| malicia witness 2階の目線2007 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| J1リーグ 07-08シーズン 8月15日 川崎フロンターレ 等々力陸上競技場 武蔵小杉へと向かう東横線急行に私は一人で乗っていた。私のすぐ近くの扉の前には、4名の偽横浜サポーターが楽しそうにJリーグの展望を語っていた。その話題の中には、ダービーの「たまごクラブ事件」のことも含まれていた。そんな4名の会話が不意に止まった。漂う一瞬の沈黙。一人が、私の手首に結びつけているトリコロールのマフラーに気が付いたのだ。沈黙が解けると、4名の偽横浜サポーターは、気まずそうな表情を浮かべて、遠くの席へと移動していった。相手は4人、こちらは1人(しかも、こちらは、やむを得ぬ事情でダービーには行けなかったのに!)でありながら、席を譲る心情に陥ってしまうのがダービーマッチの勝利の重みだ。シーズン前に偽横浜がホームゲームで日産スタジアムを使用することを申請し却下に至るところから始まった2007年のダービーマッチは、今まで、いや、次に数十年後に偽横浜が再昇格してダービーマッチが開催されるまでずっと終わらない。いや、おそらく、そのようなシチュエーションは発生しないので、奴らと私たちの関係は永遠に8−1のままなのだ。 一部では「神奈川ダービー」という安っぽいキャンペーン名をつけて呼ばれる川崎戦は、夏休み開催ということもあって、平日にもかかわらず、開門前から長蛇の列を作り出した。しかし、スタジアム内の雰囲気を感じる限りでは、川崎は、この試合への情熱よりも、8月25日に開催されるガンバ大阪との決戦への期待のほうが大きいように感じられる。繰り返し上映される「アタック25」キャンペーン映像は素晴らしい出来栄えだ。しかし、マリーシァには、本当に「アタック25」で優勝した女性がいることを彼らは知る由もない(というか、知っても無意味だ)。 前節の8−1の結果は、もちろん対戦相手がプロの名に値しないレベルであったことも大きな原因だ。しかし、今、目の前で展開されているプレーを見れば、トリコロールのサッカーが大きくステップアップしたことを物語っている。放たれるシュートは枠を捉える。自信満々に撃ち込んでいく。決めてやる、という意思が伝わってくる渾身のミドルシュートだ。前線からの守備も無理なくスムーズに行えている。緑のピッチに躍動するトリコロールは輝きを眩しく放っている。 川崎が川崎らしくプレーできない。 怪我人などで駒が揃わず、谷口をトップ下に起用している。守備力に定評のある選手を多く起用しても、守備がしまらない。後手を踏んでファールを犯す。なぜか判定に不満をアピールし、さらにムードを悪くする。 「お前ら、文句言うな!抗議するなら森がしろ!!」 なかなか持ち味を発揮できない川崎の選手たち。それでは、この暑さの中で観戦している甲斐がない。せめて、退場王の森が森らしさを発揮してほしいものだ。 セットプレーからの得点が激減しているトリコロール。 しかし、セットプレーからの得点を目撃すれば、やはり「トリコロールらしい得点」と思えてしまうのは、これまでの多くの歴史の積み重ねによるもの以外の何物でもない。コーナーキックに関していえば、ファーサイドからの折り返しなど、近頃はめったにお目にかかれるプレーではない。しかし、今回は、見事にファーポストの外に早いボールが打ち込まれた。それを大島が無理なくヘディングゴール。大島が飛んだ瞬間にスタンドから飛ぶ声。 「やった!」 「きた!!」 試合前の選手紹介で大島はひときわ大きなブーイングを浴びていた。多くのトリコロールサポーターは、その理由を知らない。逆に、多くの川崎サポーターには大島の苦い思い出が心の隅にまで沁みこんでいる。例えば2004年J2リーグ35節。勝つか引き分けでJ1昇格が決まる川崎は86分にモンテディオ山形の大島に逆転ゴールを食らって昇格を持ち越した。7節でも82分に同点ゴールを食らって、その後、逆転負けしている。2003年J2リーグ21節でも2ゴールを食らって引き分け。だから、彼らは、きっと、こう言ったに違いない。 「また、大島かよ。」 平日の19時キックオフであったために、仕事の都合などで、試合に来られなかったサポーターも多かったことだろう。無理を押してスタジアムに駆けつけたサポーターにとっては、この日の2点目は、大きなご褒美となった。このゴールこそが、スタジアムでしか味わえない感動モノのゴールだったのだ。 左サイドにボールが流れたとき、ピッチ上の選手の動きは止まりかけていた。そこに、ワンテンポ遅れてではあるが、猛然と坂田は走りこんでボールを自らのものとすると、ひたすら縦にドリブルをする。 「来い!!」 「勝負だ!!」 スタンドからは、ゴール前に走りこんでくる味方も敵も、坂田のスピードに間に合わないのではないかと思えた。しかし、坂田からのクロスは、早いタイミングで、カーブを描いてゴール前に送り込まれる。そこには、いつの間にか走りこんできていた山瀬がいて、2つの軌道は見事に交差する。 絶叫と鳥肌が同時に身体から噴出し、胸が痛くなるような感動を味わいながら、私は宙に浮いている。夢心地なだけではなく、気がつけば現実に隣の席の友人が私を持ち上げているのだ(軽い?)。屋根に届かんばかりの伸びをしながら、私は両手の拳を突き上げた。アウエースタンドの高揚感は、前節8得点の底力を、今ではJ1の強豪となった川崎サポーターに見せ付ける。彼らはリーグ優勝とアジア制覇を狙っているはずだが、サッカーは、それほど甘くはないのだ。 終始優勢にゲームを進める。 川崎は、なぜか、どうでもいい判定にまで苛立ちを見せてペースを掴めない。同点かと思われたセットプレーも、その前に無駄なファールがあったようで、無効となる。 メインスタンドにはトリコロールのサポーターも点在していたが、大半は川崎サポーターだ。マリーシァ系サポーターの後ろの席の川崎サポーターが劣勢の川崎の局面を打開するために投入すべき選手として「大橋」の名を挙げていた。彼らの意見は全会一致。その大橋が64分に投入されると、当然のように歓声と拍手。しかし、それに負けないくらいの歓声を挙げて登場を喜び、一呼吸もしないうちにブーイングをする目の前のトリコロールサポーターに唖然。さらには、同時にアウエー席2階は大歓声。 「よっ!待ってました!!」 と叫び、直後に心の底からの大ブーイング。そして、メインスタンドにも聞こえる、上から振り下ろすように飛び交う罵声。 「てめぇ、うちにいたときと同じプレーしろよ!!」 「待ってたぞ!頼むぞ!!」 最近では、無条件に、元トリコロール所属の選手が登場をするとブーイングをするサポーターも多い。実際には、出場機会をトリコロールが与えなかったために出場機会を求めてやむを得ず移籍していった選手もいる。もしくは、まったく相手にするレベルにも達していない、ただ元所属をしていた選手も入る。そんな選手にもブーイングをするサポーターもいるが、それは総意ではない。しかし、この大橋は違う。プレー、態度などなど、これほどまでに恨みを買った選手は、これまでのトリコロールの歴史でも、かなり上位にランキングされる。だから、スタンドからは最大級のブーイングが小太りの24番に浴びせられたのだ。 「こいつは、どうせ、横か後ろにしかパスしないぞ!」 「ちょっとプレッシャーをかければ、すぐに逃げるぞ!」 「蟹みたいなんだから。」 吐き出す言葉に容赦はない。 しかし、終盤になると、やはりトリコロールに弱気が見えるようになる。その象徴といえば、フリーでありながらもヘッドで哲也に戻そうとしてコーナーキックを進呈してしまったハユマのプレー。コーナーキックになったから問題なのではない。2−0でリードをしているのであれば、隙をうかがってカウンターでとどめを刺しに行けばいい。しかし、弱気を見せれば付け込まれるのだ。まさに、あのプレーは弱気の象徴だった。ハユマだけでなく、全体に攻撃に積極性がなくなる。コーナー付近で、攻めるわけでも、パスをまわすわけでもなく、ただなんとなくドリブルをして、ボールを奪われるシーンも出てくる。 「失点は時間の問題だろ。」 「まずいな。」 70分過ぎからゲームは劣勢の一辺倒となる。川崎の強みは、個人能力の高いゴールゲッターたちだ。鄭、黒津といった、決める力を持った選手がいる。そして何より、ジュニーニョにボールを渡せば、なんとかしてくれる、というのが戦術だ。ジュニーニョは、ボールが来る前の小さな動きが絶妙で、ディフェンダーに対して常に優位な姿勢でボールを受けることができる。だから、ワンタッチ目からゴールに向かって動き出すことができるのだ。それゆえに、トリコロールの守備陣たちは、自然とポジションが深くなっていく。 早野は適切な処置を取る。交替選手の中から那須を起用し、ボランチを2枚にしたのだ。しかし、ピッチの中は、河合のワンボランチのときと大きな違いの見えないポジショニングのままになっていて、効果が出てこない。ずるずると下がる一方で、ギリギリの守備に追われる。1点を失い、リードは1点のみ。なんとしてでも逃げ切ってほしい。 「早野!動け!」 「もう一枚変えろ!」 「今更、ムリだ!替えるな!このまま行け!!」 「これ以上、いじると、混乱するだけだぞ!!」 「耐えるしかないぞ!」 「なんとかしろ!」 様々な声が飛び交い錯綜する。 等々力もホームスタジアムらしく、全体からの手拍子や声援で川崎の選手たちを後押しする。しかし、トリコロールはこらえる。ギリギリのところで耐える。待ちに待った試合終了のホイッスルが吹かれると、2階席は一斉に立ち上がり、拳を突き上げた旗が舞い、パラソルが開いて回る。 「いやぁ、いい試合だったね。」 「この試合の流れで逃げ切れてよかったよ。」 「しかし、山瀬のゴールは素晴らしかったね。」 「坂田のクロスに痺れたなぁ。」 ぽんぽんと喜びの声が弾け飛ぶ。すっかり人気が減ったメインスタンドを見れば、トリコロールのサポーターたちが飛び跳ねて喜んでいるのが見える。 「気になる他会場の結果」が表示される。 「いいから三ツ沢の結果だけを読み上げろよ!!」 「ざまぁみろ、偽横浜。」 「今日は、三ツ沢とトータルで4−1の大勝だな。」 その後、喜びすぎて、武蔵小杉へ行く道を間違えて遠回りしてしまったが、誰も怒る者はいなかった。 今日のポイント ●長い距離を走らなくてもコンパクトにできた守備。 ●まずは前を向いてチャレンジする姿勢が目立った。 ●ヒデキがいない。 ●中村と谷口の動きが悪くて助かった。 今日の査定
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