malicia witness 2階の目線2005 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 05-06シーズン 9月3日 名古屋グランパス 日産スタジアム 長い時間、名古屋の選手達は主審の家本さんを囲んだ。彼らにとってはPKの判定は不当に感じられたのであろう。だが、その判定自体を「厳しすぎた」とネルシーニョ監督は試合後に語った。つまり反則があったことは認めている。古賀の主張は「中沢も掴んでいる」だった。いわゆるJリーグルールの適用を希望したのだ。だが、叶うわけはない。そもそも、89分まで古賀がフィールド上に存在したこと自体が温情なのだ。それに気づかず、取り囲みは延々と続いた。だが、その時間を気にするスタンドではない。この次に訪れる歓喜のために息を殺す。囲みは解かれたが、次の邪魔が入る。ハユマがそれを排除する。さらに小さなトラブルが生じ、ハユマにはイエローカードが提示される。小さなため息が一斉に漏れる。だが、大きな声は上がらない。それよりも、このキッカー山瀬の集中力が途切れてしまいそうな小賢しい空気を、張りつめたものにしたい気持ちが、そんな少々の騒動など気にしていられないのだ。私たちは勝ち点に飢えている。先制点の後にグラウが演じた気の利いたパフォーマンスを見ていた者は、ほんの僅かだけ。喜びに飛び跳ねて、仲間の笑顔を確かめ合う、それで精一杯だったではないか。グラウがトリコロールのフラッグを取り出したことを知ったのは、その後のビデオ再生でのこと。スタンド中がドット湧いた。みんな、そのときに初めて知ったのだ。 祈るしかない。気持ちを伝えるしかない。連敗中の勝ち点は1か0では大違い。それを頼もしい10番がしっかりと決めてくれる。 「よし!」 「よし!」 「よ〜し!!」 まだ時間はある。 「次だ!」 「まだ攻める時間はある!!」 「行け!まだ勝負は終わっちゃいないぞ!!」 今度は勝ち点3を狙って総攻撃が仕掛けられる。 前半は、ほぼ完璧といえる出来だった。いや、そのはずだった。だが、仕事の都合で5月以来のスタンドだった仲間は 「こんなゆっくりのサッカーになっちゃったんだね。」 とハーフタイムに言った。連敗前を最後にスタンドから離れていた仲間は 「これでマシなんですか?」 と聞いた。 それでも、名古屋との相対的な関係でいえば、完璧な45分だった。決定機は与えず、先制。その他にもチャンスは十分に作った。けれども、ハーフタイムの会話は弾まない。それはきっと、既に私たちには重い連敗の影と、すばらしいサッカーの残像が、心の中で交錯してしまっているからに違いない。 では、そんな悲痛なスタンドだったのか。それは違う。 選手がウオーミングアップを始める。ゴール裏から始まった「アジアの歌」は、トラメガのどんなメッセージよりも強く私たちに語りかけた。そのメッセージと比べれば、どんなに機械的に大きな音量で意思を伝えようとも、どんなにかっこいい言葉を並べようとも、どんなに勢いを煽ろうとも、まったく遠く及びようがない。歌が始まった瞬間から、バックスタンド2階席は、大音響の手拍子で包まれる。通常は選手入場とともに応援のパフォーマンスに加わるバックスタンド2階が、この時点からエンジン全開となったのだ。そしてフィールドに登場した選手達も、いつになく落ち着きがない。スタンドを眺める仕草が目立つ。まちがえなく、このメッセージは伝わっている。きっとやってくれる。 90分間にたくさんの喜びと嘆きの瞬間は散りばめられている。だが、評価は瞬間ではなく90分のトータルで決まるのだ。 「最近さぁ、『サッカーでストレス解消できていいよね』って会社でいわれるんだけどさ、それって違うだろ。サッカー場なんてストレス溜まってばっかりだよ。」 「そうだよ、俺もストレス溜まる一方。」 「俺なんか、スタジアムのストレスを仕事で解消してるもん。だから、仕事中なんか喋りっぱなしだ。」 「危ねぇなぁ、それって。」 サッカー観戦、そしてサポートの89分間はストレスだ。だが、その89分のストレスを上回る瞬間が突如訪れる。そのトータルが、私たちを毎週末、このスタジアムに運んでくる。 序盤に訪れた最初の驚きは、大島のキープをさらって左足で放った大橋の思い切ったシュート。そして、逆に渡辺が中央の杉本に送り込んだクロス。前へ一瞬出ようとした榎本は慌て、足下がふらつく。ちょうど、何もない街なかの交差点でおばあちゃんが転びそうになる不自然な両脚の交差で倒れそうになるのを必死にこらえ、ピンチを免れる。 「危ないところだった。」 「名古屋は当然、狙ってくるからな。こういうのは凌がなくちゃいけない。」 右サイドはハユマと大橋の連携もよく、何度か好機ができる。そして、上野が効果的なプレーをすればチャンスはできる。隙のある中盤のスペースを使ってドリブルで左サイドを上がりアーリークロス、大島のボレー。 その前もプレーも上野が中盤に上がってきて注意を引きつけて、結果、右のハユマと大橋の連携が生まれた。順調な立ち上がりだ。 大島はポストへのヘディングシュート。那須のフリーでのシュート。チャンスが続く。だが得点できない。すると20分過ぎにバックパスが増え始める。 「一気に勝負しないとダメだ。」 キープレーヤーは最初から古賀だったのだ。 名古屋の古賀は五輪予選代表に入った頃、抜群の身体能力とサッカーセンスで、将来を多いに嘱望された選手だった。だが、次第に、その魅力は多くのサッカーファンの視界から消えていった。この試合でも、古賀はいつものように前半から「おんぶお化け」。ハイボールの競り合いに後ろからのしかかり、両手をかけてファールしてしまう。そのフリーキックからボールが右に流れ、上野、右に流れていた大橋、さらにはゴールライン際へおくり走り込んできたハユマ。折り返してグラウ。技ありのゴールにトリコロールが揺れる。 さぁ、勢いに乗ってボールも選手も動き始める。パスのコースはダイナミックになる。それまでは一度もなかったスライディングタックルを思い切ってボールを奪いカウンターアタック。ドゥトラも初めてゴールライン際までボールを持ち込む。 その後、またしても競り合いで古賀が安易なファール。 攻撃といえば可能性の低いミドルシュートが散発であるのみの名古屋。 「この時間で追加点だぞ!!」 「一気に勝負をかけろ!!」 ドゥトラからのクロスにグラウと大島が同時にゴール前でスライディング。オールを狙う野獣のように飛び込んでくる。次は右のハユマからグラウへのクロス。 「よし行け!」 好展開に拍手が起き、シュートに歓声。攻めで勢いがつけば守備も前からプレッシャーをかける。名古屋ボールをバックパスに追い込めば、またしても拍手。終了間際にも、早い判断で上野が左のスペースへパスを流し込む。チャンスが生まれる。 完全に主導権を握った前半。だが、追加点はとれなかった。それでも、現時点では完璧と言っていい試合内容だったはずだ。選手達は応えたのだ。 名古屋にとって誤算だったのは、選手もサポータも、「使われる外国人選手」に慣れていないということだ。ストイコビッチ、バスティッチ、マルケス、ウエズレイに代表される名古屋が獲得してきたビッグネームは、いずれもスーパーなゲームを作る選手達だった。だが、そんなビッグネーム達の中で、たった一人、最も著名だったフットボーラー・リネカーだけは活躍することができなかった。ルイゾンも、それに近い状況なのだという。そのパートナーとしてサポーターに期待される藤田も出場の機会が限られている。消去法で使われているのが豊田と杉本なのだ。 当たり前の采配に切り替えてきたネルシーニョ。 「げげっ、出てきたぞ。」 「当然だろ。」 「使わないでいいと考えていたのは監督だけだろ。」 藤田とルイゾンの登場。そして、瑞穂でサイドをビリビリに切り裂いて散々な目に遭わされた杉本が右へ。すぐに、その効果は出る。豊田が中央で潰れてボールは右へ。杉本が入れたグランダーのクロスがこぼれてルイゾン!リネカーのようなゴールへの嗅覚を感じさせる動きだった。 「ほらみろよ、普通にやれば名古屋だってできるんだ。」 「ちっくしょう、ダメ名古屋だったのに普通のチームになっちまったじゃないか。」 「さぁ、前向いてやり直せ!」 後半は状況が一変する。名古屋は少々無理な状況でも藤田に預ければ前を向いてパスを捌いてくれる。苦しければキープして時間を稼いでくれる。これでクライトンも高い位置でプレーができてて、名古屋の攻撃陣は一気に厚みが増した。するとトリコロールのプレーに躊躇が見えてくる。こぼれ玉が足下ズバリに戻ってきた大橋がシュートせずに右にさらに大きなコースを作ろうとしてドリブルのタッチをして裏目に出る。ハユマも同様。 ルイゾンが中央にパスとおもったら、さらに右の杉本に渡り大ピンチ。 「うわっ、良い展開!!」 これには声が止まらない。 名古屋は守備も立て直し、上野と那須へのプレッシャーが厳しくなる。するとボールを下げる。さらには、スローインを受ける選手が全くいない。これが何度も繰り返される。こういうときにこそ、ボランチがボールを積極的に受けて、適切なコースへボールを運んでほしいのだが、簡単にボールは最終ラインへ戻されてしまう。 時折だが、上野フリーで受ければチャンスができる。 上野からドゥトラ。そこに古賀が手を伸ばして倒す。主審は指で5カ所を指してカードを提示する。繰り返しの反則による警告。 「おいおい5回も指差したぞ。」 まぁ、そもそも古賀の場合は何年間も、ずっと安易な反則の繰り返しだ。 さらに楢崎のスローミスをグラウが奪う。そこを慌ててなのか意図した反則なのか古賀が脚をさらう。酷いファールだ。ここで二枚目のカードで退場でもおかしくなかった。主審はアドバンテージを見るが、こともあろうに、そのボールをトリコロールは簡単にパスミスで渡してしまう大失態。チグハグだ。 「なにやってんだよ!!」 「ミスはするしカードは出ないし!」 いくら前向きな応援をしていても、この馬鹿げたプレーだけは誰も許せないだろう。チグハグな攻めは、その食い違いをいっそう大きくしていく。好機にシュートを撃たずにクロス。逃げのクロスだ。みんな「撃て!」と叫んでいたのに。 岡田監督が動く。坂田が入る。下がるのはグラウ。「え〜。」驚きの声。押し気味とはいえチグハグだらけの組み立てが行われる中で、最も積極的にボールに絡み、スペースを創り、守備にまで奔走していたグラウがフィールドを去るのだ。 「う〜む、納得しづらいなぁ。」 「坂田に賭けるしかない。」 何度もセットプレーで演出する大橋。得意の右サイドから立て続けにクロスも入れる。大島が倒れながらマイナスに戻す。上野の足下にドンピシャ。またしても声が揃った「撃て!」の瞬間。けれども、上野は右にドリブルで逃げてご丁寧にシュートコースを制限してしまう。 「上野、頼むから撃ってくれよ!」 「なに自分で狭いところに行っちゃうんだよ。」 この展開では、フィールドが見渡せるスタンドから見ている私たちも冷静な目を失ってくる。 「大橋どうよ。触っていないんじゃないの?」 実際には、後でビデオを見れば、よくボールに絡んではいるのだが、軽い瞬間瞬間が印象を悪くする。 「いや、チャンスボールの一発があるから、大橋で点が取れるって監督は信じてるんだよ。」 「でも、ダメじゃないか?」 引き分け狙いならば清水を入れれば良いはずだ。守備に難がある大橋を使っているということは、監督は、もう1点を奪うつもりなのだ。確固たる根拠があるわけではないが、そう信じていたい。 動きが重くなる。みんなが危険を察知した。 「ハユマ行け!戻れ!」 「よし、よく止めた!」 「戻ったから止められたんだ。がんばれ。」 脚が止まる。中盤にぽっかりとスペースが空く。ボールを奪っても、押上げがなく、ますますボールは前ではなく後ろへパスされる。 「ハユマ上がってこいよ!」 「上がれ!!」 「やっと上がった!」 「よしハユマに出せ!」 「あっ取られた!」 ハユマの上がったスペースを逆に突かれる。このあたりで体力に限界が来ている。トリコロールのストッキングに誰かがおもりを埋め込んだかのようだ。 「まずいぞ!」 「脚が止まってるよ!動け!!」 最終ラインの前にはノープレッシャーのスペースがある。最終ラインは文字通りの最終ラインで、ゆっくりと下がるだけ。 杉本が隙をついてクロス。ニアで潰れてファーサイドに走り込んできたルイゾンがハユマからは見えない位置から飛び込んでシュート。 「やられた…。」 「やっぱり。」 怒りも驚きも起きずに空気が凍ったのは、きっとみんなが同じイメージを持っていたからだ。不幸にも、名古屋の選手達も同じイメージを持っていた。 すると岡田監督は選手交代。山瀬が登場。 「なんでだよ!」 「大橋を信じてたなら最後まで使えよ!大橋で点を獲れると思って使ってたんじゃないのかよ。」 「なんでグラウがいなくなっちゃうんだよ。」 「大橋下げるんだったら、もっと早く大橋に変えて山瀬でも、大橋に変えて坂田でも良かったじゃないか。」 怒りをぶちまけて、ひと呼吸を置いて再び応援のコール。追いつかなければならない。このまま終わるわけにはいかない。 岡田監督がいう「神様からのプレゼント」だったのか、真実はわからない。古賀が「もう一度やったらカード」という注意を受けていたのか、最後のフリーキックの競り合いでホイッスルが鳴った後に、全選手に注意がされていたのか、そんなことも、だれも確実な証言などしないからだ。残る事実は、89分に古賀が安易なファールをしてトリコロールにフリーキックを献上し、そのフリーキックのさなかに古賀が安易なファールをしてPKを与えた。ただ、それだけなのだ。そして、この試合の、私たちにとっての本当の価値は引き分けの次の試合で決まる。 「次は直接対決だ。」 「早く後ろを気にしない勝ち点まで到達して楽になろう。」 「ナビスコに向けてテストするためにも勝ち点1は重要。次の試合はもっと重要になったぞ。」 「今度は勝ち点3だ。」 「ユニバで会おう。」 新幹線の改札前で、私たちは年間チケットで日産スタジアムに通う関西在住の仲間達と別れた。 今日のポイント ●名古屋も、かなり状況が悪いがきっかけは掴んだだろう。 ●グラウの元磐田らしい攻守での関わり方。 ●真相はわからないマグロンのベンチ外。 ●苦しい時間帯の印象が悪すぎる上野のバックパス。 ●藤田に続いてルイゾンにも初ゴール献上。 ●豊田、本田、松田が日産スタジアムで激突するはずが本田欠場。 今日の査定
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