malicia witness 2階の目線2005 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 05-06シーズン 12月3日 大宮アルディージャ 埼玉スタジアム 埼玉スタジアムの北側へバスで行く。この地の果てのような荒野は道が歪み、最寄り駅が六本木からの直通とは違和感のある風景。大宮とのカップ戦アウエーに近い雰囲気がある。スタジアムに入れば、のどかな風景そのもので、油断すれば眠ってしまいでもしそうな暖かな日差しが眩しく、ちょうど昨年の今頃に、歓喜に揺れたスタンドを正面に見る。 誰が、この試合の中継をテレビ埼玉で見るのだろう。 各地で優勝争いに絡むゲームが展開される中で、ここは無関係の消化試合。 「しょうがねぇな。こういう、どうしようもない試合のときは、俺たちが、勝手に優勝しちまえばいいんだよ。」 意味不明の言葉まで飛び出し、とにもかくにも、来た以上は精一杯応援しよう、そんな気分になる。なにしろ、この消化試合に、自分から2メートル以内に、大阪から1名、京都から1名、長野から1名の仲間が陣取っている。 15分を待たずに両ゴール裏からは相手チームのバックラインでのボール回しにブーイング。このような早い時間にブーイングをされると腹が立つことが多いが 「うむ、正当なブーイングだから仕方ないな。」 「ボール回しがくだらなすぎる。」 納得するよりほかない。何を恐れているのか、慎重な試合運びなのか、動けないのか。 大宮の4バックががっちりと数的優位を両サイドで作っている。サイドのミッドフィールダーとサイドバックが待ち受ける敵陣にハユマやドゥトラは単独でフォリブルを仕掛ける。中央に適切な楔のボールは入らないし、坂田がサイドに流れてきたタイミングでサイドにボールが来るわけでもない。攻めは全て個人能力に任されている。 「上野とマグロンとグラウだけでボールが回っているなぁ。」 「熊林は、どこへいったの?」 「消えてるなぁ。」 「熊林は何してるんだよ。」 「熊はもう冬眠中。」 「リスより先に冬眠かよ。早すぎだ。」 「なんかポジションが前過ぎるんじゃないの?まったくボールに絡まない。」 一方の大宮も、全く攻めに鋭さがない。降格読売から移籍してきた桜井も怪我上がりで制裁を欠く。トゥットは不思議な彼らしさを見せてくれる。 「は〜いオフサイド!!」 「すげぇなぁ。ゴール裏か見てもわかるオフサイドって。」 「完全に飛び出しちゃってたね。」 「おい、トゥットが副審に文句言ってるぞ。」 「嘘だろ!ここからだってわかるくらいのオフサイドポジションだったのに。」 「よりによって久永かよ!」 安易なタックルがペナルティエリア内で行われ、文句なしのPKでゴールを奪われる。おそらく、何の情報もなしに、この試合を途中から見ても「消化試合」だと気が付くだろう。ゲームは淡々と進む。大宮にしては大入りの1万人の目の前で。 「まったく動きのない試合だねぇ。」 「各地で優勝争いをしているっていうのに、のんびりしてるねぇ。」 と、そのとき、突然、赤い紙が目の前に現れる。 「おいおい、一発かよ!」 「なにしちゃったんだよ、河合。」 「くだらねぇなぁ。どうすんだよ、この試合。」 「おいおい、文句言うな!抗議とかしてんなよ!!」 「抗議なんてしないで、さっさと試合しろ!」 「サッカーやれよ!何にもしてないで赤なんてあり得ないだろ。何か言ってんだよ。」 「しかしまぁ、見事に典型的な消化試合のパターンになってきちゃったねぇ。」 「こりゃぁ、どうしようもないな。」 「このまま終わるつもりじゃなかったら、反撃だ!!」 「獲りにいけ!!」 典型的な歯車が狂った消化試合だ。 今度はトゥットがシミュレーションでイエローカード。2枚目で退場に。 「おいおい、どっちもどっちだなぁ。」 「何考えてるんだよトゥット。」 「酷い試合だ。」 「でもよぉ、ひょっとして、河合とトゥットだと、うちのほうが有利なんじゃねえか?」 「そうかもよ。こっちは河合のカバーができても大宮にはないぞ。」 相手合わせの癖は最終節でも変わらない。 浮き足立った大宮の弱みに付け込んで攻勢に出る。 「よし!」 「行け!!」 「撃て!!!」 チャンスが目の前に現れる。 リーグ戦の総括をグランドで行なうのであれば、もっと別の結果がほしかった。だが、皮肉なことに、この最終節に目の前で披露されたのは、僅かな隙に中へドリブルで切り込んで左脚を振り抜き狭いコースを通す、アン・ジョンファンのような上野のゴール。 ずっとずっと足りなかったゴールヘ向かう扉の鍵が、誰にもわかりやすく目の前に出された瞬間。 「こういうことなんだよな。」 意義ある引き分けの喜びを胸の内にしまいながら、失ったものの大きさを改めて実感する。 「ガンバ優勝。セレッソ、またロスタイムにやられた。」 「鹿島と浦和は?」 「両方とも4−0。」 「4点獲ってもダメだったの?」 「そりゃぁ凄いな。」 「おい、ここ、埼玉スタジアムだぜ。」 「しかも、浦和のホーム側スタンド。」 「そっかぁ、このスタンドで、頑張って頑張って、ほんとに頑張って、浦和サポーターは、今日、ダメだったんだね。」 「4点獲ってもダメ!」 「今日は引き分けだったけど、上野のいいゴールが見れたし、鹿島は4点獲ってもダメだったし、浦和も4点獲ってもダメだったし、いい日じゃないか!!」 「いや、今日はいい日だよ。」 「4点獲っても鹿島ダメ!」 大きな笑い声を人気の少ないスタンドに響かせながら、すっかり盛り上がる。 「なっ、こういうのを、勝手に優勝するって言うんだよ。」 まさか、次の週末に、セレッソ、鹿島、浦和を差し置いて、自分たちが無冠に終わることになるとは、誰も予想していなかった。 今日のポイント ● このゲームの全ては上野の為にあった。 ●大橋に続いて力を発揮できずに終わった熊林。 ●後ろから縦に放り込むだけでは形はできない。 今日の査定
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