malicia witness 2階の目線2011
J1リーグ 11-12シーズン

5月3日 浦和レッズ  埼玉スタジアム   (石井和裕)

ペトロヴィッチ監督は何度も繰り返していた。トリコロールが攻撃的な戦術を採用するよう、挑発した。「日本は昔はどのチームも攻撃的だった。ビッグクラブが守備的な戦いをするのは残念」という文字が新聞紙面を踊った。

試合が始まってみれば、浦和は攻めに出てこない。煮え切らないこう着状態のゲームとなる。
「なんだよ、浦和だって攻めてこないじゃないか。」
「結局、自分たちはカウンターしか出来ないから攻めて来てほしかっただけなんだろ。」
ペトロヴィッチ監督は試合を振り返った。
「前半の内容を見るとほぼパーフェクトに近い内容」
そう感じたのだろう。トリコロールは、ほとんどシュートを放てなかった。ボールを保持していたのはレッズだった。圧倒的な展開だと感じただろう。しかし、それは大いなる誤解だ。前半こそがトリコロールの真骨頂。今期になって蘇った、日産時代末期からの伝統の守備戦術だ。まったく危なげない展開は、むしろトリコロールにとってパーフェクトだった。

噂通り、ペトロヴィッチ監督のフットボールは手堅い。戦術の徹底がされている。ボールを奪えば、必ずサイドに展開。両サイドはワイドに開き、ボールを持てば、必ずサイドに2人の選手を配置する。だが、固定された442の布陣を敷くトリコロールは、これに揺さぶられることが無く、めったに数的不利も作らない。レッズは攻め手に欠ける。

トリコロールの問題点は千真。守備はパーフェクトだったがシュートをほとんど放つことが出来なかったことも、また事実だ。せっかくの縦に入ったパスを活かすことが出来ない。また、出すべき場所に選手がいないこともある。千真のプレーに迷いが見える。
「これは後半の頭から大黒でもいいな。今日の千真にはいいボールが入らないよ。」
「真ん中でじっとしてればいいんだけど、いろいろ1年間やらされて、すっかりフォームを崩してしまっている。」
さらには、ユウジーニョが右に左に守備で奔走しているので、後半に体力がもつかどうかが不安だ。そんな会話をしている間にハーフタイムが終わる。

「浦和はやり方を変えてきたぞ。注意しないと。」
「サイドに張るのが1枚になっている。仕掛けが増えるぞ。」
明らかに浦和は後半に攻め手を変えている。ということからすると、実は前半を「パーフェクト」とは思っていなかったのかもしれない。原口を中心とした攻めは鋭さを増し、90分間で9本ものコーナーキックを得る。エジミウソンは序盤のイライラが悪影響を及ぼしているのか、プレーに精彩を欠く。マルシオ・リシャルデスもビッグプレーを見せない。
「マルシオとかエジミウソンとか永田とか、新潟の二軍みたいだな。」
「アルビレックスって凄いよね。アルビレックス新潟、アルビレックスシンガポール、アルビレックス浦和。3チームも持ってるんだから。」

後半開始早々に原口の突破を許す。
「まずい!」
「追ってけ!」
かろうじて一対一の対応で飯倉が止める。浦和の決め手は個人技のみ。これからも繰り返し行なわれるであろう原口の突破を許してはならない。

対するトリコロールは両サイドへの揺さぶりで勝負。数的優位を作るために谷口と兵藤が前線に飛び出す。左の裏に受けて速いボールを折り返し。千真が全力疾走ではなかったので惜しくもシュートは無かったが素晴らしいプレー。さらに、右からの小林のボールを千真がターンしてシュート。これは千真らしい得意のプレー。ボールが無い時のポジショニングの悪さは目立つが、少しづつ千真の良さが見えてくる。さらに、右からのビッグプレー。小野が右に捌き小林がディフェンダーと競り合いながらクロス。ここに、後ろから走り込んできた谷口。
「おしい!!」
「うぃー!!」
「谷口素晴らしい!」
「小林も、よく倒れながらクロスを入れた。」
「いいぞ、もう少しだ。」
浦和が攻撃的でトリコロールが守備的かのような報道が多いが、現実にピッチで起きていることは、代わる代わるディフェンスラインの裏に顔を出す小林、谷口といった後ろの選手。対する浦和は柏木もマルシオ・リシャルデスも低い位置でパスを捌くばかり。

「お、大黒来るぞ!」
ベンチの動きを敏感に察知する。
予想に反して、交代は千真ではなくユウジーニョ。序盤から走り回っていた体力的なことと4番のなんとかビッチとの相性を考慮してのことだろう。

前線で小林がボールを奪われる。しかし、長い距離を追いかけて自陣に入ったところで奪い返す。小林が素晴らしいのは、必要なプレーを怠らないところだ。必ずいてほしいところにいる。前線に上がってくる時も無理をしている感が無い。

奪ったボールを前に運びフリーキックをゲット。

「来た!!!」
「よーっし!!!」
狭いアウエーゾーンに押し込められた青いエリアが一斉に跳ねる。ニアに飛び込んで放った千真のヘディングシュートはポストに当たってゴールイン。見事な先制だ。
「攻めさせておいて、なんとなくセットプレーでゴールする。今日も最高だぜ。」

浦和は混乱している。ラゾーナ川崎のような名前の選手が入ってくる。左サイドでドリブルが得意な選手だ。これまでは左の原口とプレーゾーンが被るということで原口が右に回ることが多かった。だが、この日は原口が左のまま。新外人の得意のプレーをペトロヴィッチが自ら封じた。さらに、浦和は高崎を投入する。
「放り込みでくるぞ。」
「高崎って誰だ?」
「去年は二部で活躍しているよ。」
「ヘディングは強いぞ。」
「浦和って速いとか高いとか、そんなに一芸選手ばっかりなのか?」
「おい、悪い山田が最終ラインだぞ。」
「これは、大黒やりたい放題だろ。」
「ここは狩野を入れて、嫌がらせみたいな采配しちまえよ。悪い山田が相手だったら追加点を穫れるぞ。」
「おぃ、狩野が入るぞ。」
「おー、ホントに狩野くるか。」
「いいね、いいね。」

浦和は前がかりに来るだろう。そして放り込みだろう。それを跳ね返して、どのように裏にスリーパスを入れられるかが、ここからの見所だ。そして、早速、狩野が右サイドの大黒に。中には千真と兵藤。クロスを入れ兵藤のシュートは惜しくも阻まれるが狙い通りのカタチだ。さらに、大黒が左の狩野から受けたボールをドリブル。深い切り返しで永田を翻弄してシュート。これも阻まれるが拍手喝采の好プレー。

ニアで合わせるエジミウソン得意のプレーを阻んでコーナーキックのときにクナン投入。
「出た!ここからはゴールデン・キム・クナン・タイム!!」
「ゴールデン・クナンだ!」
最強の守備的フォワード。それでいて足も速く攻撃にも機能する。」
「やっちゃえよ、悪い山田なんてよー。」

ピンチは、やはり原口から。高崎が触っていれば一点という場面は今日最大のピンチ。だが、それは、あくまで個人技だけのこと。逆にトリコロールは小林の突破に4人が浦和のペナルティエリアに侵入。浦和の足は止まる。

間もなく90分が終わる。

「もういいよ、終わりにしろ!」
「まだ、90分も終わってないし。」
「アディッショナルは何分くらいだろう?」
「2分くらいだろ。」
「フルに交代しているし4分くらいあるんじゃないか?」
「4分はありえないでしょう。」
4分が表示される。
「ほら4分じゃねぇか。」
「長いなー。」
1点リードで4分は辛い時間。

ところがコーナーキックのピンチのこぼれ玉。普通ならヘディングで競り合って跳ね返すの精一杯の場面なのだがゴールデン・クナンは相手をなぎ倒した上に胸トラップ。そして前に素早いパス。これを繋ぐと大黒がGKとの一対一。

この瞬間、日産最強時代のレナトを脳裏に見た。天皇杯決勝の読売戦で、ヤマハ戦で、攻め立てられて絶体絶命のピンチにハーフウエーラインあたりでディフェンスを突破してGKとの一対一を確実に決めてきたレナト。シュート決定率は実に40%。得点王にも輝いた。その頃、あのようなゴールの動き自体を「レナト」と呼ぶほどにゴールの「型」となっていた。

大黒がGKに尻餅をつかせるとゴールヘの道が見える。遮るものは無い。大黒は丁寧にゆっくりとゴールを花道に転がす。
「やったー!!」
「決めたー!」
「うおー!」
喜ぶアウエーゾーンを気にすることも無くメインスタンドの赤い人々が一斉に席を立つ。
「お、メインスタンドの皆さま、お帰りですか。」
「お帰りはお早めに。」
「お早めに帰っていただくと私たちもスムーズに帰れますので。」
「みなさん、お疲れさまでした。」

鹿島戦に続くロスタイムのゴールにテンションが上がる。今期のトリコロールは違う。難しいことをやらないので、必要な場所に必要な選手が必ずいる。決め手となる「型」も出来てきた。迷いが見えるのは、今のところは千真だけ。だが彼も今日のゴールでキッカケを掴んだかもしれない。強さと面白さは表面的な攻撃サッカーだかに宿るのではない。「型」があれば、スタンドは、その「型」を追い求めれば良い。このチームの面白さは、これからも増幅する。

だが忘れるな。次節の対戦相手が最強の敵だ。


今日のポイント

● 予想以上に守備的だった浦和。
● いつもよりも駅までの時間がかかったのは浦和の人たちの足が重かったからだ。
● 状況判断が素晴らしい小林と波戸の両サイド。特に小林を宴会では皆が絶賛。
● 短い時間でチャンスを何度も演出した狩野。









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