| malicia witness 2階の目線2009 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
| J1リーグ 09-10シーズン 4月11日 ヴィッセル神戸 ニッパツ三ツ沢球技場 ハーフタイムに神戸のサポーターは歌っていた。 「神戸の力を見せろ」 いや、もう見せてもらったから・・・と思った。 三ツ沢のメインスタンドから見る芝生の3方を囲うようにせせり建つバックスタンドとゴール裏のスタンドは、ちょうど、映画「おくりびと」の舞台となった庄内平野と、それを囲う豊かな山々を想わせる。庄内は山から流れ出す雪解け水が、庄内平野に栄養分を与え日本でも屈指の食材の宝庫となっている。それと同じように、このスタジアムのスタンドからピッチに注ぎ込まれる声援は、質の高いプレーを生み出す。前売り券が伸び悩み、自由席ですら完売をしないという異常事態だったが、試合前には完売。いつのまにか満員となっている。 名将の噂のカイオ・ジュニオールが神戸をどのように指揮するのか、注目が集まる。そして、神戸の新戦力にも注意が必要だ。そして、最近、不協和音も聞こえるコーキチ采配にももちろん注目。ここで勝たなければ次は鹿島、名古屋。そして、磐田との直接対決を控える。未勝利のままで磐田との対戦を迎えることだけは、なんとしても回避しなければならない。 ディフェンスラインから前線にボールが入る。そこにいるのはフォワードではなくボランチの兵藤。神戸ディフェンスのチェックが甘く、難無く前を向くと、後ろから勢い良く走り込んでくる渡邉にパス。これをダイレクトで合わせてボールはゴール右上隅に吸い込まれる。メインスタンドは、ゴール裏やバックスタンドと比べると喜び方はいささか地味。しかし、この美しいゴールには大歓声が上がる。なんとしても勝利がほしい。大切な一戦で、先制点を得ることが出来た。 素晴らしいゴールが決まった後、メインスタンドの反対側、バックスタンドでは、マリーシアメンバー達が笑い転げていた。 「宮本、お前、なに手を挙げてるんだよ。お前が兵藤のチェックにいけよ。」 「手あげて回ってんじゃネェよ。」 この試合を語る要素はいくつかある。渡邉のシュート技術、山瀬の突破力、神戸の守備戦術、ダメ外人、謎采配、榎本達也の健在っぷり・・・。その中でも、榎本哲也のビッグプレーは絶対に触れておかなければならないプレーだ。我那覇のシュートをセーブした後にポジションを取り直し、次のシュートを横っ飛びで止めたプレーが、最大かつ最後の神戸の決定機となった。あのシュートを止めたから試合の主導権を握り続けることが出来たに違いない。一方の榎本達也が、キックが明後日の方向へ飛ぶ進歩のなさを示したこととは対照的なビッグプレーだった。 そして、左サイドでボールを受けた山瀬がドリブルで突破。 パスをすることなく、左45度から放たれた得意のミドルシュートはゴールネットを最大限に後ろまで引っぱり、ゴールの中に落ちる。歓声とともにおもわず立ち上がり、前に乗り出して叫ぶ。危うくスタンドから転落しそうになる。(たしか3点目か4点目のときに、メインスタンド上段から駆け下りてきた男性がフェンスの上に立ち上がってガッツポーズをしていた。メインスタンドは予想以上に熱いエリアだった) さらには熱狂の覚めあらぬままに次のチャンスが到来。ふわふわっとディフェンスラインからハイボールが上がる。その瞬間に、おもわず叫ぶ。 「チャンスだ!あいつだぞ!!」 あいつとは誰だ。それは目に入った2人の人物。一人は渡邉と競り合おうとしている小柄な元日本代表主将のディフェンダー(ディフェンスは苦手)。そして、もう1人は、何も考えずに前でポジションをとっている榎本達也。この2人の間に山なりのボールが入れば、それを大チャンスといわずして何と言う。そして、予想通りに、宮本はディフェダーらしからぬ競り負けをしボールは榎本達也の頭上を越えてゆっくりとゴール内にバウンドする。 「宮本、弱すぎる。」 バックスタンドでは、マリーシアメンバー達が、またも笑い転げていた。 メインスタンドは静かに試合を眺めている印象をお持ちの人も多いだろう。 実際に、そのようなファンも多い。その一方で、観戦歴が長く、とてつもない厳しい目でチームを見守るサポーターもいる。 「おい宮本!!良いパスだなぁ。この落ちぶれぇー!!」 バックスタンド2階席でもめったに聞くことの出来ない辛辣な野次が目の前のピッチに降り注ぐ。なお宮本は後半に、メインスタンドの目の前で山瀬に吹き飛ばされるという失態まで演じ、メインスタンドを苦笑に包んでいる。 さて、せっかくの機会なので、メインスタンドから感じるスタンドの空気に付いて触れておきたい。ゴール裏やバックスタンドにあっては、自らのチャントやコール、さらには手拍子や歓声が、どのようにピッチに届いているのかを知る由がないが、メインスタンドにいると、それを手に取るように感じることが出来る。今回は満員のスタンドで、まさにその機会を私は得た。それは、テレビ中継から感じられる音とは全く違う印象だ。 簡単に結論を言うと、スタジアムの空気を創っているのはゴール裏のチャント。一方、スタジアムの空気を支配しているのはバックスタンドの歓声や声援なのである。特に象徴的だったのは天野登場後のスタジアムの雰囲気。天野にボールが渡るたびに、スタジアムは大声援に包まれる。その声援は、ゴール裏から90分間を通して発せられるコールやチャントがあるからこそ生み出されるのもなのだが、その歓声の瞬間は、ゴール裏の声をかき消さんばかりの大音量だ。そして、それこそが、サポートのメリハリといわれるモノであったりもする。まさ、応援の原点が生み出す、心の底からの応援といえよう。バックスタンドのマリーシアメンバーが言うには、この日は「煽りまくり」「褒めまくり」。 「とにかく行け!」 「残り時間に出し切れ!」 「勝負しろ!!」 「突破できるからやってみろ!!」 「あの18番のブロンズ(田中)のところから行けば良いんだ!!」 様々な声がピッチに飛び込んでいた。その集合体が大声援となる。きっと、天野にとっても、プロとして大きな手応えを得たに違いない。 「我那覇、お前、神戸に移籍したのに背中にKAWASAKIって書いてあるぞ!」 前半の我那覇は孤立無縁。まったくパスの出しどころがない。前半に交代すべきだったのは我那覇だったのか、いや、違うのではないだろうか。 「カイオ・ジュニオールって鳴り物入りだっただろ。なんでうちのワントップに4バックで守ってんだ。馬鹿じゃないのか。」 「いや、それはコーキチが3トップだって言うから、ワントップじゃなくて3トップと信じてるんじゃないですか。」 「なんなんだよ。それじゃぁ、監督じゃなくって通訳がわるいんじゃねぇのか。三都主入れろよ。あいつが通訳になれば、ちっとはマシになるだろ。」 「それか百歩譲ってダバディーだろ。」 後半が始まる。我那覇がいない。 「おいおい、神戸大丈夫かよ。」 「我那覇も可哀想だな。」 そして、代わって出てきた選手が更に状況を悪化させる。アランバイーアのファーストタッチは・・・、いや、ファーストタッチできない。股の間をボールが抜けてしまい後逸。さらに、ファール。そして狩野にラリアット。やること成すこと上手くいかない。 「この8番なんとかしろよ。」 「久しぶりに出てきたなぁ、身体能力の低い黒人選手。」 中盤の守備が崩壊している神戸のサイドを裕介がドリブル突破。そして、逆サイドのスペースにスルーパス。やや精度を欠いたが、なぜか榎本達也が左脚でミス。それを山瀬が見逃さずにループで決める。この三ツ沢で何度も見たゴールのパターン。しかし、今回は、榎本達也が敵方。これほど相手にとって嬉しいゴールキーパーはいないことを実感する。 大きなリードを奪って、コーキチは若手育成采配を行なう。右サイドを駆け回ったジョンに代えて天野を投入する。その後、斎藤、金井を早い時間にピッチに送り込む。若手に経験を積ませるのには絶好の試合展開。しかし、一つ苦言を言えば、15分以上も時間を残して3人目の交代を投入することはいただけない。「コンディションがよくない」とコーキチ自らが表する山瀬をはじめ、昼のゲームでケガ人が出る可能性は低くはない。狩野がカードをもらっていたために退場のリスクを回避する意味もあったのだろうが、であれば、交代の順序を誤ったのではないだろうか。幸い、アクシデントなく90分を終えることができたが、監督はリスク管理をしっかりとしてほしい。苦手の選手交代はコーキチの課題。 さて、ピッチ上で3人の交代選手はのびのびとプレーをしている。特にバックスタンドは天野のプレーエリアの目の前ということもあり、全員が父兄会状態。躍動する天野と絶叫する声援。これぞ、またスタジアムに来たい、と思わせるJリーグの魅力、これぞフットボールの応援の原風景。 最後に5点目は狩野のフリーキック。味方の壁を利用して低い弾道で決める。榎本達也が身体を倒して腕を伸ばす。しかし、倒した身体はボールよりも先に倒れ、榎本が通った空間を後からボールが通過していく。見事な遮断機振りだ。 「おいおい、榎本、通り過ぎてるから。」 5点目も感動あり笑いありのエンターテイメント。なんて幸せな春のスアジアム。 試合を終え、イングリッシュパブで今期は初の祝勝会。「乾杯」ではなく「完勝」で乾杯。みんな笑顔だ。勝因を語り、采配をつまみにビールを飲む。鹿島国への経路と試合後に夕食を予約する店の情報を共有し、仲間達は街へ消えて行く。来週が待ち遠しい。私たちがトリコロールと時を刻む日々は元旦まで続く。 今日のポイント ●低い弾道のサイドチェンジが増える。 ●アリバイ守備で状況を悪化させるボッティ。 ●孤軍奮闘の敗戦処理をする金南一。 ●プレーエリアが広い兵藤 ●松田や中澤が攻撃に参加するとベンチから立ち上がるコーキチ。
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