malicia witness 2階の目線2005
天皇杯 05-06シーズン

11月5日 ベガルタ仙台  三ツ沢球技場

いつでも開幕戦は、期待と不安が交錯し、独特の緊張感を創りだす。特に、三ツ沢の開幕は独特だ。何度も苦渋を味わい土俵際に追い込まれ、そして、粘ることもなく、あっさりと土俵を割ったことも少なくない。それでも私たちは、不安よりも期待をどこかで優先して13時の三ツ沢に駆けつけてしまう。それは、過去に選手や監督が「捨てゲーム」と口にしていたときでさえなのだ。

「長いプレシーズンマッチだったねぇ。」
「さぁ、今日からシーズンインだよ。」
今年は、「プレジースンマッチ」と呼ぶのには気が引ける。厳しい日程、苦しい中国でのアウエー。闘った選手達。駆けつけた仲間達。インドネシアでの数々のエピソードも記憶に新しい。だが、それでも、そうしても「プレシーズンマッチ」と呼びたいのだ。全てをリセットして、今日からの日本最高峰のタイトルに臨みたい。

「あれ、パンフレット復活したの?」
「そうだよ。復活だよ。」
「去年の1回戦毎に薄いヤツを売るのは、よっぽど不評だったんだろうな。」
「やっぱ、これじゃないとね。ページをめくる楽しさと、年鑑として買う意味がないもんね。」
「あれ、でも地方大会の結果が決勝戦しか出ていないよ。」
「これじゃぁ、地方大会でACミラソやアトレチコ奄美やディナモ都城やFCキングカメハメハが、どこまで勝ち上がったかがわからないじゃないか。」
「あれ、他にも足りないページを見つけたぞ。」
「何が足りない?」
「NHKの海老沢会長の挨拶がない!」
「辞任したよ!!!」

期待が不安を下回る。

選手達が出てくる。三ツ沢で見る選手達は表情もバッチリわかる。日産スタジアムではわかりにくい足下のテクニックも、よくわかる。
「いやぁ、今日の試合も例年通り、まずいぞ。」
「えっ、なんで?」
「見てみろよ。酷いぜ、この練習。」
距離を取って両タッチ際で左右にサイドチェンジするようにボールを交換する選手達。1メートルほど間隔を取って列を作っている。だが、そのボールは不正確というよりも、狙ったところに飛ばない。数十センチの違いでも彼らのレベルからすればミスであるはずなのに、1メートルほど離れた隣の選手のところにボールが飛ぶ。何度も飛ぶ。正確に飛んだパスもトラップが大きく、2メートル以上前に跳ね返る。そのような光景が繰り返される。
「見事に気持ちを表現する選手達だよ。」

シーズンの開幕を告げる試合が始まる。

自由席はアウエー側まで埋まっている。熱気を帯びたスタンドからの声援に煽られて、熱い試合が始まる。前線からプレッシャーをかけてくる仙台
「まずい、完全に立ち上がりは仙台ペースだ。」
「ずいぶん高い位置から獲りにくるな。」
仙台サポーターから不評だということが信じられないアグレッシブで組織的な攻守の仙台がペースを握る。

練習そのままの立ち上がりだ。

ドゥトラのショートコーナーを上野が軽く足先だけで捌く。本来、ドゥトラの左足にピタリと返すべきパスだ。だが、ボールは右足の外に流れる。それは、そうだ。先ほどの練習を見ていれば、このようなことが起きるのは納得だ。ドゥトラはボールの処理に戸惑い、クロスを入れるタイミングを失う。

前線で奪われる。安易すぎるタックルは軽くかわされる。ドリブルでの突破を許し、中央にはフリーの選手が走り込む。
「まずい!」
「止めろ!!」
「入れさせるな!!!」
一気のカウンターに叫ぶ。だが、その声に反して、ボールは中央へ。
「やられた!!」
覚悟をした、その瞬間に、ボールは大きくゴールの枠を越えて飛び去っていく。
だめだ、これは言わなければならない。このゆったりとしたムードを変えなければ、いつものように初戦敗退で、今シーズンは終わる。
「馬鹿やろう!手抜きプレーをやめろ!!」
スタジアムに響くブーイング。

ここからゲームは変わる。

そして、突然のフリーキックで久保が舞い、ゴールネットを揺らす。総立ちのスタンドは祝福の拍手とコールで久保を讃える。フリーの選手がゴールを奪えず、競り合った久保は簡単にゴールを強奪する。ほんの紙一重の違いだが、この差はサッカーにおいては計り知れない大きさを持つ。

そこから久保は蘇る。

読売戦では腰の引けたコンタクトをしていた久保が、全身で体重をかけて競り合う。時には反則になることもある。だが、それでも私たちは、そのアクションを讃えて拍手する。
「いいぞ久保!!ガンガン行け!」
退場するのではないかという雰囲気さえ持ちながら、野生の久保が帰ってくる、時間が進むにつれて。グラウのシュートの跳ね返りは久保の左足でゴールに流し込む。どうみても狙ったコースにボールは飛んでいないが、ゴールの幅までもが久保に寛容だった。

天皇杯を最も欲しい男がゴールに押し込む。

マグロンのオーバーヘッドはポストに当たり、戻ってきたボールを奥がシュート。さらに跳ね返りを奥が決めてみせる。
「こういうのが入るのと入らないのでは大違いなんだよなぁ。」
「よく決めたよ、奥。」
昨年、仙台での無惨な闘いの中で、監督までもが放棄した全軍を指揮し真の日本一を目指した男が、満面の笑みを見せる。

さらにはグラウ。ゴールの瞬間に、ゴール裏は彼のパフォーマンスを欲していた。4点差。気の抜けた雰囲気は、もうない。何点でも奪ってくれ。苦しかった、これまでの試合を洗い流すかのように。

仙台は山形との大一番を控え、勝ちに来なかった。今時、ハユマの右アウトサイドのフェイントに何度も引っかかる選手はJ1にはいない。でも、それでも、今日のゲームは心地よい。
タッチに出たボールはスタンドに飛び込む。スタンドからボールが投げ返される。ハユマは、そのボールを受け取りスタンドに拍手をする。スローイン。だが、主審の家本さんに止められる。投げる位置が前過ぎるのだ。
「ハユマの拍手って、前に投げてくれたスタンドに感謝だったのか。」
「バレたか。」
笑顔、笑顔、笑顔。スタンドのみんなに笑顔だ。
「こんなに笑って見れる試合って、いつ以来だろうね。」

細かなことを指摘すれば、途中の松田は不安定な先進状態に戻っていたし、途中出場の大橋はポジショニングが悪すぎてボールに絡めなかった。でも、それよりも、伸び伸びと勝てたことは大きい。
「さ、今シーズンの成績は1勝0敗だよ。」
「全勝だよ。」
「やっと開幕したよ。」
「開幕戦にしては、いい試合だったね。」
「せっかく開幕したのに、しばらく、またプレシーズンマッチか。」
「でも、1試合、国際試合があるぜ。」
「あの国際試合だけは、絶対に勝たなくちゃな。」
「今シーズンは、まだ始まったばかりだよ。」
「そうだよ、重要なのは2005-2006シーズンってことだよ。」


今日のポイント

● 仙台の拙攻と榎本の攻守がなければ例年通りになっていた。
●両サイドから自信を持って縦に崩した。
●クロスを入れるときエリア内に3名が走り込むことも度々。
● アドバンテージ以外は適切だった主審の判定。






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