malicia witness 2階の目線2011 | |||
第91回天皇杯全日本サッカー選手権 12月24日 名古屋グランパス 瑞穂陸上競技場 (石井和裕) 名古屋の冷え込みは横浜のそれと比べると深く鋭い。幸い、雪は一日違い。晴天に恵まれたが風は冷たい。リーグ戦と比較すると、客席の入りは寂しかったが、ピッチ上のトリコロールは、リーグ戦とは比較にならないほどにアツく燃え、死力を尽くしてダッシュを繰り返した。 PK戦を終えたときの喜びは前回のPK戦とは少し違った。喜びは爆発したが、それは大爆発ではなかった。おそらく、延長戦に入ってから、トリコロールが圧倒的に攻めていたことに起因する。このPK戦は、勝って嬉しいPK戦というよりも「勝たせてあげたい」PK戦だったのだ。 中央を小椋と谷口のダブルボランチで締め、中村大先生のポジションは前に。更には途中交代で、松本翔と松本怜がドリブルで仕掛ける。ときには両サイドに、ときには片方のサイドに寄って。中2日の疲れが見える名古屋は、2人の松本や、2人の松本を起用した木村監督を恨むより、柏を恨んだ方がよい。何度でも送り込まれる前線へのボール。もし、副審が1つだけでもオフサイドを大目に見てくれたら、PK戦に入らずとも、勝利はトリコロールのものだった。 激しい闘いは、名古屋のファールによって、さらに汚さを加えた。古い中村の体当たりは得点機会阻止の一発退場に相応しい。 「汚いぞ!」 「おい!いい加減にしろ!」 「こんなトヨタ自動車ラグビー部に負けるんじゃねーぞ!」 「お前ら、ラグビーやりたいなら隣でやれよ!」 「いや、隣は、今、使ってます。」 そういえば、新瑞橋から、ここにくる途中、横を通った瑞穂ラグビー場ではラグビー場のトップリーグが試合を行っていた。 名古屋の持ち味はサイドエリアでのダイレクトパスのコンビネーション。小気味良く繋がり前にボールを運ぶ。その美しさを帳消しにしてしまうファールが、実に勿体無い。また中盤の底に君臨するダニウソンは強い。しかもドリブルによる突破力もあり厄介だ。サイドと中央、いずれも主導権を握られ苦しい展開。ポゼッションを奪われ守勢に回る。 更に大きなアクシデントは前半終了間際の悪質なファール。キャッチ体制に入った飯倉に空中でーーが体当たりは。受け身を取れない体制でピッチに叩きつけられる。 「危ないじゃねーか!」 「カード出せよ!」 「カード出ないのかよ。」 「レフリーいいんだな?それやってもカード出ないんだな。 なら、後で栗原がやるよ、やっちゃよ!」 試合は終始荒れ気味に進む。飯倉のキックの精度が乱れたのは、この体当たりのダメージが残っていたからだろう。 後半の途中で名古屋の足は止まったが、ピクシーが的確な手を打ち、トリコロールの反撃の芽を摘んでしまった。三都主を下げるという第四審判の表示が出た瞬間に、トリコロールのゴール裏からは大きなざわめき。 「ちくしょー、バレタか。」 「さすがにピクシーは気が付いちまったか。」 覚悟をしていたが、試合は延長戦に。延長戦に入ると走力の勝負。途中からこの試合を見た人は、延長戦とは気が付かなかったのではないだろうか。それほどまでに、ボールも人も激しく動く。そんな中で、延長戦後半に、あのダニウソンがドリブルをしながらバランスを崩す。 「おっ、どうした?」 「痛めたか!?」 パスを出した後、ポジションに戻る事なく、左サイドに立っている。 「おいおい、あいつサボってるぞ。」 「遂にサボったか。これはチャンスだ。」 「よし、行け!」 「でも、よく考えてみると、延長後半の、この時間で初めてサボるって、どんだけ凄いんだって話ですよね。」 終盤に、怒涛の連続コーナーキック。ゴールを奪うまで、あと一歩。しかし、力及ばずPK戦に。長い間、ずっと試合を見ていると、不思議とPKを外す選手をわかるときがある。14番の吉村は、歩く動きが明らかに堅い。そしてボールをペナルティスポットにおいた後、両手を回して、緊張をほぐす仕草を行った。 「あいつ、外すぞ。」 勝負は蹴る前に着いていた。心理的に萎縮した状態で蹴ったボールは力なく、飯倉が抑えた。 ダニウソンはセットプレーの名手でもある。パワフルなキックはゴールを強襲する。そのダニウソンがPKを蹴る前に、一瞬だが右の腿を右手で触った。やはり、痛めているか張りを感じているのだ。ダニウソンのボールもあたり損ねで、しかも枠の外をボールは通過した。メリークリスマス! PK戦の喜びは爆発的なものではなかった。スタンドに挨拶に来る選手たちに、仲間たちは叫んだ。 「あと2つだ!あと2つだぞ!」 今日のポイント ● 本領を発揮した谷口。 ● 守備での奮闘には頭が下がった千真。 ● W松本で両サイドの圧倒を図った木村采配。 ● 仕掛けがワンランクアップしたユウジーニョ。 |
|
confidential 秘密 | message 伝言 | photo&movies | reference 参考 | witness 目撃 |
scandal 醜聞 | legend 伝説 | classics 古典 | index | LINK |