malicia witness 2階の目線2008
J1リーグ 08-09シーズン

10月19日 名古屋グランパス  日産スタジアム

ハユマが走る、裕介が駆け上がる。名古屋自慢の両サイドの攻撃を受け止める。そして、チャンスとなれば長い距離を走るのだ。名古屋は形式的には2トップ。しかし、現実は、全く違うデザインをピッチに描いている。2階から見下ろす芝生のキャンパスに奇怪な名古屋の芸術。例えば、守備のときはヨンセンがワントップに。その下に玉田を含む3人が列を作って最初のディフェンスラインを作る。たとえば、最終ラインからゲームを組み立てようというときにはヨンセンを中心にスリートップのカタチをとる。しかも両サイドはタッチラインギリギリに大きく開く。ヨンセンとウイングの間の空間には中盤から人が飛び込んでくる(本来ならばマギヌンの活躍の舞台だ)。この美しき布陣への対応策としてコーキチは5バックを選択。形式上はミッドフィールドであるハユマと裕介は、最終ラインから最前線まで。マラソンランナーのごとく走ることを宿命づけられる。2人の頑張りは賞賛に値する。感動的でもある。しかし、一方で、それは得点できない構造欠陥の現れでもある。特にこの試合で目立った、前線で奪ったボールを一気にゴール前に運ぶ際に攻撃人数が少ない。高い位置でボールを奪っても、両サイドには誰もいない。そこで攻撃をスピードダウンしなければならなくなる。もしくは坂田の単独勝負。

ピッチではコイントスが行なわれている。芝生の上とは別にカメラマンが殺到している場所がある。名古屋ベンチだ。カメラを向けられているのは偉大なる東欧の芸術家ピクシー。監督として戻ってきた今年の名古屋躍進の原動力であることは間違えない。
「すげー!あんなにカメラマンが!!」
「ピクシー大人気だなぁ。」
「コーキチには誰も行かないけど、ピクシーは別格だからねぇ。」
「みんなピクシー大好きだし。」
カメラマンは移動し始める。
「おっコーキチも撮るみたいだぞ。」
「けっこう撮られてるじゃん。」
「おいおいおいおいおいおい」
見れば、カメラマンは哲也の後ろに良いポジションを取るために走っていく。
「なーんだ、コーキチは移動ついでかよ。」
「ほとんどがあっちのゴール裏にいっちまったよ。」
世の中は名古屋の躍進に期待している。名古屋のアイドルは、いまや、岡田監督の後任に噂されるほどになっている。

美しきサッカーを打ち破るのは百姓一揆だ。

試合開始早々のハッタリ攻撃。ロングボールを名古屋ディフェンスラインの後ろに放り込み、そこに坂田が走り込む。中盤を制圧されることは間違えなく、両サイドからの組み立ても難しい。そうなれば、弱小チームの定番戦法を選択するのも悪くない。もちろん、形式上のスリートップなんて気にしている必要はない。
「バーンと行け!」
「ここでドーン!!」
ディフェンスラインが蹴る。
「さぁ行け、坂田!!」
「頑張れ坂田!!」
この「ドーンと蹴って、ワーっと走ってゴール前にボールを運ぶ攻撃」を、日本サッカー伝統の「百姓一揆」という。最近ではめったにJリーグでは見られない「百姓一揆」だが、草サッカーでは有効な戦術としてよく見られている。ちなみに、ワールドカップ出場前には、日本代表もよく使っていた戦術でもある。
「いいんだよ。何度もやって、ディフェンスラインを疲れさせろ。そのうちミスするから。」

試合はトリコロール優勢に進んでいく。

しかし、おっと思わせるパス交換は、圧倒的に名古屋に多い。いや、名古屋にしかない。意外性があり、攻撃に絡む人数が多く、しかもスピードが速い。特に、ディフェンスラインに戻されたボールをパン、パン、パンとテンポ良く繋いで前線にボールを戻してくることはルールとなっているようで、攻撃が停滞することはない。
「今、この瞬間にスタジアムに入ってきてピッチを見ても、どっちが上位チームか一目瞭然だなぁ、きっと。」
名古屋にミスが多い。繋ぎ役である中村直とマギヌンを欠く影響か、これが勝ちきれない原因だという。噂に聞くとおりの欠点だ。そこを突いて、坂田、兵藤、狩野がボールを奪う。残念ながら攻撃にかける人数が少ないのだが、高い位置でボールを奪うことができればシュートチャンスを得ることはできる。これが枠に入れば、もっとゴールの可能性は高まるのだが。

坂田はスランプに入った。

この9試合、流れの中で得点がない。実質的なワントップを務めるのは坂田。
「お前、どんなパスをしたらゴールしてくれるんだよぉ。」
嘆きたい気持ちになる。擁護すれば、あまりに攻撃にカタチがなく、人数も少ないことがある。しかし、それだけではあるまい。ついに、この試合で坂田は苦悩を具体的に見せた。少ない駒のやりくりとはいえ、ここまでの悩みを見せた坂田がワントップを務め続けなければならないのは危険だ。
例えば、前半、右サイドで角度のないところまでドリブルで持ち込んだシーン。思わず叫ぶ。
「右足じゃない!左足だよ!!!」
坂田の利き足は左。あの位置で右足で蹴るということは、すなわちシュートはせずにクロスを入れる、ということを表している。だから、名古屋ディフェンスは楽々でクロスをクリアした。
「馬鹿やろう!シュートじゃネェのか!!」
「見え見えじゃないか!!」
例えば、後半。スピードを活かして左サイドをぶっちぎり。目の前には楢崎しかいない。当然シュートだ。いつもならば、ここでモーションの大きな弾丸シュートを撃つのが坂田だ。その振りをコンパクトにしてほしい、そう、多くのサポーターは思ってきた。たしかにそうなのだが、このシーンでの坂田のシュートはチップキックのような弱々しい弾道。しかも、楢崎の正面。慎重に枠内のコースにボールを置きにいって裏目に出た格好だ。
見苦しく、主審にファールのアピールを続けた坂田。オフサイドポジションを歩いて、何度も何度もチャンスを潰した。松田のロングシュートのリバウンドの動きも遅く棒立ちだった。頼るべきワントップのコンディションは良いとはいえ、この状態にあることは、今後の残留争いに暗い影を落とす。

名古屋の面白さはサイド攻撃の徹底と全体の流動性にある。

その象徴はヨンセン。大きな選手だが、一カ所に止まっていることがない。考えてみてほしい。名古屋の決定的なクロスは、ヨンセンの頭上に入るのではなく前に入ってきている。これを、中澤や狩野がゴール側に身体を向けて戻りながらギリギリのクリアをしている。

全体的には押している。しかし決め手がない。河合はカードをもらっている。そこで選手交代は河合とロペス。
「え〜!?」
「まじかよ。まともじゃん。」
「俺は、絶対に河合を代えることはないと思っていた。」
「いや、まて、最後まで油断んできないぞ。どこの入るかを見極めないと。」
「そのままロペスが河合のところに入るってこともありうるぞ。」
「そりゃぁねんだろ。」
「いや、わかんないって。」
「おー、普通にロペスが前で兵藤が後ろだよ。」
「ホントだ。まともな交代だよ。」
続いて、松田と斉藤の交代。
「ボランチどうすんだ?」
「狩野を下げるんじゃないか。」
「てことは、勝ちに行くってことだよね。」
コーキチは勝ち点3を狙いに行く。昨日の結果を見れば、名古屋相手に勝ち点1は悪い狙いではない。しかし、狙うは勝ち点3。最終ラインの中澤、栗原、そして小椋は決定機を回避している。最終ラインで守り切れると読んだ。しかしそこには、当然のことリスクもある。中盤の守備はスカスカだ。そして、もう一つの穴。
「ロペス、もう疲れちゃったのかよ。」
「近くにボールがあっても仁王立ち。」
ここからはノーガードの打ち合い。

貴重な勝ち点1。残留への前進。ピッチ上の選手たちは悔しいだろう。勝てる試合と考える人も多かっただろう。あれだけのシュートを撃ったのだから、何本か入ってくれても良い。しかし、ここ9試合も流れの中から得点できていないチームが、今年のJリーグでもっとも美しい試合をする強敵から勝ち点をゲットした。今は、それだけで良い。小椋の素晴らしさも十分に判った。勝ち点41に向かって前進するのみだ。


今日のポイント

●パススピードの違いは一目瞭然
●攻守に活躍した狩野。
●最後は金を投入する「ゴールデンタイム」。
●ボールをヒールのワンタッチでピッチに戻したピクシー。
 直後にボールを手で戻したコーキチ。
●ピクシーに呼ばれたら、なぜか説明に出向いた柏原主審。


石井和裕

目標の勝ち点をゲット。良い結果だし面白いサッカーだった。

しつこく守った小椋

200

決定機を救った狩野

300

ヨンセンへの素晴らしいクロス

200
スペースに走り込んでいくヨンセン
300

ベンチでもカッコいいピクシー

100

ピクシーのダイレクトパス

400
名古屋サイドのコンビネーションプレー
300
屈強を耐えたハユマ
400
センス溢れる裕介の攻撃参加
300
ファールをほしがる坂田
-500
中澤VSヨンセン
200
河合を下げた交代
200
勝ち点1
500
3000

stan

戦術は坂田。沢山の決定機を外したが、その決定機を作れたのは追いつける坂田なればこそ。DFを多く起用し守備的とも思われたメンバーで押し気味のゲームで停滞感は少なかった。勝ちきれなかったのは今のチームの力を示している。

小椋と河合の位置を変えてくれ

-200

河合に渡るとタメじゃなく溜息が

-100

坂田の頑張り

400
でも1つ位決めてほしかった
-100

積極的だった隼磨

200

ヨンセンはやっぱりちゃんとしてるなぁ

100
あれで調子が良いならロペスは不要
-100
意外と柔らかいキムのパス
100
完封
1000
勝ち点1
500
基準がブレてた柏原主審
-100
1700

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