malicia witness 2階の目線2011
J1リーグ 11-12シーズン

11月3日 ヴァンフォーレ甲府  中銀スタジアム   (石井和裕)

甲府サポーターはいつも以上に沢山スタンドに詰めかけていた。メインスタンドもバックスタンドも立ち見で溢れていた。無数の残留を望むメッセージがゴール裏には出現し、否が応でも選手たちは燃えただろう。試合開始直後から、その心境はプレーに現れていた。前からプレッシャー、ボールをトリコロールゴールに向けて運び出す推進力。鍛えられた戦術と強いハートで襲いかかってくる。

対するトリコロールの試合への入り方は、浦和戦と同じように受け身。苦し紛れの浮き玉パスや、何でもないボールをバウンドさせてしまうなど、見るからに精度が悪い。ボールが浮いているということは、受けての選手がボールを止める為にひと手間余計なアクションを必要とするわけで、それだけ攻撃のスピードが鈍る。他のクラブや欧州のクラブのビシッと芝の上を這うように走るパスと比較して、そのスピード感の差は歴然だ。こんな細部の些細なところにも、今、このクラブが抱えている課題が滲み出る。栗原の再三再四の浮き玉パスにため息が漏れ、浮き玉のバックパスに悲鳴が上がる。栗原は、この試合に、全く気持ちが入っていない。

「また気迫負けかよ。」
早くも嘆きの言葉がこぼれるが、逆に甲府には焦りの色もある。前へ行きたい気持ちが空回りし、パスがタッチラインを割ってしまうことも。

佐久間監督は大宮での経験も長く、残留争いのスペシャリストともいえる。焦りがあるであろう選手たちの心理を先読みして、甲府の左サイドには一定のルールを設定していたようだ。攻撃参加が魅力のサイドバック吉田が突破をしかけてきたのは前半も半ばを過ぎてからのこと。かなり長い時間、吉田の前には片桐を配置。この布陣で小林の攻撃参加を封じ込めようという考えだろう。そのため、トリコロールはボールを奪っても、ボールの預けどころが見つからない。中村大先生がボールを手放す先はアーリアが目立つ。ツートップの一角として発表されたアーリアだが、ポジションは深い。前に君臨する谷口に押し出された格好だ。前線に動きが少なくパスが回らず、ボールを奪われるシーンが目立つ。

「上手い!」
「うわっ。」
思わず声が出る。甲府の片桐について触れておこう。片桐は元高校サッカーのスター選手。ロシアで活躍する本田以上のビッグマウスだった。そのテクニックは一流品でJリーグを背負う選手に成長するものと期待されていた。争奪戦の後に名古屋が獲得。しかし、テクニックに溺れ走らない、連携しない。そして、入団した当初から練習への遅刻などが目立ち、度重なる規律違反に2年目には球団から謹慎処分を受ける。期待されながらも、干された状態で南米に渡る。帰国してからはJFLへ。次に移籍したのはJ2の岐阜だった。ここで片桐は目覚める。経営破綻寸前のクラブを支えてピッチを駈け大活躍。そして甲府へやってくる。若いファンの中には片桐を「苦労人」と呼ぶ人もいる。しかし、それはいささか誤まった表現だ。彼は自らの力を過信してしまった結果、厳しい環境を選ばざるを得なかった「元天才」なのだ。日本でも一二を争う素晴らしいテクニックを持っている。それでもフットボールの参加しなければ、ただの上手い人。それに気が付くのが遅かった。しかし、今、片桐は、甲府を支える生命線を握っている。マイクの活躍には、片桐の後押しがある。ものすごい運動量があるわけではないが、自分がフリーになるスペースを見つけ移動し、パスを呼び込み、素早く前に展開する。そのパスは受け手思いの止めやすいもの。トリコロールは、片桐の扱いに苦労する。

左サイドは今日も簡単に突破を許す。中村大先生と小椋の守備に無理が効かず、甲府の攻撃を食い止められない。前線でボールを呼び込む動きをしてくれないため、中沢や中村大先生がパスを出せずピンチを生み出す。

前半、残り5分。
「このままスコアレスで終わってくれたら御の字だな。」
後半に選手を入れ替えなければ、いつものように劣勢のままなのではないか。

ハーフタイムに額然とする。ピッチ上で行われる控え選手の練習の精度があまりに低い。動きも緩慢。浦和戦に負けて、選手たちのモチベーションは予想以上に下がっていることを実感する。言葉と動きのギャップが大きい。しかし、そんな中でもユウジーニョだけは、自らにテーマを課して動きのチェックをしているようだった。

後半に入っても、前半と同じようにプレーに精彩を欠く。不運な先制点を奪われる。これで、重苦しかったスタジアムのムードが一転する。前半にも響いていたメインスタンドからの手拍子も、さらにボリュームが上がる。

甲府には2つの大きな穴があった。一つは試合前から分かっていた穴。GKだ。なぜ、彼を使ってきたのだろう。クロスへの判断が悪くミスが多いのは大宮時代から印象深い。
もう一つは試合後に分かった穴。センターバックのダニエルだ。前へのボールとヘディングの競り合いは強い。しかし、足下がものすごく弱い。そして倒れる。
「お前、そこで倒れるか!?」
小野を背負って安易に倒れボールを奪われる様は無様だった。さらに主審に「ファール」だと抗議する可愛らしさ。ユウジーニョは冷静に、抗議するダニエルに近づいて頭を撫でる。
「あいつ、あるぞ。」
「奴は絶対に持ってる。」
劣勢とはいえ、二つの大きな穴は目の前に口を大きく開けて待っているのだ。
後で思い出したが、ダニエルはホームゲームでもやらかしている。谷口と競り合って尻餅をついて倒れ「久々に現れた現れた身体能力の低い黒人」と言われている。元々、穴は二つだった。

森谷の投入でボールが回るようになる。森谷の良いところは、自分で動いてフリーになることができることだ。フリーで受けるから、次のアクションが早い。パスミスも少ない。これまで、足を止めてのパス回しか、浮き玉の縦ぽんが、何度も相手へのプレゼントになっていたが、これで攻撃がカタチになる。いちいち中村大先生をパスが経由することもないので、スピードアップにもなる。失点して、やっとフットボールが始まったことをカタチになる感じる。

小林、兵藤、中村大先生でパスが回る。中村大先生は逆サイドの様子をうかがう。素早く入れたクロスはダニエルの頭上を越えて大黒の前に。大黒はマークを外しているので空中で頭を降る余裕がある。
「決めるぞ!」
放たれたヘディングシュートがゴールネットを揺らす。同点。満員のアウエースタンドが揺れる。

コロコロとボールがペナルティエリア内に転がる。ダニエルはGKにボールを処理してほしかったようだがGKは前に出てこない。声もかかっていない。ダニエルはユウジーニョを気にしてゴールキックにしようとしている。しかし、その逆には栗原が迫っている。
「行けるぞ!」
「来た!」
「チャンスだ!」
皆の叫びが一致する。やはりダニエルは栗原に気付いていない。
「また倒れた!」
「行け!」
栗原がボールに触れようとする。間に合わないと思った。しかし、なぜかGKは手を出さず、ボールは森谷のところに。
「撃て!」
「撃った!」
「入った!」
あっと言う間の逆転劇。アウエースタンドはいつもとは違う。見知らぬサポーターが前後隣にいることも多い。そんなスタンドで手を取り合い抱き合って喜びを爆発する。

ここから甲府は必死にボールは奪いにくる。過去、何度も指摘しているが、こういう状況でコーナーキープをすることは危険だ。長い時間のキープをできることは稀であるし足を蹴られるリスクもある。それをよく分かっているのが中村大先生と大黒。右サイドでパスを回す。ユウジーニョも加わって時間を使う。ボールを奪われるような下手な選手ではないのだ。ほんの一部の少人数だが「オーレ!」の声が飛ぶ。そして、甲府が油断した隙に兵藤が逆サイドのゴール前に。見事にクロスがピンポイントで送られるが、これは惜しくもゴールならず。
「素晴らしい!」
「これだよ!これ!」

最後の10分間は素晴らしい。浦和戦の尾を引いていた停滞感を断ち切ることができるゲームになるかもしれない。リーグは残り3試合。チャンピオンズリーグへの道は、まだ絶たれてはいない。



今日のポイント

● 痛みを押して、囮になるために立ったユウジーニョにまさかのパスが。
● テクニックだけではフットボールにはならない。
● 森谷の活躍は筑波での経験とユースのテクニックの結晶。
● やっぱ最高だよ「小作」。









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