malicia witness 2階の目線2009 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
J1リーグ 09-10シーズン 8月22日 柏レイソル 国立競技場 消極的な前半。まったく脚が動かない。 「パス&ゴーだ!」 「そこで一旦は下がって受けてから!」 「足下じゃなくてスペースにパスを!」 簡単なことなのだが、なぜか出来ない。暑さのせいなのか、省エネプレーが続き、スタンドの熱気は冷めていく。ホームで日立デーでありながら、柏はカウンター狙い。残留争いの王道で臨んできた。肝を冷やしたのは飯倉のミスキックとセットプレーをゾーンで守っていることに気が付いた瞬間。さらにはフリーのポポが放ったヘディングシュート。それ以外には、驚くべくプレーもなく、ゆっくりとした単調な試合が続く。前半終了のホイッスルが鳴り、飯倉がディフェンスラインの選手たちに怒りをぶつけて小椋が仲裁しながら選手たちはドレッシングルームに帰っていく。 「このままのペースで進んで、終盤にフランサが出てきて、急に試合のテンポが変わったら、あっという間に失点しかねないぜ。」 「とにかく、中盤の運動量が少ないからな。」 「柏も酷いけどな。」 後半の頭からフランサが出てくる。先手を取ったのはトリコロールの左の崩し。小宮山がシュートを放つ。後半が始まると、狩野の動きが、いくぶん大きくなる。ただ、おそらくコンディションが悪いのだろう。好調時の走りが見られない。 「これだと、どっかでアーリア入れるかなんかしないと、やっぱり打開できないんじゃないか。」 目の前の試合は、前半とペースが変わるほどの変化を生み出していない。 大津のドリブルが冴えを見せ、菅沼がシュートを放つ。コーナーキックをフランサがヘッドで打ち込み、ゴールマウスにボールは一直線。間一髪でクリアし失点を防ぐ。ここから柏のペース。またしても菅沼、大津、フランサ。見事なトラップでフランサはボールをピッチに置き、すかさずシュート。これを飯倉が防ぐ。 「やばいよ、ペースが早まってきた。ついていけてない。今もフランサはドフリーだったぞ。」 大黒柱のフランサがシュートを放つことで、柏の動きが明らかに変わった。 そこでホイッスル。そして一瞬の静寂。そして赤紙。山瀬にとっては、あまりに不運な退場だ。なにしろ前半の警告も、栗原の不用意なパスをカバーするためにファールをしてしまったプレーによるものだったのだ。抗議する選手たち。いや、執拗に抗議を続ける選手たち。しかし、ゲームは再開している。 「マズい!始まっているぞ!!」 「誰も見てない。」 「足りないぞ!!」 遅れて守備に走り出す選手たち。大津が見事なターンからシュート。 「やられた!」 しかし、シュートはポストの左を通過する。 「やられたと思ったぜ。」 「抗議なんて後で良いんだよ。試合は動いているんだ。」 ここでスタンドからの大コール。だが、試合は柏のもの。さらに裏に抜け出した菅沼。ついていく飯倉。 「倒すな!」 「頼む!」 「止めた!!」 「よくやったぞ飯倉!!」 柏の攻勢は止まらない。中央でフランサが触って左右にボールが回る。選手が走る。我慢だ。我慢しかない。 「Fマリノス!Fマリノス!」 コールのボリュームが上がる。 山瀬退場直後に切ったカードはアーリアと兵藤の投入。攻撃にブレーキをかけていた狩野を下げる。もう一枚は、やむを得ず坂田。守備を固めてカウンターを狙う。前半とは立場が逆転、柏が攻めに出てくる。人数が減ったとはいえ、前に後ろにアーリアと兵藤が動き、ボールは回る。 「なんだったんだ前半は。」 スタンドの大歓声に後押しをされてか、両チームとも敵ゴールに襲いかかる。 「小宮山は、何が何でも自分でシュートを決めたいみたいだな。」 2本のシュートを放つ。攻撃の枚数が少ないことをカバーするサイドからのゴール強襲だ。山瀬退場から国立競技場は風雲急を告げる。前半が嘘のような攻め合い。 フランサのヘディングシュートのときと同様に、ファーサイドのコーナーキックに、またしても飯倉が触れない。折り返される。 「まずい!!」 跳ね返す。 「撃たすな!」 「ヤバい!」 放たれたシュートは一直線にゴールに向かっていく。正直、やられたと思った。声も出なかった。 しかし、ボールはクロスバーに当たって跳ね返る。 「助かった。」 後ろで無駄なボール回しをすることがない。人数が少なくとも、パスは素早く回る。出しどころがなくなればアーリアが下がって受けて、サイドにボールを回す。やれば出来るのだ。 「これなら、勝てると思う。」 そんな声も出る。そして、サイドに回ったボールを小宮山がドリブルで運び、右脚でシュートと見せかけて持ち替え、左脚でシュート。 「やった!!!!!!」 国立競技場の座席は低い。一段落ちる。絶叫に次ぐ絶叫。飛び跳ねる、というより暴れるといった方が相応しい。まさに、ゴールに狂喜乱舞。 さらには兵藤のシュート。リバウンドにアタック。 「惜しい!!」 柏は北島を投入。きっと、さらに前がかりでゴールを狙ってくるだろう。彼らにとっては山瀬の退場は勝ち点3を奪う絶好のチャンス到来だったはずだったからだ。その裏を突いてアーリアが抜け出してヘディング。惜しくも菅野に止められる。 「守り切ろうとするな。カウンターから点を獲れるぞ。」 チャンスはある。 ここで選手交代。河合を投入。渡邉を下げる。これには意見が分かれる。 「点を獲りにいかないのかよ。」 「いや、獲りにいかないわけではないけれど、渡邉の動きが落ちているからしかたないんじゃないか。」 「松田はどこ?最終ライン?」 「いや、ワントップだ。」 「正真正銘のディフェンシブ・フォワードだ。」 この守備的な松田のワントップだが、さすがに松田は役割をわかっている。最終ラインにふわっと浮かんだ浮き球。柏の選手がクリアする。まったく間に合わないのは明白なのだが、松田は脚を上げてスライディング。しかも柏の選手から距離がある。ファールにはならない。しかし威嚇にはなる。 またしてもとんでもなく上手いフランサのトラップからピンチを招く。しかし跳ね返す。今度は裕介が運びアーリアがコーナーキープ。コーナーキックを奪う。再び、ショートコーナーからコーナーキックを奪う。時間は86分。 「攻めろ!!」 「ゴール前が手薄だ!!」 柏はトリコロールが完全に時間稼ぎだと判断してゴール前に3人。しかも棒立ち。ここでコーナーキックから松田にボールが渡れば追加点のチャンス。叫びとは異なり、選手たちはコーナーキックを狙ってショートコーナー。苦しいだろう。10人での真夏の闘いは選手たちを消耗させていただろう。しかし、この長い時間を守り切ることが出来るのだろうか。その心配はオウンゴールというカタチで現実となる。 「守りに入っちゃダメなんだよ!」 「獲りに行かなくても、攻めるふりはしなくちゃ。」 「コーナーキープを5分も出来ないだろうよ。」 「う〜ん、もったいない。」 勝てた試合だろうか、負けなくて良かった試合だったろうか。ロスタイムを終えて、両チームの選手たちはがっくりと芝生の上に腰を降ろす。倒れる者もいる。拍手がピッチを包む。選手は軽く会釈をし、握手で青と黄色が交差する。 スタンドには、納得のいかない者と、諦めるもの、さらには満足をする者。ただ、その誰もが選手の健闘を称える。守備のこと、攻撃のこと、選手交代のこと。19時30分開始と、遅い時間になっていることを忘れてスタンドで話は尽きない。語ることが多い試合だ。 「山瀬の退場がなかったら0−0だったかもしれないからね。」 あまりに不運な退場であったが、あの誤審がトリコロールの闘志に火をつけた。その日は、来週末になっても消えていないだろう。目覚めたはずだ、闘いの本能を取り戻したに違いない。そう信じて一週間を私たちは過ごす。 今日のポイント ●トリコロールを目覚めさせた「誤審・退場・ラフプレー」。 ●チームを支えたアーリアと兵藤。 ●気の毒すぎる山瀬。 ●黄色いスタンド。 ●お楽しみ日立台劇場in国立競技場の昭和の世界。
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