malicia witness 2階の目線2010
J1リーグ 10-11シーズン

3月13日 湘南ベルマーレ  日産スタジアム   (石井和裕)

中村俊輔最初のパスは、右サイドでためを作って前線に出来たスペースに走り込む山瀬へと送った芸術的な軌道を描くものだった。
「うぉ!」
「そこに行くのか!」
7年ぶりの復帰。スペインで活躍を出来ず、ワールドカップのために失意の帰国、帰国から間もなくコンビネーションを揃える時間がないなどなど、不安を多く抱え込んだホーム開幕戦だったが、この一本のパスが、皆のハートを痺れさせてしまった。やっぱり、中村俊輔は違う。

左サイドをドリブルで突破。昨年であれば、浅い位置から無造作に無人のゴール前にクロスを放り込んでいたシーン。しかし、目の前に展開されたのは、ゴールライン付近にまで持ち込み、えぐってマイナス方向にグランダーで送り込むクロス。無人に見えるスペースに走り込んでくるのは中村俊輔。目の前にディフェンダーが2人いる。その外から巻き込むようにカーブをかけてゴールの隅を狙う。
「おー!」
「惜しい!」
「すげぇ。」
「並の日本人選手ならば、あれはコースを大きく外すかふかすかどっちかだぜ。きちんとコースを狙ってきた。」
「すげぇな、新外人。」
日本人離れした質のプレーと狙いに、外人扱いだ。

もともと守備には問題があるといわれてきた湘南。最終ラインと中盤、さらには前線とも距離が空いてしまうため、トリコロールがボールを保持してもプレッシャーがない。しかも、中村俊輔がボールを持つと、周囲の選手が、みな寄って行ってしまう。とはいえ、プレッシャーがかかるほどの距離を寄せることはない。ただ、ちょっと寄るだけ。
「まるで、磁石に吸い寄せられる砂鉄みたいだな。」
当然、逆サイドなどに大きなスペースが出来る。よりよって、バイタルエリアにも大きなスペースも空く。
「こりゃ、早いとこと点を獲らないとダメだな。」

波戸が右サイドをオーバーラップ。
「入れろ!」
「おいおい戻すなよ!」
「自分でいけよ!」
「坊ちゃんに頼るなよ。」
せっかくのチャンスを無駄にしそうになる。べつに、ここでボールを中村俊輔に戻す必要はない。しかし、幸いにもコーナーキックを得る。初めてのコーナーキックだ。

「すげーカーブだ。」
「来たぞ。」
ここ何年も見ていなかった鋭く曲がりながら絶妙の高さで飛んでくる弾道に吸い寄せられるように、中澤と栗原が折り重なって飛び込んでくる。
「きた!!」
「やった!!」
セットプレーという見せ場、初めてのコーナーキックをゴールに結びつけた、中村俊輔は千両役者。今では、僕たちが高卒ルーキー以来、大切に育て上げた坊ちゃんではない。欧州のトップレベルで結果を残してきた大物外人に相当する救世主。スタンドは総立ち。拳を突き上げ叫ぶ。今シーズンの初ゴールは、ただの一点に留まらない、いくつもの重要な意味を持った1点となった。

手拍子が揃い、勢いを増し、スタンドが一つになって選手たちを後押しする。「あぁ、フットボールって楽しい。」そんなキモチに包まれたホームスタジアム。

前半に追加点を得ることは出来なかったが内容は圧倒。とにもかくにも、開幕戦以上にフットボールの楽しさが詰まった45分間。1点をリードした安堵感もあるが、なにより笑顔だ。

後半に入る。キックオフ直前に笑う。
「見ろよ、ベルマーレのディフェンスライン。キックオフの時点で、すでにぐちゃぐちゃだぜ。」
「反町から指示が出たのは気合いだけだったみたいだな。」
後半に入っても間延びした布陣のまま。

バックスタンド側でプレーすることが多くなる中村俊輔。ファールをうける。湘南の坂本にカードが出る。
「おめぇ、なんてコトするんだ、大切な選手に。」
「ファールで止めるしかないんだろうな。」
「でも、カードもらって内心嬉しいんだぜ、きっと。」
「俺、俊輔の復帰戦でカードもらっちゃったよって自慢できる。」
「絶対に、そうに違いない。」

後半に入ると、やや中村俊輔頼みの時間が増えてくる。ちょっと前の「ドゥトラにお任せ」に近い展開だ。せっかくのチャンスをものに出来ない。シュートを放つも枠に飛ばない。フリーキックを得て、スタンドは大きく沸き立つが、ボールは壁を越えない。
「なんか、去年にちょっと近づいてきちゃったなー。」
ゲーム運びに緩急が付き、意外性のある攻撃が増えたが、開幕戦ほどの前への推進力はない。アーリアは開幕戦よりも持ち味を出しているように思えるが、どうしてもゴールが遠い。

そんなとき、ボールが左の山瀬に渡る。山瀬の持ち味を発揮するのは、右ではなく左のポジション。しかも、スリートップの左か、4−2−3−1−の3の左が適任。まさに、僕らの10番が、もっとも、その力を発揮できる場所にボールを持ってきた。ドリブルで縦に鋭く突破を図る。
「撃て!」
「撃った!!」
「オー!」
「リバウンド!!」
「入ったぞ!!!」
副審がフラッグを掲げるのが見える。渡邉のシュートがゴールインだ。さらに、だめ押しにアーリアが押し込む。ホイッスルが鳴り、スタジアム全体が、追加点を認識する。興奮はスタンドを渦巻き、またしても総立ち。
「よくやった。」
これで2点差。湘南の攻撃を見る限りでは、セーフティリードだろう。

中村俊輔も、そのように考えたのだろうか。ボランチの位置に下がり、ボールを回す。この辺りも欧州仕様。もう、ゴールはいらないということか。そんな流れの中でもチャンスが生まれる。シュートが飛ぶ。がら空きのゴールにシュートを放つシーンも。しかし、兵藤のシュートはポストに当って跳ね返る。
「あーなんで兵藤ってペナルティエリアにはいると、こうなっちゃうのかなー。」
「良い選手なんだけどなー。」

81分に中村俊輔がピッチを退く。場内、割れんばかりの拍手。ゴール裏からはコールが起きていたようだが、それが聞こえないほどの大きな拍手だ。誰に指示されたわけではなく、自然に起こった拍手に、横浜へ帰ってきてくれた中村俊輔への絶大な感謝の意を感じる。誰もが無意識のうちに素直に感情を表現するスタジアム、それも久しぶりのことだ。

クライマックスを飾ったのは、途中出場で登場した狩野。中村俊輔の加入でポジションを弾き出された男が、超ド級のインパクとあるロングシュート一発で、このゲームの満足度を数倍高めてくれた。大物外人のごとく登場した中村俊輔に頼っては、トリコロールに先はない。その不安感を払拭してくれたのが、このゴール。1点目に負けじと劣らない興奮がスタジアムを渦巻く。

試合を終え、インタビューを聞き、ダイジェスト映像を楽しんだ後に、新横浜プリンスホテルへと移動する。乾杯、いや完勝。まだ明るいうちからワインを片手に、今日の試合のことを語る。ここまで無邪気に新横浜で飲んだのは、いつ以来だろう。思い出そうと思っても、思い出すことは出来ない。
「楽しいフットボールは人の心を幸せにする。」
フットボールが楽しいことすら忘れかけていた私たちは、この日の試合を心の底から楽しんだ。意外性のあるプレー、闘う姿勢、公平なポジション争い・・・そして、フットボールを中心に集まる仲間。ホーム開幕戦だけあって、このゲームだけのために、九州や関西、中部地方からも仲間が集まった。
「次はいつ来るの?」
「ホーム最終戦かな。年チケは買ってあるんだけど。」
「何言ってんだよ、今年はナビスコの決勝戦があるぜ。」
「来る来る!決勝戦は来るぞ。」
「その前に、西日本のアウエーゲームは待ってるからね。」
今年も一年間、仲間たちと一緒にトリコロールを追いかける。久しぶりに、熱いシーズンになりそうだ。


今日のポイント

●シュート29本。もっと得点できた。
●フリーになりまくる山瀬。
●シュートを狙ってドリブルでゴールに一直線だったアーリア。
●村松は良い選手。
●なぜペナルティエリアに入ると消極的になるのだ兵藤。
●中村俊輔の立場を象徴する「勇蔵さん」発言。

[今日の査定]フットボールは楽しい。











もの凄い数のカメラが背番号25を追った。


すっかり恒例となったアウトドアでの飲み。今回は30名以上が参加。


新旧スターの競演。
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