malicia witness 2階の目線2008 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 08-09シーズン 9月27日 大分トリニータ 日産スタジアム 下川は栗原の影に怯えていた。あれは、まだ桑原監督がトリコロールの指揮を執っていた5月31日。ナビスコカップ予選リーグでトリニータはトリコロールと対戦した。この九州石油ドームでの試合で下川は栗原に豪快なフリーキックを決められた。 あれから約4ヶ月後。 「栗原決めろ!!」 日産スタジアムは主審のホイッスルの瞬間に大きな歓声と拍手に包まれる。普通であればキッカーは狩野。しかし、壁にトリコロールが4枚入る。狩野と栗原、どちらが蹴るのかは下川からでは見えない。さらに、キックの瞬間に4人のトリコロール選手が壁を動かせば、栗原の弾丸ライナーが壁の間を突き抜けてゴールに突き刺さる可能性もある。蹴るのは狩野か栗原か。狩野が先に助走を開始する。 ぐずぐずに煮込んだかのような前半戦。 「もっと攻めろとか贅沢を言っちゃダメだ。上位チームにはキレイに勝つ必要なんてない。これで良いんだよ。」 「へたに早い時間に先制すると、大分が攻めて来ちまう。」 「とにかく攻めの起点が決まっていないんだから、取れるチャンスを確実に決めて、あとは逃げ切ることが重要だよ。」 「今日はスコアレスドローでも充分だし。」 「へたに欲を出すとやられるぜ。」 「耐えて守ってセットプレーで一点取れば御の字だ。」 「悲しいけれど、それが現実。現実を見ないとね。」 コーキチの語る「自分たちのサッカー」という幻は誰にも見えない。しかし、今、目の前で行なわれているサッカーとは違うものであろう、ということは何となく判る。とにかく、トリコロールが前掛かりになることはない。堅い守備から逆襲でゴールを奪ってきた大分にとてってはやりにくいはず。 「自分たちのサッカー」が大分にはある。 それは努力と苦しみを伴って実現する。「自分たちのサッカー」を実現するために中盤の厳しい守備がある。そして休みない脚力が要求される。激しいボールの奪い合いを続ける。奪ったボールを小さく繋ぐ。そのために走る。そして、大外に長い距離を走ってクロスが入りボレーで決める。それが大分の「自分たちのサッカー」。美しい攻撃。ほとばしる闘志。彼らがサポーターに熱狂的に支持され、今日の順位を勝ち得ている。シャムスカと選手とサポーター、さらにはクラブフロントが一丸となって闘っている。トリニータというクラブを永遠に継続するために。彼らにとって「自分たちのサッカー」という言葉は、とてつもない重みをもっている。 名古屋在住の、あるマリーシアメンバーは仕事が多忙となり、なかなか日産スタジアムに来ることができなくなっていた。 「いやぁ、さすがにヤバいと思って応援に来ましたよ。」 押し込まれる試合展開の中で、ついにコーナーキックを得る。 その瞬間に一挙にパンプアップする拍手のボリューム。ホーム日産スタジアムは、セットプレーを待っていた。 「よし!」 「来たぞ!!」 「チャンスだ!!」 「これしかないぞ!!」 私たちには弱者の思想がいつの間にか染み付いている。久しくスタジアムを離れていたメンバーには、それは新鮮な発見だった。 「これしかないのか・・・。」 だが、それで良いのだ。今は、現実を見極めて少しずつ勝ち点を積み重ねていかなければならないのだ。相手は首位だ。流れの中でゴールを奪う「自分たちのサッカー」が見えない以上、明確にゴールヘの道筋が見えるセットプレーに期待を賭けるのは当然の成り行き。そして、その期待に応える銀髪の男がピッチ上には立っている。 チャンスはコーナーキックと、上手く回り込んでクロスを呼び込んだ大島のヘディングシュートくらい。大分に圧倒的に押し込まれる。そして前半の終了を告げるホイッスルが鳴る。 「よし!!」 「上々だ!!」 後半も試合の主導権を握れるわけではない。金崎には、かなり際どいシュートを撃たれる。しかし、これでいい。 後半最初のフリーキックのチャンス。そして、下川は栗原の影に怯えていた。栗原が蹴ることを警戒した壁と下川のポジショニングをあざ笑い、壁を巻いて狩野のシュートはゴールネットを揺らす。栗原の影がゴールをこじ開けた。 「下川の構えは、まるでベンジョンソンのクラウチングスタートみたいに低かったじゃないか。」 「これしかないよ。セットプレーだよ。しかも決めたよ。」 なんとなく時間を経過させながらリードを奪うサッカーにはセットプレーの得点は不可欠。 この展開は大分にとっては予定外だろう。 失点をするとシャムスカはベンチ前に出っぱなし。ウエズレイが倒れると猛抗議。ここで主審は注意。 「おっ、清水が出てくるぞ。」 「カードを一枚もらっているから狩野と交代だろう。」 「と思って、思いつかないことをやって来るのがコーキチ采配だぞ。」 「ううぁっ、ハユマと交代だよ。」 「マジですか。」 「清水はサイドに張り付いておかないと、中に入ってプレーすると、大外からサイドを攻略されるぞ。」 「やり方が難しそうだな。」 鈴木慎吾がフリーキックを二度蹴りするという珍しい反則でシャムスカが再び抗議。更にはオフサイドの判定にも。ついにはウエズレイが再び不運な判定を受けてイエローカードが出た時点でシャムスカがキレた。 「おっ、シャムスカ退席だぞ。」 「マジか!」 「シャムスカ、下がるならスタンドに下がるんじゃない、こっちのベンチに行け!」 「シャムスカ、うちのベンチに入ってコーキチが退席しても良いぞ。」 誤審、退場、ラフプレーが揃うとサッカーは面白い。みんな、この退席で見事に上機嫌。ここまで重苦しい空気が続いていただけに冗談も饒舌。なににろ退席するのは大分最大のスターだ。 そこにすかさず選手交代のアナウンス。入って来るのはアーリア。 「えー!」 吉本新喜劇のようにずっこける。 「1点差の際どい試合でアーリアかよ。」 「あいつベンチ入りさせた時点で、絶対にコーキチは何があっても入れてくると思ったんだよ。」 「試合の流れに関係無しだな。」 「だから、シャムスカがうちのベンチに来てコーキチがスタンドに行けば、こんなリスキーな交代はなくて済んだんだよ。」 アーリアは、今年、もっとも不幸な選手だ。怪我後のコンディションと試合間が戻らない状況の中で起用され続けて、さらにプレーを雑にした。そのアーリアを復帰させるのであれば、もっと余裕のある試合の流れの中であるべきだ。今日は首位相手に1点差のリード。しかも荒れ模様の終盤という責任重大な環境。結果的にはボールタッチの機会が少なかったのが、逆に幸運だった。 狩野が倒れる。メインスタンド側のタッチラインの外。 「よし、狩野、痛がってこっち側に転がってこい!」 「おっ回った!!」 「ホントに回りながら入ってきたぞ!!」 「ナイス回転!」 「ナイスローリング!!」 「いやぁ素晴らしいなぁ。」 「わざとらしくなかったもんな。」 大分の選手とベンチは、ますますイライラが募る。最終盤は大分のファールの連続。そして、狩野が倒れていたのにもかかわらずロスタイム5分ちょうどで試合終了。 「よし!!!」 「やった!!」 「見事だ!!」 今は残留争いの身。美しい勝ち方である必要はない。ジクジクと首位を虐め、勝ち進んで行くのみ。 今日のポイント ●運動量で技術を穴埋めしている大分。 ●また今日も豊富な運動量でゲームを創った狩野。 ●最後は0トップ。 ●金井起用シリーズ、金起用シリーズを終え、 アーリア起用シリーズ到来か。
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