malicia witness 2階の目線2007
第87回 天皇杯全日本サッカー選手権

11月04日 佐川急便  三ツ沢球技場

このところ横浜に対する論調が厳しいサッカー専門紙エル・ゴラッソには、露骨なまでに下克上を期待する記事が載っていた。そして、他チームのサポーターも、最も下克上が期待できるカードとして注目していたに違いない。そう、佐川急便SCは強い。東京と大阪の2チームを統合して誕生した佐川急便SCは、今季JFLでダントツの首位を走る。

2003年には市立船橋高校相手にPK戦までもつれ込むという醜態をさらした横浜。だが、今日はPK戦だろうが何だろうが勝ち上がればいい。横浜は弱い。試合が近づいても4バックか3バックかで揺れている始末。相手は強豪。決して卑下しているわけではない。

果たして、初めて目にする佐川急便SCは、試合開始数分でスタンドの全員にレベルの高さを見せつけたのだった。早い寄せと激しい当たり。全員の豊富な運動量。何よりも、明確に統一された意思。中盤で繋ごうにもトラップを焦っては奪われ、ボールが収まらない。結局4バックでスタートした横浜だが、バックラインで回し、ロングボールを放り込む以外にできることがない。前半9分には松田が早くも警告を受ける。

JFLに詳しいK林さんが佐川急便SCのキープレーヤーを教えてくれた。セレッソに所属していたこともある長身のFW9番御給(ごきゅう)は、ヘッドも強いが足でのシュートもうまい。MF17番堀と、DF13番旗手(はたて)はとにかく運動量が多い。真夏の昼の試合でも全速力で走る。この2人がいるからほとんどサイドから崩すことはできない。GK森田も強い。彼らはすぐにでもJ1で通用しそうだ。

狩野が久しぶりに先発し、河合とダブルボランチを組む。ただでさえ誤解されやすい選手である狩野に厳しい言葉が飛ぶ。試合後「緊張した」とコメントしていたが、佐川急便SCのプレッシャーに単純なトラップミスが目立つ。しかし、狩野一人を責めるのは酷な面もある。狩野は周りが動いてあげてこそ生きる選手。パスの出しどころがない場面が何度あったか。

ところが先制点を挙げたのは狩野。前半22分、直接FKが美しい軌道で突き刺さる。FKの精度なら狩野は横浜で一二を争う。それまでさんざん狩野を責めていたスタンドもこのときは総立ちになる。願ってもない強豪相手の先制ゴールだ。しかし、31分には逆にセットプレーで同点にされる。堀のFKをヘッドで決めたのは御給。要注意選手にやられたが、この程度は想定の範囲内だ。うろたえてはならない。

狩野のFK以外いいところなしと言っていい前半が終わる。後半開始から、早野監督は珍しく2枚のカードを切ってきた。マルケスに替えて坂田。吉田に替えて清水。さすがにこのままではまずいと思ったのか、運動量の多い2人を投入してきた。

勝ち越しゴールは思いのほか早くもたらされた。後半7分、清水が飛脚ばりに快足を飛ばして右サイドを破る。清水のシュートのこぼれ球に坂田が詰めた。佐川急便SCはオフサイドをアピールしていたが、判定はゴール。わずか1分後の8分には、左サイドの小宮山からファーサイドの狩野へ渡り、折り返しを大島が決める。瞬く間に3-1。

前半こそJFLの雄ここにありをアピールしていたが、勝ち越された後の佐川急便SCは脆さを見せた。気落ちしたのか明らかに運動量が落ちる。「佐川相手に3点取れたら御の字なんだから、もう攻めるふりだけしていればいい」とK林さんは言うが、これだけプレッシャーがなくなると攻めたくなるのが人情というもの。

佐川急便SCのプレッシャーに手を焼いた前半、隼磨と小宮山の両サイドはほとんど上がれない状態だったが、3-1となって以降は上がり放題で、ボランチの河合が下がりほぼ3バックになる。終盤は横浜のパス練習のような展開となってしまう。30分に粘ってキープした坂田が決めた4点目はおまけのようなものである。堀の運動量だけが最後まで光っていた。

試合終了近くに清水が放った強烈なシュートに、K林さんが思わず叫ぶ。

「決めるな!!!」

森田が横っ飛びで防ぐ。「ナイスキーパー!」とK林さん。大勢が決した後に貴重な清水の2点目を使うわけにはいかない。集中を切らしていなかった森田に感謝すべきか。

実に8試合ぶりの公式戦勝利である。澄み渡った空の下、トリコパラソルが回る回る。強豪相手にどんな形でも勝ち上がればいいと試合前は思っていた。結果は予想外の4-1で、当然喜ぶべきところかもしれない。しかし、試合後には嬉しいと同時に別の感情も浮かんでくる。

できることなら、最後まで予断を許さない拮抗した展開であってほしかった。その方が横浜にはいい薬になったと思うからである。強い強いと頭に刷り込まれていただけに、後半早々に佐川急便SCが崩れてしまったことは正直残念でもある。だからといって「何だ、大したことないじゃないか」と言う気は毛頭ない。

リードされると脆いのは横浜も同じ。今季、逆転勝ちした試合は数えるほど。前半のうちに勝ち越され、相手を乗せてしまったら結果は逆だったかもしれない。この日は紙一重の差で横浜に流れが来た。「なかなか手ごたえがあった」というような余裕綽々のコメントを選手が本気でしているのであれば、今年も国立は遠いだろう。

エル・ゴラッソには「光明が見えたどうかは定かではない」と書かれた。相変わらず手厳しい。光明が見えたかどうかと問われれば、見えたと思う。一つは狩野だ。今季の横浜はプレスサッカーを指向し、また幸宏が頭角を現した。運動量で劣る狩野は出場機会を失っていた。ナビスコカップ準決勝第2戦の翌日、サテライトの東京戦で見た狩野はそれまで見たこともないくらい体を張って頑張っていた。その狩野がフル出場を果たした。

狩野よ口うるさい我々を見返せ。そして横浜よ優勝してエル・ゴラッソを見返せ。


今日のポイント

●前半の佐川急便に舌を巻く
●佐川急便サポーターの野球風応援
●流れを引き寄せた立役者、飛脚をぶっちぎった清水
●開花する片鱗を感じた狩野
●勝ってよかった!!!
                        
今野隆之







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