malicia witness 2階の目線2005
ヤマザキナビスコカップ 05-06シーズン

10月5日 ガンバ大阪  日産スタジアム

水曜日の日産スタジアム。新横浜に停車する下り電車からはサラリーマン達が改札へ飛び出してくる。新幹線を降り、全力疾走で階段を駆け下りる。道路を進むと親子連れもいる。きっと、父親が仕事を終えるのを、今か今かと待っていたはずだ。はやる心を抑え「まだ点は入っていないよね?」と自らを納得させるように父親に質問をしながら手をつないでスタジアムへ向かい始める。新横浜を歩く人の速度は、いつもよりも幾分早い。もう、試合は始まっているのに、まるで土曜日の試合前のように道にはトリコロールのマフラーを身につけた仲間達が急ぎ足でたくさん歩いていく。

雨のスタジアムは悲壮感を私たちに与えてくる。

ただでさえ、緊張感の高まるカップ戦の第二戦だ。ありきたりなメロドラマの演出のように、屋根の下の私たちの視界を斜めに細かく光る線で加工していく。既に始まっている試合がスタンドをヒートアップさせたのか、ヒートアップしたスタンドが試合を動かしたのか。試合の色は、雨に濡れて深くなるのではなく、両クラブのチームカラー/クールな青がベースでもなく激しく熱く燃える色。熱気溢れる2階席のムードは一昨年の神戸戦を思い出させる。

激しく攻め立てるトリコロール。

攻撃の良さよりも、前線からの守備の奮闘が目立つ。奪ったボールは、すぐに前へ。試合のテンポとシンクロしたゴール裏の応援歌は雨に濡れる前列が起点となる。攻めているときはもちろん、守勢に回っても声援が押し込まれることはない。何より、フィールド上の選手達の動きに迷いがない。それもあって、応援の声と選手の動きがキモチよく連動しているように思える。そして守勢のときであっても、それは変わらない。あの長く続いたガンバの波状攻撃の間に、ずっと続いたF・マリノスコール。やむことなく耐えることを要求した力強いコール。そして、前線からのチェックでボールをバックパスさせたときにわき起こる大きな拍手。

圧倒的に攻めるが、流れで点が取れるようなムードというわけではない。

そこで、かつてのお家芸だったコーナーキックだ。手拍子が一段と大きくなり大橋のボールがゴール前へ。
「フリーだ!」
ボールはネットを揺らしている。跳ねる、跳ねる、抱きつく。携帯電話が飛ぶ。
「追いついた!追いついたぞ!」
期待通りの、これしか先制点はないだろうと思われたコーナーキックからの那須のゴールで、第一戦の劣勢に追いつく。

運も味方するホームゲーム。

毎度おなじみの榎本の飛び出しでゴールががら空きになる。無人の枠に向かって放たれたゴールのはずがクロスバーに跳ね返る。リバウンドの争いを栗原が身体を張って食い止める。
「栗原!よくやった!」
「いいぞ栗原!!」
「それにしても、ついてるぞ。」
「あんなのが入らないなんて、ありえないだろう。」
微妙な判定がガンバに不利に働くことも。そして、フェルナンジーニョ、アラウージョ、大黒とパスを繋いで裏に抜けるがシュートは真正面。
「やっぱりついてるよ!」

「これなら行けるよ。」
「最初からガンバは脚が止まってるんだから、後半は絶対にもっと押し込めるよ。」
「さすがに、ガンバは疲れているな。」
「那須の守備は凄いね。」
ハーフタイムの会話は興奮気味だ。いつの間にか、1階屋根下はいっぱいになっている。

前半の攻撃を続ければ勝てる、そう信じている。

攻めの時間は長い。グラウと坂田が前線から追い、コースを限定しておいて、那須や奥がボールを奪う。中盤を突破されれば中沢が高い位置で食い止める。その間に、栗原と中西が那須と連携してスペースを埋める。一対一には負けない。倒れたら立つ。サイドがドリブル突破されるシーンは仕方ないが、中央は何度も跳ね返す。ただ、攻撃は偶然に任せたものが多くなっていく。

十分にあるはずの時間は、止まることなく進んでいく。ガンバは、前線の3人に攻撃を任せ、守備の位置は深い。トリコロールにとっては、ルーズボールの競り合いさえ奪えば、最終ラインとの勝負に持ち込むことは、それほど難しいことではない。中盤の底の掃除は那須に激務を負わせ、グラウ、坂田と一体になった攻撃を中盤の選手達が続けていけばいい。

「立て!立てよ!!」
「審判の顔見る前に立ち上がれ!!」
「顔見るのは禁止だ!!」
注目の吉田主審は、ガンバに多くのカードを出した。トリコロールは判定で損をしたシーンなど、ほとんど感じられない。激しいぶつかり合いだがフェアーなチャージにはホイッスルを吹かず、試合の流れを止めない。だが、「私を助けてください」とすがるような顔で吉田主審の目を見つめる男達がいる。濡れた芝の上に身体を伸ばし、疲れた身体のいたわりを主審のホイッスルに求めている。

トリコロールは勝たなければならない。だって、これは勝てる試合なのだから。

誰もがハーフタイムには、「これなら行ける」と思ったはずだ。そこからガンバが反撃をして来たのか。応えはノーだ。日曜日に試合をし、大阪からの移動をする過密なスケジュールとリーグの優勝争いに消耗しているガンバの動きは前半から重い。リードされた後半ですら、前がかりになることはない。中盤の守備もルーズ。これは90分で勝つべき試合ではないのか。

そしてトリコロールは勝たなければならない。勝つために、闘える選手はゴールに向かってチャレンジを続けなければならない。たとえ、オフサイドポジションを歩いても戻る選手がいるためにチャンスにパスが出せなくても、たとえ、クロスを入れようとしてもペナルティエリア内で座っている選手がいるために決定的なクロスが入れられなくても、たとえ、ロングボールを出した後に中盤の押上げが少ないために前線の2人が孤立しても、たとえ、サイドにボールを渡したらフォローのポジションをとらないためにサイドの選手が囲まれて潰されても、たとえ、前線に人数が揃っているシーンで後ろにパスを戻す選手がいるとしても、それでも、タイトル獲得のために目の前のガンバ大阪を叩かなければならないのだ。

岡田監督は動けなかったのか動かなかったのか。

90分での勝負を諦めたのか、それとも、栗原の負傷交代が響いたのか、奥の交代も誤算だったのか、清水を投入する気配がない。
「もっと宮本を狙っていけよ。」
「高いボールは無理なんだから、もっとかき回せよ。」
グラウと坂田は体力の限界を考えず、守備に奔走している。疲れが、ほんのちょっとの、それでいて大きなミスを呼ぶ。グラウが足の裏を見せてのスライディング。さらには脚を高く上げる。危険なスライディングだ。文句なしのイエローカード。
「よし、カードなんて関係ないよ!頑張れ!」
「90分で勝てよ!!」
「勝つんだぞ!!」
カップ戦で勝つために、もはや、次を考える必要はない。この試合を、どのように乗り越えるか、しかも、流れが変わる可能性を秘めたインターバルを迎える前に。

あの場所は、いつか見た場所。そうだ、そうだよ。

ドゥトラが左サイドの突破を狙うが倒れる。ガンバの選手のスライディングした右脚ではないが、曲げた左脚がかかっているからファールのはずだ。だが、この場面でファールをもらえないのは、今シーズンをはじめ過去のプレーにも一因はある。反則に相当するプレーだが、それを判断するのは審判だ。そして、それは、どうでもいいことだ。なぜなら、勝負はこういうセルフジャッジの場面でつくことが多いことは、サッカーをプレーしている者、応援し続けている者の誰もが知っているからだ。そうだ、ドゥトラが倒れた場所も時間も、つい最近のガス戦とそっくりだ。この場面でボールを外に出す必要はない。ガスはそうだった。ガンバも同じだ。2つのチームが同じ選択肢を選んだ。一気にカウンターで好機を突破しようとするガンバ。ガス戦と同じ選択をとったチームが、もう一つ。それは愚かなりトリコロール。ボールを外に出すことを要求している。結局は何も学んではいなかった。プレーが止まるとガンバの選手に突っかかる選手までいる。この、ちょっとした無駄な争乱に勝って得るものは何だ?
「馬鹿やろう!!」
「やめろ!」
「お前らサッカーやれ!!」
「勝つことに全力が出せないならやめちまえ!」
「勝てるのか!こんなことやる余裕があるのか!!」
「勝つために頭を使え!」
「勝つことだけ考えることはできないのか!」
ガス戦と違うのは、カップ戦特有の勝利への怒りのエネルギーだが、それは選手から出たものではない。

延長後半に入る。5分たったところでグラウが退場。

あれだけ明らかに突破を手で押せばカードは出る。グラウは、この試合の守備の立役者の一人だが、この行為は、あまりに愚か。
「攻めて来ないから、下がらずにやれ!!」
延長戦の頭から清水の投入で、いくぶん前線にも活気が戻るが、インターバルを挟むと別のサッカーになってしまう。徐々にペースを握って猛攻を仕掛けるがシュートがネットを揺らすことはない。審判の顔をうかがうシーンを織り交ぜながら30分の延長戦は終わる。

「このために1番を使っていたんだろ!」

「もう、あいつが勘違いして止めることを願うしかないじゃないか。」
榎本達也は2001年のナビスコカップ決勝戦、そして2003年のチャンピオンシップ第二戦のPK戦で殊勲の活躍を見せた。
「動くな!!」
「絶対に動くなよ!」
願いと叫びも虚しく、PK戦は、これ以上はないというくらいのあっさりとした風味で終わる。ゴールキーパーが、あれだけ早く大きく動けば素人でも逆の方向へ蹴ることができる。万が一、動いた方向へボールが来て止めたとしても、蹴る以前に前にも出ているから蹴り直しの判定だろう。ガンバの選手が蹴る前に勝負はついていたのだ。誰もが忘れようとした今年のゼロックスのPK戦と、」榎本達也は何も変わっていなかったのだ。

「運も実力のうち」という。

クロスバー、判定、今日の試合ほどツキに恵まれたことを意識した試合は珍しい。松田が延長戦で藤ヶ谷を倒したシーンは本来であれば2枚目のイエローカードで退場だ。松田は手を伸ばしてボールを触ろうとしているではないか。それだけではない。松田は、その前のプレーでも藤ヶ谷が投げたボールが自分の頭上を通過する際に手で触ろうと手を伸ばしている。2つも連続で意図的なハンドを思わせる行為をしたのはテレビで見た90年ワールドカップイタリア大会準決勝のカニーヒア以来だ(カニーヒアは、その後、コカイン使用でローマを追われる。あんな行為をして松田は悲しくないのか?)。松田がフィールドにいられたのは、吉田主審の温情だ。トリコロールは運を引き寄せる実力はあったが勝利を呼び込むまでの実力は自らが放棄したのだ。

「天皇杯もあるが、どういう位置づけで戦うのか? 優勝すれば、確かに再来年のアジアチャンピオンズリーグへの出場権も得られるが、今の段階では何ともいえない。」
という選手の試合後のコメント。位置づけや重要度は選手が決めるのではないことを未だに気が付いていない。目の前にある試合に全力を尽くせずに闘いを終えることが、これまでもあった何よりの証明だ。よけいなプライドや計算が、今日のような試合を創る。本当に最後まで闘い抜いたのは誰だ。

志願して出場した奥、そしてハユマやドゥトラの奮闘も虚しく、昨シーズンの最後の試合は仙台で悲しく散った。そこで、すでに始まっていた。ドゥトラが山岸をからかうようにゴロでPK戦に幕を引いた直後から、チャンピオン・横浜F・マリノスは、少しずつ10ヶ月かけて汚されていったのだ。ていたらくな闘いで降格争い寸前のリーグ、降格寸前のチームに勝っただけで予選の苦闘と無縁の2試合(H&A)のみで敗退したナビスコカップ。その一方で、アジアでの苦難のスケジュールと環境は、常に言い訳に使われた。勝つための機会ではなく、負けの責任回避のために、私たちの夢と希望は悪用され続けて来たのではないか。

もし、「この試合は浮上のきっかけになる」と考えている選手や首脳陣がいたならば、それは「堕落」を意味する。これが「十二分に持っている力を発揮した試合」ならば、「持っている力」は本来の力の半分以下だということだ。知らず知らずに、この汚れた下る坂道に付合わされて来た仲間達は、今日も新幹線に飛び乗って来た。スタジアムへの坂道を駆け上って来る者もいる。大阪への終電を諦めてPK戦が終わるまで応援し続けた者もいる。だが、だます者は楽だ。逆に、だまされ続けても声援を送り続ける私たちは、不幸をきっと意識しない。だまし続ける者は、それを知りもしない。


今日のポイント

●横向きのヘッドは実は苦手な中沢。あれを決めるのは小村。
● タイミングをずらして消えてゴール前に現れる山瀬の技。
● 1人ボランチをやりきった那須。
● 持ち前の采配間違えを起こさなかった西野監督。
●まるで山岸のようだったPK戦の1番。
●延長に入って積極性がシュートに至った大橋。










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