malicia witness 2階の目線2006
Jリーグ ヤマザキナビスコカップ 06-07シーズン

9月2日 鹿島国  鹿島国スタジアム

松田直樹は、岡田主審の試合終了のホイッスルを聞くと、うなだれることもなく、胸を張って、小走りにゴール裏へ向かった。重い足取りだった選手達も、それに続く。出来の悪さに自覚がある選手でさえも、この主将の後に続かないわけにはいかない。PKゴールしたときと同じように、拳をもって左胸を叩き、復讐を誓う。それは、かつて、水沼貴史が得意としたポーズでもある。

松田は言った。
「笛が鳴ってないのに集中を切らした選手のせい。だけどホームではフェアプレーで勝って借りを返す。」

それは、憎き敵国、鹿島をホームに迎えるためには最高の言葉。貴公子と呼ばれながらも、熱い想いは人一倍だった水沼貴史が率いるトリコロール軍団にとって、もっともふさわしい言葉だ。木村・水沼の「靴ひも事件」から13年が経った。あのときと同じように、甘さを露呈したトリコロール。だが、今日は、あのときとは違う。私たちは落ち込むことなく、ホームでの本当の決戦へ夢を膨らませて、夜の異国の地を、ひたすら我が母国へ向かってクルマを走らせる。失点のシーンに、残念ながら鹿島国伝統の汚さは感じられなかった。スタンドが大きく騒ぎ出したのも、失点をした直後からだ。結果的には出血をしていたわけだが、プレーしているときに、吉田の状況が、どの程度のことなのかは、みな、わからなかった。鹿島国の選手に痛んでいる選手がいなかったこともあって、おそらく鹿島国の大半の選手は、倒れていることにすら気が付かなかっただろう。

それは、無意味な負け惜しみを防ぎ、今後の闘いにミスを起こさないために認めなければならないことだ。しかし、ホームでの決戦気分を盛り上げるにあたっては、そんなことは、どうでも良い話なのだ。
「鹿島国は悪の国であり、正義が勝たなければ、世の中は良くならない。」
そう考えるだけで十分だ。だから、今日の松田直樹は最高なのだ。

あのとき、厳しい守備に行かず、ぽっかりと空いた間合いから、ミドルシュートを決められた。一度奪ったボールを、外に蹴り出すことなく、鹿島国に自ら渡してしまい、失点した。実にもったいない失点だった。あれさえなければ、勝てたようにも思える。

一方で、判定を不服に思ったドゥトラはボールを蹴り出しイエローカードをもらった。その後、後ろからのタックルを空振りし、危うく2枚目のカードを回避した。他にも、高く脚を上げたタックルなど、トリコロールのプレーは、岡田主審でなければ退場者が出ていてもおかしくないシーンを何度か見せた。

この海外アウエースタジアムで、私たちは何度も何度も苦汁をなめ、学んできたはずだ。だが、選手の仕草を見て、選手の熱さをあっという間に追い抜いて、過剰な熱さで選手を煽る。ゴール裏の私たちは、自らの目で見たものではなく、思い込みで熱さの導火線に火をつける。そのきっかけは、判定に不服を示す選手の両手を広げたジェスチャーだったりする。プレーそのものや判定そのものへの不服であることは稀だ。それは、このスタジアムでは危険なことだ。過剰な熱さはフィールドの冷静さを、ますます失わせる危険がある。それは、このスタジアムで荒れ模様の試合に持ち込まれて敗北する一因である。

「人間ならば誰にでも現実の全てが見えるわけではない。
 多くの人は、見たいと欲する現実しか見ていない。」

古代ローマ人、ユリウス・カエサルの言葉は、このスタジアムの私たちへのアドバイスとしてふさわしい。しばしば人は「スタジアムで自らは狂って良い」という許可証を発行する。だが、自ら許可証を発行しない人は狂わない。このスタジアムの闘いで選手達を後押しするのであれば、過剰に狂う必要はない。一度疑心暗鬼に陥ると、「見たいと欲する現実しか見えなくなる」のだ。
後半に入っても、明らかに正当な判定にさえも野次とブーイングが飛び交った。

しかし、そんな中にあって、選手達はハーフタイムを挟んで、自ら立ち直っていた。冷静に、それでいて熱い闘志をみなぎらせてゴールに向かった。終盤に入ると、逆に選手達のひたむきなプレーに影響されて、スタンドも繰り出される連続する攻撃に集中してくる。

「追いつきたい!」
「勝ちたい!」

水沼は熱い男だ。だが、冷静に戦況を見つめていた。選手も同じだ。ホームアンドアウエーの初戦で、何が何でも同点に追いつく手を打つか、それとも、更なる失点を防ぐことを優先するか。

「よし!ここから最後の勝負だぞ!!」
マイクの投入。失点を防ぐために、ギリギリまでは我慢し、守備のバランスを崩さずに現状を維持。最後の最後で、押し込んだまま90分+ロスタイムを攻め通せる時間にマイクの投入。0−1はOKだが0−2はNG。できることならば1−1で終わりたい水沼采配。惜しくも久保のシュートが枠を外し0−1のままゲームは終わる。だが、納得のいく0−1だ。そして、マイクは放り込み一辺倒ではなく、持ち味の一つである丁寧なボールコントロールも見せてチャンスを作った。

「アウエー0−1なら問題ないだろ。」
「鹿島は本山がいないくらいでベストメンバーだぞ。」
「うちは、次は代表も戻ってくる。」
「しっかり勝てば良いんだ。」

私たちは復讐を誓う。そして、それを信じる。最後の大勝負に強い男、水沼貴史が率いるチームならば、ホームでのギリギリの逆転勝ちこそが、その看板にふさわしいからだ。


今日のポイント

●「
ジーコスピリッツ」のビッグフラッグは自粛中か。
●サイドから積極的なドリブル勝負を見せた久保。
●ディファンダーが出した膝から下を飛び越えるのではなく
 大股でまたいでかわしたマイク。






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