malicia witness 2階の目線2006 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 06-07シーズン 4月15日 ガンバ大阪 日産スタジアム 別の試合でのことではあるが、ジェフの監督のオシムは、こう言っている。「疲労、疲労と言うが、彼らはプロフェッショナルな選手。どちらにしろ練習か試合をやるわけで、ときには練習の方が試合より激しい場合もある。だからこそ、疲れているという言い訳は許されない。こういう場で疲労が溜まっているということは言えない。スタジアムというのは、彼らが仕事をする場所である」 フットボールは1つのボールを巡る1つのゲームでいくつもの物語を創りだす。中沢は4失点と自らのミスを嘆いて涙したという。この試合を見た日本代表マニアは双方に擁する日本代表ディフェンダー達が失点を積み重ねるのを見て「くそ試合」と吐き捨てたであろう。招待券で初めてJリーグを見た家族は7つのゴールに満足をしてくれただろう。全てがフットボール。どれもJリーグ。 試合前は、いつになく会話が弾ける。大宮戦の内容が悪すぎたこともあって、私たちも開き直りに近い。なにしろけが人が続出し、誰が先発で登場するのかもわからない。ブラジルトリオはスタミナに難を持つドゥトラだけが残り、おそらく、今までのサッカーはできないだろう。 「今日はシュート20本を浴びて耐えに耐えて、セットプレーでゴールでいいよ。」 「今日は、内容は問わないぞ。勝ち点だけでいい。」 「でも、やっぱり、今日の標的は宮本だろ。」 「ベストなシナリオは、宮本が競り負けてゴールだね。」 「誰に競り負けるのがいいかな。」 「そりゃ、やっぱ天野だろ。天野に宮本がヘッドで負けてゴールで勝負ありだ。」 今期一番の音量で手拍子が鳴り響き、昨年のチャンピオンと一昨年までのチャンピオンの対決が始まる。ガンバのキックオフは、後ろに下げられて宮本へ。 「行け!!行け!!」 「詰めろ!!」 「それ来た!」 「やっちまえ!」 尋常でない野次罵声声援が沸き起こり、突然の事態に驚いた自由席バックスタンドのビギナー観戦カップル達は騒然とするスタンドをキョロキョロと見回す。彼らも知ったのだ。今日の標的な宮本。追いつめられる宮本は辛くもクリアで逃げる。 「よし、いいぞ!!」 「あいつが持ったらチャンスだぞ!」 「徹底的にやれ!!」 良好なスタートで試合は動く。 だが、残酷な沈黙がすぐにやってくる。ガンバらしいコンビネーション。そして、中央をドリブルで押し上げながらサイドに流して、マグノ・アウベスが黙るしかないくらいの勢いでゴールネットを揺らす。このときほどの重苦しい沈黙は近年記憶にない。深い谷の底に落とされたような絶望的な沈黙。 声が出ない。 重苦しい空気を切り裂くのはゴールだ。 クロスを叩き込むのは大島。何点獲られるかわからない、まったく一方的に90分を終えるのではないかとまで感じられた時間は、このゴールで終わる。 「よし!!」 「どうだ!宮本!!」 飛び跳ねて喜びを爆発する。ビギーナー観戦カップル達も笑顔。 「よし反撃だ!」 いつもであれば「F・マリノス」のコールと手拍子が限界のバックスタンドも「大島コール」!! サッカーは何度も試合の流れを変えるきっかけを持つ。大島のゴールがトリコロールに流れを引き込み、劣勢はイーブンになる。ほぼベストメンバーだがチャンピオンズリーグの疲れがあるガンバ。けが人続出で、かつチーム戦術が確立されていないために、まったく別のチームになっているトリコロール。 セットプレー。 「狙え!!宮本を狙え!!」 「宮本の頭だ!!」 「シジクレイだけはダメだ!」 やっと蘇ってきた熱き闘い。相手を叩く、勝負のスタジアム。 「やれ!!」 「行け!!」 「勝負!!!!」 消極的なプレーをする者はない。厳しい中盤でボールを奪い合う。久保も序盤から激しく競り合う。後押しするホームの歓声。 ボランチ、そして左側。 ただ一人、ゲームに乗り切れない男がいる。背番号は13番。平野は、後の記者会見によれば3ボランチを指示されていたようだ。確かに、試合開始直後のポジションは中盤の底にあった。 「平野が前に行き過ぎちゃうんだよ。」 「あんなに焦って前に行っちゃうと中盤でボールを受けるヤツがいなくなってる。」 「マイボールになったからって、あんなにすぐに前に行っちゃダメだって。」 中盤の劣勢で再びゲームはガンバが支配する。 「これじゃ、ディファンダーがボールを預ける相手がいないよ。」 トリコロールがボールを奪うと、平野は一目散にトップ下、しかも、トップのすぐ下にポジションを取る。 「あれじゃ、吉田の場所がないよ。」 「おいおい、吉田がいい人ぶりを発揮しちゃってるよ。平野よりも下にいる。」 「ホントは平野と吉田と逆だろ。」 そのために、3ボランチ本来のフレキシブルな縦への動きが無い。いわゆる「運動量が足りない」という状況に。さらには、ボールを奪われると、中盤の底には河合しかいない。 「とにかく河合頑張ってくれ!」 「河合!お前だけが頼りだ!」 「河合、保つかなぁ。河合のスタミナが切れたら終わりだぞ。」 「ガンバ相手にワンボランチは厳しいだろ。」 試合が進むにつれて平野が中盤の底に戻ることがなくなる。 「こりゃ、完全に平野はトップ下になったみたいだな。」 「え〜い、とにかく河合、頼む。」 「前半は、なんとかこのまま、このままで耐え切ってくれって感じだ。」 「負けるな!」 「何が何でも耐えろ!」 ゲームが止まるたびに声援が飛ぶ。 ナビスコで松田は変わったのだろうか。 今シーズンは、アウトサイドのパスや、山なりに浮かせたボールなど、おしゃれプレーを連発していた松田だが、今日は堅実なプレー。しかも、スルーパスでのデイフェンスライン突破にはスピード、そして身体能力の高さでカバーする。これぞ、世界を闘ってきた男のプレー。トリコロールのサポーター達の多くが宮本を嫌うのは、こんな松田のファイト溢れる力強いプレーの魅力に取り憑かれているからだ。今日の松田は、2002年を思い出す。本物の松田が帰ってきた。 ゴール前にボールが入る。ペナルティエリアに位置していた松田はすーっと後ろに下がる。誰も突いて来ない。その松田を追いかけるようにボールが返ってくる。振り抜く脚。揺れるネット。 「うぉーーーーーーーーーーーーー!」 先ほどまでは耐えてくれることだけでよかった劣勢。それを松田の一振りが打ち破り、ついにリードを奪う。 「どうだ宮本!!」 ここまでは、強いトリコロールが戻ってきている。たしかに中盤は劣勢のままだ。リードしているとはいえゲームはガンバが圧倒的に支配している。それでも、勝者のメンタリティ、あの強い逆転のトリコロールが帰って来た。そう、一抹の不安を感じながらも、誰もが手応えを感じていたはずだ。 涙は突然に溢れるモノなのだ。 ロスタイム。 「凌げ!!」 「絶対に守り切れ!!」 大切なロスタイム。フェルダンジーニョがペナルティエリアに侵入する。食い止める松田。いや、食い止めていたない。瞬間でわかる。距離が遠すぎる。 「詰めろ!!」 「入れさせるな!!」 「追い出せ!追い出せ!!」 中に入れさせては行けない。サイドに押し出さなければならない。だが、ペナルティキックを恐れたのか、距離が詰め切れていないフェルナンジーニョはツータッチで中へ切り込みシュート。 「撃たせるな!!」 「撃たせるな!」 「撃ってくる!!!!」 その声が届くことは無く、右脚で放たれたシュートは枠に飛んでくる。弾いたボールにマグノ・アウベス。 「なんで!!!なんで!!!」 「なんでなんだよ!!!!!」 「なぜなんだよ!!!!!!」 「撃たせちゃダメだってわかってるじゃないか。」 「外になんで押し出せないんだよ。」 「なんで、あれを詰められないんだよ。当たり前のプレーじゃないか。」 「こんなの・・・。」 「セオリーだろ。止めてくれよ。」 前半が終わる。 「リードしていたら、平野に代えて天野とか入れられたのに、これじゃ、交代の選択が難しくなっちまったじゃないか。」 「あ〜・・・・・・・・・・。」 涙が溢れる。 「鍵は選手交代だぞ。」 前半と変わらないメンバー。しかし中盤の構成が代わり、平野もスムーズにボールを受けている。痛い失点をしたものの、まだ同点。勝ち点獲得に、十分な権利を有してる試合だ。 ゴール前の激しい攻防。狭い中盤。3万人近くがスタンドを埋めたスタジアムに歓声がこだまする。ゴール裏の歌にバックスタンドの手拍子がアクセントをつける。好プレーには拍手を。ガンバの汚いファールには立ち上がってアピールを。どうしても、ガンバから勝ち点を奪いたい。想いは屋根に反響する。 平野の不用意なパスを受けた松田が追いつめられる。かろうじて逃げるが松田が怒る。それまで、前半とは違って馴染んでいた平野のプレーだが、これでテンポを失う。そして、脚の止まる時間が近づいてくる。狩野の投入。大歓声が若い戦力を迎え入れる。水曜日の記憶は新しい。勝ちたいトリコロール。交代の平野も走ってフィールドを出て素早い反撃の開始を助ける。 そこに西野監督は手を打つ。前田の投入。フェルナンジーニョの交代でホッとするのはつかの間。前田はただの1万ゴール幸運男ではなかった。そのことを私たちは知らなかったのだ。あっという間に右サイドを崩される。詰め切れず、下がって押し込まれるのは、この試合も同じだった。いや、前田の積極的なプレーが、それを表面化させた。奪われるゴール。 「このままで終われないぞ!」 「ここからだ!!」 「ミスターこぼれダマだ!!!」 吉田のクロスが混戦を呼び大島のシュートが弾かれ、ゴールの前に転がる。そこにいるのは狩野。無人のゴールに押し込む。 「狩野!!!」 「やった!!」 抱き合って喜ぶ。 「ミスターこぼれダマだ!!!」 「あいつ、何か持ってるぞ!!」 「いや違う!!まじめにやるべきことをやっているからだ!!」 失点から、わずか3分後の同点劇。私たちに不足しているものは何か、それを示すゴール。ここで勝ち点を得れば、確実に復活への足がかりとなる。 スタミナ切れによるゲーム支配権の譲渡。それは、この得点をもっても、いつものように行なわれる。スタミナ切れで脚がもつれてドゥトラは倒れる。そのドゥトラのサイドチェンジは、まったく狙いと違う方向へ。これは家長のファールで助けられるが、リスタートを那須がガンバの選手に当ててしまう。ふらふらと松田と中沢の後ろに放り込まれるボールに、なぜか榎本が出てくる。 「出てくるな!!」 「下がってろ!!」 100試合表彰を受けた榎本が、今期にしては珍しい明らかなポジショニングのミス。そこに、200試合出場の中沢のボール扱いのミスが重なる。普通であれば、それを松田がカバーすればよかったのだが、榎本のポジションを見て前田はシュートを放つ。 「ぶち壊しかよ!!!!」 これだけ多くのミスが重なるのはチームとしての問題が大きい。ガンバとの凌ぎ合いは、すでに限界に達していたのだ。 「諦めるなよ!!」 マイクが投入される。好プレーを続けていた大島が交代。マイクはシジクレイにも高さで勝るが、そのあとが続かない。トリコロールの放り込みは、いつものように真後ろからが多く、そう簡単にはゴールを脅かすことながない。 試合終了のホイッスルとともに静まるスタジアム。ガンバ側のゴール裏のみが歓声をあげている。 トリコロールは3得点を奪い取った。70分以降の守備は今節も崩壊している。それでも光は見えた。だが、その光が何を照らしているのかは、まだわからない。苦しいリーグを照らすのか、チーム作りが遅れる中では狙うのが当然のカップ戦を照らすのか、それとも、さらに高齢化の進行が懸念されていた来シーズンを照らすのか。そして、その照らす光の強さも。 試合の翌日にJ-SKY TVのJリーグドキュメント、フットボール・アンチ・クライマックスのビデオを久しぶりに見た。2004年のチャンピオンシップを選手や監督のインタビューで繋いで構成した番組だ。そこには、岡田監督の「腰の引けたゲームはしたくない」という言葉をはじめとした、強気なコメントが溢れていた。「恐れること無く間合いを詰める」「コンパクトな中盤を保つ」「バイタルエリアを空けない」「積極的に前からプレッシャ−をかける」。「困難だけれど、それができなければマリノスじゃない」とまで選手達は言い切っている。 わずかに見えた光を近いうちに全身で眩しいくらいに浴びなければならない。そのために必要なことを、冷静に見つめ直そう。そうでなければ、トリコロールの一員ではないのだから。 今日のポイント ● J1史上初の親子プレーヤー、 マイクのファーストタッチは親父と同じ手だった。 ● 選手が代わると違うサッカー。ジェフとは好対照。 ● 頭が下がる不憫な河合。 ● 貢献度が高かった吉田だが累積警告で次節は停止。 ● ファールはよく見えるポジションをとりミスジャッジは無かったが、 パスコースを塞いでいた奥谷さん。 今日の査定
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