ。」 抗議は続き、2階からでも、その怒りの表情が見て取れる。ついに、試合終了後のイエローカードという最も見苦しい警告がなされる。スタンドがどっと沸く。 「よし、どんどん言え!」 「もっと言え!」 「もう一枚!もう一枚!もう一枚!」 こうなったら、もっと沢山のイエローカードが出れば良いのに。そして、早く目障りなジェフの抗議を終わらせてくれ。私たちは、そんな行為を見るために入場料金を支払っているのではない。 やっとジェフの選手達がバックスタンドの前から姿を消し、代わってトリコロールの勝者達がやってくる。今日、私たちは勝ち点3を得た。しかし、それに加えて、この巨大スタジアムに2万人以上が詰めかけ心を一つにしたことが快感だ。ヒーローインタビューは盛り上がりに欠けた。それは、スタンドの多くが、本当のヒーローが誰であるかを知っていたからだ。恒例のダイジェスト映像が上映される。ゴールシーンが繰り返し再現され、ボールがゴールラインを割るたびに歓声を挙げ両手を天に突き上げる。子供のように喜ぶ。ダイジェスト映像は、ゴール直後の吉田の嬉しそうな表情でストップ。 「あれ、これで終わり?」 その先にも見応えあるシーンはあったはずだ。 「でも良いんだよ。こっから先の吉田のことは、なかったことになってるんだから。」 今日のポイント ●途中でポジションを変更して那須の隣に栗原が行かないようにした中沢。
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