malicia witness 2階の目線2011
第91回天皇杯全日本サッカー選手権

12月29日 京都サンが  国立競技場   (石井和裕)

2012年元旦。東京・国立競技場。青く澄んだ空は、何処までも続いている。例年になく早い出足のゴール裏は11時には、ほぼ満席。ホーム側バックスタンド自由席にはトリコロールのマフラーや膝掛けを身に付けたサポーター達が、ジッとピッチを見つめている。試合が終わり、表彰式で杯を掲げて喜ぶ選手達。そして、この試合で引退する事が決まっているベテラン選手がゴール裏のサポーターの前で胴上げされるのを見届けると、一人、また一人と、トリコロールの数は減っていく。杯を掲げたクラブは横浜F・マリノスではなくINACレオネッサ。胴上げされたのは波戸ではなく米津だった。天皇杯決勝戦が始まる前に、トリコロールの彩りはスタンドからほとんど消え去ってしまった。

2011年12月29日の出来事を振り返るには、年末と三が日の時間を要した。その間に報じられた木村監督解任のニュースは経緯や社長のコメントに疑問を残すものの、大きな驚きではなかった。それは、あの日の出来事が、あまりに衝撃的だったからに他ならない。

試合後、渋谷に場所を移し、マリーシアの残念会は行われた。渋谷肉横丁の賑やかな雰囲気と美味い肉料理の数々は、あっという間に私達の傷付いた心を癒した。次々に運ばれて来る鉄板焼。出前で届く肉寿司。だが、ふと気が付いた。
「今日はJ2に4点も獲られたのかよ!」
怒りが再び湧き上がってきた。

京都の大木監督が標榜する、前からプレッシャーをかけてボールを奪い素早く縦に攻め込むフットボールは、常にトリコロールが苦手としているスタイルだ。前半から、その術中にはまる。この試合は、ご存知の通り120分間で決着する。だが、本来であれば前半で終わってた試合だ。飯倉のファインセーブがなければ、何点獲られていたか想像もつかない。際どいシュートは、偶然に放たれたものではなく、確かにショートパスの連続から崩され続けた結果だった。

中村大先生のスルーパスから千真が前半終了間際にゴールし、ハーフタイムは安堵の空気に包まれた。しかし、あのゴールがなければ大ブーイング必至の酷い内容。そして、改善される事はなかった。

後半も状況は大きくは変わらず、木村監督はユウジーニョを下げる。この大会でユウジーニョは大きく成長した。シーズン半ばで干された後、独りよがりなプレーが減り、インタビューでの言葉遣いや話の内容までもが豹変したのは記憶に新しい。この大会では、ドリブルで仕掛けながらも味方プレーヤーを上手く使い、遂にゴールを奪える10番としての新境地を開いたかに見えた。これは、間違えなく木村監督の功績だ。しかし、この試合では早い時間に下げた。止むを得ない交代だった。ユウジーニョは、ここまで何度、ヒールパスをしただろう。京都の選手の技量を舐め切っていた。他にも下げられてもおかしくない選手はたくさんいた。金井は何度、ヘディングすべきボールをバウンドさせただろう。小椋は何度、ドリブルの切り返しを奪われただろう。他にも言いたい事は山のようにある。

そして、小椋が切り返しを奪われるところからカウンターを喰らう。ドリブルでボールを持ち込まれ、栗原がボールを奪いにいくべき場面だったが、まだシュートを撃ってこないと判断したのか、シュートコースはガラ空きのまま。鮮やかに同点ゴールを奪われる。

それでも、明らかに底力のあるトリコロールが逆襲に出るに違いない、とスタンドは信じるがピッチの上にアクションはない。走るのは、ただ中村大先生ばかり。中村大先生が攻め、中村大先生が守る。その繰り返しだ。 望みはユウジーニョに代わってピッチに入った松本怜と怪我あがりの大黒に託された。

大黒のゴールで決勝進出を掴めた、誰もがそう思った。

なにしろ、瑞穂で、あれ程までに凄まじい延長戦をやって見せたトリコロールだ。アディショナルタイムの同点撃に意気消沈する京都を粉砕するのは時間の問題だと思った。延長戦に入るまでのインターバルはトリコロールのサポーターが国立競技場を支配する。何時の間にか暗くなった空にチャントが響く。

だが、期待は裏切られる。走るのは中村大先生と松本怜ばかり。松本怜の快足は京都を脅かすが、それ一本槍ではゴールが遠い。一人でゴールを奪えるタイプでもない。他の選手のプレーを思い出せない程、手数少なく延長前半をあっさりと終える。

延長後半は大黒の惜しいヘディングシュート。いつもと比べて空中のフォームが乱れており、もしかして、の想いが脳裏をよぎったが、やはりボールはクロスバーを直撃。ゴールネットを揺らせない。大黒が万全のコンディションだったら、結果は違っていたかもしれない。

後の事は、よく覚えていない。ただ、ひとつ言えるのは、京都の最後のゴールが素晴らしかったこと。久保はドリブルで簡単にコーナーへ逃げなかった。一度は中にドリブルした。ここでプレッシャーが厳しければコーナーへ逃げたのだろう。だが、トリコロールの守備が緩かった。だから、更にボールを前に進められクロスを入れられた。そこには 駒井が走り込んできていた。

果たして、瑞穂での延長戦の疲れが、選手達の脚を止めたのだろうか。駒井のゴールの後にトリコロールの選手達が急に勢い良く走り始めたのは、まさしく後の祭りだった。

しばらくの間、動くことができない。言葉すら発することもできない。冬の空気は冷たいはずだが、全ての感覚を失う。ここまでJ1との対戦は一度だけ。しかも無得点。決勝戦の対戦相手もJ2という、J1に勝たずに優勝できるという史上かつてない大チャンスを自らリリースしてしまう不甲斐無さから生まれるこの空虚感は、その場に立ち会わなければ感じられないものだろう。どう文字に書いても表現できない。ただただ、涙だけが静かに流れた。

短いシーズンが終わった。


今日のポイント

● いつもの通りだった佐藤主審のジャッジ基準。
● マッチコミッサリーは元日産監督の鈴木保さん。









試合の写真や意見交換はfacebookで。まずはココから。みなさんのご参加をお待ちしています。「いいね!」を押せば最新情報が届きます。


試合直後のストレートな感想は2階の目線TVでご覧ください。こちらもfacebookpageから。

confidential 秘密 message 伝言 photo&movies reference 参考 witness 目撃
scandal 醜聞 legend 伝説 classics 古典 index LINK